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たける

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2.葉山ミノル

3.

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雨は夜を待たず、夕方前には降り出してしまった。
途中ハヤトは、コンビニで傘を購入し、両手が塞がった状態で暗くなった道を歩いている。

『やっぱりタクシーを拾った方がいいよ』
「ダメだよ。それじゃあリハビリにならないじゃないか」
『けど……』

道は暗いよ、と言いかけて言葉を飲み込む。
今のハヤトには、明るさなど関係ないのだ。

「暗いからって?フフ……もう暗いのには慣れたよ。それより、何か食べて帰ろう?」
『……悪い……』
「いいってば。今はミノルが僕の目の代わりなんだから」

リハビリが順調なお陰か、ハヤトは随分と持ち前の明るさを取り戻していた。一時はリハビリが思うように行かず、自暴自棄になっていたのだが。

『そう言って貰えると、ありがたいよ。で、飯、だっけ?いいよ、食べて帰ろう。っても、俺は見てるだけなんだけどな』
「アハハ、そうだったね」

右手側には土手があり、そこを下れば小川が流れている。雨のせいか水位が増し、いつもは静かな流れなのに、ゴウゴウと激しい流れになっていた。

『ん?誰かいる……』
「え?どこに?」

水位が増し危険な川原に、人影が2つ見えた。ハヤトは足を止めて耳を澄ましているが、俺はその影を見つめた。
外灯が点々とある中で、その影が何故そこにいるのかは定かではない。だけど不意に、その人影がこちらを見た。

『こっち見てる……!何かヤバい気がする、逃げよう!』
「えっ?う、うん……!」

逃げようと言っても、ハヤトが走れる筈もない。少し早歩きするぐらいが関の山だ。影の1つが土手を上がってくる。俺がハヤトを更に急かしたその時、運良く空車のタクシーが向かいから来るのが見えた。

『ハヤト、タクシーに乗ろう!』

慌てて乗車し、取り敢えず駅へ向かってもらう。ハヤトが安堵したように息を吐いた時、俺は土手を上がりきってきた人影を見ていた。
柄の悪そうな男で、つり上がった目と頬の傷が印象的だった。

『駅まで行って、念の為にタクシーを乗り換えて帰ろう』

黙って頷くハヤト。
幽霊である俺と会話出来るハヤトには、人前では声を出して返事をしないようにと言ってある。そうしないと、ハヤトが変な目で見られてしまうからだ。

やがてタクシーは駅につき、俺達は別のタクシーに乗り換えて帰宅した。
ハヤトのマンションの部屋は、見えなくなってからほとんど物が無くなっている。簡素と言えばそれまでだが、シンプルで俺は好きだ。本棚には、退院してから集めた点字の辞書や本がぎっしりとつまっていた。

「ねぇ、ミノル。何を見てヤバいって言ったの?」
『あぁ……あれは……』

俺は男を見たままと、感じた印象を伝えた。

『だってさ、雨が降ってたのに傘も差さないでさ。しかもあんな川原にいたんだぞ?誰が見たって怪しすぎるだろ』
「決闘だったりして」
『バカ言えよ。今時決闘なんてするか?時代錯誤も甚だしいよ』
「だよね。あー、お腹空いた!」
『出前でも取れよ。外出は今日はもう止めてさ』

そうだね、と言ったハヤトは、ピザの宅配を頼んだ。




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