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第一幕 第一章 家にいる気はありません
038 惚れ直した?
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2018. 11. 27
**********
料理人達は、ターザの正体に衝撃を受けながらも食事を完成させていった。それらを見届けたカトラとターザは、エルケートへと戻っていた。
「なら、和解はしたんだな」
仕事を約束通りこなし、夕食にありつけたダルは機嫌よく特大ハンバーグを頬張っていた。
「たまには帰るっていう約束してきた。ベイスにも会いたいし」
「よしよし、その家令がエーフェの親父だったのは驚きだったが、仲直りできて良かったな」
エーフェが冒険者としてダルの元にいた頃は、彼女自身も知らなかったことだ。ダルも当然、初耳だったらしい。
「それにしてもエーフェの奴、監視されてるとか言わんかったんだが、あいつなら、影の存在に気付かんはずないだろうに」
聖王国の影と呼ばれる裏の実働部隊。彼らは実力者であるダルを敵に回さぬため、ここには近づかなかったようだ。今回のカトラの時のように、監視者はいただろうが、ただ行動を監視するだけ、報告するだけの彼らには、流石のダルも気付かない。
元々、監視をする者たちは、全く悪気もない上に、使われているという自覚もない。良いことをしているという認識なのだ。そんな何気ない親切心で動いている者を察知するのは難しい。
「まぁ、ただの監視者を察知するターザには敵わんが」
「なに、その目。俺だってカーラが対象になってなきゃ気付かないよ?」
「そうなの?」
「当たり前でしょ?」
何が当たり前なのかは分からないが、ターザはカトラにだけ向けられる目に敏感なのだ。
「……そっちのがおかしいだろ……」
若干、異常者を見る目になってしまっても仕方がない。大半は呆れている。
「そういえば、結局ターザがあの人たちにかけた呪いってなんなの?」
「呪い!? なんだ、その物騒なもんっ」
ダルがあからさまに反応する。
「大したやつじゃないよ? それに、カーラを見なければ発動しないようになってるから」
「私?」
自分が発動条件と聞いては警戒してしまう。しかし、ターザはなんてことない話をするように続けた。
「発動しても『望んだ結果が絶対に出ない』ってだけだけど」
どれだけ努力しても、結果が出ない。それも絶対にという運命へ働きかけた呪い。
「ただ、問題なのは呪いの方が他の人の運命より強いってことかな? もし、対象が『この人に死んで欲しくない』って願うと、相手の運命を相殺っていうか書き換えて殺しちゃうんだよ」
「……」
「大問題じゃんか!」
ターザの呪いは強い。改良しようとしているらしいので、今後に期待だ。そう結論付け、食事を続けるカトラに、ダルが詰め寄る。
「おいおい、良いのかよ! 他人まで巻き込んでんぞ!?」
「けど、それが運命かどうかなんて自分では分かんないし……呪いで即死させない所がなんかターザらしいなって」
「そういう問題じゃねぇっ! あ、あれだ、その場合、そいつらが死んで欲しくないって思う奴がお前や知り合いとかだったらどうすんだよ!」
確かに、どれだけ確率の低いことでも、ないとは言い切れない。寧ろ、屋敷に置いてきたメイド達は父や兄に対して思わないとも限らない。
「ターザ?」
ターザのことだ。その場合の解決策がないわけではないだろう。
「そこはね、カーラや俺周辺の人物だった場合、そのまま死の原因が移るようにしてあるんだ。代わりに死んでもらうんだよ」
「……どうやってんのかはもう聞かねぇから……」
「器用なことするね」
「惚れ直した?」
「そこは微妙」
この答えに不満そうにされてもどうにもならない。エゲツない呪いを仕込んだものだ。
《ー反省を促すものではないのですか?ー》
縄ちゃんの指摘に、ターザは嬉しそうに答えた。
「それもちゃんと考えてあるよ。発動と同時に概要の説明が頭に浮かぶようになってるからね」
「どうやんだよそれ……あ、説明いいわ。気になっけど聞きたくねぇわ」
「へぇ……便利」
「今度こそ惚れ直した?」
「微妙」
間違いなくおかしな力を使っている。魔術に精通したカトラは、できないこととできることが分かっているつもりだ。今回のものは確実にできないこと。
呪いというものは元を辿れば魔術。魔術でできないならば、呪いでもできない。それを可能にしているということは、彼の国特有の能力か、ターザ独自のものかのはずだ。こればっかりは知っても使えない。
《ーご心配なくー》
《ー誰よりも信頼されていますからー》
縄ちゃんが余計なことを伝えていた。
「そうだね。信頼はそのうち依存になって、俺なしじゃ生きられなくなるよね」
《ーその通りです♪ー》
「……」
確信犯だった。
「……お前、もう術中にはまってんじゃん……」
「事実でも知りたくなかったかも……」
同情されるのが酷く虚しかった。この件に関してはいつだって援軍は見込めない。
*********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、三日空けて
土曜1日に投稿予定です。
よろしくお願いします◎
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料理人達は、ターザの正体に衝撃を受けながらも食事を完成させていった。それらを見届けたカトラとターザは、エルケートへと戻っていた。
「なら、和解はしたんだな」
仕事を約束通りこなし、夕食にありつけたダルは機嫌よく特大ハンバーグを頬張っていた。
「たまには帰るっていう約束してきた。ベイスにも会いたいし」
「よしよし、その家令がエーフェの親父だったのは驚きだったが、仲直りできて良かったな」
エーフェが冒険者としてダルの元にいた頃は、彼女自身も知らなかったことだ。ダルも当然、初耳だったらしい。
「それにしてもエーフェの奴、監視されてるとか言わんかったんだが、あいつなら、影の存在に気付かんはずないだろうに」
聖王国の影と呼ばれる裏の実働部隊。彼らは実力者であるダルを敵に回さぬため、ここには近づかなかったようだ。今回のカトラの時のように、監視者はいただろうが、ただ行動を監視するだけ、報告するだけの彼らには、流石のダルも気付かない。
元々、監視をする者たちは、全く悪気もない上に、使われているという自覚もない。良いことをしているという認識なのだ。そんな何気ない親切心で動いている者を察知するのは難しい。
「まぁ、ただの監視者を察知するターザには敵わんが」
「なに、その目。俺だってカーラが対象になってなきゃ気付かないよ?」
「そうなの?」
「当たり前でしょ?」
何が当たり前なのかは分からないが、ターザはカトラにだけ向けられる目に敏感なのだ。
「……そっちのがおかしいだろ……」
若干、異常者を見る目になってしまっても仕方がない。大半は呆れている。
「そういえば、結局ターザがあの人たちにかけた呪いってなんなの?」
「呪い!? なんだ、その物騒なもんっ」
ダルがあからさまに反応する。
「大したやつじゃないよ? それに、カーラを見なければ発動しないようになってるから」
「私?」
自分が発動条件と聞いては警戒してしまう。しかし、ターザはなんてことない話をするように続けた。
「発動しても『望んだ結果が絶対に出ない』ってだけだけど」
どれだけ努力しても、結果が出ない。それも絶対にという運命へ働きかけた呪い。
「ただ、問題なのは呪いの方が他の人の運命より強いってことかな? もし、対象が『この人に死んで欲しくない』って願うと、相手の運命を相殺っていうか書き換えて殺しちゃうんだよ」
「……」
「大問題じゃんか!」
ターザの呪いは強い。改良しようとしているらしいので、今後に期待だ。そう結論付け、食事を続けるカトラに、ダルが詰め寄る。
「おいおい、良いのかよ! 他人まで巻き込んでんぞ!?」
「けど、それが運命かどうかなんて自分では分かんないし……呪いで即死させない所がなんかターザらしいなって」
「そういう問題じゃねぇっ! あ、あれだ、その場合、そいつらが死んで欲しくないって思う奴がお前や知り合いとかだったらどうすんだよ!」
確かに、どれだけ確率の低いことでも、ないとは言い切れない。寧ろ、屋敷に置いてきたメイド達は父や兄に対して思わないとも限らない。
「ターザ?」
ターザのことだ。その場合の解決策がないわけではないだろう。
「そこはね、カーラや俺周辺の人物だった場合、そのまま死の原因が移るようにしてあるんだ。代わりに死んでもらうんだよ」
「……どうやってんのかはもう聞かねぇから……」
「器用なことするね」
「惚れ直した?」
「そこは微妙」
この答えに不満そうにされてもどうにもならない。エゲツない呪いを仕込んだものだ。
《ー反省を促すものではないのですか?ー》
縄ちゃんの指摘に、ターザは嬉しそうに答えた。
「それもちゃんと考えてあるよ。発動と同時に概要の説明が頭に浮かぶようになってるからね」
「どうやんだよそれ……あ、説明いいわ。気になっけど聞きたくねぇわ」
「へぇ……便利」
「今度こそ惚れ直した?」
「微妙」
間違いなくおかしな力を使っている。魔術に精通したカトラは、できないこととできることが分かっているつもりだ。今回のものは確実にできないこと。
呪いというものは元を辿れば魔術。魔術でできないならば、呪いでもできない。それを可能にしているということは、彼の国特有の能力か、ターザ独自のものかのはずだ。こればっかりは知っても使えない。
《ーご心配なくー》
《ー誰よりも信頼されていますからー》
縄ちゃんが余計なことを伝えていた。
「そうだね。信頼はそのうち依存になって、俺なしじゃ生きられなくなるよね」
《ーその通りです♪ー》
「……」
確信犯だった。
「……お前、もう術中にはまってんじゃん……」
「事実でも知りたくなかったかも……」
同情されるのが酷く虚しかった。この件に関してはいつだって援軍は見込めない。
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