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翌朝早くに、フィックス・ケリーは図書館へとやって来た。その顔は、昨日別れ際に見た暗いものではなくなっている。
「おはよう、ケリー刑事。早いですねぇ?」
ストレインはそう言うと、嫌味たらしく欠伸をした。
「おはようございます、ストレイン博士。今日からよろしくお願いします」
綺麗に整えた頭を下げ、フィックスは微笑んだ。
「彼の事は貴方に一任するが、妙な事はさせないでくれ」
「えぇ、勿論です博士。今日から彼に、外の世界に触れて貰おうと思ってます」
そう申し出たフィックスを、ノッドは驚きの目で見遣った。ストレインも目を丸くしている。
「ノッドを外に連れ出そうって言ってるのか?」
「はい。彼の知識は大変素晴らしいですが、より人間に近いものにしたいのなら、やはり感じさせる事が重要なのでは、と思いまして」
自信ありげにそう言うフィックスは、ノッドを振り返った。
「だが、危険だから貴方に彼の護衛を任せたんだ。それなのにわざわざ外へ連れ出すなんて、自ら危険に飛び込むような行為ではないか?」
そう反論するストレインは焦っている。それを横目に見ながら、ノッドは彼の心を盗み見た。
『余計な感情を与えられたら、ノッドは我々に憎しみを抱くかも知れない』
憎しみ……?そんなものとうに抱いているさ、と1人微笑する。
「大丈夫です。彼はサイボーグですが、見た目は人間と全く変わりありません」
許可を、と言いたげなフィックスの心は、とても晴れやかでいて早く許可を、と思っている。
「何かあってからじゃあ遅いんだ。外出の許可は出来ないね」
ストレインは、フィックスを切り捨てるようにそう言うと、早々にエレベーターへ乗り込み、地下の研究所へ下りて行った。残されたフィックスは悔しげに唇を噛み締め、拳を強く握りながら閉じたエレベーターを睨んでいた。
「おい、いきなり何言ってんだよ。そんなの、あいつが許可する訳ないだろ」
真っ正面からぶつかって、あの偏屈な科学者が許可する筈はない。そのぐらい、刑事として経験はしているだろう。なのに、何故そうしたのかノッドには理解不能だった。
「うぅむ……やっぱり駄目か……」
唸るフィックスは腕を組むと、ノッドを振り返った。その顔は困ったように笑っている。
「いいアイディアだと思ったんだけどね」
確かにいいアイディアだ。ノッドもそれに賛成している。
外の世界に触れてみたいと言う思いは、ずっと彼の中にあった。だがそれをずっと諦めていた。
自分は非力だ、と思っていたから。
だが、今はそうじゃない。力は自分が思った時に使える。
「あいつらは、俺が怖いんだ」
きっとフィックスも。
「君が?うーん……どうかな。俺には、君は怖いとは感じないけどね」
そう言ったフィックスの言葉に、嘘はないようだ。
──信じられるのか?この男を。
ノッドは彼を見つめた。
「さて……予定が狂ってしまったけど、どうしようか?」
首を傾げるフィックスを見つめたまま、ノッドはまだ悩んでいた。
「おはよう、ケリー刑事。早いですねぇ?」
ストレインはそう言うと、嫌味たらしく欠伸をした。
「おはようございます、ストレイン博士。今日からよろしくお願いします」
綺麗に整えた頭を下げ、フィックスは微笑んだ。
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「えぇ、勿論です博士。今日から彼に、外の世界に触れて貰おうと思ってます」
そう申し出たフィックスを、ノッドは驚きの目で見遣った。ストレインも目を丸くしている。
「ノッドを外に連れ出そうって言ってるのか?」
「はい。彼の知識は大変素晴らしいですが、より人間に近いものにしたいのなら、やはり感じさせる事が重要なのでは、と思いまして」
自信ありげにそう言うフィックスは、ノッドを振り返った。
「だが、危険だから貴方に彼の護衛を任せたんだ。それなのにわざわざ外へ連れ出すなんて、自ら危険に飛び込むような行為ではないか?」
そう反論するストレインは焦っている。それを横目に見ながら、ノッドは彼の心を盗み見た。
『余計な感情を与えられたら、ノッドは我々に憎しみを抱くかも知れない』
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「大丈夫です。彼はサイボーグですが、見た目は人間と全く変わりありません」
許可を、と言いたげなフィックスの心は、とても晴れやかでいて早く許可を、と思っている。
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ストレインは、フィックスを切り捨てるようにそう言うと、早々にエレベーターへ乗り込み、地下の研究所へ下りて行った。残されたフィックスは悔しげに唇を噛み締め、拳を強く握りながら閉じたエレベーターを睨んでいた。
「おい、いきなり何言ってんだよ。そんなの、あいつが許可する訳ないだろ」
真っ正面からぶつかって、あの偏屈な科学者が許可する筈はない。そのぐらい、刑事として経験はしているだろう。なのに、何故そうしたのかノッドには理解不能だった。
「うぅむ……やっぱり駄目か……」
唸るフィックスは腕を組むと、ノッドを振り返った。その顔は困ったように笑っている。
「いいアイディアだと思ったんだけどね」
確かにいいアイディアだ。ノッドもそれに賛成している。
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自分は非力だ、と思っていたから。
だが、今はそうじゃない。力は自分が思った時に使える。
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きっとフィックスも。
「君が?うーん……どうかな。俺には、君は怖いとは感じないけどね」
そう言ったフィックスの言葉に、嘘はないようだ。
──信じられるのか?この男を。
ノッドは彼を見つめた。
「さて……予定が狂ってしまったけど、どうしようか?」
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