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562 ちょっとした裏事情です
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2017. 2. 10
**********
王女であっても、ヒュリアは外交をする為にこの国へ来たわけではない。
そして、この国の各教育機関には、ヒュリアが王女である事は関係なかった。学びたいとやって来た者は拒まない。しかし、それでも他国の者が来る事は今まで殆どなかった。
ヒュリアは学生としてとても優秀で、教師達の覚えも良い。何よりヒュリア自身、学ぶ為に来たのだと態度と成績で、しっかり示していた。
だからこそ、ここで王の前に立つつもりはなかったようだ。この舞踏会へ参加したのも、友人となった女生徒の紹介だった。
ティアはヒュリアを伴い、王のいる場所までやって来た。
「お待たせしました」
「おお。彼女がウィストの」
王は人好きのする笑顔でヒュリアを迎える。その歓迎されていると思える笑みに、ヒュリアは動揺しながら頭を下げる。
「ご、ご挨拶もせず、大変失礼いたしました。ヒュリア・ウィストと申します。今年度よりフェルマー学園へ編入いたしました」
「はははっ、そう固くならずに。歓迎しよう。ヒュリア王女」
そう言われると、ヒュリアは恐縮する。
「あ、いえ、どうか王女と呼ぶのはお許しを……自国へ殆ど戻らないような無責任な娘です。王家の者として役割りを放棄しているにも等しい……」
ヒュリアは、長く他国へ留学していた。王女として参加するべき行事も大半を無視し続けて来たらしい。ヒュリアは放蕩者だと言われても否定する気はなかった。
だが、ティアにはそうは見えない。責任感があるからこそ、今自国の事で悩んでいるのだから。ヒュリアに負けず劣らず自由に生きていたサティアの頃の事を思い出すと苦笑してしまう。
面には出ないが、ティアが何か気まずい思いをしている事が、王にはわかったらしい。ティアを一度見てから、また王はヒュリアへ言った。
「ならば、ヒュリア嬢。この国はどうですかな」
緊張しているのだろう。しかし、ヒュリアは背筋を伸ばしてそれにはっきりと答えた。
「これほど活気がある国を、私は知りませんでした。隣国であるにも関わらず、知らなかったのです。学園もそうです。貴族の子息が通う学園とは……私には物足りないものでした」
真新しい知識など期待できない。当たり前の事を学ぶ場所。貴族の通う学園は、ただ淡々と学んでいく場所というのが一般的だ。しかし、フェルマー学園はそうではない。
「傲慢にも私は、この国へ来るまで、学園ではそれ程学べる事はないと思っていたのです。ですが……毎日が驚きと楽しさで満ち溢れている。何より……こう申しては失礼なのですが……貴族の子息特有の高慢さがあまり感じられないのです。真摯に皆が学ぼうとしている。これほど素晴らしい学び舎はありません」
ヒュリアはフェルマー学園に来て思ったのだ。ここが本当に来たかった場所なのだと。
「私を最初に学園を案内してくれた少女が教えてくれました。フェルマー学園は種族や国は関係なく受け入れ、世界の様々な者達と触れ合う事で、より良い世界を考えるべく作られた学び舎だと……それを聞いた時、私はここへ来られて良かった……フェルマー学園を知る事が出来て良かったと思ったのです」
こんな学園があるなど知らなかった。それを知れたのだと思った時、胸が熱くなったと言う。
「それ程気に入ってもらえるとは嬉しい限りだ。とはいえ、数年前までは他とはそう変わらなかっただろう……今来られて良かった」
「え?」
苦笑する王に、ヒュリアは不思議がる。その王の視線が、ティアへと向けられた事で、ヒュリアも隣にいるティアを見た。
ティアは微妙な顔をしていた。そんなティアへ王がからかうように言う。
「随分、手をかけたようだな」
「……それ、今言わないでもらえます?」
「いや、君の事については、思った時に言っておこうと決めたのだ」
「変な決め事しないでください。だいたい、あれは先生方の努力の賜物です……目に付いたのは指導したけど……」
「ん? なんだ?」
「いえ、なんでもありません」
実はティアは、高慢な問題児に対して個人指導していた。勿論、本性をギリギリ見せないもので言い訳などさせない正論を並べ立て、徹底的に言い負かしたのだ。お陰で、今年度の入学、編入組以外は大人しいものになっていた。
ティアの指導もあるが、後は教師達の努力によるものだった。フェルマー学園には、優秀な教師が揃っている。
そんな事情をなぜ知っているのか。王に知られているとは思っていなかったので、少し動揺したというのは秘密だ。
「それより、ヒュリア様。王にご相談する事があったはずです」
「は、はい。ですが……」
「何かね? 聞こうじゃないか」
王に促され、ヒュリアはゆっくりと口を開いたのだった。
**********
舞台裏のお話。
エル「近寄り難いな」
ラキア「なんだか困っておられますね……」
エル「父上に何を言われているのか……」
ラキア「……どうやら、ティア様が学園の裏で動いていた事を知られてしまったようです」
エル「ん? 学園の裏? 何をしていたんだ?」
ラキア「教育的指導です」
エル「……う、うん……ちょっとよく分からないんだが?」
ラキア「ティア様が学園を仕切っているという事です」
エル「それはわかっている」
ラキア「そうですか。では、そういう事です」
エル「そいう事か」
ラキア「はい」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
理解できたようです。
とっても勉強熱心な王女様です。
では次回、月曜13日の0時です。
よろしくお願いします◎
**********
王女であっても、ヒュリアは外交をする為にこの国へ来たわけではない。
そして、この国の各教育機関には、ヒュリアが王女である事は関係なかった。学びたいとやって来た者は拒まない。しかし、それでも他国の者が来る事は今まで殆どなかった。
ヒュリアは学生としてとても優秀で、教師達の覚えも良い。何よりヒュリア自身、学ぶ為に来たのだと態度と成績で、しっかり示していた。
だからこそ、ここで王の前に立つつもりはなかったようだ。この舞踏会へ参加したのも、友人となった女生徒の紹介だった。
ティアはヒュリアを伴い、王のいる場所までやって来た。
「お待たせしました」
「おお。彼女がウィストの」
王は人好きのする笑顔でヒュリアを迎える。その歓迎されていると思える笑みに、ヒュリアは動揺しながら頭を下げる。
「ご、ご挨拶もせず、大変失礼いたしました。ヒュリア・ウィストと申します。今年度よりフェルマー学園へ編入いたしました」
「はははっ、そう固くならずに。歓迎しよう。ヒュリア王女」
そう言われると、ヒュリアは恐縮する。
「あ、いえ、どうか王女と呼ぶのはお許しを……自国へ殆ど戻らないような無責任な娘です。王家の者として役割りを放棄しているにも等しい……」
ヒュリアは、長く他国へ留学していた。王女として参加するべき行事も大半を無視し続けて来たらしい。ヒュリアは放蕩者だと言われても否定する気はなかった。
だが、ティアにはそうは見えない。責任感があるからこそ、今自国の事で悩んでいるのだから。ヒュリアに負けず劣らず自由に生きていたサティアの頃の事を思い出すと苦笑してしまう。
面には出ないが、ティアが何か気まずい思いをしている事が、王にはわかったらしい。ティアを一度見てから、また王はヒュリアへ言った。
「ならば、ヒュリア嬢。この国はどうですかな」
緊張しているのだろう。しかし、ヒュリアは背筋を伸ばしてそれにはっきりと答えた。
「これほど活気がある国を、私は知りませんでした。隣国であるにも関わらず、知らなかったのです。学園もそうです。貴族の子息が通う学園とは……私には物足りないものでした」
真新しい知識など期待できない。当たり前の事を学ぶ場所。貴族の通う学園は、ただ淡々と学んでいく場所というのが一般的だ。しかし、フェルマー学園はそうではない。
「傲慢にも私は、この国へ来るまで、学園ではそれ程学べる事はないと思っていたのです。ですが……毎日が驚きと楽しさで満ち溢れている。何より……こう申しては失礼なのですが……貴族の子息特有の高慢さがあまり感じられないのです。真摯に皆が学ぼうとしている。これほど素晴らしい学び舎はありません」
ヒュリアはフェルマー学園に来て思ったのだ。ここが本当に来たかった場所なのだと。
「私を最初に学園を案内してくれた少女が教えてくれました。フェルマー学園は種族や国は関係なく受け入れ、世界の様々な者達と触れ合う事で、より良い世界を考えるべく作られた学び舎だと……それを聞いた時、私はここへ来られて良かった……フェルマー学園を知る事が出来て良かったと思ったのです」
こんな学園があるなど知らなかった。それを知れたのだと思った時、胸が熱くなったと言う。
「それ程気に入ってもらえるとは嬉しい限りだ。とはいえ、数年前までは他とはそう変わらなかっただろう……今来られて良かった」
「え?」
苦笑する王に、ヒュリアは不思議がる。その王の視線が、ティアへと向けられた事で、ヒュリアも隣にいるティアを見た。
ティアは微妙な顔をしていた。そんなティアへ王がからかうように言う。
「随分、手をかけたようだな」
「……それ、今言わないでもらえます?」
「いや、君の事については、思った時に言っておこうと決めたのだ」
「変な決め事しないでください。だいたい、あれは先生方の努力の賜物です……目に付いたのは指導したけど……」
「ん? なんだ?」
「いえ、なんでもありません」
実はティアは、高慢な問題児に対して個人指導していた。勿論、本性をギリギリ見せないもので言い訳などさせない正論を並べ立て、徹底的に言い負かしたのだ。お陰で、今年度の入学、編入組以外は大人しいものになっていた。
ティアの指導もあるが、後は教師達の努力によるものだった。フェルマー学園には、優秀な教師が揃っている。
そんな事情をなぜ知っているのか。王に知られているとは思っていなかったので、少し動揺したというのは秘密だ。
「それより、ヒュリア様。王にご相談する事があったはずです」
「は、はい。ですが……」
「何かね? 聞こうじゃないか」
王に促され、ヒュリアはゆっくりと口を開いたのだった。
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舞台裏のお話。
エル「近寄り難いな」
ラキア「なんだか困っておられますね……」
エル「父上に何を言われているのか……」
ラキア「……どうやら、ティア様が学園の裏で動いていた事を知られてしまったようです」
エル「ん? 学園の裏? 何をしていたんだ?」
ラキア「教育的指導です」
エル「……う、うん……ちょっとよく分からないんだが?」
ラキア「ティア様が学園を仕切っているという事です」
エル「それはわかっている」
ラキア「そうですか。では、そういう事です」
エル「そいう事か」
ラキア「はい」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
理解できたようです。
とっても勉強熱心な王女様です。
では次回、月曜13日の0時です。
よろしくお願いします◎
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