Prisoner

たける

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第2章

3.

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街の中心にある警察署は、薄汚れた白い壁に覆われていた。その入口には警備の男が2人立っている。
パトカーが到着すると、警備の男達は慌てて駆け寄って来て、後部座席の扉を開いた。

「ご苦労様です、本部長」
「あぁ。容疑者を連れて来た。取調室に連れて行ってくれ。私もすぐに向かう」

ゲイナーが言うと、警備の男達はうやうやしく道を開けた。ゲイナーが先に降りてクレイズを振り返ると、警備の男達がクレイズを後部座席から引っ張り出した。

「ゆっくり話しを聞こうじゃないか、クレイズ」

そう言うと、ゲイナーはさっさと警察署に入って行った。

「さぁ、歩け」

ゲイナーがいなくなった途端、警備の男達は偉そうな態度を見せた。クレイズは黙ったままそれに従い、歩き出した。


──やはり汚れている。


そう思った。





取調室に通され、クレイズは真ん中にあるデスク前の椅子に座らされた。
部屋は狭く息苦しい。警官が扉の前に1人立っている。見張りだろうと推測しながら、クレイズは部屋を見回した。後ろ手にかけられている手錠が、クレイズが体を捻る度に音を立てる。

「狭い部屋だな」

声をかけてみるが、警官は答えなかった。代わりに扉が開き、ゲイナーと女が入ってきた。
ゲイナーの手には金づちとペンチが握られている。

「早速始めようか」

そう言うと、ゲイナーはクレイズの前にある扉に近い方の椅子に座った。女はその後ろへ──壁に立てかけてあった椅子を開き──座りながら、ボードに挟んだ紙とペンを取り出した。背中の壁が更に圧迫感を与える。

「まずは、その仮面を外させて貰おう」

そうゲイナーが言うと、女はペンを動かした。クレイズはそれを見ながら、首を横に振って拒否を示した。

「君に拒否権はない。あるのは黙秘権だけだ」

そう言ってゲイナーが扉の前に立っている警官に目配せをすると、警官はクレイズの横に立った。

「押さえていろ」

ゲイナーの命令に従い、警官はクレイズの肩を掴んでデスクに押し付けた。

「放せ……!嫌だと言っているだろう?」

ずっと仮面をつけていた。今更外す事は怖い。
自分の顔はどうなっているのだろう?そう思うと、クレイズの体は強張った。

「大分錆びているな。これならペンチだけでも大丈夫そうだ」

そう言って立ち上がると、ゲイナーはペンチを握った手をクレイズに近づけた。
手に汗が滲む。

「は……なせ!」

クレイズが大きな声を出したのと、ゲイナーが鍵を摘んでペンチを捻ったのは、ほぼ同時だった。バチンッ、と言う音が耳のすぐ横で聞こえたかと思うと、クレイズの目の前に錆びて壊れた鍵が落ちてきた。
砕けた部分が細かくなってデスクに飛び散る。

「外すぞ」

そう声をかけてから、ゲイナーは仮面に手をかけた。
鍵で繋がれていた部分が少し開くと、冷たい空気がクレイズの頭部を撫でた。
背中に悪寒を感じ身震いする。緊張の為に咥内が渇き、舌が張り付いた。

「クレイズ、君の素顔は一体どんな」

仮面が外された。
照明が直接目を襲ってくるようで、クレイズは目を細めた。
肩に髪が触れ、そして頬に風が触れる。この感覚はいつぶりだろうか。クレイズは新鮮に感じながらも、ゲイナーの顔を見る事が出来ないでいた。


──きっとオレは醜い。言葉を無くしているんだろう。


途中で途切れたゲイナーの言葉から、クレイズはそう思った。

「体を起こしてやれ」

そうゲイナーが言うと、警官はクレイズの肩を引き、上体を起こさせた。

「醜いだろう?」

漸くクレイズはゲイナーを見つめた。その顔は呆然とし、少しだけ間抜けに口を開いてはいたが、やがて口を開いた。

「いいや、醜くはない」

そう言ったゲイナーの言葉に、クレイズは今まで感じた事のない温かさを感じた。
再び黙り込んでしまったゲイナーは、クレイズを見つめている。その後ろの女はまだ、呆然とクレイズを見ていた。

「本部長、クレイズは」

唐突に女が口を開くと、ゲイナーは我に返ったようにはっとして咳ばらいをした。

「クレイズ、取調べが終わったら風呂に入れてやる」

そう前置きをしてから、ゲイナーは本部長の顔に戻った。




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