女神なんてお断りですっ。

紫南

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594 思わぬ参戦者

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2017. 6. 12

**********

着替えを終えると、その出来栄えにカルツォーネは満足して言う。

「それじゃ、私は先に外で待っているよ」

ティアの姿は、まるで若いマティアスを見るようで、カルツォーネは嬉しそうだった。

提供したラキアのメイド服もばっちり決まり、先に外で馬と馬車の用意をしている仲間達の元へ一足先に向かっていった。

ただ、王と王妃が残る部屋に感じる気配に気付いたのか、一度そちらの方向を見て意味深に微笑んでいた。

当然、その気配に気付いているティアも、なんとも言えない表情を浮かべていた。

「では、私も……」

カルツォーネの後を追おうとしていたラキア。それをティアが呼び止める。

「待って、ラキアちゃん。一緒に王様達に出発の挨拶をしよう」
「私も……ですか?」
「ははっ、そうだよ」

ラキアはとても不思議そうだ。それがティアには面白く、つい笑ってしまう。

「ラキアちゃんの将来の義理の両親だよ? ちゃんと自覚して」
「あっ、はっ、そ、そうなるのですね……っ」

どうも緊張しているようだ。本来ならば、立場や身分による反対も気にしなくてはならないのだが、そんな心配はティアが味方である以上、不要だった。

ただ、ラキアは両親を幼い頃に亡くしている。育てたクロノスは兄で、今雇われている伯爵家でも親と呼べなくもない人達はいるが、何よりも先に上司や主人という立場が感情的に邪魔をする。そのため、ラキアには『親』という存在が理解できなかった。

「珍しいね。そんなに動揺するの」
「はい……親というものに実感がなく……」
「嬉しくない?」
「嬉しいです」
「ふふっ、それは良かった」

そう答えた表情は、初めてメイド服を着た時の表情と同じだった。キラキラと輝くその瞳は変わらないなと感動する。

部屋に入ると、紅茶の良い香りがした。それはこの部屋に入り込んだ者が淹れたものだろう。ティアが好きな紅茶だ。苦笑を浮かべ、ティアは王ではなく客の方へ声をかけた。

「お茶をしに来たんですか? 妖精王」

王と王妃の向かいに座り、優雅にカップに口を付けるのは、妖精王だった。その傍らには、右腕であるフィンも控えている。

《君が心配でね。ほぉ、これは中々……今からでも遅くない。私と結婚しないか》

状況を理解しているだろうに、ティアの姿を見て、そう笑顔で言う妖精王。王には曲者が多いなと、ここにいるもう一人の王を思って改めて認識する。

「冗談はもっと暇な時に聞きますよ。でも……心配して来てくれたのは嬉しいです」

妖精王にとって、ティアは娘のような存在だ。それはきっと、この先もずっと変わらない。だから、結婚うんぬんの冗談は『大丈夫か』という確認と同義だ。これを冗談と受け止められる余裕があるかどうか確かめたのだ。

《そうか。ならば、ここで帰りを待たせてもらう事にしよう。大切な娘や息子が戦いから帰ってくるのを待つのは、親にとって辛い時間だからな》

そう妖精王が言うと、目の前に座る王と王妃がはっとした。

「妖精王様はもしや……」
《私にとってその子は娘のようなもの。一緒に待たせていただけるかな? もちろん、私が滞在中、この王宮の警護に心配はいらない》

妖精王は王達の不安を取り除くのと同時に、ティアが後ろを気にしなくても良いようにしようと言いたいようだ。

これにさすがに王が恐縮する。

「そのような気遣いまで……っ」
《構わないさ。紅翼の者達もいるしな》
「彼らをご存知で?」
《まあな》

紅翼の騎士達は現在、琥珀の迷宮というダンジョンを訓練場に使っている。当然、定期的に挑戦しに来る者達を、妖精王は把握していた。

まるで弟子を自慢するような妖精王を見て、ティアは笑みを浮かべる。

「気に入った?」
《ああ。あれくらい気骨のある騎士は久しぶりだからな。育て甲斐がある》
「それは良かった。じゃぁ、任せるね」
《存分に暴れてこい》
「ラジャ」

妖精王に激励され、同意するようにフィンも微笑みながらティアを見て頷いた。

それからティアは王と王妃に向き直る。

「必ず王太子とイル君を連れ戻すから」
「頼む……」

真っ直ぐに見つめる王に、ティアは安心しろと笑みを深めて頷く。すると、王妃がティアの後ろに控えていたラキアに声をかけた。

「ラキアさん。怪我などなさらないように気をつけてくださいね。エルと無事、帰ってきてください」
「はっ、はい」

そう言った王妃の後ろにいたエルヴァストの実母であるエイミールは、ラキアに向けて静かに深く頭を下げた。

「それじゃ、行ってくる」

ティアはそうして、ラキアを伴って扉に向かった。しかし、そこで制止の声が響いく。

「待って、ねぇさまっ」
「カイ君?」

緊張した面持ちでエイミールの後ろ、この部屋の続き間の方から駆け出して来たのはカイラントだった。

「ぼくも行く」
「え?」

舞踏会仕様からディムースで過ごしていた時に着ていたような動きやすい服装に替え、更にカイラントは、短剣を腰に差していた。

「ぼくになら、イルがどこにいるか分かる。それに、ガリュたちもいっしょに行ってくれるって」
「あの子達が? まさかあの子達……」

真っ直ぐにディムースに帰って行ったはずの三人のクィーグの子ども達。しかし、その気配が微妙にディムースに向かう道から外れているように感じる。

これを裏付けたのは妖精王だった。

《あれは、ディムースに向かったのではないな。先に先行する気だろう。心配するな。火のが気にしてついて行った》
「止めようよ……」

知っていたなら、なぜ止めてくれなかったのかと妖精王へ責めるように視線を向ける。

《大丈夫だろう。実力的に見ても、敵に悟られもしないさ。その子が行くというなら、護衛にだってなる。分かっているだろう?》

もちろん分かっている。混乱していたとはいえ、王宮の奥にまで誰にも見咎められる事なく侵入し、国中を数日で回り尽くす事が出来る実力。

もちろん、ダンジョンにも既に何度も挑戦済み。紅翼の騎士にも劣らないだけの戦闘能力もあるのは実証済みだった。

「それでも、まだ子どもです……何より、これから戦場になるような場所になど……」

暗躍させるならば問題ない。しかし、向かうのはティア達が戦いを仕掛けようとする場所。その上、神具や魔工学の天才と言われるジェルバの作った魔導具を相手にしなくてはならないのだ。

対人戦闘だけではどうにもならない相手と言える。そこに子どもを連れては行けないだろう。

そう言うティアに、妖精王は呆れたと笑う。

《君だって、十になる前に戦場に立っただろう。何より、友人が捕らえられているのを助けに行くんだ。そこに行く覚悟を持つのに、年齢なんて関係ないと思わないか?》
「……っ」

目の前のカイラントは、ぐっと口を真一文字に結んでティアを真っ直ぐに見つめている。そこにあるのは子どもであっても大人であっても、その思いの強さは変わらない。

それは『覚悟』だ。

「……分かりました。王様、王妃様、カイ君を連れて行きます。必ずイル君と連れて帰ってきますから」
「ああ。カイラント、無理だと思ったら、周りの大人に言うんだぞ」
「はいっ」

王はそれほど心配していないようだ。カイラントには良い経験だと思っているのではないだろうか。周りにはティアをはじめ、頼りになる者達が沢山いるのだ。鍛えるには絶好の機会だった。

一方、王妃は気が気ではない。だが、王が許可した以上、反対などできないと葛藤中だ。そんな王妃にトドメを刺すように、カイラントは決然と告げた。

「お母さま。行ってまいります」
「カイ……」

大変気の毒だが、ここはもう諦めてもらうしかない。子どもの成長は突然で時に急激なものだ。喜ばしいと思ってもらおう。

「なら、行こうか」
「はいっ、ねぇさま」
「では、私と一緒に参りましょう」
「うんっ」

ラキアと手をつなぎ、カイラントもついてくる。どのみち、先行した三人の子ども達もいるのだ。ティアも覚悟を決めた。

こうして、ティア達はウィストに出発したのだ。

**********

舞台裏のお話。

紅翼の騎士A「怪我人はこっちへ運べ」

紅翼の騎士B「馬車の点検、終わりました」

騎士「うっ……」

紅翼の騎士C「止血はできた。すまないな。辛いだろうが、お帰りになる貴族の方々の護衛達を優先する。動かぬように」

騎士「はい……」

近衛騎士「なんであいつら、あんなに動けるんだ……」

貴族A「あれが紅翼の……」

貴族B「先に我々を帰す気のようですね。助かります」

貴族A「ああ……はっきり言って、この場では私たちは何の役にも立たんからな……」

紅翼の騎士B「お待たせいたしました。護衛も回復しておりますので、お気をつけてお帰りください」

貴族A「そうか……すまないな」

紅翼の騎士B「いいえ。慌しくて申し訳ありません。三日の内には城も元通りにいたしますのでご安心を」

貴族A「あれをか……?」

紅翼の騎士団長「第三班、第四班は外の瓦礫の撤去作業を開始しろ。第五班はダンスホール、第六班は城内を近衛の方々と回りながら侵入経路のチェックと清掃だ。かかれ!」

紅翼の騎士達「「「はっ!」」」

貴族達「「「……」」」

紅翼の騎士団長「日が昇るまでに片付けられるな」

副団長「そうですね。私はひとっ走り、創工師の所へ行って参ります」

紅翼の騎士団長「ああ、頼む。私は大臣に報告だ」

騎士達「「「…….すごい……」」」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


デキる奴らなので。


これで全員です。


次回、金曜16日の0時です。
よろしくお願いします◎
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