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第三章 制裁させていただきます
106 取って来てもらったんです
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カトラは母、エーフェから祖母の事を一度だけ聞いたことがあった。
『二度と会わない。会えない。名も呼ばず、家にも近付かないって、約束して出てきた。けどね……母様、あなたのお祖母様は、たった一人で国に立ち向かうことができる強さを持っていたわ。だから、あなたも強くなるのよ? これだと決めた生き方を見つけたなら、それを誰に反対されようと貫ける女になりなさい』
エーフェがどんな扱いを受けても決して折れなかったのは、そんな自身の母親のようになろうと思ったからだろうか。
そんなエーフェの憧れた母親。それが今、弱々しくベッドに横になっている。その声は、懐かしいものだった。
「あなた……まさか、エフィリアの……?」
「母はエーフェと名乗っていましたが……ベイスをご存知ですか?」
そちらで確証が持てないのならば、ベイスならと思った。すると、彼女のどこか虚ろだった瞳に唐突に強い光を宿した。
「っ、ベイス……っ、ベイスを知っているの!? 生きて……生きているの?」
思わず起き上がろうとするほど、ベイスの名に反応する様子は、恋しく思っている証拠だ。
「生きていますよ。今は、母の嫁いだ家で家令をしています」
「っ、家令……あの人が……」
想像できないようだ。ベイスは冒険者だった。護衛依頼で知り合ったのだから、それを思えば、印象にはないだろう。
ケイトが彼女の背を支え、後ろにクッションを置いて座らせる。それに彼女は礼を告げ、改めてカトラを見た。
「はい」
「なら、あなたは……」
「……」
どう答えるべきか迷う。ベイスを知っていると言っても、本当に彼女の孫だと言える確証はない。
それを察したターザが間に入ってくれた。
「間違いなく、彼女はあなたの孫娘ですよ」
「っ、本当に……ええ……でも、そうね。あの子に目元がとてもよく似ているわ」
一応は信用されたようで安心した。
「……お祖母様と呼んでも……?」
「もちろんよ。お名前を聞いてもいいかしら」
「カトラ……です。冒険者ではカーラと名乗っています」
「では、カトラちゃんと呼ばせてちょうだい」
「はい」
母も呼んでいたカトラと呼ぶ方を選んだ彼女は、優しい笑みを見せていた。
「私も名乗っておこうかしら。レフィアよ」
はっきりと告げるレフィアに、カトラは一歩近付く。
「レフィアお祖母様。その……薬を飲まされていたと聞きました。状態を見させていただいてもよろしいですか……」
「え……ええ……」
逃げ出さないようにと、飲まされていた薬。それがどんなものなのかを確認するため、カトラは先ずレフィアの手を取った。
「……うん。これは……」
「……無理よ……これは……解毒薬が存在しないの」
「でも、なら、作れば良い」
「え……」
存在しないだけで、作れば良い。それだけのことだと頷く。
「それに……もう、この解毒薬ならあります」
「そんなっ、でも……」
薬を知るレフィアでさえ、それは不可能だと思っていた。その理由はとても簡単なことだった。
「出来たとしても、材料が用意出来っこないわ……ドラゴンの心臓なんて……」
この世界にドラゴンが居ないわけではない。だが、圧倒的に強いため、倒せるはずがないと思われている。仮に可能だとしても、心臓という貴重な部位が出回ることはまずないのだから。
「ありますよ。何の薬か分からなかったのですけど……母様の残したレシピだから、作ってみたくて……取って来てもらったんです」
「……取って来て……もらった?」
エーフェの残した薬のレシピの中で、唯一、エーフェさえ作ることができなかったとするもの。だが計算上、効果も全て確認し、総合して机上の上では完成していた。
「お祖母様の考えでも、それが必要だったのだのですよね」
「ええ……」
「では、これで合っていますか?」
エーフェの残したレシピを見せる。すると、レフィアは頷いた。
「間違いないわ……でも、ドラゴンの心臓以外にも、希少な天葉樹の花や、純度の高い魔力水なんて……」
「魔力水は高濃度なものから低濃度のものまで作れますし、天葉樹は知り合いの農家にあるので」
「……農家? 天葉樹が?」
「はい。たまたま」
「たまたま……」
レフィアが考えを放棄し始めたのは、その表情で分かった。
「それで、ドラゴンの心臓……というか、ドラゴン丸々を誕生日プレゼントでもらいました」
「……薬は出来たの?」
完全に思考放棄した瞬間だった。
「出来ました。これになります」
それを受け取ったレフィアは、じっと見つめて確認する。そして、また一つ頷いた。
「間違いないわ……」
「では、飲んでください」
「……いいの? とても貴重だと思うのだけれど……」
「はい。百作ったので」
「……ありがたくいただくわ」
聞かなかったことにしたレフィアは、ゆっくりとそれを煽った。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
また一週空きます。
よろしくお願いします◎
『二度と会わない。会えない。名も呼ばず、家にも近付かないって、約束して出てきた。けどね……母様、あなたのお祖母様は、たった一人で国に立ち向かうことができる強さを持っていたわ。だから、あなたも強くなるのよ? これだと決めた生き方を見つけたなら、それを誰に反対されようと貫ける女になりなさい』
エーフェがどんな扱いを受けても決して折れなかったのは、そんな自身の母親のようになろうと思ったからだろうか。
そんなエーフェの憧れた母親。それが今、弱々しくベッドに横になっている。その声は、懐かしいものだった。
「あなた……まさか、エフィリアの……?」
「母はエーフェと名乗っていましたが……ベイスをご存知ですか?」
そちらで確証が持てないのならば、ベイスならと思った。すると、彼女のどこか虚ろだった瞳に唐突に強い光を宿した。
「っ、ベイス……っ、ベイスを知っているの!? 生きて……生きているの?」
思わず起き上がろうとするほど、ベイスの名に反応する様子は、恋しく思っている証拠だ。
「生きていますよ。今は、母の嫁いだ家で家令をしています」
「っ、家令……あの人が……」
想像できないようだ。ベイスは冒険者だった。護衛依頼で知り合ったのだから、それを思えば、印象にはないだろう。
ケイトが彼女の背を支え、後ろにクッションを置いて座らせる。それに彼女は礼を告げ、改めてカトラを見た。
「はい」
「なら、あなたは……」
「……」
どう答えるべきか迷う。ベイスを知っていると言っても、本当に彼女の孫だと言える確証はない。
それを察したターザが間に入ってくれた。
「間違いなく、彼女はあなたの孫娘ですよ」
「っ、本当に……ええ……でも、そうね。あの子に目元がとてもよく似ているわ」
一応は信用されたようで安心した。
「……お祖母様と呼んでも……?」
「もちろんよ。お名前を聞いてもいいかしら」
「カトラ……です。冒険者ではカーラと名乗っています」
「では、カトラちゃんと呼ばせてちょうだい」
「はい」
母も呼んでいたカトラと呼ぶ方を選んだ彼女は、優しい笑みを見せていた。
「私も名乗っておこうかしら。レフィアよ」
はっきりと告げるレフィアに、カトラは一歩近付く。
「レフィアお祖母様。その……薬を飲まされていたと聞きました。状態を見させていただいてもよろしいですか……」
「え……ええ……」
逃げ出さないようにと、飲まされていた薬。それがどんなものなのかを確認するため、カトラは先ずレフィアの手を取った。
「……うん。これは……」
「……無理よ……これは……解毒薬が存在しないの」
「でも、なら、作れば良い」
「え……」
存在しないだけで、作れば良い。それだけのことだと頷く。
「それに……もう、この解毒薬ならあります」
「そんなっ、でも……」
薬を知るレフィアでさえ、それは不可能だと思っていた。その理由はとても簡単なことだった。
「出来たとしても、材料が用意出来っこないわ……ドラゴンの心臓なんて……」
この世界にドラゴンが居ないわけではない。だが、圧倒的に強いため、倒せるはずがないと思われている。仮に可能だとしても、心臓という貴重な部位が出回ることはまずないのだから。
「ありますよ。何の薬か分からなかったのですけど……母様の残したレシピだから、作ってみたくて……取って来てもらったんです」
「……取って来て……もらった?」
エーフェの残した薬のレシピの中で、唯一、エーフェさえ作ることができなかったとするもの。だが計算上、効果も全て確認し、総合して机上の上では完成していた。
「お祖母様の考えでも、それが必要だったのだのですよね」
「ええ……」
「では、これで合っていますか?」
エーフェの残したレシピを見せる。すると、レフィアは頷いた。
「間違いないわ……でも、ドラゴンの心臓以外にも、希少な天葉樹の花や、純度の高い魔力水なんて……」
「魔力水は高濃度なものから低濃度のものまで作れますし、天葉樹は知り合いの農家にあるので」
「……農家? 天葉樹が?」
「はい。たまたま」
「たまたま……」
レフィアが考えを放棄し始めたのは、その表情で分かった。
「それで、ドラゴンの心臓……というか、ドラゴン丸々を誕生日プレゼントでもらいました」
「……薬は出来たの?」
完全に思考放棄した瞬間だった。
「出来ました。これになります」
それを受け取ったレフィアは、じっと見つめて確認する。そして、また一つ頷いた。
「間違いないわ……」
「では、飲んでください」
「……いいの? とても貴重だと思うのだけれど……」
「はい。百作ったので」
「……ありがたくいただくわ」
聞かなかったことにしたレフィアは、ゆっくりとそれを煽った。
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