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猫だすけ
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(それにしてもこんな生活いつまで続くんだろう……)
城の廊下であくびを噛み殺しながら天音はふと考える。
今の人間での暮らしは悪くないとは思っている。ユエルは優しいし、この城で働来始めたとき、最初は警戒心があったこの城の人々も今では世間話をしてくれるくらいには仲良くなった。
──エリオットを除いて。
人間の姿のときに接するエリオットと猫(イオ)の姿のときに接するエリオットがかけ離れていていまだに天音の姿でエリオットとは片手で数えるくらいしか会話したことがない。しかも仕事の話ばかり。天音はそれに対して少しばかり寂しく感じていたのだった。
(猫のときはあんなに表情が柔らかいのになー)
そんなことを考えて昨夜のエリオットを思い出す。優しく撫でる手も、自分に向けられる甘い笑顔もあの時間だけ知ることができる。
人に弱みを見せたくないであろうエリオットが唯一安らげる時間であるのは自惚れなんかじゃないと思っている。
自分がイオだと知ったらエリオットはどんな顔をするだろうか。間違いなく拒絶される。猫だと接していたのが実は部下だったなんて気味が悪いだろう。
そこまで考えて天音は唇を噛み締める。
(いつか本当に終わりが来るんだろうか……)
あれからテオドールとは顔を合わせていないし、この呪いの解除方法の進捗状況がわからない。
進捗状況をたずねるためにも一度会う必要があるだろう。
考え事をしながら歩いていると渡り廊下に差し掛かる。天音はいつも朝の出勤前の時間のピークを避けているため人の流れはまちまちだ。
渡り廊下のすぐ側には中庭が面してして朝靄の霧が漂っている。それを横目に通り過ぎようとしたときだった。
「みゃーー……」
甲高い助けを求めるような鳴き声が中庭の方から聞こえてきた。
慌てて朝靄の漂う中庭に足を踏み入れると、少しひんやりとした空気が頬を撫でた。鳴き声は絶えず聞こえてきてその声を頼りに進んでいく。
声がするのは中庭に植えられている木の上だった。
「おーい!大丈夫かあ」
天音が木の下から声を掛けると「みゃーみゃー」と鳴き声が強くなる。鳴き声からして子猫らしく姿は木の枝や葉に隠されて見えない。
「待ってろよ、すぐに行くから」
木に足をかけて慎重に登っていく。革靴を履いているので滑りやすいのを注意しながら木に登り、ガサガサと茂みをかき分けるとそこには黒い小さな子猫がいた。黒猫といえば自分が死ぬ前に助けた猫も黒猫だったなと思いながら、警戒している様子の子猫に声を掛ける。
「もう大丈夫だよ。さあ、おいで」
優しく声を掛けると小さく鳴きながらおずおずと伸ばされた天音の手に足を乗せた。
ホッとして腕に抱き止めて撫でてやると「みゃー」と鳴きすぐにゴロゴロと喉を鳴らした。
「よし!降りるか」
そう決心して下を見ると登るときには気が付かなかった、地面までのあまりの高さに顔を青ざめた。
(そういえば俺、木登りなんて小学生のとき以来やってないんだった……!どうやって降りるんだっけ)
子猫を抱えたまま木から降りる方法が思いつかない。飛ぶにしても足がすくんでしまう。
(どどどどうしよう……!怖いよー!)
子猫を助けたら今度は自分が降りられなくなった状況に天音は焦り出す。助けを呼ぼうかあたりを見回したときだった。
「おい、そこに誰かいるのか」
城の廊下であくびを噛み殺しながら天音はふと考える。
今の人間での暮らしは悪くないとは思っている。ユエルは優しいし、この城で働来始めたとき、最初は警戒心があったこの城の人々も今では世間話をしてくれるくらいには仲良くなった。
──エリオットを除いて。
人間の姿のときに接するエリオットと猫(イオ)の姿のときに接するエリオットがかけ離れていていまだに天音の姿でエリオットとは片手で数えるくらいしか会話したことがない。しかも仕事の話ばかり。天音はそれに対して少しばかり寂しく感じていたのだった。
(猫のときはあんなに表情が柔らかいのになー)
そんなことを考えて昨夜のエリオットを思い出す。優しく撫でる手も、自分に向けられる甘い笑顔もあの時間だけ知ることができる。
人に弱みを見せたくないであろうエリオットが唯一安らげる時間であるのは自惚れなんかじゃないと思っている。
自分がイオだと知ったらエリオットはどんな顔をするだろうか。間違いなく拒絶される。猫だと接していたのが実は部下だったなんて気味が悪いだろう。
そこまで考えて天音は唇を噛み締める。
(いつか本当に終わりが来るんだろうか……)
あれからテオドールとは顔を合わせていないし、この呪いの解除方法の進捗状況がわからない。
進捗状況をたずねるためにも一度会う必要があるだろう。
考え事をしながら歩いていると渡り廊下に差し掛かる。天音はいつも朝の出勤前の時間のピークを避けているため人の流れはまちまちだ。
渡り廊下のすぐ側には中庭が面してして朝靄の霧が漂っている。それを横目に通り過ぎようとしたときだった。
「みゃーー……」
甲高い助けを求めるような鳴き声が中庭の方から聞こえてきた。
慌てて朝靄の漂う中庭に足を踏み入れると、少しひんやりとした空気が頬を撫でた。鳴き声は絶えず聞こえてきてその声を頼りに進んでいく。
声がするのは中庭に植えられている木の上だった。
「おーい!大丈夫かあ」
天音が木の下から声を掛けると「みゃーみゃー」と鳴き声が強くなる。鳴き声からして子猫らしく姿は木の枝や葉に隠されて見えない。
「待ってろよ、すぐに行くから」
木に足をかけて慎重に登っていく。革靴を履いているので滑りやすいのを注意しながら木に登り、ガサガサと茂みをかき分けるとそこには黒い小さな子猫がいた。黒猫といえば自分が死ぬ前に助けた猫も黒猫だったなと思いながら、警戒している様子の子猫に声を掛ける。
「もう大丈夫だよ。さあ、おいで」
優しく声を掛けると小さく鳴きながらおずおずと伸ばされた天音の手に足を乗せた。
ホッとして腕に抱き止めて撫でてやると「みゃー」と鳴きすぐにゴロゴロと喉を鳴らした。
「よし!降りるか」
そう決心して下を見ると登るときには気が付かなかった、地面までのあまりの高さに顔を青ざめた。
(そういえば俺、木登りなんて小学生のとき以来やってないんだった……!どうやって降りるんだっけ)
子猫を抱えたまま木から降りる方法が思いつかない。飛ぶにしても足がすくんでしまう。
(どどどどうしよう……!怖いよー!)
子猫を助けたら今度は自分が降りられなくなった状況に天音は焦り出す。助けを呼ぼうかあたりを見回したときだった。
「おい、そこに誰かいるのか」
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