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ゲームで描かれていなかった本当の彼とは
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オルフィロスは、魔王を倒すために選ばれた神官で、慈愛に溢れ主人公を陰ながらサポートする麗しいお兄さんキャラとして登場する。
光属性の神聖魔法の使い手であり、激戦の中でも敵を寄せ付けず、神官服は汚れることなく常に銀色に輝いている。笑みを浮かべながら敵を倒していくその姿は神々しく、同時にその強さは人々に畏怖の念を抱かせる。戦場に立つ荒ぶる美しい神とも言われていた。
前世のプレイヤーの乙女たちからは、腹黒二重人格と言われていた。いつもの優雅で柔和な態度とふとした瞬間の冷たい態度のギャップは、乙女たちのM心を震わせた。
ただ小さい頃からのオルフィロスを知っているロータスにとっては、全くそんな風には見えない。ゲームはゲーム、現実は現実だ。
胸まである波打つ銀髪はきっちりと後ろで一つにまとめられ、いつものゆったりとした神官服と青地に金の模様のストラの姿ではなく、紺に近い濃い青の立ち襟のぴったりとした軍服に白いマントを羽織っていた。
いつものふわりとした優し気な表情ではなく、心配そうに眉をしかめた顔は、何だか知らない人の様で心臓が落ち着かない。
「よかった。君が死の森に連れていかれたと聞いて、慌てて後を追ったのだが、間に合わなかった。だから神聖プリマヴェル王国側から森に入って探していたんだ」
「どうして助けに来てくださったのですか?」
恥ずかしいけど、泣きすぎて鼻が止まらない。ずずっと流れる鼻をハンカチで拭いながら、涙をたっぷりと含んだままの瞳でオルフィロスを上目遣いで見つめる。
彼とは幼馴染だったが、ゲームが始まってからは少し距離ができていた。主人公がハーレムエンドに入ったから、彼もアリサを愛しているはずだ。
ただ他の攻略者の様に自分のことを嫌ったり、罠にはめようとすることはなく、態度は依然と変わらなかった。
だから玉座の間では、助けてくれるかもしれないと少し期待してしてたんだよな……。その彼が今目の前にいて、自分を助けてくれるなんて信じられない。
「当たり前だよ。君が困っているのは見ていられない」
「でも……」
「積もる話は後にしよう。先に脚の応急処置だけさせて」
オルフィロスは、びりっとロータスのパンツを破くと患部を露わにさせる。ヒュドラの鋭い毒牙は大きな穴をふくらはぎに開けていた。傷口からは血が吹き出し、その周りは尋常ではない毒々しい紫色に腫れていた。
傷口を消毒し、綺麗にすると、深くまで空いた大きな穴から真っ赤な肉と骨がのぞいていた。
毒消しのポーションを、傷口へ丁寧にかけていく。あまりの痛さにロータスは顔を顰める。
「まだあまり毒は広がっていないようで良かった」
オルフィロスは、手早く傷口に包帯を巻き、ついでに腫れた足首へ湿布を貼り固定する。
しばらくすると徐々に噛まれた箇所の痛みが治ってくる。
効き目が早い。どうやら高級なポーションを使ってくれたらしい。その気持ちに更に心が温かくなる。
「よし、応急手当てはこれで大丈夫。さっ、安全な場所に向かおう」
「え? 一体どこへ? きゃっ」
「大人しく私に捕まっていて。君、歩けないだろう?」
オルフィロスはロータスを軽々と抱き上げると森の中を駆け抜けていく。ロータスは、軍服を通して感じる意外にもがっしりとしている彼の上半身に、胸がドキドキする。
途中で捜索に出ていた神聖プリマヴェル王国の騎士たちと合流し、森の出口へとたどり着いた。
森の入口に待機していた他の騎士たちが、オルフィロスの帰還を確認すると、「殿下、お嬢様もご無事でよかったです」と駆け寄ってくる。
殿下……って一体? 彼はフェアファクスの神官の設定のはずだ。殿下と呼ばれる立場の人ではない。
「城に戻るぞ。リリィは私の馬に乗っていこう」
オルフィロスがロータスを自分の前に乗せ、馬を走らせると五十名ほどの騎士たちも後についてくる。
(……これは一体どういうことなのだろうか。ゲームでは、聖女の護り人に選ばれた優秀な神官だったはず。こんなに多くのプリマヴェルの騎士を引き連れて私を助けに来てくれるなんて)
馬はあっという間に、神聖プリマヴェル王国の王城まで走り抜ける。
すごい立派なお城……。
ロータスはその城の荘厳さに圧倒される。実物を見るのは初めてだった。白鳥のように白く優美な美しい王城は、リュミエールによる光の加護を受けるに相応しい外観をしていた。
前世の卒業旅行で行ったドイツのノイシュヴァンシュタイン城みたいだ。
小高い山の上に築城された王城の壁は白く、長方形の建物といくつかの塔で構成されている。針葉樹の深緑に白壁が際立っている。堅牢な造りでありながら、優雅に立つその姿は、初めてここを訪れたものに光の神を感じさせる。
乙女ゲームのスタート画面のようなキラキラなエフェクトが飛んでいる気がする……。
「あの……。ここは神聖プリマヴェル王国ですよね? 私、許可なしで入国しても大丈夫なのでしょうか?」
「問題無いよ」
「どうしてですか?」
「ここ、私の国だから」
「え、私の国ってどう言う意味です?」
「そのままの意味だよ。私は、第四十八代神聖プリマヴェル王国の王の息子で、王太子のオルフィロス・プリマヴェルだ。よろしくね?」
「えええー! そんな裏設定聞いてないー」
ロータスは淑女にあるまじき大声をあげた。それを聞いて悪戯が成功した子どものようにオルフィロスがくすくすと笑った。
光属性の神聖魔法の使い手であり、激戦の中でも敵を寄せ付けず、神官服は汚れることなく常に銀色に輝いている。笑みを浮かべながら敵を倒していくその姿は神々しく、同時にその強さは人々に畏怖の念を抱かせる。戦場に立つ荒ぶる美しい神とも言われていた。
前世のプレイヤーの乙女たちからは、腹黒二重人格と言われていた。いつもの優雅で柔和な態度とふとした瞬間の冷たい態度のギャップは、乙女たちのM心を震わせた。
ただ小さい頃からのオルフィロスを知っているロータスにとっては、全くそんな風には見えない。ゲームはゲーム、現実は現実だ。
胸まである波打つ銀髪はきっちりと後ろで一つにまとめられ、いつものゆったりとした神官服と青地に金の模様のストラの姿ではなく、紺に近い濃い青の立ち襟のぴったりとした軍服に白いマントを羽織っていた。
いつものふわりとした優し気な表情ではなく、心配そうに眉をしかめた顔は、何だか知らない人の様で心臓が落ち着かない。
「よかった。君が死の森に連れていかれたと聞いて、慌てて後を追ったのだが、間に合わなかった。だから神聖プリマヴェル王国側から森に入って探していたんだ」
「どうして助けに来てくださったのですか?」
恥ずかしいけど、泣きすぎて鼻が止まらない。ずずっと流れる鼻をハンカチで拭いながら、涙をたっぷりと含んだままの瞳でオルフィロスを上目遣いで見つめる。
彼とは幼馴染だったが、ゲームが始まってからは少し距離ができていた。主人公がハーレムエンドに入ったから、彼もアリサを愛しているはずだ。
ただ他の攻略者の様に自分のことを嫌ったり、罠にはめようとすることはなく、態度は依然と変わらなかった。
だから玉座の間では、助けてくれるかもしれないと少し期待してしてたんだよな……。その彼が今目の前にいて、自分を助けてくれるなんて信じられない。
「当たり前だよ。君が困っているのは見ていられない」
「でも……」
「積もる話は後にしよう。先に脚の応急処置だけさせて」
オルフィロスは、びりっとロータスのパンツを破くと患部を露わにさせる。ヒュドラの鋭い毒牙は大きな穴をふくらはぎに開けていた。傷口からは血が吹き出し、その周りは尋常ではない毒々しい紫色に腫れていた。
傷口を消毒し、綺麗にすると、深くまで空いた大きな穴から真っ赤な肉と骨がのぞいていた。
毒消しのポーションを、傷口へ丁寧にかけていく。あまりの痛さにロータスは顔を顰める。
「まだあまり毒は広がっていないようで良かった」
オルフィロスは、手早く傷口に包帯を巻き、ついでに腫れた足首へ湿布を貼り固定する。
しばらくすると徐々に噛まれた箇所の痛みが治ってくる。
効き目が早い。どうやら高級なポーションを使ってくれたらしい。その気持ちに更に心が温かくなる。
「よし、応急手当てはこれで大丈夫。さっ、安全な場所に向かおう」
「え? 一体どこへ? きゃっ」
「大人しく私に捕まっていて。君、歩けないだろう?」
オルフィロスはロータスを軽々と抱き上げると森の中を駆け抜けていく。ロータスは、軍服を通して感じる意外にもがっしりとしている彼の上半身に、胸がドキドキする。
途中で捜索に出ていた神聖プリマヴェル王国の騎士たちと合流し、森の出口へとたどり着いた。
森の入口に待機していた他の騎士たちが、オルフィロスの帰還を確認すると、「殿下、お嬢様もご無事でよかったです」と駆け寄ってくる。
殿下……って一体? 彼はフェアファクスの神官の設定のはずだ。殿下と呼ばれる立場の人ではない。
「城に戻るぞ。リリィは私の馬に乗っていこう」
オルフィロスがロータスを自分の前に乗せ、馬を走らせると五十名ほどの騎士たちも後についてくる。
(……これは一体どういうことなのだろうか。ゲームでは、聖女の護り人に選ばれた優秀な神官だったはず。こんなに多くのプリマヴェルの騎士を引き連れて私を助けに来てくれるなんて)
馬はあっという間に、神聖プリマヴェル王国の王城まで走り抜ける。
すごい立派なお城……。
ロータスはその城の荘厳さに圧倒される。実物を見るのは初めてだった。白鳥のように白く優美な美しい王城は、リュミエールによる光の加護を受けるに相応しい外観をしていた。
前世の卒業旅行で行ったドイツのノイシュヴァンシュタイン城みたいだ。
小高い山の上に築城された王城の壁は白く、長方形の建物といくつかの塔で構成されている。針葉樹の深緑に白壁が際立っている。堅牢な造りでありながら、優雅に立つその姿は、初めてここを訪れたものに光の神を感じさせる。
乙女ゲームのスタート画面のようなキラキラなエフェクトが飛んでいる気がする……。
「あの……。ここは神聖プリマヴェル王国ですよね? 私、許可なしで入国しても大丈夫なのでしょうか?」
「問題無いよ」
「どうしてですか?」
「ここ、私の国だから」
「え、私の国ってどう言う意味です?」
「そのままの意味だよ。私は、第四十八代神聖プリマヴェル王国の王の息子で、王太子のオルフィロス・プリマヴェルだ。よろしくね?」
「えええー! そんな裏設定聞いてないー」
ロータスは淑女にあるまじき大声をあげた。それを聞いて悪戯が成功した子どものようにオルフィロスがくすくすと笑った。
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