19 / 36
4.
2
しおりを挟む
夜中の公園。涼しいとは言えないが、日中にくらべれば随分違う。
誰もいない遊具に駆け寄るノッドを、フィックスは少し離れた場所から見ていた。彼は遊具で遊びこそしなかったが、その1つ1つに触れ、納得するような仕種を見せていた。
虫の音が叢から聞こえていて、星も天空に瞬いている。静かな公園は、それだけでデートスポットのようだった。
ひとしきり公園内を堪能したノッドは、ベンチに座るフィックスの元へやって来ると、隣に腰掛けた。
「やっぱ、夜中は駄目だな。誰もいないし」
街灯は灯っているが、陽光の下で見る景色とは違う。それはそれで美しいのだが、彼には太陽を浴びて欲しい。こんなこっそりと行動させるのが忍びない。
「いや……?そうでもない。静かなのには慣れてるから、いきなり煩いとこに行くよりマシだ。それに……」
そこで言葉を切ったノッドは、掌に炎を出した。途端回りが橙色の光に包まれ、熱気に汗が滲む。
「こうやって自分の力の確認も出来る」
「こら……!誰が見てるか分からないんだ、早く消しなさい」
慌てて炎を隠すように身を乗り出し、辺りを見回す。幸い誰もいないようで、フィックスは胸を撫で下ろした。
「いいだろ。今まで使った事なかったんだ、どんなもんか確認したって」
不服げに炎を消したノッドは、フィックスを睨んでくる。だがそれは心底からのものではなく、悪戯心や僅かな甘えが伺えた。
「力を確認したい……ねぇ。いいよ。許可する。だが、今夜限りにする事。いいか?」
そう言うと、ノッドは小さくではあるが、声を出して笑った。
「既に使った事のあるテレパシーとテレポート。そしてさっき使ったパイロキネシス以外で。頼むよ……?」
ノッドが使える力は7つ。それをフィックスは覚えていた。
「よく覚えてたな。じゃあこれは?」
彼の掌に小さな稲妻が現れた。
「ライトニングだな」
「じゃあ、これは?」
放れた場所に転がっている空き缶が浮き上がり、ノッドの掌におさまった。
「それはテレキネシス」
「これは?」
ノッドの掌で空き缶が薔薇の花に変わる。
「それは……その、オルタレイション……」
孤独が早くなる。僅かだが頬も熱い。
「何故、薔薇なんだ?」
薔薇を差し出すノッドは、首を傾げている。
「さぁ……?お前のイメージだったからかな?」
「俺が薔薇だって……?そりゃまた……大層だな」
そんなイメージを抱かれていたとは、驚きだ。
「赤いからな」
「棘は?俺はそんなに棘々しているか?」
そう尋ねると、ノッドは逆に首を傾げた。
「うーん。違うな。お前は薔薇じゃないな」
顔を見合わせて笑う。フィックスはとても穏やかな気持ちだった。
ノッドとは多分、20程歳が放れているのだろうが、一緒にいると歳の差を忘れてしまう程楽しい。
まだ出会って2日も経ってはいなかったが、彼とずっと一緒にいたいと、そう感じていた。
「で、タイムワープは?」
ノッドが尋ね、フィックスは悩んだ。どうすれば彼がタイムワープしたと分かるだろう。
だが、と思う。
自分が知らなくても、彼がその力が使えると確認出来ればいいのだ。
「それは……君がどこかの時代に行って、見てくるといい」
そうフィックスが言うと、ノッドは少しムッとしたような顔になった。
「何だよ。一緒に見に行かないのか?」
その選択肢はなかった。
「い、俺はいい。君がその力を確認出来ればいい」
「怖いのか……?」
内心ギクリとする。
未来を見るのは怖い。
過去を振り返る事も怖い。
口ごもっていると、ノッドは睨んできた。それは、さっき見せた甘えを含んだものではない。怒りが見える。
「お前も結局あいつらと一緒かよ」
とても冷たい声に、フィックスは慌てた。彼は勘違いをしている。そして、心を読むな、と言った事も忘れていないようだ。
フィックスは嬉しくて彼を抱きしめた。
「何だよ……!俺の事が怖いんだろ?無理するんじゃねーって」
「いや、違う。違うんだ、ノッド。君が怖いんじゃない」
振り払おうとするノッドを、更に強い力で抱く。
「未来を見るのが怖くて」
「過去は?」
「振り返るのが怖い」
「意味分かんねー」
そう漏らしたノッドは、もう抵抗してはいなかった。
「未来を知れば、自分の進む道も見えてしまうだろう?それはあまりに魅力的だけれど、それと同じぐらい、そこに行き着くまでが遠く感じるだろうし、退屈だと思うんだ」
それが悪い結果であれ、良い結果であれ、フィックスはそう思っている。ノッドが黙っているので、フィックスは続けた。
「過去を振り返るのが怖いのは……あの時あぁしてれば良かったと、変えたくなる気持ちが湧くのが怖いんだ。過去があるから今の自分がある訳なんだが、もっと現状を良くしたいと思ってしまうのが嫌なんだ」
人間は満足を知らない貪欲な生き物だ。中にはそうでない人もいるが、それはあまりにも少数で、自分は後者だ、と思いたいが、もし過去を変えられる手段を差し延べられたら、きっと自分も貪欲にそれに手を伸ばしてしまうだろう。
甘い誘惑には、必ず手痛い罠があるものなのだ。
「だったら俺だけ見てくるよ。お前の過去。それだったら、アルバムを見せてもらうのと変わりないだろ?」
振り返るノッドは、悪戯っ子のように笑っている。フィックスの言った事を理解しているかしていないかは別にしても、彼の好奇心はどうにも止められそうにもない。
「うーん……まぁ、それなら構わないが、接触はするなよ?今が変わってしまうかも知れないからね」
そう忠告すると、ノッドは真剣な眼差しでフィックスを見つめてきた。
胸が一瞬高鳴る。
「あぁ、分かった。じゃあすぐ戻ってくるから」
そう言って、ノッドは姿を消した。
──本当に行ってしまったのだろうか?
重い静寂がフィックスを取り囲んだ。
誰もいない遊具に駆け寄るノッドを、フィックスは少し離れた場所から見ていた。彼は遊具で遊びこそしなかったが、その1つ1つに触れ、納得するような仕種を見せていた。
虫の音が叢から聞こえていて、星も天空に瞬いている。静かな公園は、それだけでデートスポットのようだった。
ひとしきり公園内を堪能したノッドは、ベンチに座るフィックスの元へやって来ると、隣に腰掛けた。
「やっぱ、夜中は駄目だな。誰もいないし」
街灯は灯っているが、陽光の下で見る景色とは違う。それはそれで美しいのだが、彼には太陽を浴びて欲しい。こんなこっそりと行動させるのが忍びない。
「いや……?そうでもない。静かなのには慣れてるから、いきなり煩いとこに行くよりマシだ。それに……」
そこで言葉を切ったノッドは、掌に炎を出した。途端回りが橙色の光に包まれ、熱気に汗が滲む。
「こうやって自分の力の確認も出来る」
「こら……!誰が見てるか分からないんだ、早く消しなさい」
慌てて炎を隠すように身を乗り出し、辺りを見回す。幸い誰もいないようで、フィックスは胸を撫で下ろした。
「いいだろ。今まで使った事なかったんだ、どんなもんか確認したって」
不服げに炎を消したノッドは、フィックスを睨んでくる。だがそれは心底からのものではなく、悪戯心や僅かな甘えが伺えた。
「力を確認したい……ねぇ。いいよ。許可する。だが、今夜限りにする事。いいか?」
そう言うと、ノッドは小さくではあるが、声を出して笑った。
「既に使った事のあるテレパシーとテレポート。そしてさっき使ったパイロキネシス以外で。頼むよ……?」
ノッドが使える力は7つ。それをフィックスは覚えていた。
「よく覚えてたな。じゃあこれは?」
彼の掌に小さな稲妻が現れた。
「ライトニングだな」
「じゃあ、これは?」
放れた場所に転がっている空き缶が浮き上がり、ノッドの掌におさまった。
「それはテレキネシス」
「これは?」
ノッドの掌で空き缶が薔薇の花に変わる。
「それは……その、オルタレイション……」
孤独が早くなる。僅かだが頬も熱い。
「何故、薔薇なんだ?」
薔薇を差し出すノッドは、首を傾げている。
「さぁ……?お前のイメージだったからかな?」
「俺が薔薇だって……?そりゃまた……大層だな」
そんなイメージを抱かれていたとは、驚きだ。
「赤いからな」
「棘は?俺はそんなに棘々しているか?」
そう尋ねると、ノッドは逆に首を傾げた。
「うーん。違うな。お前は薔薇じゃないな」
顔を見合わせて笑う。フィックスはとても穏やかな気持ちだった。
ノッドとは多分、20程歳が放れているのだろうが、一緒にいると歳の差を忘れてしまう程楽しい。
まだ出会って2日も経ってはいなかったが、彼とずっと一緒にいたいと、そう感じていた。
「で、タイムワープは?」
ノッドが尋ね、フィックスは悩んだ。どうすれば彼がタイムワープしたと分かるだろう。
だが、と思う。
自分が知らなくても、彼がその力が使えると確認出来ればいいのだ。
「それは……君がどこかの時代に行って、見てくるといい」
そうフィックスが言うと、ノッドは少しムッとしたような顔になった。
「何だよ。一緒に見に行かないのか?」
その選択肢はなかった。
「い、俺はいい。君がその力を確認出来ればいい」
「怖いのか……?」
内心ギクリとする。
未来を見るのは怖い。
過去を振り返る事も怖い。
口ごもっていると、ノッドは睨んできた。それは、さっき見せた甘えを含んだものではない。怒りが見える。
「お前も結局あいつらと一緒かよ」
とても冷たい声に、フィックスは慌てた。彼は勘違いをしている。そして、心を読むな、と言った事も忘れていないようだ。
フィックスは嬉しくて彼を抱きしめた。
「何だよ……!俺の事が怖いんだろ?無理するんじゃねーって」
「いや、違う。違うんだ、ノッド。君が怖いんじゃない」
振り払おうとするノッドを、更に強い力で抱く。
「未来を見るのが怖くて」
「過去は?」
「振り返るのが怖い」
「意味分かんねー」
そう漏らしたノッドは、もう抵抗してはいなかった。
「未来を知れば、自分の進む道も見えてしまうだろう?それはあまりに魅力的だけれど、それと同じぐらい、そこに行き着くまでが遠く感じるだろうし、退屈だと思うんだ」
それが悪い結果であれ、良い結果であれ、フィックスはそう思っている。ノッドが黙っているので、フィックスは続けた。
「過去を振り返るのが怖いのは……あの時あぁしてれば良かったと、変えたくなる気持ちが湧くのが怖いんだ。過去があるから今の自分がある訳なんだが、もっと現状を良くしたいと思ってしまうのが嫌なんだ」
人間は満足を知らない貪欲な生き物だ。中にはそうでない人もいるが、それはあまりにも少数で、自分は後者だ、と思いたいが、もし過去を変えられる手段を差し延べられたら、きっと自分も貪欲にそれに手を伸ばしてしまうだろう。
甘い誘惑には、必ず手痛い罠があるものなのだ。
「だったら俺だけ見てくるよ。お前の過去。それだったら、アルバムを見せてもらうのと変わりないだろ?」
振り返るノッドは、悪戯っ子のように笑っている。フィックスの言った事を理解しているかしていないかは別にしても、彼の好奇心はどうにも止められそうにもない。
「うーん……まぁ、それなら構わないが、接触はするなよ?今が変わってしまうかも知れないからね」
そう忠告すると、ノッドは真剣な眼差しでフィックスを見つめてきた。
胸が一瞬高鳴る。
「あぁ、分かった。じゃあすぐ戻ってくるから」
そう言って、ノッドは姿を消した。
──本当に行ってしまったのだろうか?
重い静寂がフィックスを取り囲んだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
Love Trap
たける
BL
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
【あらすじ】
【Love Monster】のその後の物語。
ノッドからメモリーチップを受け取ったフィックスだったが、ストレイン博士に呼び出され、ハンクと図書館へ向かうなり事故に遭ってしまう。
何とか一命を取り留めたハンクだったが、フィックスは事故で死んでいた。
ストレインの目的を知ったハンクは、フィックスの代わりにノッドを目覚めさせる事を決意するが……
フィックスシリーズ完結です。
※BL描写があります。苦手な方はご遠慮下さい。
宇宙大作戦が大好きで、勢いで書きました。模倣作品のようですが、寛容な気持ちでご覧いただけたら幸いです。
Dark Moon
たける
BL
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
【あらすじ】
自分では死ぬ事が出来ないサイボーグ、ノッドは、恋人を失い1人きりで生きてきた。だがある日、その恋人の名前を知るリタルド人ファイの存在を知り、接触する事にするが……
変わる過去。変わらない未来。
ノッドとファイの関係は……?
※BL描写があります。苦手な方はご遠慮下さい。
宇宙大作戦が大好きで、勢いで書きました。模倣作品のようですが、寛容な気持ちでご覧いただけたら幸いです。
【完結】紅く染まる夜の静寂に ~吸血鬼はハンターに溺愛される~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
吸血鬼を倒すハンターである青年は、美しい吸血鬼に魅せられ囚われる。
若きハンターは、己のルーツを求めて『吸血鬼の純血種』を探していた。たどり着いた古城で、美しい黒髪の青年と出会う。彼は自らを純血の吸血鬼王だと名乗るが……。
対峙するはずの吸血鬼に魅せられたハンターは、吸血鬼王に血と愛を捧げた。
ハンター×吸血鬼、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血描写・吸血表現あり
※印は性的表現あり
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
全89話+外伝3話、2019/11/29完
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
年下上司の愛が重すぎる!
雪
BL
幽霊が確認されるようになった現在。幽霊による死者が急増したことにより、国は重たい腰を上げ、警察に"幽霊課"を新しく発足させた。
そこに所属する人は霊が視えることはもちろん、式神を使役できる力を持つ者もいる。姫崎誠(ひめざきまこと)もその一人だ。
まだまだ視える者に対しての偏見が多い中、新しく発足したということもあり、人手不足だった課にようやく念願が叶って配属されて来たのはまさかの上司。それも年下で...?
一途なわんこに愛される強気なトラウマ持ち美人の現代ファンタジー。
※独自設定有り
※幽霊は出てきますが、ホラー要素は一切ありません
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
エンシェントソルジャー ~古の守護者と無属性の少女~
ロクマルJ
SF
百万年の時を越え
地球最強のサイボーグ兵士が目覚めた時
人類の文明は衰退し
地上は、魔法と古代文明が入り混じる
ファンタジー世界へと変容していた。
新たなる世界で、兵士は 冒険者を目指す一人の少女と出会い
再び人類の守り手として歩き出す。
そして世界の真実が解き明かされる時
人類の運命の歯車は 再び大きく動き始める...
※書き物初挑戦となります、拙い文章でお見苦しい所も多々あるとは思いますが
もし気に入って頂ける方が良ければ幸しく思います
週1話のペースを目標に更新して参ります
よろしくお願いします
▼表紙絵、挿絵プロジェクト進行中▼
イラストレーター:東雲飛鶴様協力の元、表紙・挿絵を制作中です!
表紙の原案候補その1(2019/2/25)アップしました
後にまた完成版をアップ致します!
強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。
きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕!
突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。
そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?)
異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる