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第二章 奴隷とかムカつきます

085 上手く回すよね

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あれからカトラは、表情や態度に出さないまでも、悶々としていた。

ターザが優しくしてくれるのは、過去の愛した人をカトラに重ねているから。

そう知ったカトラは、冷静にもなっていた。

「カーラ、危ないから俺が採ってくるよ」
「特に問題ないよ。足場もしっかりしてるから」

採取しようとしている花は、崖にへばりつくようにして咲いていた。崖の上から採りに行くよりも下からの方がやりやすい。

幸い、今カトラ達は目的とする花の咲く崖の下にいる。カトラは止めるターザを気にせず、躊躇いなくひょいひょいっと身軽に確実な足場を見つけて登っていった。

ナワちゃんがさり気なくカトラの命綱になっているので不安もない。

《ー支えますのでご心配なくー》
「ありがとう。ナワちゃん」
「カーラ……?」

動揺していることを、態度に見せなくても、カトラの態度が少し違うことにはターザも気付いている。

けれど、今までも行き過ぎなくらい想いを伝えた所で、動揺したりしなかったカトラだ。少し変かなと思うくらいの変化しかない。ターザもどこがどう変わったのかを特定出来ずにいた。

その上、片手間で面倒を見なくてはならない子もいるのだから、少々違和感を感じるくらいの余裕しかない。

そして、今もターザが考え込む前に声がかかる。

「師匠……これ……できました……」
《み~ぎゃ》
「こちらも完了です」

シャドーガルテの幼獣を連れたトゥーリ少年とカトラが渡した頭巾を通常装備として使っているフェジだ。

フェジは黒い服に黒い皮のブーツと、頭から足元まで真っ黒。町中では目立つかなと思っていたのだが、不思議とあまり注目されなかった。足も治ったことで、元影としての身のこなしが生きており、巧みに影となる場所を使って歩いていたりと目立たない行動ができているのだ。

彼はとても真面目な青年で、カトラの課す難しい課題もめげずに取り組んでいる。それというのも、目を治すことで、魔力の色を見ることができなくなると説明したのが始まりだ。

フェジはそれを聞いて、できれば自身の力でカトラのように見たい時だけ見えるようになりたいというのだ。ならば、先ずは基礎力を上げるために、体力作りはもちろんのこと、魔力操作の練度も上げる必要があった。

町中では常に自身の魔力を感じ取り、それを内に留めるという訓練をする。これにより、気配も薄くできるので更に彼は目立たなくなった。町の外では身体強化という魔力を自身の強化したい体の一部へと集中させ、魔獣と戦う。

カトラとターザのスパルタ訓練開始から半月。彼は元影であったことを忘れるくらい、体を使った戦闘が得意な武闘派になっていた。

「また派手に爆散させたようだね。もう少し静かにやりなよ」
「……申し訳ございません……ですが、きっちり魔核だけは残るよう加減はいたしました」
「まあ、他に素材は使える所のないやつだったけどさ」

拳で大抵の魔獣は爆散させてしまうようになったフェジ。それをわかっていたから、魔核のみの納品依頼しか受けていない。

フェジも冒険者登録をしたのだ。それは、トゥーリもだった。

「それで、こっちは……」

トゥーリが手に持っていたのは虫カゴ。その中には鮮やかな青いトカゲが二匹いた。生け捕りにしなくてはならないのだが、その二匹はどう見ても腹を上にしている。

「……息は一応してるか……けど、ちょっと強すぎる。弱らせ過ぎては生け捕りの意味がないよ」
「……すみません……」
《みぎゃ……》

精神に作用する能力を持つトゥーリ。使い魔となったシャドーガルテには、古い言葉で黒を意味する『リィリ』と名付けていた。

リィリが追い立てて弱らせ、トゥーリが隙を見て術をかける。そうして、小さな魔物や魔獣の生け捕りの依頼を受けて腕を磨いていた。

「フェジ、ちょっと神聖魔術かけといて」
「承知しました」

カトラの指導によって、当然のように神聖魔術も使えるようになったフェジ。これにより、トゥーリのやり過ぎにもフォローができた。

「……フェジ……ありがと……」
「いえ。私も訓練になりますので」

フェジは神聖魔術を使える適性が低かった。しかし、魔術として研究していたカトラにかかれば、適性など努力でなんとでもできるものでしかない。

元々、聖王国が影に指名するのは、そういった確実に神聖魔術を扱えるというレベルにない者達。何かの拍子にでも神聖魔術の才が開花しないとも限らない中途半端な者達を囲う理由の一つとして使っていたのだ。

「ここまで使えるようになったのは、トゥーリさんのお陰でもありますからね」
「ん……でも……次は完璧を……目指す……」
「そうですね」
《みぎゃぎゃ》

大きな魔獣や魔物になれば、今度は弱らせるためにリィリが攻撃をするので、どのみちフェジの神聖魔術の練習には困らないだろう。

二人で一人前である彼らへ特に声をかけることなく、顔をしかめながらターザは崖から採取を終えて無事に下りて来ようとするカトラを迎えに行く。

「カーラは本当、上手く回すよね……」
「ん? 私がなに?」
「うん。カーラは人と人を繋げる才能あるよねってこと」
「そう?」

これくらいであとは飛び降りられるという所まで来たカトラを見上げてターザは腕を広げる。

苦笑しながらカトラはそこに向かって飛び降りた。当然のように受け止め、ターザは一度強めに抱きしめてからカトラを地面に下ろす。

「それでカーラ。何を悩んでるの?」
「っ……別に……特には……?」

いつも通りを心がけているカトラであったが、意図してそう装っているというのにターザは気付いたらしい。

「特に? ってことは、少しはあるんだね」
「……そう……かな……」

どう誤魔化そうかと考えているカトラとターザから少し離れた所では、ケイト達が意味もなく崖を登っては降りてということを繰り返していた。

「ナワさん。計測お願いできますか?」
《ーいいですよー》
「ありがとうございます。ではっ、キュリ、クスカ、コル、あの花の所まで競争です」
「「「は~い」」」
《ーヨーイ! ーースタート! ー》

猿もびっくりな速さで四人の少女達が崖を駆け上っていく。それを思わず目を向けてカトラとターザは呆然とした。

「ケイト達は何を目指しているんだろう……」
「まあ、俺たちについて来る者としては合格じゃない?」
「……そうだね……」

間違いなく彼女たちは、国を出るまでに目標とするランクまで上がりそうだ。実力は既に問題ない。

「これで材料は揃ったし、この辺でいい場所探して今日は野営でも良い?」
「……いいよ。なら、薬とか出来たらちゃんと何を悩んでるのか教えてもらうからね」
「うん……」

誤魔化せはしないらしい。カトラは自分の中の想いの整理をしなくてはとため息をつくのだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
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