上 下
84 / 91
2章

2−55

しおりを挟む
 「な、何を……! お前が! お前がルーナ姉ちゃんや、ハリオ兄ちゃん達をどこかへやったんだろ!! どこにやったんだよ!」

 ヨシュアが吠えるように叫ぶ。ヨシュアがあげた名前はどれも教会で見つけた人身売買の契約書の名前に記載されていた。
 マリウス神父は鬱陶しそうにヨシュアを見た。その目はどこかうつろである。
 
 「どこに? さあ? 私はあくまで彼らを受け渡すだけですからその後彼らがどこへ行って、どんな暮らしを今しているかなんて知りようがありませんよ。私が知るのは彼らがどんな金額になったかです。もっとも、魔力量の多い孤児なんて使がありますからねえ」

 そう言ったマリウス神父は歪んだ笑みを浮かべた。

 「ああ、彼らがお教えしましょうか?」

 「てんめえええ! ぜってえ許さねえ!!」

 ブチブチと音がする方を見れば、ヨシュアが無理に動かない手足に魔力を込めて拘束を解こうとしていた。だが、魔導具の力なのか魔力を込めるも消滅を繰り返してその衝撃で手足から血を流している。

 「ヨシュア! やめて!」

 止めるように呼びかけるもヨシュアは頭に血が昇っているのか止めようとしない。その様子をマリウス神父はつまらなさそうな表情で眺めている。

 「やはり目障りですねえ。カイがあなたにいろいろ教えているのはわかっていましたが、あなたはここで始末した方が良さそうだ」

 そう言うとマリウス神父は懐から短剣を取り出した。きらびやかな装飾が施されれているも、異様なオーラをまとっている。ただならぬ物なのは一目瞭然で咄嗟に身構える。

 「魔導具か」

 レイ様が問うとマリウス神父は微笑んだ。
 
 「ええ、拘束されたときは身体検査までされたものですから焦りましたよ。金庫の中の魔道具は押収されてしまいましたがもうひとつの隠し場所は無事でこの通りですよ。それに、運よく協力してくれる子がいたんで」

 まさかと思いながらも私はマリウス神父に問いかけた。

 「マリウス神父、イアンはあなたと一緒にいるのですか」
 「とっても役立ってくれましたよ。隠し持っていた魔導具で脱出するまではよかったのですが、魔導具一つではどうしても心もとなくてですね、隠してある魔導具を取りに行きたいと思っていたのですが見張りもいるだろうしどうしたものかと思っていたところに、イアンと遭遇しましてね。魔導具を取りにいく手伝いをしてくれたんですよ。隠し出口も役に立って、森への行き方も教えてくれましたので本当に助かりました。ああ、彼はそのへんに捨ててきたので今は一緒にはいませんが」

 捨ててきたとの言葉に背筋が寒くなる。この森で一人で攻撃手段も持たない子供一人がさまよっているなんて魔物のいい餌だ。

 「それにほぼ魔力は残っていないので動けないでしょうね」

 なんてことないように言うマリウス神父に恐る恐るたずねる。

 「魔力がほぼ残っていないって……イアンに何をしたんですか」

 マリスウス神父は私を見てまるで魔法の訓練の時のようにゆったりとした口調で話し出す。

 「ご存じですか、魔導具は魔石で動いています。わかりやすく言うと魔導具はいわば人間でいう身体です。魂が魔石。そして魔石には魔力が宿っている。魔導具を使用するだけで魔力はあってもなくても魔法を使うことができる素晴らしい物です」

 戸惑う私達を気にせずマリウス神父は話し続ける。

 「ですがもちろん魔導具も人間と同じで永遠な物ではありません。魔石が空っぽになってしまうと使えなくなってしまいます。大抵はクズ石になった魔石を交換すれば使うことができるのですが、古い魔導具だと魔石を交換できず使い切りなのです。そこでとある天才的な発明家によって素晴らしい魔導具が発明されました」

 そう言ってマリウス神父は腕を掲げた。そこには金の腕輪が光っていた。黒い魔石が光り輝いている。
 魔導具と思しきそれは嫌なオーラをまとっていた。
 

 「これは魔力を吸い取り、古い魔導具を使用する際にエネルギーとして使うことができるのです」

 まるで舞台俳優のように大袈裟に説明するマリウス神父に思わず眉を顰めながら考える。
 そんなものがあるのならロックが使っていたような古い魔導具が回数制限もなく使えるではないか。
 それに気づき背筋に冷たいものが這う。あの腕輪の魔導具がどれくらいの使用制限があるかはわからないが危険なものだ。
 しかも……

 「イアンの魔力をそれで吸い取ったんですね」

 それを聞いたヨシュアがまたも魔力を放出しようとしている。落ち着くように今度はレイ様が声をかけている。

 「そうですよ。ちょうど魔力量の多い彼がいたおかげで助かりましたよ」
 「っ……! イアンはあなたのことを信じていたんですよ!」
 「扱いやすい子でよかったですよ、ドワーフと人間のハーフで魔力量もそこそこあって、彼はさぞかし高く売れたでしょうね。こんなことならもっと早くにどうにかして売っておくべきだった……それだけが心残りです」
 
 マリウス神父は至極残念そうにため息をついた。

 脳裏にイアンの姿が思い起こされる。

 

 ──「それでも、僕は嬉しかったんだ。いろんなことを教えてくれて……」



 「私は……あなたを絶対に許さない」


 怒りで声が震える。あまりの悔しさに涙が出そうになるが、唇を噛み締めた。睨みつけた視線の先のマリウス神父は私を見て笑った。





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

モラハラ婚約者を社会的に殺してみた笑

しあ
恋愛
外面はいいけど2人きりになるとモラハラ発言が止まらない婚約者に我慢の限界です。 今まで受けた屈辱を何倍にもして返して差し上げます。 貴方の誕生日パーティに特別なプレゼントを用意致しましたので、どうぞ受け取ってください。 ふふ、真っ青になる顔が面白くてたまりません!

処理中です...