上 下
83 / 91
2章

2−54

しおりを挟む
 獣道を進みながら今日ワンピースで来たことに後悔した。歩きやすい靴ではあるがどうしても葉で足を切ってしまう。少しの切り傷なら我慢できる痛さなのでいいがどうしても動きづらい。今度からお姉様のお下がりの乗馬服を普段から着ようか考えていると私の後ろを歩いていたリクが魔法で草木を切り払った。
 
 「傷が増えるとハンナにどやされますので」

 歩きやすくなった獣道を前に思わず「ははは」と乾いた笑いが漏れる。それを見たヨシュアが呆れた視線を寄越す。

 「やっぱりお前お嬢様なんだな」

 慌てて否定しようとすると先頭を歩いていたレイ様が「もうバレてるよ~」と振り返りながら軽い調子で言った。改めて伯爵の娘だと言うことを話すと流石に伯爵令嬢とは思っていなかったらしいヨシュアがギョッとした表情で「お貴族様か」と狼狽える。その様子に少しだけ笑みがこぼれそうになりながら「今さら気にしないで」と告げると明らかにホッとしたようだった。ふと思ったことを歩きながらヨシュアに問いかけた。
 
 「ねえ、どうしてヨシュアは初めて会ったときリクがはぐれ精霊だと思ったの?」
 「俺の親父が御者なのは知ってるだろ? 俺も親父について仕事を教わったりしてるんだ。それで結構冒険者とかも乗せるんだけどさ、たまに精霊を連れてる奴とかいるんだよ。そのときになんていうのか……雰囲気が似たようなやつ者同士みたいになってるんだけど、お前達にはそれがなかったっていうか……」

 ヨシュアは頭をガシガシとかきながらうまく言い表せられないことにもどかしさを感じているようだった。
 ヨシュアの言葉に驚いて思わずリクをみるとリクは頷いた。

  「確かに魔力の色は守護精霊に似通ってくるものではありますが……人間がそれを感じ取れるなんて見た事がありません」

 それを聞いたレイ様は「すごいじゃん~」と言うとヨシュアが照れたように下を向いた。

 「いや、そんなこと……ってやっぱりはぐれ精霊なのか?」
 「そうだ」

 ヨシュアの疑問に対してリクが答えるとヨシュアはリクと私を交互に見て目を丸くした。

 「へえ、はぐれ精霊は人間嫌いな奴が多いのかと思っていたけどそうでもないんだな」
 「そうなの?」

 リクにたずねるとリクは髭をピクピクとさせながら答えた。

 「大抵はそうですね、やはりは人間といろいろあった者が多いですから」
 「やっぱりそうか……リリュも人間嫌いだからな」

 脳裏に私を睨みつける小さな精霊の姿が過ぎる。

 「人間嫌いなのにどうやって仲良くなったの?」

 もしかしたら私の体質についての参考になるかもしれないと思い尋ねてみる。

 「もうだいぶ前のことになるんだけどさ、森への抜け道をたまたま見つけたことがきっかけでカイとよく遊んでたこともあって最初は二人だけで森へ行ってたんだ」

 ヨシュアの話によると二人は何回か森へ行って食べられる木の実や薬草などを探していたそうだ。そしていつもは行かない森の奥の方へ入ってしまったという。そこで運悪くゴブリンに遭遇してしまい逃げている最中にリリュに助けられたという。

 「本人いわく気まぐれだったらしいんだけどさ、それから森へ行く度に会って食べられる木の実とか擦り傷にいい薬草とか毒を持っているきのこだとか教えてくれて」

 本当に人間嫌いなのだろうかと疑っているのが顔に出ていたのかヨシュアが私の顔を見てフッと笑う。

 「俺よりカイの方にリリュは懐いていてさ、俺はおまけみたいなもんだよ。まあ、それでもリリュには感謝してるんだけどな」

 契約はしないのか気になるがそう簡単に聞いていいことじゃないと思い、なんだか聞くのをはばかられた。
 
 しばらく歩いているとレイ様がピタリと立ち止まった。

 「人の気配がするねえ」

 思わずびくりと立ち止まる。辺りを見渡すも風で木々のざわめきが聞こえるだけだ。緊張が走る。そのときだった。
 
 辺りの風景が揺らめく。するとすぐさまレイ様が「散れ!」と叫ぶも手足が縫い付けられたように動かなくなる。
 リクやヨシュア、レイ様も同じようで身動きが取れないようだ。戸惑っていながらも手足を動かそうとするもびくともしない。

 「そこにいるんだろ、出てこいよ」

 レイ様が木に向かって声を上げると木の影から人影が現れる。

 「おやおや、ばれていましたか」

 木の影から出てきたのは初めて宿屋であったときのようなシャツにスラックス姿のおおよそ森にいるには似つかわしくない格好のマリスウス神父だった。
 いつものようにニコニコと朗らかに笑う様は異様に思える。

 「集めていた魔導具が役に立ちましたねえ」

 こちらを見ながらそう言うマリウス神父に「てめえ……っ」とヨシュアが唸る。

 「おや、誰かと思えば御者の息子さんではないですか。ちょろちょろと昔から教会に出入りするのを見逃していましたがやはり目障りですねえ。カイにも困ったもんです。君たちにはしてやられましたよ」

 そう言ってマリウス神父は大袈裟にため息をついた。

 「これは解いてはくれなさそうだね」

 レイ様がマリウス神父に話しかけた。マリウス神父は私達を見てにっこりと笑った。


 「なりません。あなた方はここで死ぬのですよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

処理中です...