8 / 20
おでかけ
しおりを挟む
「今日一緒に街へ出かけようか」
ある日朝食を終えて食後のお茶を入れている際ユアンから提案され、思わず「はい?」と気の抜けた返事を返すとユアンは爽やかな笑顔をロイに向けた。
「ここへきてからどこも出かけていないだろう。ロイの欲しいものを買いに行こう」
「いえ……必要なものはトーマスさんに用意してもらっていますし……」
ロイの返答になぜか笑顔のまま固まるユアンの後ろでトーマスが大きく咳払いしたあとロイに向かって微笑んだ。
「ロイ様、ぜひ行ってきてはいいかがですかな。この国を知る良い機会です」
確かにここへ来てから街へ出たこともなく、こもりきりだった。トーマスの言う通りいい機会だしこの国をもっと知ることができるかもしれない。
けれど今日の仕事はいいのか考えていると、ロイの考えていることがお見通しだったのかトーマスが「今日は緊急の案件もないですし大丈夫ですよ。何かあれば私めが対応いたしましょう」とロイを気遣った。さらに畳み掛けるようにユアンが言った。
「ロイは本が好きだったろう、古書店も行こう」
(なんで本が好きだなんてわかったのだろう……言ったかな?)
ここへ来てから本など読んだことがないロイは不思議に思いながらも古書店という言葉に釣られて承諾したのだった。
* * *
ロイがユアンと共に馬車でまず向かったのは貴族街と平民街の境目。
ここから馬車を降りて徒歩ですぐの平民街を散策するという。てっきりユアンが向かうのは貴族街かと思って緊張していたロイは拍子抜けしてしまった。
わかりやすく肩の力が抜けたロイに「安心したかい?」といたずらっ子のような笑みを向けるので思わず恨めしそうな目を向けると声をあげて笑った。
「ははは!ごめん、ごめん」
今日のユアンの出立ちは白のシャツに黒のパンツで肩まである髪は緩くひとつにまとめている。こうしてみると普通の青年のように見える。
もちろんかなりの美形なので先程からユアンに向けられる視線は多い。二人きりということに少し緊張しながらも歩き出す。
まずロイたちが向かったのは平民街の市場だった。人通りも多く、獣人も人間もこの場所は多い。
獣人と人間のわかりやすい違いは耳と尾だ。なんの獣人かは耳を見ればわかる。先程から行き交う人の多くは獣の耳がある。
ロイの働くオルティス家の屋敷にももちろんいる。人間はトーマスさんと下働きに一人、メイドに一人いるだけでそれ以外は獣人だ。
ステルク王国の貴族はほどんどが獣人で、人間の貴族はたいがいは新興貴族で数もそんなに少ない。
ブラム王の甥であるユアンも獣人の血が流れているが母は人間だと知ったのはつい最近だ。
ユアンが幼いときに病で亡くなったそうだ。当時はまだ人間を差別する風潮少ないながらも残っており、人間と獣人の間にできた子供であったユアンの生い立ちは複雑なものであったという。
(どんな子供だったんだろうか)
ふとそんなことを思いながら街を歩く獣人と人間の子供たちを眺めているとユアンがロイの顔を覗き込んだ。
「さ、行こう」
「はい」
様々な露店が立ち並ぶ市場は活気があって見ているだけで楽しい。交易も盛んなステルク王国の市場はロイが見たこともないような品が並んでおり、目を惹かれているとひとつひとつをユアンが説明してくれる。見たことのない珍しい果物があるとユアンが慣れた様子で購入してその場で皮を剥いて食べさせてくれたりした。
歩いていると人通りが多いためぶつかりそうになるロイをユアンがサッと手を引いてくれる。
「危ないから」
そう言ってロイの手を握るユアンに「いや、ちょっとこれは」と手を解こうとすると余計強く握られる。
ロイがユアンの方を見上げるといつもの笑みとは違うどこか甘い笑みに自分でも鼓動が早くなるのを感じた。
ユアンの手はロイの手よりも大きくゴツゴツしており、意外にも剣だこのようなものがあった。自分とはまるで違う男の手に包まれていること、しかも相手がユアンだということがよりロイの鼓動を早くさせた。
人混みの中を無言で歩くロイは指先から伝わる熱にただ俯いた。
ある日朝食を終えて食後のお茶を入れている際ユアンから提案され、思わず「はい?」と気の抜けた返事を返すとユアンは爽やかな笑顔をロイに向けた。
「ここへきてからどこも出かけていないだろう。ロイの欲しいものを買いに行こう」
「いえ……必要なものはトーマスさんに用意してもらっていますし……」
ロイの返答になぜか笑顔のまま固まるユアンの後ろでトーマスが大きく咳払いしたあとロイに向かって微笑んだ。
「ロイ様、ぜひ行ってきてはいいかがですかな。この国を知る良い機会です」
確かにここへ来てから街へ出たこともなく、こもりきりだった。トーマスの言う通りいい機会だしこの国をもっと知ることができるかもしれない。
けれど今日の仕事はいいのか考えていると、ロイの考えていることがお見通しだったのかトーマスが「今日は緊急の案件もないですし大丈夫ですよ。何かあれば私めが対応いたしましょう」とロイを気遣った。さらに畳み掛けるようにユアンが言った。
「ロイは本が好きだったろう、古書店も行こう」
(なんで本が好きだなんてわかったのだろう……言ったかな?)
ここへ来てから本など読んだことがないロイは不思議に思いながらも古書店という言葉に釣られて承諾したのだった。
* * *
ロイがユアンと共に馬車でまず向かったのは貴族街と平民街の境目。
ここから馬車を降りて徒歩ですぐの平民街を散策するという。てっきりユアンが向かうのは貴族街かと思って緊張していたロイは拍子抜けしてしまった。
わかりやすく肩の力が抜けたロイに「安心したかい?」といたずらっ子のような笑みを向けるので思わず恨めしそうな目を向けると声をあげて笑った。
「ははは!ごめん、ごめん」
今日のユアンの出立ちは白のシャツに黒のパンツで肩まである髪は緩くひとつにまとめている。こうしてみると普通の青年のように見える。
もちろんかなりの美形なので先程からユアンに向けられる視線は多い。二人きりということに少し緊張しながらも歩き出す。
まずロイたちが向かったのは平民街の市場だった。人通りも多く、獣人も人間もこの場所は多い。
獣人と人間のわかりやすい違いは耳と尾だ。なんの獣人かは耳を見ればわかる。先程から行き交う人の多くは獣の耳がある。
ロイの働くオルティス家の屋敷にももちろんいる。人間はトーマスさんと下働きに一人、メイドに一人いるだけでそれ以外は獣人だ。
ステルク王国の貴族はほどんどが獣人で、人間の貴族はたいがいは新興貴族で数もそんなに少ない。
ブラム王の甥であるユアンも獣人の血が流れているが母は人間だと知ったのはつい最近だ。
ユアンが幼いときに病で亡くなったそうだ。当時はまだ人間を差別する風潮少ないながらも残っており、人間と獣人の間にできた子供であったユアンの生い立ちは複雑なものであったという。
(どんな子供だったんだろうか)
ふとそんなことを思いながら街を歩く獣人と人間の子供たちを眺めているとユアンがロイの顔を覗き込んだ。
「さ、行こう」
「はい」
様々な露店が立ち並ぶ市場は活気があって見ているだけで楽しい。交易も盛んなステルク王国の市場はロイが見たこともないような品が並んでおり、目を惹かれているとひとつひとつをユアンが説明してくれる。見たことのない珍しい果物があるとユアンが慣れた様子で購入してその場で皮を剥いて食べさせてくれたりした。
歩いていると人通りが多いためぶつかりそうになるロイをユアンがサッと手を引いてくれる。
「危ないから」
そう言ってロイの手を握るユアンに「いや、ちょっとこれは」と手を解こうとすると余計強く握られる。
ロイがユアンの方を見上げるといつもの笑みとは違うどこか甘い笑みに自分でも鼓動が早くなるのを感じた。
ユアンの手はロイの手よりも大きくゴツゴツしており、意外にも剣だこのようなものがあった。自分とはまるで違う男の手に包まれていること、しかも相手がユアンだということがよりロイの鼓動を早くさせた。
人混みの中を無言で歩くロイは指先から伝わる熱にただ俯いた。
10
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
前世で愛されなかった悪役令息は愛されたい
みたらし@低浮上
BL
…なんで…
やめて…やめてよ…
母さん…
友人に裏切られ家族には虐待され周りに味方もいない
そんな中ただ一つの幸せを見つけたと思った佐野涼斗(さのりょうと)だったが…?
最後の願いにあいつに復讐したいと願ったら、
BL小説の悪役令息に転生?!!!!!
ストーリーのまま行けば処刑は確実だけど
あんな酷い死に方したくない!!
し、どうせなら幸せになって見返してやるんだっ!!!
※この作品は初投稿なので至らない点も多いと思いますがよろしくお願いします!
※更新は不定期になると思いますがご了承ください
エロシーンが入るものには※をつけています。苦手だよっていう方はお気をつけください!
【完結】攻略は余所でやってくれ!
オレンジペコ
BL
※4/18『断罪劇は突然に』でこのシリーズを終わらせて頂こうと思います(´∀`*)
遊びに来てくださった皆様、本当に有難うございました♪
俺の名前は有村 康太(ありむら こうた)。
あり得ないことに死んだら10年前に亡くなったはずの父さんの親友と再会?
え?これでやっと転生できるって?
どういうこと?
死神さん、100人集まってから転生させるって手抜きですか?
え?まさかのものぐさ?
まあチマチマやるより一気にやった方が確かにスカッとはするよね?
でも10年だよ?サボりすぎじゃね?
父さんの親友は享年25才。
15で死んだ俺からしたら年上ではあるんだけど…好みドンピシャでした!
小1の時遊んでもらった記憶もあるんだけど、性格もいい人なんだよね。
お互い死んじゃったのは残念だけど、転生先が一緒ならいいな────なんて思ってたらきましたよ!
転生後、赤ちゃんからスタートしてすくすく成長したら彼は騎士団長の息子、俺は公爵家の息子として再会!
やった~!今度も好みドンピシャ!
え?俺が悪役令息?
妹と一緒に悪役として仕事しろ?
そんなの知らねーよ!
俺は俺で騎士団長の息子攻略で忙しいんだよ!
ヒロインさんよ。攻略は余所でやってくれ!
これは美味しいお菓子を手に好きな人にアタックする、そんな俺の話。
ファンタジーな世界でエロいことする
もずく
BL
真面目に見せかけてエロいことしか考えてないイケメンが、腐女子な神様が創った世界でイケメンにエロいことされる話。
BL ボーイズラブ 苦手な方はブラウザバックお願いします
二度目の人生ゆったりと⁇
minmi
BL
急ですが二度目の人生頂きましたのでのんびりしようと思いま...あれ⁇
身体は子ども?中身はおじいちゃん。今日も元気に生きていこうと思います。
*色々設定がありますが、作者の勝手な解釈のもと作成しております。
*少々修正しました。
社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活
楓
BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。
草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。
露骨な性描写あるのでご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる