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第八章 学校と研修

301 力を貸してください

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会議から二ヶ月が経って、王都は大きく様変わりしていた。

王都拡張工事が始まったのは、会議から一週間後のこと。神教会からのお金の回収の目処が立ってすぐだ。白夜部隊がバイクで強襲したため、丸っと生捕に出来た。

そのまま矯正更生施設に放り込まれ、順次聖魔教に寝返っている。

一方この時既に、スラムの者たちの大半は聖魔教会で仕事をもらい、一日一食は摂れるようになっていたこともあり、働くことを前向きに受け入れようとしていた。

余裕が出ててきた者は、体力を付けるために軽い訓練を受けたりしており、健康的とまではまだいかないが、それなりに動けるようにはなっていた。

現状に満足していた彼らだが、それではいけない。教会では現金支給をしていないのだ。それは、本当に働いているとは言えない。

コウヤは彼らを前にして勧誘した。

「ここで、あなた方がしているのは、お手伝いです。奉仕です。食事が出来るのは、あくまでもお礼です。だから厳密に言って、あなた方は働いているとは言えません」

彼らは、働いている気でいた。人として正しい暮らしをし始めているのだと思っていた。

一度は弾かれ、ようやく立ち直れたと思っていたのだ。

「現状に満足してはいけません。あなた方は今、生きようとしている。生きるために働こうと思えている。それは良いことです。外で働きませんか? きちんとお金を稼いで、それで暮らしてみませんか?」

働いて、働いて、働いても苦しい暮らし、それがもうどうにもならなくて、抗うことを諦めて、無気力に路地に座り込んだ。時に寒くて、腹が減って惨めで、それらも感じなくなっていた。

けれど、神官達に追い立てられるようにして、また食事が出来るようになった。周りが見えるようになった。また生きようと思えたのだ。

だが、またきっと苦しくなる。そう思うと、教会の外で働くという勇気は出なかった。

そんな彼らに、コウヤは穏やかな笑みを向ける。語りかけるように告げる。

「堅実に働いて、それで生活できないのなら、それはあなた方が悪いわけではありません。国も動きました。これから、この王都は大きく変わります。正しく働いた者にそれに見合ったものが返るように」

それでも、怖いのだろう。挫折する自分が。絶望することが。

「少なくとも、ここで真面目に奉仕するあなた方の様子から見ても、外で働けないということはないはずです。試してみませんか? 皆さん一緒に」

彼らは周りを見た。同じ境遇となった者たち。一人ではないならばと少し心が楽になったようだ。

「あなた方にやっていただくのは、王都の拡張工事です。国が主導する仕事です。悪いようにはしません。力を貸してください」

これに彼らが応と答えたのは、コウヤだからだ。

教会の世話になっていた彼らは、コウヤのことも知っていた。目が合えば声をかけてくれるし、服を繕ってくれたりもした。そんなコウヤが勧めるのだ。やっても良いかなと思い始めていた彼らの心も決まる。

そうして、彼らは彼らと同じ状況の者たちにも声を掛け合い、拡張工事に参加してくれた。二ヶ月もすれば、スラムの住人達だけでなく、スラムの住人一歩手前という者たちにまで声を掛け、多くの者が集まった。

指揮を執るのはドラム組だ。

いくらドラム組でも、拡張工事は大事業だ。少数精鋭とはいえ、手に余ると思い、コウヤは王都にある大工へ声をかけていた。

最初は相手にされなかったのだが、ドラム組のやる作業を見学させた所、コウヤの勧誘から一週間後。大工達の方から手伝わせて欲しいと頭を下げてきた。

棟梁としれっと紛れ込んでいたゼストラークの指揮の下、働き出して数日後。大工達は全てドラム組の傘下に入っていた。

「棟梁! ゼスト様! 本日もよろしくお願いします!!」
「「「お願いします!!」」」

職人達は、腕を認め合うもの。お陰で、ゼストラークは近寄り難い神ではなくなっているらしい。神と分かっているかは半々だが、指導してくれる師匠的なポジションのようだ。

それは、棟梁がゼストラークの相棒のような、そんな関係を見たからかもしれない。ゼストラークもその関係を嬉しそうに受け入れていた。

初めて出来た親友らしい。

当然、棟梁も白目を剥かなくなっていた。

コウヤが現場に行くのは週に一度。国の代表として進捗しんちょく具合を確かめにニールやジルファス、ベルナディオを連れて行く。

終わりが見えて来た今は、次の段階の学園の設計図を手がけているが、この二ヶ月、コウヤは週の半分を王都の冒険者ギルドで過ごしていた。

「コウヤさ~ん。Z依頼の整理終わりました~」
「お、終わりました……」
「ありがとうございます。マイルズさん、ソルマさん」

タリスにせっ突かれ、冒険者ギルドの全てに監査が入った。手始めにこの国から始まったため、王都のギルドは既に済んでいる。

幸い汚職はなかったのだが、教育不足の職員が多いとの判断が下り、ギルドマスターのルナッカーダ以下、全てのギルド職員に指導と減給が言い渡された。

予想通り、ギルドマスターの補佐をしていたソルマは問題だった。本来、ギルドマスターの補佐の役職はサブギルドマスターだ。そう名乗っていなくても、そのポジションにいた。

本来のサブギルドマスターは、あの受付に居てコウヤへ声をかけてきた人だった。あの時は彼もソルマへの対応には消極的になっており、もう好きにしろという状態だったらしい。

ルナッカーダも他の職員とトラブルが起きて冒険者たちに不愉快な思いをさせるくらいならばと、手元に置くしかなかった。とはいえ、元貴族という出自と、知り合いから託されたという事情があったとはいえ、ギルド職員と認めたからには、そう指導しなくてはならなかったと反省している。

その責任は重いとし、ルナッカーダは本来の給料の半分以下にされている。その上に、一年以上放置されていた所謂いわゆる雑用依頼を、三ヶ月で消化するようにとの課題が課せられた。その内の大半は、ルナッカーダ自身で解決しなくてはならないらしい。

既に問題が解決されていたり、問題が更なる問題を引き起こしていないかの調査が出来ていなかったため、そこから始める必要があった。それらをルナッカーダがやれというわけだ。

しかし、罰とはいえ無理をさせるつもりはない。そこで、コウヤが派遣されたのだ。手始めに、王都のギルドを使えるようにしてくれと。わざわざ、現グランドマスター直々にコウヤの元へ来て頭を下げた。

エルフの血を引いた線の細い彼は、儚げに見えた。とっても美人な男性で、けれどタリスに匹敵する実力のある人らしい。武器は双剣。それも魔剣。コウヤは見た時にあっと思った。

伸びたり、縮んだり、炎が出たり氷が出たりするおふざけで作った凶暴な武器。戦闘狂の気がないと扱えない難しいその双剣は、氷に閉ざされた大地にある迷宮に隠したはずだった。

彼が普通に持っているというのを目の当たりにして、コウヤは頷いた『見た目じゃ分からないな~』と。

エルフの、美人で儚げな美中年さんが実は戦闘狂。きっと、その見た目のせいで実態が伝わらないのだろうと予想できてしまった。

この時も、戦闘狂のせの字も見当たらなかった。ひたすら申し訳なさそうにコウヤへ頭を下げていたのだ。


『言う事聞かない人達は気にしなくていいから……ごめんね。子どもの君にこんなこと……本当に、不甲斐ない大人でごめんね……っ。ああ、でも、君がいじめられたらどうしよう……そんな大人が居たら……埋めちゃう? バラバラにして畑の肥料にしようね。だから、嫌な事言われたりしたら言って? ね?』


物騒なことも聞こえたが、気のせいだろう。目の前のその人は、ウルウルと目を潤ませているのだから。

そんな訳で、コウヤは王都の冒険者ギルドの立て直しに駆り出された。これに伴い、面倒なソルマ対策のため、マイルズも引っ張ってきたのだ。コウヤへのグランドマスターの言葉を聞いていたタリスが『さすがに職員がミンチになるのは良くないからね』と言って決定した。

その後に『シーちゃんは言った事は止めない限りやる子だしね~』と言っていたのは、周りも聞かなかったことにした。

そうして、とりあえずソルマは関わらなければ良いと考えて仕事を開始したコウヤ。だが、一日経って、マイルズが言い含めたのか、すっかり大人しくなって仕事をもらいに来たため、そのままマイルズと一緒に仕事を割り振ったのだ。

話などはするタイミングがなかったため、二ヶ月ほど経った今でも、彼の考えは分からない。恐らくソルマも、謝るタイミングを失っているのだろう。とはいえ、コウヤからそのタイミングを作ってやる気はなかった。

「時間も良いので、二人とも先に休憩に入ってください」
「コウヤさんは?」
「買い取り窓口を確認してから休憩に入りますよ」
「分かりました。ではお先に休憩いただきます」
「休憩いただきます……」

二人を見送り、買い取りの窓口へ向かう。そこで、懐かしい顔ぶれに出会った。

「えっ、あ、やっぱりコウヤ!」
「ああ。お久しぶりです」

それは、コウヤがユースールの冒険者ギルドで働き出した頃、問題のあったギルドの上層部と喧嘩して出て行った冒険者達だった。

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読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
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