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王子様は猫吸いがお好き

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 猫用にしては豪華絢爛なふかふかの自分専用のベッドからひらりと飛び降りる。
 四足歩行も慣れたものでいつもの昼寝から覚めた天音はゆっくりと開け放しの隣の部屋に向かう。
 プライベートな空間のすぐ隣に執務室を構えている主人・・はいささか仕事人間すぎるが故、こうやって決まった時間に天音は主人に休憩を取らせるために執務室に行く。
 
 執務室の奥の方の机で主人は黙々と仕事をしていた。

 「にゃおおおん(休憩だぞー)」

 ここへ来てわかったのだが、人間の言葉で喋っているつもりでも相手には猫の鳴き声に聞こえるらしい。当初必死に人間の言葉で話しているつもりだった天音は相手側には伝わらないことに落胆したものだ。
 甲高い猫の鳴き声が聞こえたのか山積みになっている書類の隙間から金の髪が動いた。天音が机の方を回り込んで椅子に座っている人物の姿を確認する。

 「もうそんな時間か」
 「にゃ(そうだ)」

 机で何か書き物をしていたらしい相手はハッと顔を上げて懐中時計を取り出して時間を確認する。
 サラサラの金の髪にスッキリした目鼻立ち、目の色は薄い青がイケメンだがどこか冷たい印象をもつ。背はスラリと高くて一見線が細く見えるが、近くで見ると引き締まった体軀は服の上からでもわかるほどだ。いつもどこか近寄りがたい雰囲気が疲れのせいかいつもより目つきが鋭い。
 その姿を見ながら天音は心の中でやれやれと呆れる。
 
 (王子ってもっと椅子の上で踏ん反り返ってのんびりするもんじゃないのか)

 ここ、ラクトリア王国の第一王子であるエリオットに拾われてからもう三ヶ月が経つ。街でカラスに襲われたところにたまたまお忍びで街へ来ていたエリオットに助けられた天音はそのままここ王城にやってきた。

 目が覚めると豪華絢爛な寝床に寝かされて驚いた天音はパニックのあまり部屋をかけずり回った。
 そのときにいくつか高そうな花瓶を割ってしまって我に帰り、固まってしまったのを覚えており、今でも思い出すと恐怖のあまり耳が後ろの方へ垂れるのがわかる。
 そのときエリオットは怪我はないかと抱き上げて心配してくれたが、なんと天音は見知らぬ部屋と見知らぬ人間を前にしてをしでかしてしまったのだ。
 高そうな衣服にしでかした天音を、エリオットは苦笑しながらもあやして頭を撫でてくれた。それから天音はなんやかんやでエリオットの飼い猫になったというわけである。

 「お前が呼びにきてくれないとすっかり時間を忘れてしまうな、イオ」
 「なああう(働きすぎだぞ)」
 「なんだか小言を言われているのは気のせいか?」

 ここでエリオットにもらった名は「イオ」新しい名前で呼ばれるのはもう慣れたものだ。
 エリオットは天音を抱き上げると三ヶ月前とは見違えるようになったもふもふの腹の毛並みに顔を埋める。
 スーハーと天音の腹で深呼吸を繰り返すいわゆる(猫吸い)をする。これが何回されても恥ずかしくて落ち着かないが少しでも主人を癒すため天音はグッと堪える。

 (耐えろ!心を無にするんだ!)

 そろそろ暴れたい気持ちがうずうずと湧き起ころうとしていたときにエリオットはパッと顔を離した。

 「ありがとう、イオ。おかげでまだ頑張れそうだよ」

 爽やかな王子スマイルで礼をいう王子に天音は小さく「にゃー……(おう……)」と返したのだった。
 
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