上 下
30 / 33

目を覚ますと*エピローグ

しおりを挟む
 目が覚めると同時に襲ってきたのは猛烈な痛み。天音はベッドの中で寝返りをなんとかうった。
 
 「痛たた…」

 身体を起こそうにも全身が筋肉痛で動けない。何より尻の痛さに昨夜の出来事は夢ではなかったのだとハッとする。
 
 「起きたか」

 隣から聞こえる声に恐る恐る痛む首を動かすとそこにはエリオットの顔が至近距離で天音の顔を除きこんでいた。

 「で、殿下!!」
 
 殿下呼びに少しムッとした表情を見せたエリオットは天音の唇に口づけを落とした。抵抗しようとするも舌先を捉えられて、あっというまに抵抗する気力をなくしてしまう。ムクムクと自身が反応するのを感じて天音は慌てて我に帰った。

 「んっ……ふっ、──ぷはっ!殿下、これは……その……」

 昨夜の出来事を思い出して顔を赤らめている天音を見てエリオットは口の端を上げてニヤリと笑った。

 「もう俺を名前では呼んでくれないのか」
 「え……エリオット……?」

 名前を呼んだ途端エリオットは蕩けるような笑みを見せ、ぎゅうぎゅうと天音の身体を抱きしめた。

 「苦しい……です」
 
 筋肉痛の身体を締め付けられて痛みにうめいていると、天音の身体の痛みを思い出してエリオットは即座に力を緩めた。

 「すまん、つい嬉しくなった」
 「いいえ、大丈夫です」

 照れ臭くなりながらも昨夜の出来事は夢ではなかったのだと感じて嬉しさと羞恥でないまぜになる。
 赤くなった顔を手で思わず隠すとエリオットは赤くなった天音の耳をカプッと甘噛みした。

 「わっ!ちょっと殿下!何するんですか!」
 「エリオット」
 「……エリオット」

 小声で呟くように名前をまた呼ぶとエリオットは満足げな表情で天音の瞼に唇を落とした。唇を受けながら天音はエリオットの腕の中に猫ではない自分がいることが嬉しくて少しだけ涙が出そうになり唇を噛み締めた。

 「エリオットは……猫じゃなくても俺を受け入れてくれますか」

 不安からこぼれた言葉にぎゅっと目を閉じた。
 頭上からエリオットのため息が聞こえて、抱きしめられる力が強くなった。

 「何を言っているんだ、俺はイオ(猫)じゃなくて人間の、天音というお前という人間を好きになったんだ」

 
 思わずエリオットを見上げると目があった。蕩けるような甘い笑みで天音を見下ろしていて、その笑顔を見て天音は喜びに胸がいっぱいになる。

 「もちろんイオであるお前も愛している」

 そういってエリオットは天音の髪をすくように撫でた後「こんなことを言った後でなんだが……」と言って不適な笑みに変わる。
 なんとなくその笑みに不穏なものを感じて天音は思わずエリオットの胸から離れようとしたそのときだった。
 腕輪をつけている方の腕を掴まれて、天音が抵抗する間も無くエリオットは天音の腕からスルリと腕輪を外した。
 
 「あああ!!何するんですか!!」
 「ふむ、猫にならないのは朝方だからか?」

 天音が腕輪を取り上げようと手を伸ばした隙にエリオットは天音の唇に自分の唇を軽く押し当てる。

 「んん!──ちょっと!!」

 唇を慌てて離した途端、天音の身体が光に包まれる。眩しさにエリオットが目を細めながら見守っていると光がだんだんと消え去っていく。
 
 「にゃあああ!!(猫に戻ってるー!!)」

 そこには見慣れた可愛らしい白と薄茶色の模様のパニック状態のハチワレ猫が佇んでいた。

 「イオ!……いや、天音か?でも猫だしイオか?」
 「にゃにゃにゃーー!!(そんなのどうでもいい!!)」
 「猫語がわからないのが難点だな」

 そんなことを言いながらも嬉しそうな表情のエリオットはイオである天音を抱き上げた。
 混乱のあまり尻尾がぶわりとたぬきのように膨らんでいるのがまた可愛らしい。



 「これからどちらの姿でも俺を癒してくれよ?」



 エリオットは不適に笑ったあとイオのもふもふのお腹に思いっきり顔を埋めた。

 「にゃああああ(なんでえええ)」

 王子の使っている離れの部屋から猫の叫び声が聞こえてきたのはメイド達の間で少し話題になったとか、ならなかったとか。


 


 end




 ──────

 拙い文章を最後まで読んでくださりありがとうございました。
 ここでとりあえず完結といたしますが、次回からその後の話などの番外編を少しずつ載せますのでそちらも読んでいただけると嬉しいです。
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。

柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。 そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。 すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。 「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」 そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。 魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。 甘々ハピエン。

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います

ほしふり
BL
ーーーーー魔王の妻、常闇の魔女リアーネは死んだ。 それから五百年の時を経てリアーネの魂は転生したものの、生まれた場所は人間の王国であり、第三王子リグレットは忌み子として恐れられていた。 王族とは思えない隠遁生活を送る中、前世の夫である魔王ベルグラに関して不穏な噂を耳にする。 いったいこの五百年の間、元夫に何があったのだろうか…?

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

処理中です...