407 / 457
連載
583 過去編 23 国を想って
しおりを挟む
2017. 4. 24
楽しみにしていただいている皆様。
申し訳ございません。
ドクターストップにより、次回連載を5月5日にさせていただきます。
しっかり休みます。
では、本日投稿分をどうぞ。
**********
騎士達には、誰よりもこの国の現状を憂いているのがサティアだと知っている。
自分が、母マティアスのように絶対的な存在だったなら、こんな事態になる前に食い止められたはずなのにと。
「いいえ。一番お辛いのは、サティア様やレナード様です。どうかご無事で、この国を一から立て直しましょう。大丈夫です。怪我を負った者はおりますが、この戦いで死者は出ていません」
「そう……だね。上手くやってくれて助かったよ」
反乱軍との小競り合いは、全て上手く騎士達が戦う振りをして撤退、または引き分け。騎士達に、率先して民を傷付ける者はいない。それでもわざとらしくならず、変わらず反乱軍の士気が高いのは、それだけ騎士達の実力がずば抜けているからだ。
「そのような……我々は、もっとサティア様のお役に……」
「ううん。充分だよ。国を頼むね。引退したけど、困ったらキルじぃちゃんを頼ってさ。まだまだ呆ける気はないって息巻いてるって聞いたから」
「そうでしたか。キルスロート様ならば、確かに良い相談役になっていただけるでしょう」
騎士達の中にも慕っていた者は多い。長く魔術師長として勤めてきたキルスロートは、頼りになる先生だったのだから。
「じぃちゃんが呆けるのは見たくないからね。煩いくらいにしてやってよ」
そう言って、サティアはまたねと言わんばかりの気安さで手を振ると寄宿舎を飛び出した。
本当はもう会う事もないかもしれないと感じている。それでも、それは口に出来なかった。
この後、反乱軍の幹部達を王に会わせる。確かにそこに王がいるのだと。もう正気ではないのだと教える為に。それから、騎士達に上手く反乱軍の者達を逃してもらい、城を爆破する。国の象徴を消すのだ。
民達には示さなくてはならない。自分たちを苦しめた国は一度滅んだのだという事を。城を爆破するなど、大げさかもしれない。けれど、一度離れてしまった人の心を取り戻すのは簡単な事ではない。
レナードの計画では、レナード自身が父親である王を討つつもりだったらしい。けれど、周りのレナードを知る者達が皆、反対していたようだ。
当然だ。それが国のためであったとしても、誰よりも王を尊敬していたレナードにその王を討たせるなどできない。
次期王としての務めだと言われても、頷けない。マティアスもなく、国防の頼みの綱となり得たサティアも、レナードは国から出してしまった。
ここでレナードまでおかしくなってしまえば、国は間違いなく隣国から蹂躙され、奪われてしまうだろう。国政に関わる誰もが、それだけは避けなくてはと必死だった。
だからサティアがそれ以外の方法を提示したのだ。それに、臣下達は頷いた。
何より、もしもレナードに何かあっても、サティアは友好国であるラピスタに嫁いだのだ。セランディーオは秀れた人物と情報も届いている。万が一の場合はラピスタに国を明け渡す事で、民達は守られる。
だが、それはあくまでも、どうにもならなくなった場合のものだ。王はダメなのかもしれないけれど、レナードが王として国を立て直す事に問題はないだろう。
民達と協力し、また数年前の賑やかだった国に戻すのにそう時間はかからないはずだ。他の兄姉達もこれに加われば、臣下達の負担も軽減できる。
だが、自分はと思うのだ。王だけを一人にする事は出来ない。母であるマティアスを本気で愛し、それを亡くして壊れてしまった人だから。もうダメだと分かったなら、一緒に母の元へ行ってやろうと思った。
この考えだけは、誰にも悟られてはいけない。兄姉達に知られれば、自分達もと言い出して動かなくなるだろう。かなりの確率で、王妃達も加わる。そうなってはレナードの支えが減ってしまう。
サティアは、離宮に向かいながら、苦笑して呟く。
「……レナード兄様はシスコンだもん。絶対、私がいなくなったら立ち直るのに時間がかかるよね。それを考えたら……あ~、もっと隠密行動にするんだった。それと、セリ様には悪いけど、国が立ち直るまで、私が生きてるように振舞ってもらって……でも、姉様達は誤魔化せないよね~」
いつもの警備は今、この城にはない。定期的に兵達が巡回する音も、メイド達が掃除する音も、何も聞こえない。
だから、サティアは必要以上に今の状況なんて無視した明るめの声で、独り言を発するのだ。
「まぁ、あいつらとか、団長達なら上手く誤魔化してくれるよね~。『国のためなら最大級に空気を読める子になる』もんね。うんうんっ。キルじいちゃんの言葉は偉大だ」
いつだったかキルスロートが言っていた。体力バカな所は否めないが、団長達をはじめ、騎士達は国のためならば嘘を吐くのも厭わない。文字通り、墓まで持っていくだろう。
レナードを、国を支えるための嘘ならば、彼らは喜んで吐く。それを信じて、サティアは離宮へ向かった。
ちょうどその時、離宮にかかっていた結界が解ける。
「え……なんで……」
それは、魔力を正確に見る目を持つサティアにはわかった。術者が解いたわけではない。術が解けてしまったのだ。
「まさかっ」
あの結界を張っていたのは中にいる王妃達だったはず。きっと彼女達に何かあったのだ。
サティアは誰もいない王宮を全速力で駆ける。その先に、最悪の結末があると予感があっても……
**********
舞台裏も休載。
では次回、金曜5月5日です。
よろしくお願いします◎
楽しみにしていただいている皆様。
申し訳ございません。
ドクターストップにより、次回連載を5月5日にさせていただきます。
しっかり休みます。
では、本日投稿分をどうぞ。
**********
騎士達には、誰よりもこの国の現状を憂いているのがサティアだと知っている。
自分が、母マティアスのように絶対的な存在だったなら、こんな事態になる前に食い止められたはずなのにと。
「いいえ。一番お辛いのは、サティア様やレナード様です。どうかご無事で、この国を一から立て直しましょう。大丈夫です。怪我を負った者はおりますが、この戦いで死者は出ていません」
「そう……だね。上手くやってくれて助かったよ」
反乱軍との小競り合いは、全て上手く騎士達が戦う振りをして撤退、または引き分け。騎士達に、率先して民を傷付ける者はいない。それでもわざとらしくならず、変わらず反乱軍の士気が高いのは、それだけ騎士達の実力がずば抜けているからだ。
「そのような……我々は、もっとサティア様のお役に……」
「ううん。充分だよ。国を頼むね。引退したけど、困ったらキルじぃちゃんを頼ってさ。まだまだ呆ける気はないって息巻いてるって聞いたから」
「そうでしたか。キルスロート様ならば、確かに良い相談役になっていただけるでしょう」
騎士達の中にも慕っていた者は多い。長く魔術師長として勤めてきたキルスロートは、頼りになる先生だったのだから。
「じぃちゃんが呆けるのは見たくないからね。煩いくらいにしてやってよ」
そう言って、サティアはまたねと言わんばかりの気安さで手を振ると寄宿舎を飛び出した。
本当はもう会う事もないかもしれないと感じている。それでも、それは口に出来なかった。
この後、反乱軍の幹部達を王に会わせる。確かにそこに王がいるのだと。もう正気ではないのだと教える為に。それから、騎士達に上手く反乱軍の者達を逃してもらい、城を爆破する。国の象徴を消すのだ。
民達には示さなくてはならない。自分たちを苦しめた国は一度滅んだのだという事を。城を爆破するなど、大げさかもしれない。けれど、一度離れてしまった人の心を取り戻すのは簡単な事ではない。
レナードの計画では、レナード自身が父親である王を討つつもりだったらしい。けれど、周りのレナードを知る者達が皆、反対していたようだ。
当然だ。それが国のためであったとしても、誰よりも王を尊敬していたレナードにその王を討たせるなどできない。
次期王としての務めだと言われても、頷けない。マティアスもなく、国防の頼みの綱となり得たサティアも、レナードは国から出してしまった。
ここでレナードまでおかしくなってしまえば、国は間違いなく隣国から蹂躙され、奪われてしまうだろう。国政に関わる誰もが、それだけは避けなくてはと必死だった。
だからサティアがそれ以外の方法を提示したのだ。それに、臣下達は頷いた。
何より、もしもレナードに何かあっても、サティアは友好国であるラピスタに嫁いだのだ。セランディーオは秀れた人物と情報も届いている。万が一の場合はラピスタに国を明け渡す事で、民達は守られる。
だが、それはあくまでも、どうにもならなくなった場合のものだ。王はダメなのかもしれないけれど、レナードが王として国を立て直す事に問題はないだろう。
民達と協力し、また数年前の賑やかだった国に戻すのにそう時間はかからないはずだ。他の兄姉達もこれに加われば、臣下達の負担も軽減できる。
だが、自分はと思うのだ。王だけを一人にする事は出来ない。母であるマティアスを本気で愛し、それを亡くして壊れてしまった人だから。もうダメだと分かったなら、一緒に母の元へ行ってやろうと思った。
この考えだけは、誰にも悟られてはいけない。兄姉達に知られれば、自分達もと言い出して動かなくなるだろう。かなりの確率で、王妃達も加わる。そうなってはレナードの支えが減ってしまう。
サティアは、離宮に向かいながら、苦笑して呟く。
「……レナード兄様はシスコンだもん。絶対、私がいなくなったら立ち直るのに時間がかかるよね。それを考えたら……あ~、もっと隠密行動にするんだった。それと、セリ様には悪いけど、国が立ち直るまで、私が生きてるように振舞ってもらって……でも、姉様達は誤魔化せないよね~」
いつもの警備は今、この城にはない。定期的に兵達が巡回する音も、メイド達が掃除する音も、何も聞こえない。
だから、サティアは必要以上に今の状況なんて無視した明るめの声で、独り言を発するのだ。
「まぁ、あいつらとか、団長達なら上手く誤魔化してくれるよね~。『国のためなら最大級に空気を読める子になる』もんね。うんうんっ。キルじいちゃんの言葉は偉大だ」
いつだったかキルスロートが言っていた。体力バカな所は否めないが、団長達をはじめ、騎士達は国のためならば嘘を吐くのも厭わない。文字通り、墓まで持っていくだろう。
レナードを、国を支えるための嘘ならば、彼らは喜んで吐く。それを信じて、サティアは離宮へ向かった。
ちょうどその時、離宮にかかっていた結界が解ける。
「え……なんで……」
それは、魔力を正確に見る目を持つサティアにはわかった。術者が解いたわけではない。術が解けてしまったのだ。
「まさかっ」
あの結界を張っていたのは中にいる王妃達だったはず。きっと彼女達に何かあったのだ。
サティアは誰もいない王宮を全速力で駆ける。その先に、最悪の結末があると予感があっても……
**********
舞台裏も休載。
では次回、金曜5月5日です。
よろしくお願いします◎
10
お気に入りに追加
4,560
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました
夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、
そなたとサミュエルは離縁をし
サミュエルは新しい妃を迎えて
世継ぎを作ることとする。」
陛下が夫に出すという条件を
事前に聞かされた事により
わたくしの心は粉々に砕けました。
わたくしを愛していないあなたに対して
わたくしが出来ることは〇〇だけです…
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。