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第6章
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ベッドに体を横たえながら、クレイズは腹部に手を宛がった。
この体に別の人間がいると分かるまで、約1ヶ月を切った。出来れば、何もいないで欲しい。そう願う。
埃っぽい室内は、クレイズがいなかった分だけ薄汚くなっていた。
以前マフィアの金で買った屋敷に戻っていたクレイズは、今朝のロゼとの問答を思い返し、そして嫌な気分になった。
──何がどうなって、オレがドーズを愛するようになると言うんだ?子供か?
だとしたら、早く処分したい。そうクレイズは思った。
壁に掛かっている時計は朝7時過ぎを指していてる。
ゲイナーに懐かしさを感じ、親しみに似た好意を抱いていたクレイズだったが、会えない20日間は淋しい、の一言だった。
ロゼが言ったように、ゲイナーを気に入っている事は確かだろう。だがそれは恋心ではない。そう思っていた。
なのに、気が付けばゲイナーの事ばかりを考えている。
──おかしい。何故ゲイナーばかり?
優しい男だが、それ以上に自分は何を求めているのだろう?
そんな事を考えていると、屋敷の外にエンジン音が近付いて来た。
この辺りは街外れになる。この屋敷の他に森はあるが、まさか狩りをしに来た訳でもないだろう。クレイズは体を起こし、玄関へと近付いた。そして魚眼レンズから外を窺おうとした時、扉がノックされた。
返事をせずそっと魚眼レンズを覗くと、玄関先にゲイナーが立っていた。
白い息を吐き、コートの襟を立てている。その寒そうな姿に、クレイズは扉を開いた。
「ここにいたのか、クレイズ」
尋ねてきた割に、まさか扉が開くとは思っていなかったのか、ゲイナーは眼鏡の奥の目を丸くした。
「ゲイナー、よくここが分かったな?」
そう言いながら、クレイズはゲイナーに抱き着いていた。懐かしい匂いがして、クレイズは目を細めた。
「クレイズ……?ど……どうかしたのか?」
腕に抱いているゲイナーが、戸惑った声を出した。それが何だか可笑しくて、クレイズは微笑みながらゲイナーから放れた。
「どうもしないさ。ゲイナーこそどうしたんだ?」
再度尋ねると、僅かに頬を赤く染めたゲイナーは、はぐらかすように咳ばらいをした。
「今朝うちにドーズが尋ねて来たんだ。彼から君がいなくなったと聞いてね」
その話か。クレイズはつらまない顔をすると、屋敷の中へ入った。その後を追ってゲイナーも入って来る。
「詳しい話しは署で聞こう。とにかく、君の身柄を拘束する」
そう言ったゲイナーから金属の擦れる音がした。手錠を出したのだろうと推測しながら、クレイズはゲイナーを振り返った。その後ろに、ゲイナーが乗って来た車が見える。
それはパトカーではなく、普通の乗用車だった。
「何故オレを拘束する?不本意だが昨日ドーズが金を払った」
そう言うと、ゲイナーはいつになく険しい顔になった。
「あれは違法だ。金はドーズに返す。だから君は、罪を償うんだ。裁判だって、もうすぐ行われるだろう」
ゲイナーは手錠を握り直し、クレイズとの距離を縮めてきた。
「ゲイナー、お前本気だな?」
その鋭く真剣な目にクレイズは捕らえられた。目が放せない。
「あぁ、本気だとも。さぁ、手を出すんだ」
クレイズの目の前に立ったゲイナーは、鋭い視線のまま見下ろしてきた。
「お前になら拘束されても構わない」
そう言ってクレイズは両手を差し出した。ゲイナーはその細い手首に手錠をかけると、クレイズを見つめ返してきた。
「私になら?意味深だな。まぁいいだろう。とにかく、君を拘束する」
そう言ってゲイナーは部屋を見渡した。
「1人で住むにしては、広いんじゃないか?」
「あぁ、少し広すぎたようだ」
クレイズが答えると、ゲイナーは火の回りや戸締まりはしてあるのか、と尋ねてきた。
「してあるとも。後は、玄関の鍵を閉めればいい」
「そうか。鍵はどこに?」
2人並んで玄関から出ると、ゲイナーは白い息を吐きながらクレイズに尋ねた。
「上着の右ポケットにある」
クレイズからも、白い息が上がった。それを見たゲイナーは、自身のコートを脱いでクレイズの肩にかけると、鍵の入っているポケットを探った。
ゲイナーの顔がすぐ側にある。それを見つめながら、寒さで僅かに赤くなったゲイナーの頬に自分の頬で触れた。
「ん?どうした?」
ゲイナーの動きが止まる。
その唇まで、数センチ。
クレイズは頬を放した。
「冷えるな。ゲイナーも寒いだろう、早く行こうじゃないか」
「あぁ、そうだな」
ゲイナーは玄関の鍵を閉めるとその鍵を自身のポケットに仕舞った。
この体に別の人間がいると分かるまで、約1ヶ月を切った。出来れば、何もいないで欲しい。そう願う。
埃っぽい室内は、クレイズがいなかった分だけ薄汚くなっていた。
以前マフィアの金で買った屋敷に戻っていたクレイズは、今朝のロゼとの問答を思い返し、そして嫌な気分になった。
──何がどうなって、オレがドーズを愛するようになると言うんだ?子供か?
だとしたら、早く処分したい。そうクレイズは思った。
壁に掛かっている時計は朝7時過ぎを指していてる。
ゲイナーに懐かしさを感じ、親しみに似た好意を抱いていたクレイズだったが、会えない20日間は淋しい、の一言だった。
ロゼが言ったように、ゲイナーを気に入っている事は確かだろう。だがそれは恋心ではない。そう思っていた。
なのに、気が付けばゲイナーの事ばかりを考えている。
──おかしい。何故ゲイナーばかり?
優しい男だが、それ以上に自分は何を求めているのだろう?
そんな事を考えていると、屋敷の外にエンジン音が近付いて来た。
この辺りは街外れになる。この屋敷の他に森はあるが、まさか狩りをしに来た訳でもないだろう。クレイズは体を起こし、玄関へと近付いた。そして魚眼レンズから外を窺おうとした時、扉がノックされた。
返事をせずそっと魚眼レンズを覗くと、玄関先にゲイナーが立っていた。
白い息を吐き、コートの襟を立てている。その寒そうな姿に、クレイズは扉を開いた。
「ここにいたのか、クレイズ」
尋ねてきた割に、まさか扉が開くとは思っていなかったのか、ゲイナーは眼鏡の奥の目を丸くした。
「ゲイナー、よくここが分かったな?」
そう言いながら、クレイズはゲイナーに抱き着いていた。懐かしい匂いがして、クレイズは目を細めた。
「クレイズ……?ど……どうかしたのか?」
腕に抱いているゲイナーが、戸惑った声を出した。それが何だか可笑しくて、クレイズは微笑みながらゲイナーから放れた。
「どうもしないさ。ゲイナーこそどうしたんだ?」
再度尋ねると、僅かに頬を赤く染めたゲイナーは、はぐらかすように咳ばらいをした。
「今朝うちにドーズが尋ねて来たんだ。彼から君がいなくなったと聞いてね」
その話か。クレイズはつらまない顔をすると、屋敷の中へ入った。その後を追ってゲイナーも入って来る。
「詳しい話しは署で聞こう。とにかく、君の身柄を拘束する」
そう言ったゲイナーから金属の擦れる音がした。手錠を出したのだろうと推測しながら、クレイズはゲイナーを振り返った。その後ろに、ゲイナーが乗って来た車が見える。
それはパトカーではなく、普通の乗用車だった。
「何故オレを拘束する?不本意だが昨日ドーズが金を払った」
そう言うと、ゲイナーはいつになく険しい顔になった。
「あれは違法だ。金はドーズに返す。だから君は、罪を償うんだ。裁判だって、もうすぐ行われるだろう」
ゲイナーは手錠を握り直し、クレイズとの距離を縮めてきた。
「ゲイナー、お前本気だな?」
その鋭く真剣な目にクレイズは捕らえられた。目が放せない。
「あぁ、本気だとも。さぁ、手を出すんだ」
クレイズの目の前に立ったゲイナーは、鋭い視線のまま見下ろしてきた。
「お前になら拘束されても構わない」
そう言ってクレイズは両手を差し出した。ゲイナーはその細い手首に手錠をかけると、クレイズを見つめ返してきた。
「私になら?意味深だな。まぁいいだろう。とにかく、君を拘束する」
そう言ってゲイナーは部屋を見渡した。
「1人で住むにしては、広いんじゃないか?」
「あぁ、少し広すぎたようだ」
クレイズが答えると、ゲイナーは火の回りや戸締まりはしてあるのか、と尋ねてきた。
「してあるとも。後は、玄関の鍵を閉めればいい」
「そうか。鍵はどこに?」
2人並んで玄関から出ると、ゲイナーは白い息を吐きながらクレイズに尋ねた。
「上着の右ポケットにある」
クレイズからも、白い息が上がった。それを見たゲイナーは、自身のコートを脱いでクレイズの肩にかけると、鍵の入っているポケットを探った。
ゲイナーの顔がすぐ側にある。それを見つめながら、寒さで僅かに赤くなったゲイナーの頬に自分の頬で触れた。
「ん?どうした?」
ゲイナーの動きが止まる。
その唇まで、数センチ。
クレイズは頬を放した。
「冷えるな。ゲイナーも寒いだろう、早く行こうじゃないか」
「あぁ、そうだな」
ゲイナーは玄関の鍵を閉めるとその鍵を自身のポケットに仕舞った。
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