上 下
320 / 472
第十一章

425 見捨てるのか……っ

しおりを挟む
獣人族たちは、不安気に突然空に映された光景を見つめていた。

「っ、なんなんだ……これ……っ」
「一体何がっ……」

本当に唐突にそれが空に映し出されたのだ。驚くに決まっている。

「あれは……っ、入口の森の辺りじゃ……っ」
「そういえば、少し前から、人族が集まってた……っ」

高い何ものにも越えられない外壁のような天然の岩壁。その上から、目の良い獣人たちは、異変を感じて外界を確認していた。

岩壁に開いている里への入口は二つ。けれどそのどれも、獣人たちの身体能力が無ければ通れない。壁の二メートルほど上に開いているのだ。だから、この先に来ようと思う者はいない。

何より、里の場所に興味を示さないようにする特別な魔導具がある。それは、かつて魔工神コウルリーヤが作り出したものだった。強欲な人族によって連れ去られる子どもたちを守るために授けられたもの。

「っ、こんなことができるのは……っ」

人に出来るわけがない。魔法に秀でると言われるエルフ族かと考えたが、これをする意味がわからなかった。だから、エルフ族でもないだろうと、年配の者たちは考えた。

そして、何をするのかの説明を聞いている人々の様子が映し出される。その人々が見ていた映像の中に、神の姿を見た。

「あれはっ!! めっ。女神エリスリリア様っ」
「武神リクトルス様だっ。間違いない!」

彼らは人族よりも寿命が長い上に、外界と長く接触を絶ってきた。だから、神の姿を正しく記したものも、里には多く残っている。

人とは違い、コウルリーヤへの信仰も変わらずある。何よりもこの里を隠しているのがそのコウルリーヤから贈られたものだ。エルフ族と同じように、そのコウルリーヤを邪神として討った人を野蛮な種族と思っている。

彼らは当初から里にこもっていたわけではない。目まぐるしく世代を変え、考えを変える人族に染まらぬよう、弱い子どもたちや女たちを守ろうと考えたのだ。

しかし、さすがに彼らも長い時の中で考え方を変え、種族として完成している自分たちだけの場所が至高であるとしたのだ。これにより、彼らは自らの首を絞めて行った。

迷宮化により、段々と外の魔獣たちがこれに対抗しようと力を付ける一方で、里にこもっていた彼らは弱体化した。

そして、現在のように籠城と言っても過言ではない状況になったのだ。里を抜けた者たちを無理に里から出てまで殺そうとしたのは、コウルリーヤを人が討ったことで、神が世界を見放し、加護をなくしたというのに、その罪を人々は忘れ、更には獣人たちをペットのように扱うのを知ったから。

里を抜ける者は、彼らにとって、人族側に立つことを意味する。だから許せないのだ。血を混ぜる行為など、もっての外だった。無理にでも森を抜けさせ、戦士を派遣してこれらを始末するのは、彼らにとっては正義の行いだ。

そうすることで、神へ示そうとしていた。自分たちは人々の罪を許さないと。

だから、今彼らは混乱していた。人族に神が味方しているという状況に。

「なんで……っ、なぜ、神がっ……っ」
「なぜ我らを……見捨てるのか……っ」

自分たちの信じてきた道は、なんだったのかと思わずにいられなかった。

今、映像は、戦いに移っているところだった。その中に、里を抜けた者たちの面影を見つけ、更に驚愕する。

「あいつらっ……強くなってる……っ」
「なんでだよっ。なんで掟を破って出てった奴らがっ、笑ってんだ!!」

怒り、困惑、悔しさ。様々な感情を抱きながらも、映像から目を逸らすことが出来ずにいると、その映像の前に、ふわりとエリスリリアが現れた。

「「「っ、え……」」」
「こんにちは」
「「「っ!!」」」

エリスリリアは物見櫓の上に降り立った。すると、いつの間にかその下に現れた人族が、その櫓から大きな白い布を広げて吊るす。これに、エリスリリアをアップにした映像が、映し出された。

「これで見えるかしら。改めて、こんにちは」
「「「っ……」」」

エリスリリアは微笑みを浮かべて驚く彼らを見下ろしたのだ。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 2,764

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話

Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」 「よっしゃー!! ありがとうございます!!」 婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。 果たして国王との賭けの内容とは――

先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動

志位斗 茂家波
ファンタジー
調査して準備ができれば、怖くはない。 むしろ、当事者なのに第3者視点でいることができるほどの余裕が持てるのである。 よくある婚約破棄とは言え、のんびり対応できるのだ!! ‥‥‥たまに書きたくなる婚約破棄騒動。 ゲスト、テンプレ入り混じりつつ、お楽しみください。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。