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2章
2−29
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「リクはこの事件に精霊が関わっていると考えているのよね?」
先程の会話の内容を頭の中で整理しながらリクにたずねる。
「噂の広がりようから十中八九関わっていると私はみています」
「他の根拠を聞いても?」
小声で話しながら人がいないことを確かめて、話の続きを聞くため私達は早歩きで広場の噴水の近くのベンチに腰掛けた。
「レイ殿が話していたルリの花が散乱していた痕跡があったことは覚えていますか?」
確か以前、森で探索中に不自然に散乱しているルリの花があったとレイ様が話していたのを思い出す。
でもそれがなぜ精霊と関わりがあることに繋がるのか不思議に思っているとリクは髭をピクピクとさせた。
「あまり知られていないのですが、精霊召喚の儀式に使われているルリの花は『精霊界の花』なのです」
「精霊界の花?」
「はい。本来精霊界に咲いている花で、その昔、我らの精霊王が人間界に友好の証として贈られたものなのです」
驚きの事実に唖然とする。だから精霊召喚の儀に使われているのかと納得しながらも、こんな大事なことを私が知っていて良いのだろうかと不安がよぎる。だが私の心配をよそにリクは説明を続けた。
「それに、ルリの花にはもう一つ精霊にとって大事な役割があります」
「役割?」
思わずごくりと息を呑むと、リクは小さな手で人差し指をびっと突き出した。先程食べたオレンジの香りがふわっと鼻をくすぐる。
「ルリの花は精霊の魔力を回復させることができるのです」
リクの説明によると、昔精霊王がルリの花を人間界に贈ったのも友好の証だけでなく、はぐれになってしまった精霊や魔力が枯渇した精霊のためにいわば「回復薬」として人間界にいる精霊のためを思って贈ったそうだ。
精霊王の届かない人間界で過ごす精霊が少しでも助けになるならば、と精霊を思って贈った……。
だから、ルリの花は森でもよく自生している……いわば精霊王の精霊に向けた慈悲の花だそうだ。
「なんだか……精霊王様はすごく慈悲深い方でいらっしゃるのね」
そう思ったことを素直に口にするとリクはどこか遠い目をした。
「まあ、懐に入れた方にはとことん甘いお方ですね」
その意味がわからず首を傾げると、私の表情に気づいたリクが軽く咳払いをして「ともかく」とリクが話を続けた。
「森で散乱していたルリの花の件については精霊がルリの花を自身の回復に使ったのではないかと」
「じゃあ、魔力が枯渇している精霊が森に潜伏しているとリクは考えているのね?」
「おそらくそう考えられます。そしてわざわざルリの花を摘んだ状態で見つかっているのも不自然です。精霊ならば生えているルリの花からそのまま魔力を吸い取ってしまばいいのに」
「リクはそのルリの花をわざわざ摘んで集めた人間がいると?」
口にするとリクはコクリとうなずいた。
「人間にルリの花が回復の役割を持つことを教えた精霊がいるはずです。そしてその指示した精霊は間違いなく魔力が枯渇している」
精霊と人間がこの事件に関わっているかもしれない……。ふと気になったことをリクにたずねる。
「リク、魔力が枯渇したままの精霊はどうなってしまうの?」
「自然のマナからエネルギーを得ることができるので魔法を使わずに安静にしていれば消滅まではいかないですが、もし今も魔法を使ったままの状態でしたら消滅の危険性は高いですね」
リクが物憂げに目を伏せた。消滅という言葉に思わず息をのむ。人間でいう「死」──。
「ですが、リクが先程言っていた噂を広げる広域の魔法を使用するには人間と契約していない限り魔力が枯渇してしまうと言っていましたよね。契約もしていない精霊が人間に手を貸すことはありうるのですか?」
ハンナが怪訝そうにたずねた。確かにそこは少し気にかかるところだった。リクを見るとリクは小さな手で顎に手を当てて考え込んでいるようだった。
「それは、わからない。精霊は警戒心が強いものが多いが好奇心が旺盛なやつだっている。ただ、人間と契約している精霊なら魔力は契約を通しているので枯渇状態になるのはない。あくまでも予想だがルリの花の件から思うに、契約していないはぐれ精霊が人間と関わっていると私は考えている」
そして精霊の色を纏わせていた少年がもしかしてカイかヨシュアの可能性だってある。
帽子を深くかぶっていたので髪の色は茶色っぽいとしかわからなかった。二人の特徴を改めて確認する必要がある。
そして、今度あの少年に会ったら何としても話を聞かなければならない。
先程の会話の内容を頭の中で整理しながらリクにたずねる。
「噂の広がりようから十中八九関わっていると私はみています」
「他の根拠を聞いても?」
小声で話しながら人がいないことを確かめて、話の続きを聞くため私達は早歩きで広場の噴水の近くのベンチに腰掛けた。
「レイ殿が話していたルリの花が散乱していた痕跡があったことは覚えていますか?」
確か以前、森で探索中に不自然に散乱しているルリの花があったとレイ様が話していたのを思い出す。
でもそれがなぜ精霊と関わりがあることに繋がるのか不思議に思っているとリクは髭をピクピクとさせた。
「あまり知られていないのですが、精霊召喚の儀式に使われているルリの花は『精霊界の花』なのです」
「精霊界の花?」
「はい。本来精霊界に咲いている花で、その昔、我らの精霊王が人間界に友好の証として贈られたものなのです」
驚きの事実に唖然とする。だから精霊召喚の儀に使われているのかと納得しながらも、こんな大事なことを私が知っていて良いのだろうかと不安がよぎる。だが私の心配をよそにリクは説明を続けた。
「それに、ルリの花にはもう一つ精霊にとって大事な役割があります」
「役割?」
思わずごくりと息を呑むと、リクは小さな手で人差し指をびっと突き出した。先程食べたオレンジの香りがふわっと鼻をくすぐる。
「ルリの花は精霊の魔力を回復させることができるのです」
リクの説明によると、昔精霊王がルリの花を人間界に贈ったのも友好の証だけでなく、はぐれになってしまった精霊や魔力が枯渇した精霊のためにいわば「回復薬」として人間界にいる精霊のためを思って贈ったそうだ。
精霊王の届かない人間界で過ごす精霊が少しでも助けになるならば、と精霊を思って贈った……。
だから、ルリの花は森でもよく自生している……いわば精霊王の精霊に向けた慈悲の花だそうだ。
「なんだか……精霊王様はすごく慈悲深い方でいらっしゃるのね」
そう思ったことを素直に口にするとリクはどこか遠い目をした。
「まあ、懐に入れた方にはとことん甘いお方ですね」
その意味がわからず首を傾げると、私の表情に気づいたリクが軽く咳払いをして「ともかく」とリクが話を続けた。
「森で散乱していたルリの花の件については精霊がルリの花を自身の回復に使ったのではないかと」
「じゃあ、魔力が枯渇している精霊が森に潜伏しているとリクは考えているのね?」
「おそらくそう考えられます。そしてわざわざルリの花を摘んだ状態で見つかっているのも不自然です。精霊ならば生えているルリの花からそのまま魔力を吸い取ってしまばいいのに」
「リクはそのルリの花をわざわざ摘んで集めた人間がいると?」
口にするとリクはコクリとうなずいた。
「人間にルリの花が回復の役割を持つことを教えた精霊がいるはずです。そしてその指示した精霊は間違いなく魔力が枯渇している」
精霊と人間がこの事件に関わっているかもしれない……。ふと気になったことをリクにたずねる。
「リク、魔力が枯渇したままの精霊はどうなってしまうの?」
「自然のマナからエネルギーを得ることができるので魔法を使わずに安静にしていれば消滅まではいかないですが、もし今も魔法を使ったままの状態でしたら消滅の危険性は高いですね」
リクが物憂げに目を伏せた。消滅という言葉に思わず息をのむ。人間でいう「死」──。
「ですが、リクが先程言っていた噂を広げる広域の魔法を使用するには人間と契約していない限り魔力が枯渇してしまうと言っていましたよね。契約もしていない精霊が人間に手を貸すことはありうるのですか?」
ハンナが怪訝そうにたずねた。確かにそこは少し気にかかるところだった。リクを見るとリクは小さな手で顎に手を当てて考え込んでいるようだった。
「それは、わからない。精霊は警戒心が強いものが多いが好奇心が旺盛なやつだっている。ただ、人間と契約している精霊なら魔力は契約を通しているので枯渇状態になるのはない。あくまでも予想だがルリの花の件から思うに、契約していないはぐれ精霊が人間と関わっていると私は考えている」
そして精霊の色を纏わせていた少年がもしかしてカイかヨシュアの可能性だってある。
帽子を深くかぶっていたので髪の色は茶色っぽいとしかわからなかった。二人の特徴を改めて確認する必要がある。
そして、今度あの少年に会ったら何としても話を聞かなければならない。
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