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第三章 制裁させていただきます
108 適当に回収しておいで
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なぜか謝る二人の少年達は放っておいて、レフィアの兄だという人の治療を開始する。
「動かさないでね」
「……っ」
神聖魔術が作用したことを示す光が、患者を包む。カトラ以外がやれば、外傷のある場所の部分だけが淡く光っているなと思えるくらいだが、目の前には体全体を淡く光らせる患者。
「……なんで全部……っ」
茫然と、その光景を見つめる息子夫婦。初めて見る光景のようだ。
「中で出血してるんだから、それを元の血の流れに戻してやる必要があるんだよ」
「……っ」
そんなことが可能なのかとかブツブツ呟いているが、それは放っておく。
カトラは実際は、今説明したこと以上のことをやっていた。
一度傷口は息子の神聖魔術により閉じてしまっている。よって、出てしまった血を元に戻そうにも、血管に穴が開いていない。そこを注射器の針で穴を開けて注射するように戻さなくではならないのだ。
「面倒くさい……」
思わず呟いた。だが、それでも確実に処置していき、時間にして二分ほど。それは終了した。
「これでいいかな」
「な、治ったと?」
「元通りにはしたよ。けど、またプッツンするから興奮させないでね。これ、結構面倒くさいから」
「わ、わかりました……っ」
態度がすっかり変わった息子に首を傾げる。だが、そこで部屋の扉が開いたのに気付き後ろを振り返ろうとした時、男も目覚めたのだ。
「……私は……一体……?」
なぜ床で寝転がっているのか。心配そうに、涙ぐみながら覗き込んでくる息子夫婦の様子も意味が分からないのだろう。起き上がろうとする男に、息子夫婦は慌てて手を貸す。
「どうしたのだ?」
「父上っ……本当に良かった。私が分かりますか?」
「あ、ああ……だからどうし……っ」
「脳で出血が起き、倒れたのでしょう。良かったですね。この子が居て。寝たきり老人になる所でしたよ」
「っ、レフィアっ!?」
驚愕したように、息子を押し退けるようにして身を乗り出し、男はレフィアの姿を確認した。先程入って来たのがレフィアだったのだ。
「ちょっと……何度も言うけど、またプッツンしたら知らないからね?」
「あら、いいのよ。ありがとう、カトラちゃん。次にやったら遠慮なく研究対象者として使えるわ」
「あ、はい。そうですね。解剖研究とかにどうぞ」
「ありがとう」
「「「……」」」
じわりじわりと今の会話の内容を理解し、男と息子夫婦はカタカタと震えだした。
「お、お前……なぜ動ける……?」
「優秀な娘と孫娘夫婦のお陰ですよ」
「ん? 夫婦……?」
「あら、違うの?」
どうやら、カトラとターザを夫婦と認識したようだ。それらしい行動はなかったが、おそらく、ケイト達による誘導があったのだろう。
これにカトラが説明する前に、ターザが割り入った。
「大丈夫ですよ。未来は変わらないので」
「っ……」
「そう。ならいいわね」
「……」
こうなっては、何を言っても意味がないのは、過去の経験から明らかだ。諦めるほかない。
「む、娘? 孫?」
男は混乱しながら、カトラとレフィアを交互に見る。
「そうよ」
「い、生きていた……と?」
「ええ。私の娘ですもの。こんな可愛い孫まで……」
「お祖母さま……」
母に会わせてやりたかった。そんな思いを察したのだろう。ターザが肩を抱いた。
「そんな顔しないで。今、伯爵も来ているから、そのまま連れて行ってもらおう。ベイスに会わせないとね」
「っ、うん。お祖母さま。今、教会の方に父が居ます。一緒にベイスの所に……帰りましょう」
「っ、カトラちゃん……そうね。ええ。私も早く会いたいわ」
これで決まった。
「ということだから、お祖母さまは連れて行く。今までの慰謝料とか……請求どうしょう」
ターザを見上げると、にこりと笑われた。
「そうだね。お前たち、適当に回収しておいで。それが終わったらのんびり帰ろう」
「っ、わ、我々もご一緒してもよろしいのですか……?」
二人の黒子達だけでなく、ターザもカトラへ答えを求めるように視線を向ける。だから、カトラは頷いて見せた。
「当然だよ。今更でしょう? 一緒に行こう」
「「はい!」」
そうと決まればと、黒子達はナワちゃんにこの部屋を任せて行動に移るべく出て行った。
「じゃあ、行きましょうか」
「ええ。なら、準備しないと」
そこにケイトがやって来る。
「お荷物ならば、おまとめ致しました。お部屋の最終確認だけお願いいたします」
「え?」
「お屋敷内も確認し、関係ある物は全て集めましたので、問題はないと思います。確認いただけますか?」
「え、ええ。分かったわ」
「では、お嬢様、旦那様。レフィア様はわたくし共でお連れいたします。教会の方でよろしいですか?」
「そうだね。頼むよ」
「はい! お任せください!」
やる気充分だ。レフィアを連れて出て行った。
「さてと、なら、教会で待とう」
「うん」
「あ、あの~」
「なあ、ちょいいい?」
その声に振り向くと、少年二人が手を挙げていた。
「ん?」
首を傾げると二人は顔を赤くする。だが、すぐにビクリと肩を震わせて青くなった。
「大丈夫?」
「う、うん! 平気!」
「き、気にするなっ」
「そう? それで、何?」
改めて問うと、二人は頷き合ってから口を開いた。
「俺たちも連れて行ってくれ」
「この家を……この国を出たいと思ってたんだ。だから、一緒にダメかな」
「……」
ターザに確認するように見上げると、優しく微笑まれた。これは好きにして良いということだ。
「別に良いよ?」
「本当か!? よっしゃ! なら、身支度してくる!」
「僕も! え、えっと、中央教会に集合でいい?」
「うん」
「分かった! ありがと!」
元気に少年達は飛び出して行った。残された息子夫婦と男は、茫然と座り込んでいた。ならば今のうちにとカトラとターザもそろそろと部屋を抜け出したのだった。
彼らが正気に戻った時。屋敷にあった金目の物は、四分の一ほどを残して全て持ち出されており、レフィアと二人の少年の部屋には何も残っていないという状況を目にするのだが、今の彼らに予想できるはずはなかった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
また一週空きます。
よろしくお願いします◎
「動かさないでね」
「……っ」
神聖魔術が作用したことを示す光が、患者を包む。カトラ以外がやれば、外傷のある場所の部分だけが淡く光っているなと思えるくらいだが、目の前には体全体を淡く光らせる患者。
「……なんで全部……っ」
茫然と、その光景を見つめる息子夫婦。初めて見る光景のようだ。
「中で出血してるんだから、それを元の血の流れに戻してやる必要があるんだよ」
「……っ」
そんなことが可能なのかとかブツブツ呟いているが、それは放っておく。
カトラは実際は、今説明したこと以上のことをやっていた。
一度傷口は息子の神聖魔術により閉じてしまっている。よって、出てしまった血を元に戻そうにも、血管に穴が開いていない。そこを注射器の針で穴を開けて注射するように戻さなくではならないのだ。
「面倒くさい……」
思わず呟いた。だが、それでも確実に処置していき、時間にして二分ほど。それは終了した。
「これでいいかな」
「な、治ったと?」
「元通りにはしたよ。けど、またプッツンするから興奮させないでね。これ、結構面倒くさいから」
「わ、わかりました……っ」
態度がすっかり変わった息子に首を傾げる。だが、そこで部屋の扉が開いたのに気付き後ろを振り返ろうとした時、男も目覚めたのだ。
「……私は……一体……?」
なぜ床で寝転がっているのか。心配そうに、涙ぐみながら覗き込んでくる息子夫婦の様子も意味が分からないのだろう。起き上がろうとする男に、息子夫婦は慌てて手を貸す。
「どうしたのだ?」
「父上っ……本当に良かった。私が分かりますか?」
「あ、ああ……だからどうし……っ」
「脳で出血が起き、倒れたのでしょう。良かったですね。この子が居て。寝たきり老人になる所でしたよ」
「っ、レフィアっ!?」
驚愕したように、息子を押し退けるようにして身を乗り出し、男はレフィアの姿を確認した。先程入って来たのがレフィアだったのだ。
「ちょっと……何度も言うけど、またプッツンしたら知らないからね?」
「あら、いいのよ。ありがとう、カトラちゃん。次にやったら遠慮なく研究対象者として使えるわ」
「あ、はい。そうですね。解剖研究とかにどうぞ」
「ありがとう」
「「「……」」」
じわりじわりと今の会話の内容を理解し、男と息子夫婦はカタカタと震えだした。
「お、お前……なぜ動ける……?」
「優秀な娘と孫娘夫婦のお陰ですよ」
「ん? 夫婦……?」
「あら、違うの?」
どうやら、カトラとターザを夫婦と認識したようだ。それらしい行動はなかったが、おそらく、ケイト達による誘導があったのだろう。
これにカトラが説明する前に、ターザが割り入った。
「大丈夫ですよ。未来は変わらないので」
「っ……」
「そう。ならいいわね」
「……」
こうなっては、何を言っても意味がないのは、過去の経験から明らかだ。諦めるほかない。
「む、娘? 孫?」
男は混乱しながら、カトラとレフィアを交互に見る。
「そうよ」
「い、生きていた……と?」
「ええ。私の娘ですもの。こんな可愛い孫まで……」
「お祖母さま……」
母に会わせてやりたかった。そんな思いを察したのだろう。ターザが肩を抱いた。
「そんな顔しないで。今、伯爵も来ているから、そのまま連れて行ってもらおう。ベイスに会わせないとね」
「っ、うん。お祖母さま。今、教会の方に父が居ます。一緒にベイスの所に……帰りましょう」
「っ、カトラちゃん……そうね。ええ。私も早く会いたいわ」
これで決まった。
「ということだから、お祖母さまは連れて行く。今までの慰謝料とか……請求どうしょう」
ターザを見上げると、にこりと笑われた。
「そうだね。お前たち、適当に回収しておいで。それが終わったらのんびり帰ろう」
「っ、わ、我々もご一緒してもよろしいのですか……?」
二人の黒子達だけでなく、ターザもカトラへ答えを求めるように視線を向ける。だから、カトラは頷いて見せた。
「当然だよ。今更でしょう? 一緒に行こう」
「「はい!」」
そうと決まればと、黒子達はナワちゃんにこの部屋を任せて行動に移るべく出て行った。
「じゃあ、行きましょうか」
「ええ。なら、準備しないと」
そこにケイトがやって来る。
「お荷物ならば、おまとめ致しました。お部屋の最終確認だけお願いいたします」
「え?」
「お屋敷内も確認し、関係ある物は全て集めましたので、問題はないと思います。確認いただけますか?」
「え、ええ。分かったわ」
「では、お嬢様、旦那様。レフィア様はわたくし共でお連れいたします。教会の方でよろしいですか?」
「そうだね。頼むよ」
「はい! お任せください!」
やる気充分だ。レフィアを連れて出て行った。
「さてと、なら、教会で待とう」
「うん」
「あ、あの~」
「なあ、ちょいいい?」
その声に振り向くと、少年二人が手を挙げていた。
「ん?」
首を傾げると二人は顔を赤くする。だが、すぐにビクリと肩を震わせて青くなった。
「大丈夫?」
「う、うん! 平気!」
「き、気にするなっ」
「そう? それで、何?」
改めて問うと、二人は頷き合ってから口を開いた。
「俺たちも連れて行ってくれ」
「この家を……この国を出たいと思ってたんだ。だから、一緒にダメかな」
「……」
ターザに確認するように見上げると、優しく微笑まれた。これは好きにして良いということだ。
「別に良いよ?」
「本当か!? よっしゃ! なら、身支度してくる!」
「僕も! え、えっと、中央教会に集合でいい?」
「うん」
「分かった! ありがと!」
元気に少年達は飛び出して行った。残された息子夫婦と男は、茫然と座り込んでいた。ならば今のうちにとカトラとターザもそろそろと部屋を抜け出したのだった。
彼らが正気に戻った時。屋敷にあった金目の物は、四分の一ほどを残して全て持ち出されており、レフィアと二人の少年の部屋には何も残っていないという状況を目にするのだが、今の彼らに予想できるはずはなかった。
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