Love Monster

たける

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夜中の公園。涼しいとは言えないが、日中にくらべれば随分違う。
誰もいない遊具に駆け寄るノッドを、フィックスは少し離れた場所から見ていた。彼は遊具で遊びこそしなかったが、その1つ1つに触れ、納得するような仕種を見せていた。
虫の音が叢から聞こえていて、星も天空に瞬いている。静かな公園は、それだけでデートスポットのようだった。
ひとしきり公園内を堪能したノッドは、ベンチに座るフィックスの元へやって来ると、隣に腰掛けた。

「やっぱ、夜中は駄目だな。誰もいないし」

街灯は灯っているが、陽光の下で見る景色とは違う。それはそれで美しいのだが、彼には太陽を浴びて欲しい。こんなこっそりと行動させるのが忍びない。

「いや……?そうでもない。静かなのには慣れてるから、いきなり煩いとこに行くよりマシだ。それに……」

そこで言葉を切ったノッドは、掌に炎を出した。途端回りが橙色の光に包まれ、熱気に汗が滲む。

「こうやって自分の力の確認も出来る」
「こら……!誰が見てるか分からないんだ、早く消しなさい」

慌てて炎を隠すように身を乗り出し、辺りを見回す。幸い誰もいないようで、フィックスは胸を撫で下ろした。

「いいだろ。今まで使った事なかったんだ、どんなもんか確認したって」

不服げに炎を消したノッドは、フィックスを睨んでくる。だがそれは心底からのものではなく、悪戯心や僅かな甘えが伺えた。

「力を確認したい……ねぇ。いいよ。許可する。だが、今夜限りにする事。いいか?」

そう言うと、ノッドは小さくではあるが、声を出して笑った。

「既に使った事のあるテレパシーとテレポート。そしてさっき使ったパイロキネシス以外で。頼むよ……?」

ノッドが使える力は7つ。それをフィックスは覚えていた。

「よく覚えてたな。じゃあこれは?」

彼の掌に小さな稲妻が現れた。

「ライトニングだな」
「じゃあ、これは?」

放れた場所に転がっている空き缶が浮き上がり、ノッドの掌におさまった。

「それはテレキネシス」
「これは?」

ノッドの掌で空き缶が薔薇の花に変わる。

「それは……その、オルタレイション……」

孤独が早くなる。僅かだが頬も熱い。

「何故、薔薇なんだ?」

薔薇を差し出すノッドは、首を傾げている。

「さぁ……?お前のイメージだったからかな?」
「俺が薔薇だって……?そりゃまた……大層だな」

そんなイメージを抱かれていたとは、驚きだ。

「赤いからな」
「棘は?俺はそんなに棘々しているか?」

そう尋ねると、ノッドは逆に首を傾げた。

「うーん。違うな。お前は薔薇じゃないな」

顔を見合わせて笑う。フィックスはとても穏やかな気持ちだった。
ノッドとは多分、20程歳が放れているのだろうが、一緒にいると歳の差を忘れてしまう程楽しい。
まだ出会って2日も経ってはいなかったが、彼とずっと一緒にいたいと、そう感じていた。

「で、タイムワープは?」

ノッドが尋ね、フィックスは悩んだ。どうすれば彼がタイムワープしたと分かるだろう。
だが、と思う。
自分が知らなくても、彼がその力が使えると確認出来ればいいのだ。

「それは……君がどこかの時代に行って、見てくるといい」

そうフィックスが言うと、ノッドは少しムッとしたような顔になった。

「何だよ。一緒に見に行かないのか?」

その選択肢はなかった。

「い、俺はいい。君がその力を確認出来ればいい」
「怖いのか……?」

内心ギクリとする。
未来を見るのは怖い。
過去を振り返る事も怖い。
口ごもっていると、ノッドは睨んできた。それは、さっき見せた甘えを含んだものではない。怒りが見える。

「お前も結局あいつらと一緒かよ」

とても冷たい声に、フィックスは慌てた。彼は勘違いをしている。そして、心を読むな、と言った事も忘れていないようだ。
フィックスは嬉しくて彼を抱きしめた。

「何だよ……!俺の事が怖いんだろ?無理するんじゃねーって」
「いや、違う。違うんだ、ノッド。君が怖いんじゃない」

振り払おうとするノッドを、更に強い力で抱く。

「未来を見るのが怖くて」
「過去は?」
「振り返るのが怖い」
「意味分かんねー」

そう漏らしたノッドは、もう抵抗してはいなかった。

「未来を知れば、自分の進む道も見えてしまうだろう?それはあまりに魅力的だけれど、それと同じぐらい、そこに行き着くまでが遠く感じるだろうし、退屈だと思うんだ」

それが悪い結果であれ、良い結果であれ、フィックスはそう思っている。ノッドが黙っているので、フィックスは続けた。

「過去を振り返るのが怖いのは……あの時あぁしてれば良かったと、変えたくなる気持ちが湧くのが怖いんだ。過去があるから今の自分がある訳なんだが、もっと現状を良くしたいと思ってしまうのが嫌なんだ」

人間は満足を知らない貪欲な生き物だ。中にはそうでない人もいるが、それはあまりにも少数で、自分は後者だ、と思いたいが、もし過去を変えられる手段を差し延べられたら、きっと自分も貪欲にそれに手を伸ばしてしまうだろう。
甘い誘惑には、必ず手痛い罠があるものなのだ。

「だったら俺だけ見てくるよ。お前の過去。それだったら、アルバムを見せてもらうのと変わりないだろ?」

振り返るノッドは、悪戯っ子のように笑っている。フィックスの言った事を理解しているかしていないかは別にしても、彼の好奇心はどうにも止められそうにもない。

「うーん……まぁ、それなら構わないが、接触はするなよ?今が変わってしまうかも知れないからね」

そう忠告すると、ノッドは真剣な眼差しでフィックスを見つめてきた。
胸が一瞬高鳴る。

「あぁ、分かった。じゃあすぐ戻ってくるから」

そう言って、ノッドは姿を消した。


──本当に行ってしまったのだろうか?


重い静寂がフィックスを取り囲んだ。




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