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第二章 奴隷とかムカつきます

082 やったら面白いかな〜って

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カトラの問いかけにターザは諦めたように告げた。

「そうだよ。三つ上の兄の子どもみたいだ。でも、そんな話聞いてないからね。隠し子かな。まだ結婚してないだけかもしれないけど」
「ターザの国って一夫多妻制だったもんね……」

ターザにも沢山の異母兄弟がいると聞いている。珍しくはないだろう。

「まあね。けど、だからこそ子どもまで作ったら責任持って妻に迎えるのが常識なんだ。いくら王族でもそれが出来てなかったら叩かれるよ」
「ふ~ん……ちゃんとしてるんだね」

意外だった。それが珍しく表に出ていたのだろう。ターザが苦笑した。

「節操なしばっかりの国じゃないからね? 寧ろ他の国より不倫とか重罪になるから。手を出したら結婚するか、結婚してから手を出すかは人によって違うけどね」
「……そうなんだ……」

とはいえ、少年がターザの異母兄の子どもだということは確定のようだ。

ターザは連れてきた幼獣、シャドーガルテを少年の前に下ろし、ミルクを与えた。まだ小さく、フルフルと震えているがしばらくターザが見つめていると、浅い器に注がれたミルクを少しずつ舐めるようになった。

それを同じように見つめていた少年に、ターザが声をかける。

「これからは、お前が面倒をみるんだよ」
「……は……い……」
「使い魔との契約はもう少し回復したら教える。先ずは一日休んでから事情を聞くから」
「……わ……かり……ました……」

長い間、声を出さなかったのだろう。上手く声が出せないのはそのせいだ。

「ターザ、あまり急に声を出させちゃダメだよ。声帯が固まってるんだ。ゆっくりね」
「いいけど……聖王国へ行くのが遅くなるよ?」
「別に急いでないし。どのみち、こっちのお兄さんの薬切れの方が早いから、寄り道しないといけないよ」

カトラは手元にあるノートを確認する。書き留めたのは青年の目を治す薬と解毒薬の考察。

「そいつ、治す価値があるの?」
「っ……!」
「ターザ……でもそうだね……」

青年を見つめると、体を強張らせているのが嫌という程わかった。

「正直に話すよ?」
「っ……はい」

覚悟を決めたような青年の声に内心苦笑しながら本当に正直に答える。

「私にとっては、この薬が正しく効くかどうかっていう実験的な価値がある」
「……っ」

青年もそれは察していたようだ。だが、治したいとは思っているように見えた。

「それで、これでちゃんと治ったら、見つけた影に片っ端から飲ませて、聖王国にとって無価値にしてやったら面白いかな~って」

クスクスと笑えば、青年は予想に反して脱力した。そこで確信する。彼はもう聖王国に未練はない。

「お兄さん、聖王国にはもう思うところはないの?」
「はっきり申し上げて……そうです。あそこは異常です。そして、無慈悲だ……人を人と思ってはいない……彼らにとっては、ほんの少しでも予想に反して劣った者は無価値で、実験の道具でしかありません……」

うつむき、そう告白する青年をカトラは頬杖をついて見つめる。態度こそ何てことはないと装ってはいるが、その目は真剣だった。頭巾によって見えない青年の表情を読み取ろうとするかのようだ。

「私は失敗作として捨てられ、売られました。あの国に、なんの未練があるでしょうか」

戻りたいとは思えないと床に手をついて拳を握り締めていた。

そこでターザが指摘する。

「でも、恨んではいるんでしょ?」
「っ……はい……突然連れ去られて、様々なことを強要されて……それで捨てられたのですっ。恨まずにいられるはずはありません」
「だよね? 檻の中で考える時間もたっぷりあっただろうし?」
「……はい……」

悔しいと思う気持ちは、あそこで大きく膨らんだだろう。

聖王国へ連れて来られた者たちは、そんな人攫いをしているような国を不思議に思わない。国のためにと言いなりになるのが当たり前なのだ。

その異常性に気付けるのは、捨てられたからこそ。外を見たからこそ理解できるようになる。

「あの国から逃げようと思わなかった自分に恐怖しました……こんな体にされても、何も感じなかった。だからこそ、今……恐ろしくて堪らないのですっ……薬に侵されていると聞いて……怖くて……っ、治るのですか? 私は、元に戻れますか?」

顔を上げた青年は、涙を流していた。ポツポツと真下に落ちる涙を見て、カトラは頷いて見せる。

「治すつもりだよ。けどいいの? これも実験だよ? 奴らとやってること、一緒かもよ?」

彼を改造してしまった聖王国とやっていることは同じだ。カトラは実験だと正直に言っているのだから。

だが、青年は首を横に振った。

「いいえ。違います。何よりあなたは……あなたの持つ魔力は、私が知る中で最も美しく巡っている……あの国の聖女や神子よりもずっと綺麗です。そんな方があの国の者達と同じであるはずがない!」
「……っ」

魔力の光を見てきたからこそ、カトラを見て驚いたのだ。彼は生まれて初めて、淀みなく澄み切った光というのを目にした。

それは、カトラが磨き続けてきた魂の光をも映している。

一度は呪われて曇ってしまったカトラの魂は、今生においてそれを晴らし始めている。高潔で、人のためにあろうとした本来の光を取り戻しつつあるのだ。

それを見てしまったら、それと比べてしまったら、聖王国がどれだけ歪で、濁りを纏っているのか分かるだろう。

青年の言葉を聞き、戸惑うカトラとは別にターザやナワちゃんが反応する。

「良い目をしてるじゃない。その見る目は認めてあげるよ。これからは神よりもカーラを崇拝するんだよ」
《ー主は敬愛するに相応しいお人ですからー》
「はい!」
「……」

これはこれで問題だろうと呆れるカトラだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
2019. 7. 29
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