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第一幕 第一章 家にいる気はありません

022 実証実験……ダメ?

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2018. 10. 10

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ターザは裏切らない。だから絶対の味方だ。そう思えるくらいには信頼しているのだが、信用とは違った。

「……ねぇ、ターザ……これはあまりにも……」

城から出て行こうとするカトラを、多くの者達が引き留めようと向かってきた。

けれど、それらを全部スルーしてみせるのがターザだ。もしこの時、カトラが歩いていたなら、辛うじて引き留められたかもしれない。

「ん? カーラは気にしないで。ナワちゃん、頼むよ」
《ーYes,Sir!ー》
「……ナワちゃん……」

本当に、どうしてナワちゃんは創造主とでもいえるべきカトラよりもターザの言葉を優先するのか。

《ー主はご安心をー》
《ー邪魔はさせませんのでー》
《ー蹴散らしてご覧に入れますー》
「いや……だって、あの人達、もう土下座……」

そう、多くの者が、何故か土下座して道を塞いでいるのだ。訳がわからない。『どうかお待ちくださいっ』とか『部屋にお戻りをっ』とか言って額を床に擦り付けるのだ。

剣さえも持っていないようで、争う気はないと体全体で示している。

そして、道を塞ごうとする者たちを、ナワちゃんがズルズルっと引っ掛けて端に寄せていく。

異様過ぎる光景だ。ナワちゃんは器用に、退かせた者たちの向きをも調整する。そうなるとどうなるか。

全員が中央を歩いていくターザ達へ頭を向けており、まるで王に傅くが如き道ができた。洋風の城に違和感が半端無い。だいたい、土下座をどこで知ったのだろうか。

だが、ターザはこれがいつものことだとでもいう様子で、平然と歩いている。そういえば、ターザの母国は南国だ。その話を聞く限り、あちらの国ではこんな感じなのかもしれない。それにダルも思い至ったのだろう。

「うわぁ……こりゃ引くなぁ……ターザの国を知って……いやいやっ、マジでターザお前、何したん?」
「何って、別に?」

何もしないでこうはならないだろう。確実に全面降伏を示させるほどの何かをやらかしている。

「カーラに手を出した奴らの腕は斬り飛ばしたけど、それ以外は何もしてないよ?」
「そういや、そんな奴らいたな……そうだな。多分、それだな」

間違いなくそれだろう。

「え? 何が?」
「いや、だから、コイツらが怖がってる理由だよ」

そう、震えているのだから。これは、異国の挨拶に則ってというわけではない。明らかに恐怖からの行動だ。崩折れるようにこの体勢になっていくのだから。

だが、そこで本当の原因に気付く。腕の中のカトラや、隣を歩くダルには感じられないだけだ。

「……ターザ、殺気漏れてる……?」
「あ~……なんつう器用な真似を……ピンポイントとかムズイだろ……」
「何? 攻撃するより平和的でしょ?」

もちろん、完全に道を塞ごうとする者達はそうして殺気を当てることで屈伏させているようだが、ゾロゾロと出てくる兵達はそれよりも先に腰が引けていた。

斬られた人の事を知っているのだろう。所々から、そんな話も聴こえてきた。

「殺気放ってる時点で平和じゃねぇよ……ったく……どうすんだ、これ……」

テロレベルだ。後ろを見ても、復活している人がほとんどいないのだから。

「……師匠、斬られたのって二人だよね?」
「おう、それがどうした?」

ターザがあの時、怒るとすれば相手は二人。腕輪を付けた騎士と、腕輪を用意した魔術師のはずだ。

「なら、これ渡してもらって。『欠損完治薬』実験の段階は済んでるし、多分、今はあの国に借りを作りたくないと思うから」
「カーラ、そんなの必要ないよ。あいつらは自業自得でしょ?」

不機嫌になるターザを真摯に見つめながら理由を告げる。

「メル君とセリ君のためだよ。それに、この薬、ちゃんと治るけどスっごく痛いんだ。まだ試作品だから」

神子の神聖魔術と違い、いくら古い欠損、元からなかった手足でも治るのだが、とにかく痛い。

「神聖魔術は時間を戻すんだけど、これは本当に生やすから」
「へぇ。それなら罰になるかな」

神経や骨、肉を新たに生成していくのだ。その様は恐ろしいだろうし、急激に作り出すために激しい痛みが伴う。

「それに、人に試すの初めてなんだ……実証実験……ダメ?」

さすがに人で実験はしていない。古代の文献から復元させたものだ。その性能は眉唾物で、本当であったとしてもデタラメな効果を持っている。簡単に実験できるものではなかった。盗賊にでも試してみようかと考えていた所だったのだ。

これに、ターザはあっさりと笑って許可した。

「それならいいよ。何より、あの国にも良い薬になりそうだしね」
「……うん……」

ターザに隠し事はできない。カトラがこの薬を出すことで与えようとしている影響さえ見抜いている。

それは、聖王国への牽制。それと、双子達から目を背けさせること。

「カーラがそこまで気を回してやる義理なんてないんだよ?」
「そうだけど……あの子達のためになるなら良いかなって……」
「気に入ったの?」
「……弟ができたみたいで……可愛かったから……」
「そう……」

ずっと、弟や妹が欲しかった。それに、あれ程慕われれば、凍り付いた心にも情が湧く。

「……子どもなら作ってあげられるのに……弟とか妹はちょっと難しいかな……」
「……」

何か聞いちゃいけない言葉を聞いたような気がする。こちらを反射的に見上げたダルも『あ~……』という顔をしていた。

「あ、そ、そんじゃ俺は、これ渡してくっから、先にギルド行ってろ」

来た通路を戻って行くダルをターザの肩越しに見送り、強張りそうになる体に苦労しながら苦笑する。

「……ターザ、そろそろ歩くよ?」
「ダメ、こいつらに触られたらどうするの? 大人しくしてて。馬車も用意するから」
「……うん……」

とりあえず、このまま街中を歩くようなことにはならないようで安心した。とはいえ『触られたら』とはどういう意味だろうか。疑問を抱きながらも、カトラ達は城を無事に脱出する。

そして、この後、向かったギルドでも土下座祭りが開催されるとは、さすがに予想できなかった。

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読んでくださりありがとうございます◎

次回、土曜13日です。
よろしくお願いします◎
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