上 下
107 / 118
第三章 制裁させていただきます

107 後遺症が残るよ

しおりを挟む
レフィアが薬を飲むと、眠気がやってきたのだろう。すぐに眠ってしまった。

「効いてるね」

ターザが覗き込むようにしてレフィアを見るとそう口にする。

「うん。次に起きたら、動けるようになると思う」
「そっか。うん。なら、その間にこっちも次のことしようか」
「次?」

まだ何かあるのかとターザを見上げると、部屋から出るように促される。長い廊下をターザに続いて歩く。

足を止めると、そこではナワちゃんがドアを固定していた。

《ーお疲れ様ですー》

ドアの把手の部分と、壁に付いている燭台を上手く使って締めているようだ。

「開けてくれる」
《ーどうぞー》

中に居たのはレフィアと同じくらいの年齢の男女が一人ずつ。夫婦だろう。

それと、その子どもの夫婦一組。そして、その子どもで、カトラと同じくらいの少年が二人だった。

「っ、お前たち!こんなことをして、どうなるか分かっているのか!」
「あの怒鳴ってるのが、レフィアさんのお兄さんだってさ。元大司教だね」
「へえ……」

言われても、カトラはどうも思えなかった。

特に拘束はしていないのだが、部屋にはナワちゃんの分身体が三体(?)控えていて、出て行こうとしたり、暴れたりした者達を転ばせていたらしい。微妙に顔に擦り傷があるので、そういうことだろう。

部屋の隅には二人の元影の黒子達。なので、脱走はまず不可能だった。

「おい! 聞いているのかっ!」
「プツっていくよ? 気をつけて」
「何を言ってっ……っ」

倒れた。

「っ、あなた!」
「父上!」
「ほら……だから言ったのに」

このまま放っておくとかなり危ない。

「しょうがないな……」
「カーラ? いいのに」
「でも、お祖母様にちゃんと謝らせたいし」
「なら良いよ」

あっさり考えを変えた。カトラが近付いて行くと、当然だが立ちはだかる者がいる。

「近付くな!」
「何するつもりよっ」

彼の息子と妻が睨んでくる。だが、カトラは気にしなかった。一般人の睨みなど、ただ目つきが悪い人なのかなと思う程度だ。

だが、そんな彼らの行動を気にしたのだろう。黒子が動いた。

「わたくしが?」
「ううん。今回のはちょっと難しいからね。外傷じゃないから」
「なるほど……見させていただいても?」
「うん。また教えるけど、見てて」
「はい」

神聖魔術は、全てを治せるわけではない。もちろん、技術の高さによるものではあるので、極めていけば何でも治せるようになる。だが、一般的な神聖魔術と呼ばれる現象では、外傷しか治せないのだ。

よって、壊死した足を治すことも、本来はできなかった。内部で起きている損傷は、治せているように見えるのだが、時を戻す魔術ではないので、出てしまった血はどうすることもできない。

細胞の活性化をするのが効果なので、いずれは消えることが多いが、脳なんて場所は放っておけない部分だ。

「どいてくれる? そのままだとその人、死んじゃうし」
「私が治す!」

神聖魔術を使わなくてはならない状態だとわかったのだろう。

「やめなよ。後遺症が残るよ」
「うるさい!」

息子は神聖魔術の遣い手だったらしい。だが、これでは当然だが、今回は治らない。

その上、黒子達よりも能力は遥かに下だったのだ。

「あ~あ……面倒くさいことに……」

ため息をつくカトラ。その理由がこれだ。

「父上! 父上! 大丈夫ですか!?」
「……」
「父上?」
「……」

目を開けたが、呆けてしまっている。残った血が重要な場所を圧迫しているのだろう。あれでは思考が出来ていても、行動が伴わない。寝たきり老人生活が始まる。

「お前! どういうことだ!」
「どういうことって言われても、それはあなたの神聖魔術のせいだよ。正しく理解していないと、場合によってはそういうことにもなる。そのさ……『神聖魔術は神の御技だからなんでも治る!』って認識やめなよ。使えるのは純粋にその人の適性であって、神さまは関係ないんだからさ」
「……何を言って……っ、何てことを!」
「事実だし」

不敬だという顔をされた。だか、父親の状態を見てショックだったのだろう。ちょっと大人しくなっていた。

「どうする? そのままにする? それとも治す?」

この提案に口を挟んだのは、これまで静かにことの成り行きを見ていた少年達だった。

「治るのか? 神聖魔術は万能ではないのだろう?」
「そう言ったよな? 治る方法があるのか?」

二人は、祖父が心配というわけではないようだ。その目には、興味を示す色が浮かんでいた。

「魔術はどれもそうでしょう? 要は熟練度。なんでも極めればすごいことができる」
「そっか……神聖魔術は……魔術なんだな」
「なら分かる。神さまに、より愛された者が高位の術者だというのは嘘だな。そうじゃなきゃ、レフィアばあがあんな風な扱いを受けたりしない」

少年二人を改めて見ると、どうやら、神聖魔術の適性がないようだ。この国で、この家でそれでは、かなり悩んだだろう。なぜ使えないのか。それを二人は必死で知ろうとしていたのではないだろうか。

「なあ。さっきあんた、レフィアお祖母様って言ったよな?」
「うん」
「なら、従兄弟か? レフィアばあさま、治るか?」
「もう治したよ。あとは目が覚めれば動けるようになる。ただ、筋力は落ちてるから、訓練しなきゃいけないけど」
「そっか。よかった! ありがとな!」

心からの感謝を映す笑みに、カトラも嬉しくなる。

「ふふ。うん」
「「っ……かわいい……」」

二人が顔を赤らめる。だが、すぐに青ざめさせた。

「おい……」
「「っ、すみません!」」
「ん?」

ターザが威圧したと気付かなかったカトラは首を傾げただけだった。

************
読んでくださりありがとうございます◎
また一週空きます。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は冤罪を嗜む

mios
恋愛
公爵令嬢のクラリスは、婚約者と男爵令嬢の噂を耳にする。彼らは不貞したばかりか、こちらを悪役に仕立て上げ、罪をでっち上げ、断罪しようとしていた。 そちらがその気なら、私だって冤罪をかけてあげるわ。

メイドから母になりました 番外編

夕月 星夜
ファンタジー
メイドから母になりましたの番外編置き場になります リクエストなどもこちらです

虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても

千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。

この誓いを違えぬと

豆狸
恋愛
「先ほどの誓いを取り消します。女神様に嘘はつけませんもの。私は愛せません。女神様に誓って、この命ある限りジェイク様を愛することはありません」 ──私は、絶対にこの誓いを違えることはありません。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。 ※7/18大公の過去を追加しました。長くて暗くて救いがありませんが、よろしければお読みください。 なろう様でも公開中です。

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。

キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。 離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、 窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語

今更ですか?結構です。

みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。 エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。 え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。 相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

【完結】貧乏令嬢は自分の力でのし上がる!後悔?先に立たずと申しましてよ。

やまぐちこはる
恋愛
領地が災害に見舞われたことで貧乏どん底の伯爵令嬢サラは子爵令息の婚約者がいたが、裕福な子爵令嬢に乗り換えられてしまう。婚約解消の慰謝料として受け取った金で、それまで我慢していたスイーツを食べに行ったところ運命の出会いを果たし、店主に断られながらも通い詰めてなんとかスイーツショップの店員になった。 貴族の令嬢には無理と店主に厳しくあしらわれながらも、めげずに下積みの修業を経てパティシエールになるサラ。 そしてサラを見守り続ける青年貴族との恋が始まる。 全44話、7/24より毎日8時に更新します。 よろしくお願いいたします。

処理中です...