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 まもなく陽が沈みそうになって西日が窓の外から差し込む。開け放った窓から心地よい風が吹いている。
 読みかけの本を置いたエリオットは久しぶりにゆっくりできたと思いながら身体を伸ばす。

 エリオットはすやすやと寝息を立てる天音の顔を覗き込む。先程服が届けられたのだが、あまりにも熟睡しきっている天音を起こすのをためらってしまっていた。
 ここ数日子猫をきっかけにエリオットは天音のことを好ましいと思っていた。
 ユエルほどではないが気が効くし、もともと教育を受けていたのか計算も早いし、頭も悪くない。
 朝、子猫と遊びながら天音と会話する時間が最近では楽しみに思うようになっているのを自覚する。

 それに、はにかんだように笑う天音をみると最近はなんだか胸が締め付けられるのをエリオットは頭を悩ませていた。
 先程も見つめられてうっかりキスをしそうになったことを思い出す。

 (……まさか、な。それに最近こいつがなぜかイオに見えるときがあるんだよな……やはり日中イオがいないことで何処かでストレスを感じて癒しを求めているのか?)

 天音が寝返りのたび顔を動かすとサラサラとした天音の髪が顔にかかる。指ではらってやり、そっと天音の頬を撫でる。
 そのまま、ツツ……と首筋を撫でるとわずかに天音の身体がピクリと反応する。
 動きを止めるとまた寝息を立て始めたのを確認して、先程から視界に入って気になっていたバスローブから見え隠れするピンクの突起をよく見えるようにバスローブをずらす。
 白い肌があらわになってその中心にある突起に思わずゴクリと喉を鳴らした。天音が寝息を立てるたびに胸が上下して同時にピンクの突起も上下する。
 指でそっと触れるか触れないかの位置で突起の先を撫でて反応が薄いのを確認して、エリオットは今度は先端をゆっくりと押す。
 エリオットの指でひしゃげた弾力のある突起を円を描くように押すと「ん…」と天音は小さく声を上げた。

 (起きないか……、というか俺は何をやっているんだ)

 そう思いながらも、仰向けで寝ている天音の顔の横に手を置いて体重を掛けるとわずかにベッドが音を立てて軋む。
 ──長いこと天音の顔を見ていた。
 顔をゆっくりと近づけて天音の唇を見つめた。吸い込まれるように唇が重なりそうになったときだった。
 突然天音の身体が光り輝き出した。

 (──!)

 眩い光に一瞬目が眩みそうになりながらも警戒しながら天音の方をみると、だんだん光が溶けていくように消えていく。

 「これは……」

 そこにいたはずの天音の姿はなく、代わりにエリオットがよく知っている者の姿がそこにあった。

 「にゃああああああ(嘘ーーーー!!)」

 雄叫びをあげるのは白と薄茶色模様のハチワレのまんまる顔の猫。

 「イ、……オか?」

 恐る恐る声を掛けてくるエリオットを見た天音は猫の姿になってしまったことに混乱する。

 (ななな、なんで!……は!もう陽が暮れてる!)

 窓の外を見たらすっかり陽が落ちてあたりが暗くなっていた。自分がすっかり寝こけて猫の姿になったのを見られてしまったことに気づいた天音は顔を青くした。

 「イオなのか……?」

 近づいてきた気配に驚いた天音は咄嗟に伸ばされた手を払い落とした。
 
 「──ッ」

 痛みに顔を歪めたエリオットをみると自分が払い落とした時に爪で手を傷つけてしまったのか手の甲から血が出ている。

 (あ……俺、なんてことを)

 なおも「イオ」と呼びかけて近づいてくるエリオットに天音は後退りして毛を逆立てた。

 「シャーー!!(……っ、こないで!)」

 初めてエリオットに対して威嚇行為をした。呆然とこちらを眺めているエリオットに自分の胸がずきりと痛むのを感じた。

 ──もう、終わりだ。

 天音は猫の姿でひらりと窓から飛び降りる。雨どいに着地すると脇目も降らず駆け出した。
 
 住宅街から漏れる灯りや聞こえる人の声泣きそうになった。


 人間でもなく、猫でもない自分は、ひとりだ。
 
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