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2章

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 「ええっ! それって危ないんじゃ……」
 
 子供を頻繁にさらってしまうことがまた多発したら混乱に陥るのではないか。

 「妖精は精霊と違って寿命が短いので百年前に人間の魂を抜き取っているものが生きているはずはありません、今の妖精は妖精女王に人間の魂を抜き取ることを禁じられている世代なので制約の期間を終えたことをわざわざ妖精に伝えることをしなければ問題ないでしょう」
 「妖精女王が妖精達に伝える可能性は?」

 ハンナが心配そうにリクに尋ねた。リクは首を傾げながら「それはないでしょう」と答えた。

 「妖精女王は基本的に怠惰です」
 「怠惰……」
 「はい、わざわざ人間の魂を抜き取ることを指示するとは思えません。怠惰ですので」
 「怠惰だから……」
 「はい、怠惰ですので」

 ここまでリクが仮にも妖精を統べる女王を怠惰と言い切るということはよっぽどなのだろう。想像していたのと違うのに落胆している自分がいる。

 「妖精って強いの~?」

 レイ様が興味津々といった顔でリクにたずねた。

 「個体差にもよるが……基本的にはある程度戦えるものならば問題ないだろう」
 
 ある程度って……。ほぼ戦う力のない私は危険ということではないか。
 妖精に遭遇することがありませんようにと心の中で祈る。
 

 「じゃあ、キヨラの噂は?」
 「おおかた、キヨラの人間達の祖先が以前あった妖精による連れ去りを精霊と勘違いしたまま昔話として伝えているのではないでしょうか。それがそのまま伝えられて、たまたま子どもがいなくなったのを精霊のせいにしたのでしょう」
 「では子供がいなくなったのは」
 「それは実際にはわかりません」

 確かに噂なら今こうして話していても実際に行ってみないことにはわからない。そしてレイ様が思い出したようにリクにたずねた。
 
 「そういえばさ~リクは上位精霊なの? 」
 「急にどうした。なぜそんなことを聞く?」

 リクが気怠げに問い返した。これは私も聞きたくても聞けなかったことだ。
 
「だってさあ、シリルは魔力があんまりないから下位精霊はおろか中位精霊も見えないはずなのにリクのことは見えてるんだもん~」

 魔力がないと精霊の姿は見えない。見ることができるとしたらそれは上位精霊だ。上位精霊は力が強いため、魔力がない者に対しても上位精霊が意識すれば姿を見せることができる。だから屋敷のみんなはグレース様次第ではっきりと姿を見ることができる。
 中位、下位の精霊は上位ほど力が強くないため姿を魔力のないものには見せることができない。 
 だから両親や、ティアお姉さまの精霊は魔力のないものたちにははっきりと姿が見えない。魔力があったとしても姿は人によってはぼんやりとした光がふよふよ浮いているだけしかわからないらしい。生活魔法だけが使えるハンナはこれらしい。
 そして精霊の姿を精霊召喚の儀の前にはっきりと見ることができるのは魔力量が多いと言われている。中でも下位精霊の姿をはっきり見えたらなお多いと言われる。
 ちなみに契約した際は自分の守護精霊の力でどんな精霊もはっきりと姿を見られるようになる。

 リクは最初からはっきりと屋敷のみんなに見えていた。
 私自身下位精霊の姿をはっきりと見ることができるので動物っぽい感じからなんとなくリクを下位精霊と思っていた。
 動物っぽいと下位精霊、中位、上位になると人間ぽい姿というのは本に載っているくらいなので一般的な考えだと言える。


 レイ様の言う通りシリルは魔力がほとんどない。だから本来精霊の姿自体見えない。
 護衛上、訓練でなんとか精霊の気配のようなものを感じる取れるようになったと聞いたことがある。リクの姿を見ることができるのは何故なのか。
 レイ様は疑問に思ったのだろう。

 「精霊は人に近い形をしているほど強い、人間の認識ではそうだったな。私がシリルでもはっきりと見えるのは私がだからだ」
 「はぐれだからって?」

 思わず私が聞き返すと私の顔を見て頷いた。

 「はぐれになると魔力の少ない人間の目に見えるようになるのです」


 そう言ってリクはそれ以上は話したくないというように視線を外して、窓の外を眺め出した。それをみた私達はこれ以上の会話は無くなった。


 

 それから馬車は順調に進んで行き、道中休憩を挟みながら夕方にはキヨラに到着した。
 宿泊する宿に到着して馬をここまで引いてきた御者とはここでお別れだ。挨拶をして見送ったあと、宿に入る。平民の中でも裕福な方が泊まる宿とあって小綺麗な宿だった。カウンターでハンナが受付しているのをリクと並んで眺めていたら声をかけられた。

 「その精霊はお嬢さんの守護精霊かい?」

 壮年の男性が笑いかけながら声をかけてくる。どう答えようと考えているとその問いにリクが代わりに答えた。

 「いいや、この子の兄が契約者だ」
 「おっ! ごめんごめん~、ちょっともよおしちゃってさ~」

 パタパタとレイ様が私達の方へと近づいてきた。男性は面食らったように「そうかい、連れがいたのだね。では」と足早に立ち去ってしまった。

 「リク、どういうこと?」

 するとリクはちょいちょいと私を屈むように手で合図した。言われるがまま姿勢を倒して耳を傾けるとリクは小さな声で言った。

 「ここでは私がはぐれと知られたらよくない気がしたので咄嗟にああ言いました」
 「なんで?」
 「噂のこともありますし、女二人と精霊だけと判断されたくなかったので」
 
 レイ様もニコニコしながら言った。
 
 「たまにあるんだよ~女の子に声を掛けて誘拐する変態とか、精霊ごと攫っていろいろヤバいことしたりとか」

 いろいろやばい事が何なのか聞く気は起きなかったが、まさかとは思いながらも思わず自分の腕をさすった。



 
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