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1章

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 あの後屋敷の人間だけでパーティーなど怒涛の一日が終わり、ベッドに入る頃には私はくたくたの状態だった。
  お気に入りのぬいぐるみを抱っこしながら横になると途端に眠気が襲ってきた。
 今日は色々あったな……。
 瞼を閉じてそんなことを思っているとだんだん意識が遠のいていくのを感じた。

 目を覚ますと、そこは見覚えのない景色だった。
 長い石階段の麓で泣いている女の子がいた。黒髪で可愛く頭のてっぺんを結んでいる。私より三つくらい下のようだ。
 泣きすぎて声が枯れかけていてしゃくり上げている。服装の雰囲気からして私の前世でいた世界のように見えた。 
 自分より年下の子が泣いている様子に胸が痛む。思わず声を掛けようと口を開くも、声が出ない。近くに行きたいのに身体が動かない。初めてのことに戸惑いながら、辺りを見回すと鬱蒼とした茂みの中にいるようだ。人気もなく、少し薄暗くなってきた。
 このままじゃこの子が危ない!必死に声を出そうとするも声は出ない。
 こんなに小さな女の子が暗くなってからでは余計に身動きが取れなくなる。何か方法はないかと考えていると人の気配がした。

 「こんなところで何をしている」

 声のした方へ視線を向けるとそこにはいつの間にか側で女の子を見下ろしている人物がいた。
 白銀の髪を低い位置で一つ結びにしている背が高く、白い袴のような衣服を身に纏っている。顔がこちらからはよく見えない。
 神秘的な出立ちに人間ではないことを察した。人型の魔物だったらどうしようとハラハラしながら成り行きを見守る。

 「あのね、たっくんとね探検ごっこしてたらね、可愛い犬さんがいて追っかけてたら帰る道がわからなくなっちゃったの」

 たどたどしくも説明した女の子は鼻を啜りながら瞳から涙が絶えずこぼれ落ちている。それを聞いた目の前の人物はチッと舌打ちをした。

 「後を追いかけてきたのはお前か、それと俺は犬ではない」

 不機嫌な様子で話す人物に女の子は不思議そうに首を傾げた。

 「お姉さんだったのー?」
 「俺は男だ」

 尚も首を傾げている女の子に少し苛立った人物は「これだから人間は……」とつぶやいている。
 やっぱり人間じゃなかったのか……でも前世の世界に人間以外の種族っていなかったと思うけど……。
 そんなことを考えていると、女の子はしょんぼりしてまた鼻を啜り出した。目の前の人物はその様子にため息をついたと思ったら女の子を抱え抱き上げた。
 「わあ!」

 いきなり目線が高くなり、女の子は驚きの声を上げた。

 「静かにしていろ、舌を噛むぞ」

 そう言うなり目の前の人物はいきなり走り出した。私は慌てて追いかけようとすると不思議な力でグンと引き寄せられる。
 リードでつながられているかのように二人の後を引っ張られるが、風を感じることなく目の前の景色の方が動いているかのような錯覚を覚えた。
 まるで風のようにかけていく前の二人の後ろ姿を見ると、木々たちが二人を避けているようだった。魔法なのか、この人物は何者なのか考えているとあっというまに山の麓と思われる道まで到着した。

 「すごーい! ここさっき見たことある場所だ!」

 女の子は興奮したようにパチパチと拍手をする。すると白銀の髪の人物は「ここは俺の領域だからな」と得意そうな声で言った。

 「アズー! いたら返事しろ!」
 「あ! たっくんの声だ!」

 女の子を呼ぶ声が遠くの方で聞こえてきた。 
 アズ?ということはこの子は前世の私?こんな記憶なかったと思うけど。
 ますますわからなくなり頭を捻っていると、前世の自分の名前を呼ぶ声がだんだんと近くの方で聞こえてきた。

 「どうやら迎えがきたな」

 そう言って白銀の髪の人物は抱えていた女の子を下ろそうとすると、女の子は目の前の人物の顔を小さな手で包むとグイッと引き寄せた。
 あっと思った瞬間、女の子は目の前の人物の頬に口付けた。前世の自分の突拍子もない行動に私も白銀の髪の人物も唖然としていると、女の子はにっこりと目の前の人物に笑いかけた。

 「ありがとう、またね」

 そう言って女の子は固まっている目の前の人物の腕からするりと降りると、自分の名前を呼ぶ声の方へ走り出した。
 すぐ合流できたのか再会を喜ぶ声が聞こえてきた。私は女の子が無事に合流できたことにホッと胸を撫で下ろして今だに固まっている白銀の髪の人物を見ると、その人物は口付けされた頬を手で押さえて俯いていた。
 先程からこの人物の顔がなぜかよく見えないので表情は窺い知れない。どんな顔なんだろうと興味本意で覗き込もうとするもやはりうまく見れない。
 白銀の髪の人物はいきなりワナワナと震え出した。思わず警戒していると煙のようなものが目の前の人物の姿をおおう。
 煙が晴れると、白銀の髪の人物の頭から真っ白な獣耳と腰の下あたりからふさふさの尻尾が生えていた。 

 「なんなのだ、あいつは……」

 白銀の髪の人物はボソリと呟くとしばらくそこからぼーっとしたように動かなかった。
 山の木々がさわさわと風で棚引いていた。その中で白銀の髪の色と同じふさふさの尻尾はゆらゆらと揺れていた。
 話しかけたいようなそっと見守っていたいような不思議な光景だった。
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