3 / 33
王子様は猫吸いがお好き
しおりを挟む
猫用にしては豪華絢爛なふかふかの自分専用のベッドからひらりと飛び降りる。
四足歩行も慣れたものでいつもの昼寝から覚めた天音はゆっくりと開け放しの隣の部屋に向かう。
プライベートな空間のすぐ隣に執務室を構えている主人はいささか仕事人間すぎるが故、こうやって決まった時間に天音は主人に休憩を取らせるために執務室に行く。
執務室の奥の方の机で主人は黙々と仕事をしていた。
「にゃおおおん(休憩だぞー)」
ここへ来てわかったのだが、人間の言葉で喋っているつもりでも相手には猫の鳴き声に聞こえるらしい。当初必死に人間の言葉で話しているつもりだった天音は相手側には伝わらないことに落胆したものだ。
甲高い猫の鳴き声が聞こえたのか山積みになっている書類の隙間から金の髪が動いた。天音が机の方を回り込んで椅子に座っている人物の姿を確認する。
「もうそんな時間か」
「にゃ(そうだ)」
机で何か書き物をしていたらしい相手はハッと顔を上げて懐中時計を取り出して時間を確認する。
サラサラの金の髪にスッキリした目鼻立ち、目の色は薄い青がイケメンだがどこか冷たい印象をもつ。背はスラリと高くて一見線が細く見えるが、近くで見ると引き締まった体軀は服の上からでもわかるほどだ。いつもどこか近寄りがたい雰囲気が疲れのせいかいつもより目つきが鋭い。
その姿を見ながら天音は心の中でやれやれと呆れる。
(王子ってもっと椅子の上で踏ん反り返ってのんびりするもんじゃないのか)
ここ、ラクトリア王国の第一王子であるエリオットに拾われてからもう三ヶ月が経つ。街でカラスに襲われたところにたまたまお忍びで街へ来ていたエリオットに助けられた天音はそのままここ王城にやってきた。
目が覚めると豪華絢爛な寝床に寝かされて驚いた天音はパニックのあまり部屋をかけずり回った。
そのときにいくつか高そうな花瓶を割ってしまって我に帰り、固まってしまったのを覚えており、今でも思い出すと恐怖のあまり耳が後ろの方へ垂れるのがわかる。
そのときエリオットは怪我はないかと抱き上げて心配してくれたが、なんと天音は見知らぬ部屋と見知らぬ人間を前にして粗相をしでかしてしまったのだ。
高そうな衣服にしでかした天音を、エリオットは苦笑しながらもあやして頭を撫でてくれた。それから天音はなんやかんやでエリオットの飼い猫になったというわけである。
「お前が呼びにきてくれないとすっかり時間を忘れてしまうな、イオ」
「なああう(働きすぎだぞ)」
「なんだか小言を言われているのは気のせいか?」
ここでエリオットにもらった名は「イオ」新しい名前で呼ばれるのはもう慣れたものだ。
エリオットは天音を抱き上げると三ヶ月前とは見違えるようになったもふもふの腹の毛並みに顔を埋める。
スーハーと天音の腹で深呼吸を繰り返すいわゆる(猫吸い)をする。これが何回されても恥ずかしくて落ち着かないが少しでも主人を癒すため天音はグッと堪える。
(耐えろ!心を無にするんだ!)
そろそろ暴れたい気持ちがうずうずと湧き起ころうとしていたときにエリオットはパッと顔を離した。
「ありがとう、イオ。おかげでまだ頑張れそうだよ」
爽やかな王子スマイルで礼をいう王子に天音は小さく「にゃー……(おう……)」と返したのだった。
四足歩行も慣れたものでいつもの昼寝から覚めた天音はゆっくりと開け放しの隣の部屋に向かう。
プライベートな空間のすぐ隣に執務室を構えている主人はいささか仕事人間すぎるが故、こうやって決まった時間に天音は主人に休憩を取らせるために執務室に行く。
執務室の奥の方の机で主人は黙々と仕事をしていた。
「にゃおおおん(休憩だぞー)」
ここへ来てわかったのだが、人間の言葉で喋っているつもりでも相手には猫の鳴き声に聞こえるらしい。当初必死に人間の言葉で話しているつもりだった天音は相手側には伝わらないことに落胆したものだ。
甲高い猫の鳴き声が聞こえたのか山積みになっている書類の隙間から金の髪が動いた。天音が机の方を回り込んで椅子に座っている人物の姿を確認する。
「もうそんな時間か」
「にゃ(そうだ)」
机で何か書き物をしていたらしい相手はハッと顔を上げて懐中時計を取り出して時間を確認する。
サラサラの金の髪にスッキリした目鼻立ち、目の色は薄い青がイケメンだがどこか冷たい印象をもつ。背はスラリと高くて一見線が細く見えるが、近くで見ると引き締まった体軀は服の上からでもわかるほどだ。いつもどこか近寄りがたい雰囲気が疲れのせいかいつもより目つきが鋭い。
その姿を見ながら天音は心の中でやれやれと呆れる。
(王子ってもっと椅子の上で踏ん反り返ってのんびりするもんじゃないのか)
ここ、ラクトリア王国の第一王子であるエリオットに拾われてからもう三ヶ月が経つ。街でカラスに襲われたところにたまたまお忍びで街へ来ていたエリオットに助けられた天音はそのままここ王城にやってきた。
目が覚めると豪華絢爛な寝床に寝かされて驚いた天音はパニックのあまり部屋をかけずり回った。
そのときにいくつか高そうな花瓶を割ってしまって我に帰り、固まってしまったのを覚えており、今でも思い出すと恐怖のあまり耳が後ろの方へ垂れるのがわかる。
そのときエリオットは怪我はないかと抱き上げて心配してくれたが、なんと天音は見知らぬ部屋と見知らぬ人間を前にして粗相をしでかしてしまったのだ。
高そうな衣服にしでかした天音を、エリオットは苦笑しながらもあやして頭を撫でてくれた。それから天音はなんやかんやでエリオットの飼い猫になったというわけである。
「お前が呼びにきてくれないとすっかり時間を忘れてしまうな、イオ」
「なああう(働きすぎだぞ)」
「なんだか小言を言われているのは気のせいか?」
ここでエリオットにもらった名は「イオ」新しい名前で呼ばれるのはもう慣れたものだ。
エリオットは天音を抱き上げると三ヶ月前とは見違えるようになったもふもふの腹の毛並みに顔を埋める。
スーハーと天音の腹で深呼吸を繰り返すいわゆる(猫吸い)をする。これが何回されても恥ずかしくて落ち着かないが少しでも主人を癒すため天音はグッと堪える。
(耐えろ!心を無にするんだ!)
そろそろ暴れたい気持ちがうずうずと湧き起ころうとしていたときにエリオットはパッと顔を離した。
「ありがとう、イオ。おかげでまだ頑張れそうだよ」
爽やかな王子スマイルで礼をいう王子に天音は小さく「にゃー……(おう……)」と返したのだった。
56
お気に入りに追加
1,674
あなたにおすすめの小説
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが
古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。
女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。
平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。
そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。
いや、だって、そんなことある?
あぶれたモブの運命が過酷すぎん?
――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――!
BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います
ほしふり
BL
ーーーーー魔王の妻、常闇の魔女リアーネは死んだ。
それから五百年の時を経てリアーネの魂は転生したものの、生まれた場所は人間の王国であり、第三王子リグレットは忌み子として恐れられていた。
王族とは思えない隠遁生活を送る中、前世の夫である魔王ベルグラに関して不穏な噂を耳にする。
いったいこの五百年の間、元夫に何があったのだろうか…?
魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる