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第7章
6.
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リビングは混み合い、追いやられるようにゲイナーは部屋の壁を背にジュースを飲んでいた。
ハリスと話をする、と言って部屋に消えたクレイズは、まだ戻って来ていない。
──大丈夫だろうか?
ふと、そう思った。何に対しての大丈夫なのか、と考え思いつかず、ゲイナーは頭を軽く左右に振った。
その時、人込みを縫うようにドーズがやって来るのが見えた。
「本部長」
そう呼ばれ片手を上げて返事をすると、ドーズは爽やかな笑みを見せた。
「今日はパーティーに呼んでくれてありがとう」
そうゲイナーが言うと、ドーズは辺りを見回した。
「いや、こちらこそ、クレイズの為にありがとうございます」
そう言ったお決まりの挨拶を交わし終えると、ドーズは笑みを隠して真剣な表情になった。
「本部長、クレイズの事は諦めてもらえませんか?」
唐突なドーズの言葉に、ゲイナーは眉根を寄せた。
「彼女、本当に貴方の事が好きみたいだ。本気らしい。だけど本部長。貴方には家族がいるでしょう?それに、不倫だなんてゴシップがあっちゃあ、今の立場も危ういでしょう」
そう言うドーズの声には、どこか脅しとも取れる威圧的なものを感じた。
そんなドーズを見つめ返すと、ゲイナーは無理に笑みを作って見せた。
「はは、いやぁ。彼女が私に本気だって?こんなおやじに?」
冗談のつもりでそう言ったが、ドーズには通じなかった。
「そうですよ。彼女は僕じゃなく、貴方を見ている」
今にも胸倉を掴まれそうだ。ゲイナーは咳を1つしてからジュースを飲み、ドーズを見つめ直した。
「私には家族がいるんだ。とても大切で、守りたい。だから君が心配するような事は何もないさ」
自分にも言い聞かせるようにゆっくりと言ったゲイナーは、花束を見せた時のクレイズの笑顔を思い出していた。
父親への思慕にも似た、自分への愛情。それをクレイズが本当の愛だと思っているのだとしたら。
──だが、自分のクレイズへの想いはどうだ?
娘を慈しむのとは違う。
──彼女を女性として愛している。
だとしても、まだ、諦められる。ゲイナーはそう思った。
「その言葉を聞けて安心しましたよ」
そう言って微笑むと、ドーズは何かを思い出したかのようにそうだ、と言った。
「来週は、確か本部長の誕生日でしたよね?」
「あぁ。よく知っているな。それがどうかしたかい?」
そう言ったゲイナーの側を、執事がシャンパンを乗せたトレーを持って通った。ドーズはそれを呼び止めトレーからシャンパンを手に取ると、ゲイナーにもすすめてきた。それを、署からいつ呼び出しがあるか分からないから、と言う理由でゲイナーが断ると、ドーズは1つだけグラスを手に取った。執事は人込みに埋もれるように、リビングの中心へと姿を消した。
「誕生日パーティーは開かれるんですか?」
再びドーズが話し出す。
「いやいや。うちは、家族だけで祝うつもりだよ」
そう言いながら、ゲイナーは賑やかなリビングを見渡した。
「そうなんですか?じゃあ、もし本部長がお嫌でなければ、僕とクレイズも、その誕生日パーティーに参加させて頂けませんかね?」
そう言うと、ドーズはシャンパンを口に含んだ。それを見遣りながら、ゲイナーはドーズが何を考えているか探ろうとした。が、その微笑みからは何も汲む事が出来ない。ましてや、ドーズの申し出を断る理由もない。
ゲイナーは頷き、笑い返した。
「勿論だとも。こんな豪華なパーティーじゃあないが、来てくれたら嬉しいよ」
「じゃあ、決まりですね」
目を細めて笑うドーズは、とても無邪気に見えた。無理矢理レイプしたり、クレイズの気持ちを無視するような男には到底見えない。
「じゃあ、来週」
そう言ってシャンパンを飲み干すと、ドーズはゲイナーに軽く会釈し、階段を上って行った。それを見送りながら、ゲイナーは家族と顔を合わせたクレイズがどのような反応を見せるのか、想像してみる事にした。
ハリスと話をする、と言って部屋に消えたクレイズは、まだ戻って来ていない。
──大丈夫だろうか?
ふと、そう思った。何に対しての大丈夫なのか、と考え思いつかず、ゲイナーは頭を軽く左右に振った。
その時、人込みを縫うようにドーズがやって来るのが見えた。
「本部長」
そう呼ばれ片手を上げて返事をすると、ドーズは爽やかな笑みを見せた。
「今日はパーティーに呼んでくれてありがとう」
そうゲイナーが言うと、ドーズは辺りを見回した。
「いや、こちらこそ、クレイズの為にありがとうございます」
そう言ったお決まりの挨拶を交わし終えると、ドーズは笑みを隠して真剣な表情になった。
「本部長、クレイズの事は諦めてもらえませんか?」
唐突なドーズの言葉に、ゲイナーは眉根を寄せた。
「彼女、本当に貴方の事が好きみたいだ。本気らしい。だけど本部長。貴方には家族がいるでしょう?それに、不倫だなんてゴシップがあっちゃあ、今の立場も危ういでしょう」
そう言うドーズの声には、どこか脅しとも取れる威圧的なものを感じた。
そんなドーズを見つめ返すと、ゲイナーは無理に笑みを作って見せた。
「はは、いやぁ。彼女が私に本気だって?こんなおやじに?」
冗談のつもりでそう言ったが、ドーズには通じなかった。
「そうですよ。彼女は僕じゃなく、貴方を見ている」
今にも胸倉を掴まれそうだ。ゲイナーは咳を1つしてからジュースを飲み、ドーズを見つめ直した。
「私には家族がいるんだ。とても大切で、守りたい。だから君が心配するような事は何もないさ」
自分にも言い聞かせるようにゆっくりと言ったゲイナーは、花束を見せた時のクレイズの笑顔を思い出していた。
父親への思慕にも似た、自分への愛情。それをクレイズが本当の愛だと思っているのだとしたら。
──だが、自分のクレイズへの想いはどうだ?
娘を慈しむのとは違う。
──彼女を女性として愛している。
だとしても、まだ、諦められる。ゲイナーはそう思った。
「その言葉を聞けて安心しましたよ」
そう言って微笑むと、ドーズは何かを思い出したかのようにそうだ、と言った。
「来週は、確か本部長の誕生日でしたよね?」
「あぁ。よく知っているな。それがどうかしたかい?」
そう言ったゲイナーの側を、執事がシャンパンを乗せたトレーを持って通った。ドーズはそれを呼び止めトレーからシャンパンを手に取ると、ゲイナーにもすすめてきた。それを、署からいつ呼び出しがあるか分からないから、と言う理由でゲイナーが断ると、ドーズは1つだけグラスを手に取った。執事は人込みに埋もれるように、リビングの中心へと姿を消した。
「誕生日パーティーは開かれるんですか?」
再びドーズが話し出す。
「いやいや。うちは、家族だけで祝うつもりだよ」
そう言いながら、ゲイナーは賑やかなリビングを見渡した。
「そうなんですか?じゃあ、もし本部長がお嫌でなければ、僕とクレイズも、その誕生日パーティーに参加させて頂けませんかね?」
そう言うと、ドーズはシャンパンを口に含んだ。それを見遣りながら、ゲイナーはドーズが何を考えているか探ろうとした。が、その微笑みからは何も汲む事が出来ない。ましてや、ドーズの申し出を断る理由もない。
ゲイナーは頷き、笑い返した。
「勿論だとも。こんな豪華なパーティーじゃあないが、来てくれたら嬉しいよ」
「じゃあ、決まりですね」
目を細めて笑うドーズは、とても無邪気に見えた。無理矢理レイプしたり、クレイズの気持ちを無視するような男には到底見えない。
「じゃあ、来週」
そう言ってシャンパンを飲み干すと、ドーズはゲイナーに軽く会釈し、階段を上って行った。それを見送りながら、ゲイナーは家族と顔を合わせたクレイズがどのような反応を見せるのか、想像してみる事にした。
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