Prisoner

たける

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第11章

1.

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警察署は相変わらずの空気を漂わせている。ゲイナーは執務室に篭っていた。そんな執務室へクレイズが姿を見せたのは、夕日が1番眩しい時間だった。

「クレイズ、大丈夫か?」

ゲイナーは、座っていた椅子から腰を浮かせながら尋ねた。結婚式は無事済んだが、トランクから脱出した時に、クレイズも怪我をしたに違いない。その安否が気になり、発した言葉だった。するとクレイズはすぐ横に立った。

「心配ないさ。それよりゲイナー。暫くは、頻繁にここへ出入りさせてもらうぞ」

そう言いながらクレイズは椅子を引き寄せると、ゲイナーの隣に腰掛けた。ゲイナーも椅子に座り直すと、そんなクレイズを見遣った。

「ここに?君が?何故?」

理由が分からない。ゲイナーが戸惑っていると、クレイズはゲイナーを見つめてきた。

「カルロスがお前の命を狙っているんだ。お前を狙う本当の目的が分からない。だから、家族もどこかに避難させた方がいいかも知れないな」

そう言うと、クレイズは足を組んだ。そしてノートパソコンをデスクの上に置くと、手慣れた様にキーボードを叩き出した。

「確かに奴の狙いは不明だ。家族はどこかへ避難させるとしても、君はどうする?」

そうゲイナーが尋ねると、クレイズは笑った。悪戯でも企てるような顔だ。それに少しの不安を抱いたゲイナーは、クレイズが使っているパソコンの画面をそっと覗き込んだ。するとクレイズはゲイナーを一瞥し、マウスをクリックした。その表情はもう笑っておらず、真剣だ。

「カルロスの様子を窺う」

クレイズがそう言うと画面に地図が現れ、ある場所を示した。

「どうやら家にいるようだな」
「カルロスが?」

そう尋ねたゲイナーの問い掛けを無視し、クレイズは再びキーボードを叩いた。すると画面の地図上に、どこかの室内を映した映像が出た。その室内には、カルロスの姿が見える。

「ん?電話をしているな」

クレイズがそう言った。

「それは、盗撮じゃないのか?だったら犯罪だぞ」

そうゲイナーが言うと、クレイズは首を傾げた。

「お前やその家族の命がかかってるんだ、見過ごせよ」

そう言われると何とも言えなくなる。犯罪に目をつむるのは忍びないが、仕方がないだろう。そう自身に言い聞かせ、ゲイナーは黙った。それに笑みを浮かべるたクレイズは、再びマウスをクリックした。すると、パソコンに内蔵されているスピーカーからカルロスの声が聞こえて来た。
一体どうやって盗撮し、盗聴までしているのだろう?機械に疎いゲイナーには分からなかったが、そういう技術があり、クレイズはそれに長けているのかも知れない。


『ホテルに部屋を用意してある……そこに1人で来い』
『どうして?』


女の声に、ゲイナーとクレイズは顔を見合わせた。

「リリ……の声だ」
「そうみたいだな」

再び2人で音声に集中すると、カルロスの低い声がした。


『お前に話しがある』
『本部長に内緒で?』
『あぁ、そうだ。ゲイナーを助けたければ言う事をきくんだ』
『……分かったわ』


そこで音声が途切れ、カルロスが携帯をテーブルに置く姿が画面に映ると、ゲイナーは動揺した。


──リリが、何故カルロスと?


体が緊張し、鼓動も早くなる。

「何故、リリがカルロスと連絡を?」

知らず知らず、そう口を開いていた。まだ胸は苦しい。

「さぁ、知らない。だが、お前の件でリリも1枚噛んでるのは確かだな」

そうクレイズが言うと、ゲイナーは椅子を倒しながら慌てて立ち上がった。
何かの間違いだ。きっとそうに違いない。確認しなければ。そう思った。すると、クレイズがゲイナーを見上げてきた。

「ゲイナー、お前はここにいるんだ。罠かも知れないじゃないか」
「しかし、リリが!」

悠長に構えている暇はない。もしクレイズが言うようにこれがカルロスの罠だったとしたら、リリの身も危ないのではないか?そう思いながら、ゲイナーはクレイズを睨んだ。するとクレイズはため息を吐いた。

「いいか?ゲイナー。お前はカルロスに命を狙われてるんだぞ?忘れてる訳じゃないよな?」

そうクレイズが言うと、ゲイナーは倒れた椅子を引き起こし腰掛けた。少し落ち着く必要がある。考えなしに行動するのは危険だ。そうゲイナーは思い直した。

「忘れてる訳じゃない」
「だったら、もっと慎重に行動したらどうだ?」

クレイズの言う通りだ。

「そうだな」
「お前がリリを助けたい気持ちは分からんでもない。だからこそ、策を練ろうじゃないか」
「分かった。すまない」

そう言うと、ゲイナーはデスクの上で祈るように両手を組みあわせた。クレイズは足を組み直すと、そんなゲイナーに体を向けてきた。

「とにかく、カルロスが何をリリに話すのか。それを確かめよう。リリがカルロスに利用されているとすれば、当面リリの命は大丈夫だろう」

そうクレイズが提案した。

「どうやってそれを確かめるんだ?」

そうゲイナーが尋ねると、クレイズは強気に瞳を鋭く光らせ、笑った。

「オレに不可能はないさ」




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