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第三章 制裁させていただきます

116 無へと還りなさい

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主神ミルシム神の様子に動揺したのはビフォラだけではない。

「な、なぜ、神が……っ」

国の代表達も驚き、教皇や大司教達までもが飛び上がるように席を蹴倒して立ち上がる。

「ミ、ミルシム神様っ、なぜです! こんな、こんなヤツに!」
「黙りなさいと言いましたよ」
「ひっ!?」

頭を下げたまま、横目でギロリと睨まれて、ビフォラは再びおののく。

「申し訳ございません。この責は如何様にも……」
「ふ~ん」

ターザは少しだけ表情を和らげる。パチンと指を鳴らすと、空いていた椅子がターザの後ろに飛んでくる。それにゆったりと腰掛け、肘掛けに肘をついた。足を高く組むと、簡素な椅子も玉座のように見える。王族の血を引いているのもあるだろう。

そんな姿を見てしまうと、各国の代表も口を出すことを考えられなくなる。

「その出来損ないの処理は任せる。君にはまだこのレベルの天使の制御は無理だと分かっただろう」
「はい。自惚れておりました」
「へっ……み、ミルシム神さま……っ」

ビフォラはようやく、自身を生み出した神に見捨てられたことを悟って青くなる。と言っても、顔の半分ほどは既に穢れで黒くなってしまっているので、分かりにくい。

「先代と同じ過ちを犯す所。助けていただきありがとう存じます」
「覚えていてコレを邪神としたか」
「はい……いずれ辿ると思っておりましたゆえ」

かつて、カトラの前のそのまた前の前世。魂に傷を負った原因となった邪神は、この世界の神が生み出した天使の片割れだった。今のミルシム神の兄弟のようなもの。

先代はその邪神となってしまった天使を倒してもらうため、勇者を任命した。力をありったけ託し、今のミルシム神に残りの神としての力を引き継いで消滅したのだ。

それを、ビフォラは知らなかった。

「っ……どうゆう……っ」
「話してやれ。自身がどれだけ愚かであったか理解させてやるのも罰だ」
「承知しました」

ミルシム神は話始めた。この世界では今から千年近く前のことだ。

神に成り代わろうとし、落ちた天使は穢れによって姿を醜く変え、地上で暴れ回った。

ビフォラもこの後、ゆっくりと自我が消えていき、自分を認めなかったミルシム神やこの世界への恨みだけで破壊行動を起こすようになるだろうと告げられればさすがに過ちを自覚したらしい。

「っ……なんで……っ、どうしたらっ……っ」
「先代ほどの格があれば、その穢れを払うことができたかもしれませんが……」

邪神が暴れ回ったことで世界に穢れが飛び散り、世界の格が下がった。そして、神の位の継承も本来の手続きによって成されていないため、神の格も落ちた。

「更に今回のあなたの行動により、私の力は削がれている……信仰の力が集まるはずのこの地さえ俗物が増え、人心が離れてしまっているのです。もう手立てはありません」
「っ、あ……」

ミルシム神の力を削ごうとしたのは他ならないビフォラだ。それが、今自身が受けている穢れを払えなくしていた。

「もはや、あなたがこの世界に存在しているだけで、世界を滅びへと進ませているのです。どれだけ罪深いか分かりましたか」
「っ、もう……もう、何も……っ」
「手遅れです。神の格が落ちることで世界は災害が頻発するようになります。これにより人が減れば世界の格は下がります。そして、世界の平穏を守れない神は更に格を落としていく。私が消滅すれば、残るのは崩壊した世界のみ。もうこの世界は終わりです」
「っ、な、ならっ、勇者をっ。世界の守護者を生み出せば!」

ビフォラは諦めなかった。だが、それさえも既に条件が揃わない。

「今の私の全てを注いだとしても、この世界を救うほどの力を持った勇者は生まれません。何より、引き継げる神がいない状況では、意味がない」
「わた、わたしがっ……っ、穢れを払えば!」
「っ、まだそのような世迷言をっ……一度堕ちた者が神になることはないっ」
「っ! でも……っ、だって……っ」
「っ……」

ミルシム神も怒鳴って、暴れてしまいたいのを必死で堪えている。

「っ、ミルシム神さま……っ」

そんな表情を見たビフォラは、ようやく何の手も残っていないのだと理解した。

「話は終わったな」
「はい。すぐに処理いたします」
「っ、ひっ……っ」

ミルシム神は立ち上がる。そして、もう立つ力も残っていないビフォラを冷たく見下ろした。

「たすっ、たすけて……っ」
「既にその段階は過ぎたと言いましたよ。もうこの地さえ穢れてしまいました。二度と聖の力は発動しない不毛の地へ変わったのです」
「っ、うそ……っ」

ミルシム神はちらほらと、何があったのかと奥から出てきている聖職者に仕えていた者達にも聞こえるように告げた。

「邪神となったあなたを崇める者たちが居るこの地では、私の加護は届きません。あなたと繋がりの強くなっていたそちらの四人もただでは済まないでしょう」
「「「「っ……!」」」」
「罪を認め、無へと還りなさい。あなたを生み出したこと……それは私の罪です……」

ミルシム神は顔を上げ、この場にいる人々に伝えた。

「これ以降、私は地上へ干渉する力を失うでしょう。子ども達よ。それでもどうか絶望することなく生きてください。最期の日まで、見守っています」

これに、教皇が先ず膝をついた。続いてレフィア、国の代表達が膝を折る。

「神よ……わたくしたちにも罪があります。どうか心安く……あなたの慈悲は忘れません」

教皇の言葉に、ミルシム神は一度目を閉じた。

涙を堪えるように。それが本心ではないのだと誰もが理解した。もうどうすることもできないのだと。

「っ、ミル……シム……神……さま……っ、も、申し訳……っ」

ビフォラは涙を流していた。それは後悔だ。

ゆっくりとミルシム神はビフォラの力を解体していく。ビフォラの下には複雑な魔法陣が展開している。これにより、無へと還していくのだ。穢れもなんとか分解しようと、ミルシム神は自身の力を限界まで使っていく。

ターザはただ見つめていた。これにより、ミルシム神は消滅する可能性もある。その方がきっと幸せだろう。

ただ見守るしか出来ないことが、どれほど辛いことかをターザは誰よりも分かっていた。

不快だと。ターザはあの時の痛みを思い出していた。だから、気付かなかった。

「ターザ、どこか痛いの?」
「っ、カーラ?」
「うん」

いつの間にか戻ってきたカトラが、ターザの顔を覗き込んでいた。

「どうして……」
「ん。元をどうにかしないとキリが無さそうだったから、一旦戻ってきたの」

そうして、カトラはミルシム神へ歩み寄った。そのミルシム神は、近付いてくるカトラに驚いて目を見開いている。

「っ、あなたは……っ、ゆう……」
「そんなに力を使ったら、消えてしまうよ? 穢れだけは何とかしてあげる」
「え……この力……っ」

カトラはビフォラの体に染み付いた穢れから全てを浄化したのだ。

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読んでくださりありがとうございます◎
また一週空きます。
よろしくお願いします◎
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