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たける

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全治3ヶ月の怪我を負って入院を余儀なくされていた鳴海ケンイチは、傍らを歩く村上ハヤトの肩を抱いた。

「これからどうするの?」
「そうだなぁ……」

戸籍上、鳴海ケンイチだが、中身は葉山ミノルである。取り敢えずやりたい事はあったが、ハヤトが承諾するかは分からない。

「暫くお前の家に厄介になりながら、ゆっくり考えるよ」
「厄介だなんて……ずっといてくれていいんだから」

誘拐未遂の後、ミノルは、鳴海ケンイチが所属していた組に赴き、ヤクザを辞めた。れっきとした職業ではないが、けじめはつけなければならなかった。
お陰で怪我を負わされたのだが、筋は通す事が出来た。

鳴海ケンイチ、32歳。ヤクザで麻薬や人身売買を行っていた。喧嘩っ早い短気な男で、両親は幼い頃に離婚。そのような情報は、中身がミノルになっても脳にこびりついていた。

「もうすぐ梅雨だね」

帰宅して、カーテンを開きながらハヤトがそう漏らした。カレンダーはまだ2月のままで、ミノルが黙って破る。次いで振り返り、ソファに手探りで腰掛けたハヤトの隣に座った。

「なぁ……俺達はさ、両思い……だよな?」
「うん。僕はミノルが世界で1番好きだよ!」

明るい笑顔に──誘拐や入院で刻まれた──不安や心配の影はない。ミノルはそっとハヤトの手を握ると、これまで我慢していた想いを伝えた。

「俺も、世界で1番ハヤトが好きだ。色々心配とかかけたけど、これからずっと一生、お前の側にいる事を誓うよ」
「ミノル……」

赤く染まる頬に触れ、唇を重ねると、ハヤトは身を捩って顔を背けた。

「だ……ダメだよ……」
「え……どうして?やっぱり、嫌なのか?」
「うぅん、違う……僕は……汚いから……」

ミノルの脳裏に、葉山がハヤトをレイプした過去が甦る。何も出来なかった悔しさも同時に甦り、ミノルは膝の上で拳を握った。

「ハヤトは汚くなんかないよ」
「でも僕は、あの人に……」

現在、ミノルの体はその葉山だ。見えないとは言え、抱けば感触を思い出してしまうだろう。
その事に漸く気付いたミノルは、自身を恥じ、ハヤトへの思い遣りに欠けていたと、内心で叱咤した。

「ごめん……」

謝ったところで、傷を抉った事実は消えない。かける言葉も見つからず俯いていると、ハヤトが髪に触れてきた。

「謝らないでよ。僕、何もミノルとしたくない訳じゃないんだ。ただ、汚れた僕を抱いたら、ミノルまで汚してしまいそうで……」
「ばっ……か……ンな訳ねーだろ」

気遣ってくれていたのは、ハヤトの方だった。ミノルはそんなハヤトを尚更愛しく感じ、強く抱き締めた。もう、身を捩ったりはしない。

「俺の体は、お前をレイプしたあの男のなんだぞ?」
「でも、ミノルはミノルだよ」

背中に回されたハヤトの腕に、指に力が込められる。

「僕を汚くないって言うなら、抱いて……」

ミノルはそのまま、ハヤトをソファに押し倒した。




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