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第四章 聖女は幸せになるようです

応報

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「エレノア、こんにちは」
「こんにちは。お兄様、何を読んでらっしゃるの?」
 
 アルテアが、初夏の光の中でエレノアの名を呼ぶ。毎年、母親の里帰りでナルヴィク侯爵邸を訪れるのが好きだった。同じく夏のベルーゲン城に来ているアルテアに会えるからだ。
 
 エレノアは、メイオール王国にいる時だけは、息苦しさを感じない。
 母親は、メイオール出身の貴族ではあるが、ミドルアースでは何の人脈も伝手もなかった。その美貌が王の目に留まり、ミドルアースに嫁ぐことになった。美しいだけの優雅な人。

 その時、既に王には四人の妻がおり、それぞれがミドルアースの由緒ある貴族のご令嬢であったため、エレノアの母親は他の妻たちや使用人たちに冷遇されていた。
 そして必然的に第九王女であるエレノアもまた王宮では肩身の狭い思いをしながら生きてきた。
 
「私、大きくなったら、お兄様のお嫁さんになるんだ」
「ふふ、ありがとう。気持ちだけ受け取っておくね」
 
 ベルーゲン城の中庭の木陰で本を読んでいるアルテアに、エレノアは抱き着く。
 ここでは、誰も自分のことを無視したりしないし、ミドルアースのお姫様として扱ってくれる。
 幼いながらも自分の居場所は、ここなのだと思っていた。

 アルテアの婚約者がなかなか決まらないのも、全部自分のためだと思っていた。自分が成人するまで、待ってくれているのだと。

 それなのに、あんな裏切り、どこの誰とも分からない突然現れた女と結婚するなんて……許せない。でも、お兄様だって王族だ。神殿の意向には逆らえないのだ。

 自分がお兄様を救ってあげないと、早く大人になって力をつけないと思っていた。

***

 エレノアは、もう何人目か分からない、緑の赤子に乳をあげながら、昔の記憶を何度も繰り返し思い出していた。
 名前もなく、緑色の人族ではない忌々しいゴブリンが自分に群がる。
 払いのける気力はもはや無かった。入り組んだ地下洞窟の奥深くの部屋に軟禁されて、どのくらいの時間が経過したのかよく分からない。

 上半身裸で腰巻だけを着用するゴブリンスタイルの服装に恥じらいを感じなくなってしまうほど時は経っていた。

 ゴブリンの子どもは、数か月で数匹生まれてくる。生まれてきたら授乳をして、落ち着いたらまた子を作らされるの繰り返しの毎日だった。

 ぼんやりと群がるゴブリンに乳を貪られるままにしているとドアが開き、ルポルディのでっぷりとした巨体が部屋に入ってくる。
 
「今朝、洞窟奥の氷柱の泉で、もう一人のミドガーラントが死んだよ。水浴びに行ったようだが、正気を失っていたから事故かもな」
「……そうですか」
「お前が最後のミドガーラントだ。お前がだけが生き残ったな」

 自分を無視したり、意地悪をしたお姉さま方は皆、ゴブリンに凌辱され、同じように子を産まされていた。そして正気を失ったり、病気になったりして、一人ずつ死んでいった。

 いつかアルお兄様が助けに来てくれる。きっと来てくれる。アマネはオーガたちに連れ去られ、慰み者にされてもう死んでいるはずだ。
 きっとお兄様は、大切な自分のことを今も探してくれているはずだ。

 エレノアは、そのわずかな希望だけを頼り、かろうじて正気を保っていた。

「そう言えは、メイオール王国の戴冠式はもうすぐらしいな」
「アルテア殿下が、国王になるのですか」
「そうだな。あそこは二人目の子が生まれたし、聖女の加護もある。ヴィエルガハとも交流が深いから国が安定してきているな」

 エレノアの翡翠色の瞳に強い力が戻る。
 
「はあ? 二人目って一体誰との子なのですか? それに聖女は死んだはずでしょう」 
「聖女アマネが、あそこの王太子妃だ」
「――そんな、まさか。アマネはオーガに連れ去れて、そのまま死んだはず。あの夜もここには連れてこられていなかった」 
「まあ、お前には関係ないことだから、信じようが信じまいがどうでもいいが」
「嘘、どうしてよ。あいつは死んだはずよ。アルテア殿下は、私の王子様なのよ!」

 ルポルディは、エレノアを無視しながら、彼女の身体に群がっている子どもたちを引きはがすとエレノアの胸を吸い始める。空いた丸々と太った指は、エレノアの腰布の結び目を解く。

 ルポルディはだんだんと興奮し始め、その鼻がぐぶぐぶと鳴る。彼は既に勃起していた。
 暇さえあれば盛りやがってとエレノアは、心の中で毒づく。

「いや、やめて。そんな気分じゃないわ。どうしてお兄様は、私のことを探しに来てくれないの? もうあきらめてしまったの?」

 エレノアがルポルディを押しのけるために伸ばした両手は、壁から鎖でつながれている手枷で呆気なく拘束される。

「止めなさいよ! この下等生物がっ!」
「もうすぐ精神が壊れてしまうかと思ったのに、持ち直したか。やはりお前はいい」

 ニヤリと笑うとルポルディは、エレノアの脚を思い切り広げると、慣らしてもいない中に自分の剛直をずぶりと無理やりねじ込む。

「い、痛いっ!」
「そうは言っても、すぐに濡れてくる淫乱な雌め。誰が下等生物か思い知らせてやろう」

 ルポルディは、始めから激しく容赦なく腰を打ち付ける。
 おおう、おおうとオットセイの様に声を上げる。締まりのない口からは唾液が飛び散る。
 腹の肉がぶるぶると揺れ、脂っぽい汗がしとどに流れる。
 抽挿の激しさに、がしゃがちゃと鎖が音をたてる。

 全てアマネのせいだ。あいつがこなければ、こんなことにはならなかった。こんな気持ち悪いゴブリンに処女を散らされ、子を産まされて、未だに地下から逃げることができない。

 (どうして王族の私が、こんな気持ち悪い生物に組み敷かれて、ゴブリンを産まなければならないの?)

「……あん、っん、やあぁん……はぅ」

 屈辱に思う反面、慣らされた身体は、徐々にルポルディから与えられる刺激を快感に変えていく。ぐりぐりと中を擦られて、エレノアは愛液を流し始める。

「可愛いなあ、いくら泣いても叫んでも、地上では誰もお前のことを気にかけてはいない。それを見ぬふりをして必死に正気を保っているお前は、本当に哀れで愛おしいぞ」
 
 慣れとは恐ろしいもので、一度始まると数時間は終わらない、ルポルディとの行為にうんざりしつつも、エレノアはいつの間にか嬌声をあげていた。

 暗く湿った、陽のとどかないゴブリンの洞窟の奥の部屋で、エレノアはいつまでも助けを待っていた。感情を殺して、心を閉ざして、罪を償うこともなく、ただ愚直に自己愛だけを希望として。
 止まない雨はあるし、明けない夜もあると気がつかないまま。
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