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第一幕 第一章 家にいる気はありません
037 ターザにしては優しい?
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2018. 11. 24
**********
出来上がった大量のハンバーグのタネを伯爵家用に少し取り分けて残し、後は空間収納に入れる頃。
「あ、仲良くやってるね」
「ターザ、お話し終わったの?」
調理場にターザが現れた。
「うん。後はお父さん達に任せてきたからね。俺が焼くよ。カーラはソース作るでしょ?」
歩き寄ってくる間に、ターザは空間収納から出した愛用のエプロンを着ける。因みに、カトラとお揃いだ。カルダがしているのはダル用のもので、これは少しだけデザインが違う。
手もしっかり洗って準備万端だ。
「ありがと。でも、メイドと何の話があったの?」
面接でもしていたんだろうか。
ターザはカルダを補佐に、カトラの用意していたフライパンでハンバーグを焼いていく。
その隣でカトラは今日の他の料理を確認してトマトソースを選択する。
「フライ返しは?」
「はい」
当たり前のように取り出し、ターザが受け取ると、彼は話を再開する。
「カーラ言ってたでしょ? この屋敷にも監視が居るって」
「あ……」
「焦げないようにね。はい、ヘラ」
「ありがと……」
今度はターザから木のヘラを受け取り、鍋をかき混ぜる。話の続きを気にしながら。それが分かったのだろう。ターザはフライパンから目を離さずに続ける。
「どうも、カーラのお母さんの事も監視対象だったみたいだね。まぁ、薬学の腕は高かったって聞いてたし、そうかなとは思ってたけど」
かなり古株のメイド達が混じっていたらしい。
「ベテランがいたから、そのまま処分ってのはちょっとね。まぁ、カーラが出て行ってからも普通に働いてたみたいだし」
勝手にターザが首を切るわけにはいかない。とはいえ、それでも問答無用で切るのが普段のターザだ。どうしたんだろうと思った。
「ターザにしては優しい?」
「あれ? 俺にしてはってどういうこと?」
ちょっと顔をしかめたターザは、しばらく考える。
「この場合の、優しいって難しいよね。許すってことなら……消しちゃうのが正しいかな。いつまでも責めるより、これで終わりってことになるし?」
「……うん……それターザっぽい」
「……っ」
カトラはあり得そうだと納得し、聞いていたカルダや料理長、離れて料理をしていた料理人達は完全に手を止めていた。
「それが俺の優しさなら、今回は優しくないよね」
「みたいだね……」
昼間のエルケートで捕まえた者達にカトラへの接触禁止を言い渡しただけであっさり解放していたのも少し気になっていた。
よくよく考えてみると、ターザらしくない。あれは、一般的にいう優しい対応だ。ならばと思い至った。
「……もしかして、エルケートで捕まえた人たち、厳重注意だけで終わらせてないの?」
「あ、気付かれちゃったか。呪いをかけておいたんだ。だって、口でいくら反省してるって言ってても、時間が経てば人って忘れる生き物だし?」
「……」
ターザがカトラに手を出されて許すはずがなかったのだ。これにはさすがに呆れてしまう。だから、代わりにカルダが疑問を口にした。
「呪いなんて、あり得るのか?」
この世界では、魔術は当たり前でも呪いは違う。不確かな力ということで、信じない者は多い。呪いと言われても一般的には胡散臭いものにしか感じないのだ。
「呪術関係は得意なんだ。そういう国に生まれたし。あまりこの辺の国では印象が良くないみたいだね」
「ああ、南の大国の生まれで?」
見た目からも分かる。ターザの生まれた南にある大国は、呪術師という職業が存在するらしい。だが、この辺りでは詐欺師的な存在としか認識されていなかった。
「そう。そんな国の中でも王家って狙われやすくてね。魔術より先に呪術を覚えるんだ。まぁ、呪術っていうのは、精神や魂に影響を与えられる魔術みたいなものなんだけどね」
一般的に魔術は物理的な事象を起こす。そして、呪術は精神に影響を及ぼすもの。だが、どちらも魔力によって行使されるものなので、魔術と一括りにしてもおかしくはない。ただ、呪術は扱える者が限られる。素質に大きく影響がある術なのだそうだ。
「抵抗できて基礎が修了。弾けるようになって半人前。返せて一人前って言われるんだ」
毒殺を画策するより、呪術をかけられることの方が効率的で確かだという認識らしい。
「王家に生まれた者は、呪術師を返り討ちに出来たら継承権がもらえるってくらい重要視されてるんだよ」
なんとも物騒な試練だ。
これを聞いて、カルダはもしやと呟く。
「……っ、王家……?」
「ああ、言っていなかったね。俺、一応王族。まぁ、継承権はいらないって言ってあるけど、王族の中でも力が強いから、中々納得しない人達が多くて困るよ」
「……王族……っ」
カトラ以外が完全に固まった。顔色も悪い。
「ターザ時々、国に呼び出されてるもんね」
「いい加減イヤになるよ。だいたい、呼び出されてたせいで、カーラがこの家から出た時に傍にいられなかったんだよ? これは問題だよね。あ、焼けたのどうする? お皿は?」
「はっ、はい!!」
料理長が動いた。まだ顔色は悪いようだが、大丈夫だろうか。
「もう私、そんな子どもじゃないし、呼び出されるってことは、ターザじゃなきゃダメなことがあるからでしょ?」
そうでなければ、ターザが素直に何日もかけて帰るわけがないと思っている。
「それはそうなんだけど、もうカーラと離れる気ないよ?」
「……師匠のところで大人しくしてるよ?」
「ダメだよ。それでも日帰りでも依頼受けたりするでしょ?」
「ずっと一緒にいるつもり?」
「そうだけど?」
「……ソースできたよ」
きょとんと、当たり前でしょという顔をされて、カトラはため息をつきながら、ハンバーグを完成させた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、27日です。
よろしくお願いします◎
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出来上がった大量のハンバーグのタネを伯爵家用に少し取り分けて残し、後は空間収納に入れる頃。
「あ、仲良くやってるね」
「ターザ、お話し終わったの?」
調理場にターザが現れた。
「うん。後はお父さん達に任せてきたからね。俺が焼くよ。カーラはソース作るでしょ?」
歩き寄ってくる間に、ターザは空間収納から出した愛用のエプロンを着ける。因みに、カトラとお揃いだ。カルダがしているのはダル用のもので、これは少しだけデザインが違う。
手もしっかり洗って準備万端だ。
「ありがと。でも、メイドと何の話があったの?」
面接でもしていたんだろうか。
ターザはカルダを補佐に、カトラの用意していたフライパンでハンバーグを焼いていく。
その隣でカトラは今日の他の料理を確認してトマトソースを選択する。
「フライ返しは?」
「はい」
当たり前のように取り出し、ターザが受け取ると、彼は話を再開する。
「カーラ言ってたでしょ? この屋敷にも監視が居るって」
「あ……」
「焦げないようにね。はい、ヘラ」
「ありがと……」
今度はターザから木のヘラを受け取り、鍋をかき混ぜる。話の続きを気にしながら。それが分かったのだろう。ターザはフライパンから目を離さずに続ける。
「どうも、カーラのお母さんの事も監視対象だったみたいだね。まぁ、薬学の腕は高かったって聞いてたし、そうかなとは思ってたけど」
かなり古株のメイド達が混じっていたらしい。
「ベテランがいたから、そのまま処分ってのはちょっとね。まぁ、カーラが出て行ってからも普通に働いてたみたいだし」
勝手にターザが首を切るわけにはいかない。とはいえ、それでも問答無用で切るのが普段のターザだ。どうしたんだろうと思った。
「ターザにしては優しい?」
「あれ? 俺にしてはってどういうこと?」
ちょっと顔をしかめたターザは、しばらく考える。
「この場合の、優しいって難しいよね。許すってことなら……消しちゃうのが正しいかな。いつまでも責めるより、これで終わりってことになるし?」
「……うん……それターザっぽい」
「……っ」
カトラはあり得そうだと納得し、聞いていたカルダや料理長、離れて料理をしていた料理人達は完全に手を止めていた。
「それが俺の優しさなら、今回は優しくないよね」
「みたいだね……」
昼間のエルケートで捕まえた者達にカトラへの接触禁止を言い渡しただけであっさり解放していたのも少し気になっていた。
よくよく考えてみると、ターザらしくない。あれは、一般的にいう優しい対応だ。ならばと思い至った。
「……もしかして、エルケートで捕まえた人たち、厳重注意だけで終わらせてないの?」
「あ、気付かれちゃったか。呪いをかけておいたんだ。だって、口でいくら反省してるって言ってても、時間が経てば人って忘れる生き物だし?」
「……」
ターザがカトラに手を出されて許すはずがなかったのだ。これにはさすがに呆れてしまう。だから、代わりにカルダが疑問を口にした。
「呪いなんて、あり得るのか?」
この世界では、魔術は当たり前でも呪いは違う。不確かな力ということで、信じない者は多い。呪いと言われても一般的には胡散臭いものにしか感じないのだ。
「呪術関係は得意なんだ。そういう国に生まれたし。あまりこの辺の国では印象が良くないみたいだね」
「ああ、南の大国の生まれで?」
見た目からも分かる。ターザの生まれた南にある大国は、呪術師という職業が存在するらしい。だが、この辺りでは詐欺師的な存在としか認識されていなかった。
「そう。そんな国の中でも王家って狙われやすくてね。魔術より先に呪術を覚えるんだ。まぁ、呪術っていうのは、精神や魂に影響を与えられる魔術みたいなものなんだけどね」
一般的に魔術は物理的な事象を起こす。そして、呪術は精神に影響を及ぼすもの。だが、どちらも魔力によって行使されるものなので、魔術と一括りにしてもおかしくはない。ただ、呪術は扱える者が限られる。素質に大きく影響がある術なのだそうだ。
「抵抗できて基礎が修了。弾けるようになって半人前。返せて一人前って言われるんだ」
毒殺を画策するより、呪術をかけられることの方が効率的で確かだという認識らしい。
「王家に生まれた者は、呪術師を返り討ちに出来たら継承権がもらえるってくらい重要視されてるんだよ」
なんとも物騒な試練だ。
これを聞いて、カルダはもしやと呟く。
「……っ、王家……?」
「ああ、言っていなかったね。俺、一応王族。まぁ、継承権はいらないって言ってあるけど、王族の中でも力が強いから、中々納得しない人達が多くて困るよ」
「……王族……っ」
カトラ以外が完全に固まった。顔色も悪い。
「ターザ時々、国に呼び出されてるもんね」
「いい加減イヤになるよ。だいたい、呼び出されてたせいで、カーラがこの家から出た時に傍にいられなかったんだよ? これは問題だよね。あ、焼けたのどうする? お皿は?」
「はっ、はい!!」
料理長が動いた。まだ顔色は悪いようだが、大丈夫だろうか。
「もう私、そんな子どもじゃないし、呼び出されるってことは、ターザじゃなきゃダメなことがあるからでしょ?」
そうでなければ、ターザが素直に何日もかけて帰るわけがないと思っている。
「それはそうなんだけど、もうカーラと離れる気ないよ?」
「……師匠のところで大人しくしてるよ?」
「ダメだよ。それでも日帰りでも依頼受けたりするでしょ?」
「ずっと一緒にいるつもり?」
「そうだけど?」
「……ソースできたよ」
きょとんと、当たり前でしょという顔をされて、カトラはため息をつきながら、ハンバーグを完成させた。
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読んでくださりありがとうございます◎
次回、27日です。
よろしくお願いします◎
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