犬伯爵様は永遠の愛を誓う

あまみ

文字の大きさ
上 下
20 / 20

帰り道

しおりを挟む
 孤児院からの帰り道、ロイは帰り道馬車の窓からユアンと共に外の景色を楽しんでいた。

 「今日はどうだった?」
 「子供と遊ぶなんて初めてだったのでちょっと新鮮でした」

 あのあとユアンの授業見学をひとしきりしたあと子供達の遊び相手になりロイは駆け回ることになった。
 最初子供達のあまりの元気の良さに押され気味になっていたロイだが人懐っこい子達ばかりで、すぐにロイは打ち解けた。
 特にウトにはなぜかずっとくっつかれて、それにヤキモチを焼いたニアにまた睨まれるハメになったときは少し焦ったがロイがウトに危害を加えないことがわかったニアは面白くない表情をしながらも我慢しているようだった。
 帰る際には「絶対にまた来て」とねだる子供達とロイはまた来る約束をした。

 「あの孤児院はね、僕の『希望』なんだ」
 「『希望』……ですか」

 たずねるロイに少し目を向けてフッと微笑むとユアンは窓の外を見ながら口を開いた。

 「この国は様々な種族が暮らしているとはいえいまだに差別があってね、中でも半獣に対する差別は地域によってはひどいものがあるんだ。人間は昔からこの国には少数ながらもいたんだけどね……」

 古い歴史からこのステルク王国は獣人が支配していた国だった。
 今よりも小さな国土だったステルク王国は、何百年も前についた王が国土を拡大していくために近隣の国と戦をして徐々に国土を広げていった歴史があった。長い歴史の中で繰り返し戦をしてやがて人間が出入りするようになり、少数ながらも人間もこの国に増えた。そして二十年前に現王が即位してから貿易に力を入れ始めたことを皮切りに、それまで獣人より低かった人間の地位が引き上げられた背景がある。

 「それまで奴隷扱いを受けていた人間も少なからずいて、人間の地位は今よりもずっと低いものだったと聞く。僕の叔父である王は、奴隷などそういったことを嫌悪する人でね、人間に対して好き嫌いは別として国のためになるのなら優秀な者は種族がなんであろうと引き上げた。奴隷制度も廃止して、人間に対しての必要以上の罰則なども取り締まった。反発も大きかったようだけど若いときは苛烈な性格だったから好き方題したみたいだよ。今では考えられないくらい温厚な人だけどね。今は爵位もある人間がいるなんて当時では考えられないだろうね」

 真剣に聞き入っているロイをみて満足そうにユアンはうなずいた。

 「半獣は今よりもっと少なくてね……いや、いても身を潜めていたのかもしれないな」

 昔は獣人と人間はくっきりと線引きがあったという。古い歴史の中では生活圏内でさえも分けられた過去があった。

 それ故獣人と人間が子を成すこと自体がめずらしく……

 獣人でもない、人間でもない『半獣』はとして忌み嫌われてきた──。

 「獣人も人間も自分たちと違うことに不寛容な部分があるからね」

 「そんな……」

 言葉をなくすロイを横目にユアンは無表情で窓の外を眺めている。まるでそこにはないどこか遠くを眺めるように。

 「僕はこの国に来たときは絶望していた。よりによって獣人の国に来るだなんて思ってもみなかったけど、それでも人間の国よりかは幾分マシだったよ。見た目には獣人の耳や尻尾はあるし、人間と混ざったような体臭は獣人用の特殊な香水で隠せる。獣化したときはバレてしまうけどね。やはり半獣だとバレたときは集団でリンチに合いそうになったこともあったけど、そのときは周りよりは腕が立ったからね」
 
 自嘲気味に笑うユアンにロイは胸が痛む。

 (いったいこの人はここまでどれだけ傷ついてきたのだろう……)

 「今では半獣も昔よりかは生きやすい世の中にはなったとは思うけど、それでもまだ理解が得られないことも多くてね。一部では就職や結婚に不利な場面もあったりすることもあるんだ。……僕はいつか半獣も、獣人も人間も自由に過ごせる時代が来ればいいなと思っている。だからこそあの孤児院は僕の『希望』なんだ。あそこでは種族の壁なんてなかっただろう?」

 コクリとうなずくロイにユアンは、はにかんだように笑った。
 少ない時間だったが先ほどの孤児院では皆種族関係なく子供達は皆自由に過ごしていたように思えた。

 「ソフィーや職員が気をつけて接しているからね。次の時代を作っていく子供達が、種族や生き方に偏見のない目を持っていれば今よりももっと生きやすい時代が来ると信じているんだ。僕は今は貴族だけどまだまだひよっこで、できることは少ない。だからできることのなかで少しずつ変えていけたらと思っているよ」

 「きっと、(そんな時代が)来ると思います」

 ロイが思わず身を乗り出して真っ直ぐにユアンの目をみながら伝えるとユアンは破顔する。


 「来るといいなあ」

 そういって窓の外に視線を移す。その表情は先ほどとは打って変わって明るく、いつもはあまり動かないユアンの手入れされた艶やかな毛並みの尻尾は少しだけ揺れていた。
 
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

前世で愛されなかった悪役令息は愛されたい

みたらし@低浮上
BL
…なんで… やめて…やめてよ… 母さん… 友人に裏切られ家族には虐待され周りに味方もいない そんな中ただ一つの幸せを見つけたと思った佐野涼斗(さのりょうと)だったが…? 最後の願いにあいつに復讐したいと願ったら、 BL小説の悪役令息に転生?!!!!! ストーリーのまま行けば処刑は確実だけど あんな酷い死に方したくない!! し、どうせなら幸せになって見返してやるんだっ!!! ※この作品は初投稿なので至らない点も多いと思いますがよろしくお願いします! ※更新は不定期になると思いますがご了承ください エロシーンが入るものには※をつけています。苦手だよっていう方はお気をつけください!

ファンタジーな世界でエロいことする

もずく
BL
真面目に見せかけてエロいことしか考えてないイケメンが、腐女子な神様が創った世界でイケメンにエロいことされる話。 BL ボーイズラブ 苦手な方はブラウザバックお願いします

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活

BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。 草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。 露骨な性描写あるのでご注意ください。

なんちゃってチートな悪役令息〜イケメン達から逃げ切りたい〜

koko
BL
目を開けるとそこは、紛れもなく異世界でした! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 前世は、ファッションデザイナーを目指し、専門学校に通っている大学生、僕こと瀬名泉澄。目を開けるとそこは…なんと男同士でも結婚できちゃう異世界でした!しかもシュウェーデル国という国の貴族とやらでとっても偉いウェルトン公爵家の次男です!名前もウェルトン・デューイ・デ・メリア・ラファエルというとっても長い名前に⁉︎ ん?この名前、どっかで聞いたことあるよーな、、あッッーーー⁉︎⁉︎この名前!僕が前世で暇潰しに読んでたBL小説の悪役令息の名前だ!!!ヤバいッッッこのままじゃ前世より短い生涯を終える事になってしまう_:(´ཀ`」 ∠):前世知識チートで短命の元凶イケメン達から逃げ切り、今度こそ長生きしたいと思います!! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。温かい目で見守ってくれると助かります。設定ゆるゆるの予感w誤字脱字あったら是非教えてください!頑張って直します! ⚠︎R18です。R18場面は*で事前にお知らせします。18歳以下の方、苦手な方は自衛お願いします!

俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ
BL
【女神の愛の呪い】  この世界の根源となる物語の悪役を割り当てられたエドワードに、女神が与えた独自スキル。  鍛錬を怠らなければ人類最強になれる剣術・魔法の才、運命を改変するにあたって優位になりそうな前世の記憶を思い出すことができる能力が、生まれながらに備わっている。(ただし前世の記憶をどこまで思い出せるかは、女神の判断による)  しかし、どれほど強くなっても、どれだけ前世の記憶を駆使しても、アストルディア・セネバを倒すことはできない。  性別・種族を問わず孕ませられるが故に、獣人が人間から忌み嫌われている世界。  獣人国セネーバとの国境に位置する辺境伯領嫡男エドワードは、八歳のある日、自分が生きる世界が近親相姦好き暗黒腐女子の前世妹が書いたBL小説の世界だと思い出す。  このままでは自分は戦争に敗れて[回避したい未来その①]性奴隷化後に闇堕ち[回避したい未来その②]、実子の主人公(受け)に性的虐待を加えて暗殺者として育てた末[回避したい未来その③]、かつての友でもある獣人王アストルディア(攻)に殺される[回避したい未来その④]虐待悪役親父と化してしまう……!  悲惨な未来を回避しようと、なぜか備わっている【女神の愛の呪い】スキルを駆使して戦争回避のために奔走した結果、受けが生まれる前に原作攻め様の番になる話。 ※悪役転生 男性妊娠 獣人 幼少期からの領政チートが書きたくて始めた話 ※近親相姦は原作のみで本編には回避要素としてしか出てきません(ブラコンはいる) 

処理中です...