85 / 118
第二章 奴隷とかムカつきます
085 上手く回すよね
しおりを挟む
あれからカトラは、表情や態度に出さないまでも、悶々としていた。
ターザが優しくしてくれるのは、過去の愛した人をカトラに重ねているから。
そう知ったカトラは、冷静にもなっていた。
「カーラ、危ないから俺が採ってくるよ」
「特に問題ないよ。足場もしっかりしてるから」
採取しようとしている花は、崖にへばりつくようにして咲いていた。崖の上から採りに行くよりも下からの方がやりやすい。
幸い、今カトラ達は目的とする花の咲く崖の下にいる。カトラは止めるターザを気にせず、躊躇いなくひょいひょいっと身軽に確実な足場を見つけて登っていった。
ナワちゃんがさり気なくカトラの命綱になっているので不安もない。
《ー支えますのでご心配なくー》
「ありがとう。ナワちゃん」
「カーラ……?」
動揺していることを、態度に見せなくても、カトラの態度が少し違うことにはターザも気付いている。
けれど、今までも行き過ぎなくらい想いを伝えた所で、動揺したりしなかったカトラだ。少し変かなと思うくらいの変化しかない。ターザもどこがどう変わったのかを特定出来ずにいた。
その上、片手間で面倒を見なくてはならない子もいるのだから、少々違和感を感じるくらいの余裕しかない。
そして、今もターザが考え込む前に声がかかる。
「師匠……これ……できました……」
《み~ぎゃ》
「こちらも完了です」
シャドーガルテの幼獣を連れたトゥーリ少年とカトラが渡した頭巾を通常装備として使っているフェジだ。
フェジは黒い服に黒い皮のブーツと、頭から足元まで真っ黒。町中では目立つかなと思っていたのだが、不思議とあまり注目されなかった。足も治ったことで、元影としての身のこなしが生きており、巧みに影となる場所を使って歩いていたりと目立たない行動ができているのだ。
彼はとても真面目な青年で、カトラの課す難しい課題もめげずに取り組んでいる。それというのも、目を治すことで、魔力の色を見ることができなくなると説明したのが始まりだ。
フェジはそれを聞いて、できれば自身の力でカトラのように見たい時だけ見えるようになりたいというのだ。ならば、先ずは基礎力を上げるために、体力作りはもちろんのこと、魔力操作の練度も上げる必要があった。
町中では常に自身の魔力を感じ取り、それを内に留めるという訓練をする。これにより、気配も薄くできるので更に彼は目立たなくなった。町の外では身体強化という魔力を自身の強化したい体の一部へと集中させ、魔獣と戦う。
カトラとターザのスパルタ訓練開始から半月。彼は元影であったことを忘れるくらい、体を使った戦闘が得意な武闘派になっていた。
「また派手に爆散させたようだね。もう少し静かにやりなよ」
「……申し訳ございません……ですが、きっちり魔核だけは残るよう加減はいたしました」
「まあ、他に素材は使える所のないやつだったけどさ」
拳で大抵の魔獣は爆散させてしまうようになったフェジ。それをわかっていたから、魔核のみの納品依頼しか受けていない。
フェジも冒険者登録をしたのだ。それは、トゥーリもだった。
「それで、こっちは……」
トゥーリが手に持っていたのは虫カゴ。その中には鮮やかな青いトカゲが二匹いた。生け捕りにしなくてはならないのだが、その二匹はどう見ても腹を上にしている。
「……息は一応してるか……けど、ちょっと強すぎる。弱らせ過ぎては生け捕りの意味がないよ」
「……すみません……」
《みぎゃ……》
精神に作用する能力を持つトゥーリ。使い魔となったシャドーガルテには、古い言葉で黒を意味する『リィリ』と名付けていた。
リィリが追い立てて弱らせ、トゥーリが隙を見て術をかける。そうして、小さな魔物や魔獣の生け捕りの依頼を受けて腕を磨いていた。
「フェジ、ちょっと神聖魔術かけといて」
「承知しました」
カトラの指導によって、当然のように神聖魔術も使えるようになったフェジ。これにより、トゥーリのやり過ぎにもフォローができた。
「……フェジ……ありがと……」
「いえ。私も訓練になりますので」
フェジは神聖魔術を使える適性が低かった。しかし、魔術として研究していたカトラにかかれば、適性など努力でなんとでもできるものでしかない。
元々、聖王国が影に指名するのは、そういった確実に神聖魔術を扱えるというレベルにない者達。何かの拍子にでも神聖魔術の才が開花しないとも限らない中途半端な者達を囲う理由の一つとして使っていたのだ。
「ここまで使えるようになったのは、トゥーリさんのお陰でもありますからね」
「ん……でも……次は完璧を……目指す……」
「そうですね」
《みぎゃぎゃ》
大きな魔獣や魔物になれば、今度は弱らせるためにリィリが攻撃をするので、どのみちフェジの神聖魔術の練習には困らないだろう。
二人で一人前である彼らへ特に声をかけることなく、顔をしかめながらターザは崖から採取を終えて無事に下りて来ようとするカトラを迎えに行く。
「カーラは本当、上手く回すよね……」
「ん? 私がなに?」
「うん。カーラは人と人を繋げる才能あるよねってこと」
「そう?」
これくらいであとは飛び降りられるという所まで来たカトラを見上げてターザは腕を広げる。
苦笑しながらカトラはそこに向かって飛び降りた。当然のように受け止め、ターザは一度強めに抱きしめてからカトラを地面に下ろす。
「それでカーラ。何を悩んでるの?」
「っ……別に……特には……?」
いつも通りを心がけているカトラであったが、意図してそう装っているというのにターザは気付いたらしい。
「特に? ってことは、少しはあるんだね」
「……そう……かな……」
どう誤魔化そうかと考えているカトラとターザから少し離れた所では、ケイト達が意味もなく崖を登っては降りてということを繰り返していた。
「ナワさん。計測お願いできますか?」
《ーいいですよー》
「ありがとうございます。ではっ、キュリ、クスカ、コル、あの花の所まで競争です」
「「「は~い」」」
《ーヨーイ! ーースタート! ー》
猿もびっくりな速さで四人の少女達が崖を駆け上っていく。それを思わず目を向けてカトラとターザは呆然とした。
「ケイト達は何を目指しているんだろう……」
「まあ、俺たちについて来る者としては合格じゃない?」
「……そうだね……」
間違いなく彼女たちは、国を出るまでに目標とするランクまで上がりそうだ。実力は既に問題ない。
「これで材料は揃ったし、この辺でいい場所探して今日は野営でも良い?」
「……いいよ。なら、薬とか出来たらちゃんと何を悩んでるのか教えてもらうからね」
「うん……」
誤魔化せはしないらしい。カトラは自分の中の想いの整理をしなくてはとため息をつくのだった。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
ターザが優しくしてくれるのは、過去の愛した人をカトラに重ねているから。
そう知ったカトラは、冷静にもなっていた。
「カーラ、危ないから俺が採ってくるよ」
「特に問題ないよ。足場もしっかりしてるから」
採取しようとしている花は、崖にへばりつくようにして咲いていた。崖の上から採りに行くよりも下からの方がやりやすい。
幸い、今カトラ達は目的とする花の咲く崖の下にいる。カトラは止めるターザを気にせず、躊躇いなくひょいひょいっと身軽に確実な足場を見つけて登っていった。
ナワちゃんがさり気なくカトラの命綱になっているので不安もない。
《ー支えますのでご心配なくー》
「ありがとう。ナワちゃん」
「カーラ……?」
動揺していることを、態度に見せなくても、カトラの態度が少し違うことにはターザも気付いている。
けれど、今までも行き過ぎなくらい想いを伝えた所で、動揺したりしなかったカトラだ。少し変かなと思うくらいの変化しかない。ターザもどこがどう変わったのかを特定出来ずにいた。
その上、片手間で面倒を見なくてはならない子もいるのだから、少々違和感を感じるくらいの余裕しかない。
そして、今もターザが考え込む前に声がかかる。
「師匠……これ……できました……」
《み~ぎゃ》
「こちらも完了です」
シャドーガルテの幼獣を連れたトゥーリ少年とカトラが渡した頭巾を通常装備として使っているフェジだ。
フェジは黒い服に黒い皮のブーツと、頭から足元まで真っ黒。町中では目立つかなと思っていたのだが、不思議とあまり注目されなかった。足も治ったことで、元影としての身のこなしが生きており、巧みに影となる場所を使って歩いていたりと目立たない行動ができているのだ。
彼はとても真面目な青年で、カトラの課す難しい課題もめげずに取り組んでいる。それというのも、目を治すことで、魔力の色を見ることができなくなると説明したのが始まりだ。
フェジはそれを聞いて、できれば自身の力でカトラのように見たい時だけ見えるようになりたいというのだ。ならば、先ずは基礎力を上げるために、体力作りはもちろんのこと、魔力操作の練度も上げる必要があった。
町中では常に自身の魔力を感じ取り、それを内に留めるという訓練をする。これにより、気配も薄くできるので更に彼は目立たなくなった。町の外では身体強化という魔力を自身の強化したい体の一部へと集中させ、魔獣と戦う。
カトラとターザのスパルタ訓練開始から半月。彼は元影であったことを忘れるくらい、体を使った戦闘が得意な武闘派になっていた。
「また派手に爆散させたようだね。もう少し静かにやりなよ」
「……申し訳ございません……ですが、きっちり魔核だけは残るよう加減はいたしました」
「まあ、他に素材は使える所のないやつだったけどさ」
拳で大抵の魔獣は爆散させてしまうようになったフェジ。それをわかっていたから、魔核のみの納品依頼しか受けていない。
フェジも冒険者登録をしたのだ。それは、トゥーリもだった。
「それで、こっちは……」
トゥーリが手に持っていたのは虫カゴ。その中には鮮やかな青いトカゲが二匹いた。生け捕りにしなくてはならないのだが、その二匹はどう見ても腹を上にしている。
「……息は一応してるか……けど、ちょっと強すぎる。弱らせ過ぎては生け捕りの意味がないよ」
「……すみません……」
《みぎゃ……》
精神に作用する能力を持つトゥーリ。使い魔となったシャドーガルテには、古い言葉で黒を意味する『リィリ』と名付けていた。
リィリが追い立てて弱らせ、トゥーリが隙を見て術をかける。そうして、小さな魔物や魔獣の生け捕りの依頼を受けて腕を磨いていた。
「フェジ、ちょっと神聖魔術かけといて」
「承知しました」
カトラの指導によって、当然のように神聖魔術も使えるようになったフェジ。これにより、トゥーリのやり過ぎにもフォローができた。
「……フェジ……ありがと……」
「いえ。私も訓練になりますので」
フェジは神聖魔術を使える適性が低かった。しかし、魔術として研究していたカトラにかかれば、適性など努力でなんとでもできるものでしかない。
元々、聖王国が影に指名するのは、そういった確実に神聖魔術を扱えるというレベルにない者達。何かの拍子にでも神聖魔術の才が開花しないとも限らない中途半端な者達を囲う理由の一つとして使っていたのだ。
「ここまで使えるようになったのは、トゥーリさんのお陰でもありますからね」
「ん……でも……次は完璧を……目指す……」
「そうですね」
《みぎゃぎゃ》
大きな魔獣や魔物になれば、今度は弱らせるためにリィリが攻撃をするので、どのみちフェジの神聖魔術の練習には困らないだろう。
二人で一人前である彼らへ特に声をかけることなく、顔をしかめながらターザは崖から採取を終えて無事に下りて来ようとするカトラを迎えに行く。
「カーラは本当、上手く回すよね……」
「ん? 私がなに?」
「うん。カーラは人と人を繋げる才能あるよねってこと」
「そう?」
これくらいであとは飛び降りられるという所まで来たカトラを見上げてターザは腕を広げる。
苦笑しながらカトラはそこに向かって飛び降りた。当然のように受け止め、ターザは一度強めに抱きしめてからカトラを地面に下ろす。
「それでカーラ。何を悩んでるの?」
「っ……別に……特には……?」
いつも通りを心がけているカトラであったが、意図してそう装っているというのにターザは気付いたらしい。
「特に? ってことは、少しはあるんだね」
「……そう……かな……」
どう誤魔化そうかと考えているカトラとターザから少し離れた所では、ケイト達が意味もなく崖を登っては降りてということを繰り返していた。
「ナワさん。計測お願いできますか?」
《ーいいですよー》
「ありがとうございます。ではっ、キュリ、クスカ、コル、あの花の所まで競争です」
「「「は~い」」」
《ーヨーイ! ーースタート! ー》
猿もびっくりな速さで四人の少女達が崖を駆け上っていく。それを思わず目を向けてカトラとターザは呆然とした。
「ケイト達は何を目指しているんだろう……」
「まあ、俺たちについて来る者としては合格じゃない?」
「……そうだね……」
間違いなく彼女たちは、国を出るまでに目標とするランクまで上がりそうだ。実力は既に問題ない。
「これで材料は揃ったし、この辺でいい場所探して今日は野営でも良い?」
「……いいよ。なら、薬とか出来たらちゃんと何を悩んでるのか教えてもらうからね」
「うん……」
誤魔化せはしないらしい。カトラは自分の中の想いの整理をしなくてはとため息をつくのだった。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
15
お気に入りに追加
1,868
あなたにおすすめの小説
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
百姓貴族はお呼びじゃないと言われ婚約破棄をされて追放されたので隣国で農業しながら幸せになります!
ユウ
恋愛
多くの女神が存在する世界で豊穣の加護というマイナーな加護を持つ伯爵令嬢のアンリは理不尽な理由で婚約を破棄されてしまう。
相手は侯爵家の子息で、本人の言い分では…
「百姓貴族はお呼びじゃない!」
…とのことだった。
優れた加護を持たないアンリが唯一使役出るのはゴーレムぐらいだった。
周りからも馬鹿にされ社交界からも事実上追放の身になっただけでなく大事な領地を慰謝料変わりだと奪われてしまう。
王都から離れて辺境地にて新たな一歩をゴーレムと一から出直すことにしたのだが…その荒れ地は精霊の聖地だった。
森の精霊が住まう地で農業を始めたアンリは腹ペコの少年アレクと出会うのだった。
一方、理不尽な理由でアンリを社交界から追放したことで、豊穣の女神を怒らせたことで裁きを受けることになった元婚約者達は――。
アンリから奪った領地は不作になり、実家の領地では災害が続き災難が続いた。
しかもアンリの財産を奪ったことがばれてしまい、第三機関から訴えられることとなり窮地に立たされ、止む終えず、アンリを呼び戻そうとしたが、既にアンリは国にはいなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる