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539 夜更かし?
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2016. 12. 11
**********
ティアは、王子達を早めに寝かしつけてからギルドへ向かった。
寂しがって、ティアのベッドに潜り込んで来たシアンも、ぐっすりと眠っていたのを確認していた。
シアンは、こうして夜中に屋敷を抜け出すティアを知っている。ティアに敵う者はいないという確信の元での許可が出ていた。
王子達の目が覚めてティアがいないと知っても、ティアが信頼するシアンに慣れた二人だ。怖がる事はないだろう。
安心して、ティアは一人で町の通りを駆けていった。
サルバの冒険者ギルドは、その頃、まだ賑やかだ。
ティアがギルドの扉をくぐると、真っ先に気付いたのはボランだった。
「ティア。またこんな時間に……」
いくら強くてもティアは十二の少女だ。真夜中近い時分に、町の中とはいえ、出歩くものではないとボランは注意する。
もう毎回の事なので、こうして注意してくれる存在は数人しか残っていない。
「久しぶり、ボランさんっ。結婚おめでとう」
「あ、あぁ。ありがとう」
ボランはつい最近、結婚したという話を、シェリスから聞いていた。
他人に感心のないシェリスがなぜそんな事を知っていたかというと、それは、ボランの相手が関係している。
「マーナさんの仕事が終わるのを待ってるの?」
「そうだ……」
ボランの結婚相手。それは、ギルドの受付嬢であったマーナだった。その時、噂していたマーナが帰り支度を済ませてやって来た。
「お待たせ」
「おぉ」
「あら。ティアさん。こんな時間にまたマスターのところですか?」
マーナもティアの夜中の出歩きを注意する人の一人だ。
「うん。シェリー、まだ居るでしょ?」
「いらっしゃいますよ。あまり遅くまで居てはいけませんよ」
「分かってる。シェリーも歳だしね」
「えぇ……それもありますね……」
明日の仕事に響かない程度にしてくれとマーナに言われ、ティアはそういえばシェリスは歳だったなと答える。これにマーナは何とも言えない顔をした。すると、ボランが言った。
「マスターは大人だから加減出来るさ。けど、君はあまり夜更かしするなよ」
「私も加減出来るよ?」
ティアも、明日が辛くなる時間は分かる。だが、そんな事、まだ十代の少女が考えられるとは思えないのだろう。
ボランもマーナも、ティアを子ども扱いするのだ。
「ダメですよ。ティアさんは体力もありますけれど、それとは関係ありませんから。ちゃんと寝てくださいね」
「は~い」
良い返事をしながら、手を振り、マスターの部屋へ向かったのだ。
部屋の前に着くと、いつものように、ノックをする前にシェリスは気付く。
「こんばんは」
「いらっしゃい、ティア」
招き入れられると、直ぐにシェリスはお茶を用意してくれる。それが整う間、向けた視線の先。執務机の上には、珍しくまだやりかけの書類が積まれていた。
「シェリー、お仕事終わらないの?」
「えぇ……実は、ウィストに関する相談の手紙の対応に追われておりまして……」
手紙の返事を書くのに、通常業務が滞っていたのだ。
「シェリーが、対応してるの?」
「はい。要らぬ憶測を飛ばさせるよりは良いかと引き受けたのですが……」
「へぇ……珍しい……」
シェリスが他の仕事を受けるなど、そうそうある事ではない。
自ら仕事をするほどやる気がある訳でもないのだ。ザルバの事だけやっていれば良いとシェリスは思って引き受けてきた。
どうやら手紙は、国内外問わず送られてくるようで、それらに全て回答しているらしい。
「ティアがやりにくくなるといけませんからね。憶測でいたずらに世情を乱されては困りますでしょう」
珍しい行動のシェリスだったが、全てはティアの為らしかった。
「それは……そうだね……」
「それでティア。髪の色が変わったと聞きましたが、見せて頂けますか?」
「うん。そうだった」
今回、ティアがここへ来た理由の一つは、シェリスに変化した髪や目の色を見せる為だったのだ。
話を聞いただけで満足するようなシェリスではない。暴走したり、いじけられる前に、全て明かしておくのが良策だ。
そして、魔族が得意とする色変化の術を素早く解いた。
「こんな感じ」
「これは……っ」
目を丸くしてかつてと同じ色になった髪と瞳の色をマジマジと見るシェリス。次いで、優しく目を細めたのだ。
「……懐かしいですね……」
「そういうもの? カル姐とサクヤ姐さんにもそういう目で見られたけど」
カルツォーネとサクヤも、感慨深いと思っていたのだろう。顔は違うが、雰囲気もその瞳に宿る感情も、ティアに間違いないのだ。懐かしいと思っても仕方がない。
「ついでに、種族を確認して来いって、カル姐に言われたんだけど」
そう言うと、シェリスはハッとした。
「そうですね。ですが……もう確定しているかと」
「そうなの?」
「えぇ。マティが昔言っていました。髪が赤くなってしばらくして、師と思える恩人が出来たそうなのですが、その方に『人は、一気に一定量、魔力が増える事によって髪が焼けて赤くなる。それがハイヒューマンへの変化だ』と言われたそうです」
カルツォーネが言っていた。マティアスの髪は元々赤くなかったというのは、本当だったようだ。
**********
舞台裏のお話。
ボラン「マーナ……その……式はどうする……」
マーナ「挙げなくても、皆が認識しているなら良いでしょう。お金もかかりますし」
ボラン「そうか? だが……ドレスは……」
マーナ「似合わないわよ。私ももう、三十五よ?」
ボラン「……すまん……」
マーナ「なに謝ってるのよ」
ボラン「いや、もっと俺が早く……」
マーナ「最初から、Aランクになったらという約束だったもの。 他の人となら、そんな約束しないわ」
ボラン「そ、そうか」
マーナ「それに、ゲイルさんとクレアさんの話に憧れてたっていうのもあるわね」
ボラン「あぁ……」
マーナ「何を暗くなってるのよ。いいじゃない。Aランクになれたもの。約束は守ってくれたわ。それで充分よ」
ボラン「そうか……ありがとな……」
マーナ「っ……バカね。あなたとしか最初から考えてないわよ……」
ボラン「っ、俺もだ」
マーナ「っ、か、帰りましょ」
ボラン「そうだな」
冒険者「羨ましいっすね……」
職員「誇らしくもありますけどね」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
最高のカップルなのかもです。
ボランとマーナは結婚していました。
珍しく暴走もしないシェリス。
髪が赤くなる理由が明らかに。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
**********
ティアは、王子達を早めに寝かしつけてからギルドへ向かった。
寂しがって、ティアのベッドに潜り込んで来たシアンも、ぐっすりと眠っていたのを確認していた。
シアンは、こうして夜中に屋敷を抜け出すティアを知っている。ティアに敵う者はいないという確信の元での許可が出ていた。
王子達の目が覚めてティアがいないと知っても、ティアが信頼するシアンに慣れた二人だ。怖がる事はないだろう。
安心して、ティアは一人で町の通りを駆けていった。
サルバの冒険者ギルドは、その頃、まだ賑やかだ。
ティアがギルドの扉をくぐると、真っ先に気付いたのはボランだった。
「ティア。またこんな時間に……」
いくら強くてもティアは十二の少女だ。真夜中近い時分に、町の中とはいえ、出歩くものではないとボランは注意する。
もう毎回の事なので、こうして注意してくれる存在は数人しか残っていない。
「久しぶり、ボランさんっ。結婚おめでとう」
「あ、あぁ。ありがとう」
ボランはつい最近、結婚したという話を、シェリスから聞いていた。
他人に感心のないシェリスがなぜそんな事を知っていたかというと、それは、ボランの相手が関係している。
「マーナさんの仕事が終わるのを待ってるの?」
「そうだ……」
ボランの結婚相手。それは、ギルドの受付嬢であったマーナだった。その時、噂していたマーナが帰り支度を済ませてやって来た。
「お待たせ」
「おぉ」
「あら。ティアさん。こんな時間にまたマスターのところですか?」
マーナもティアの夜中の出歩きを注意する人の一人だ。
「うん。シェリー、まだ居るでしょ?」
「いらっしゃいますよ。あまり遅くまで居てはいけませんよ」
「分かってる。シェリーも歳だしね」
「えぇ……それもありますね……」
明日の仕事に響かない程度にしてくれとマーナに言われ、ティアはそういえばシェリスは歳だったなと答える。これにマーナは何とも言えない顔をした。すると、ボランが言った。
「マスターは大人だから加減出来るさ。けど、君はあまり夜更かしするなよ」
「私も加減出来るよ?」
ティアも、明日が辛くなる時間は分かる。だが、そんな事、まだ十代の少女が考えられるとは思えないのだろう。
ボランもマーナも、ティアを子ども扱いするのだ。
「ダメですよ。ティアさんは体力もありますけれど、それとは関係ありませんから。ちゃんと寝てくださいね」
「は~い」
良い返事をしながら、手を振り、マスターの部屋へ向かったのだ。
部屋の前に着くと、いつものように、ノックをする前にシェリスは気付く。
「こんばんは」
「いらっしゃい、ティア」
招き入れられると、直ぐにシェリスはお茶を用意してくれる。それが整う間、向けた視線の先。執務机の上には、珍しくまだやりかけの書類が積まれていた。
「シェリー、お仕事終わらないの?」
「えぇ……実は、ウィストに関する相談の手紙の対応に追われておりまして……」
手紙の返事を書くのに、通常業務が滞っていたのだ。
「シェリーが、対応してるの?」
「はい。要らぬ憶測を飛ばさせるよりは良いかと引き受けたのですが……」
「へぇ……珍しい……」
シェリスが他の仕事を受けるなど、そうそうある事ではない。
自ら仕事をするほどやる気がある訳でもないのだ。ザルバの事だけやっていれば良いとシェリスは思って引き受けてきた。
どうやら手紙は、国内外問わず送られてくるようで、それらに全て回答しているらしい。
「ティアがやりにくくなるといけませんからね。憶測でいたずらに世情を乱されては困りますでしょう」
珍しい行動のシェリスだったが、全てはティアの為らしかった。
「それは……そうだね……」
「それでティア。髪の色が変わったと聞きましたが、見せて頂けますか?」
「うん。そうだった」
今回、ティアがここへ来た理由の一つは、シェリスに変化した髪や目の色を見せる為だったのだ。
話を聞いただけで満足するようなシェリスではない。暴走したり、いじけられる前に、全て明かしておくのが良策だ。
そして、魔族が得意とする色変化の術を素早く解いた。
「こんな感じ」
「これは……っ」
目を丸くしてかつてと同じ色になった髪と瞳の色をマジマジと見るシェリス。次いで、優しく目を細めたのだ。
「……懐かしいですね……」
「そういうもの? カル姐とサクヤ姐さんにもそういう目で見られたけど」
カルツォーネとサクヤも、感慨深いと思っていたのだろう。顔は違うが、雰囲気もその瞳に宿る感情も、ティアに間違いないのだ。懐かしいと思っても仕方がない。
「ついでに、種族を確認して来いって、カル姐に言われたんだけど」
そう言うと、シェリスはハッとした。
「そうですね。ですが……もう確定しているかと」
「そうなの?」
「えぇ。マティが昔言っていました。髪が赤くなってしばらくして、師と思える恩人が出来たそうなのですが、その方に『人は、一気に一定量、魔力が増える事によって髪が焼けて赤くなる。それがハイヒューマンへの変化だ』と言われたそうです」
カルツォーネが言っていた。マティアスの髪は元々赤くなかったというのは、本当だったようだ。
**********
舞台裏のお話。
ボラン「マーナ……その……式はどうする……」
マーナ「挙げなくても、皆が認識しているなら良いでしょう。お金もかかりますし」
ボラン「そうか? だが……ドレスは……」
マーナ「似合わないわよ。私ももう、三十五よ?」
ボラン「……すまん……」
マーナ「なに謝ってるのよ」
ボラン「いや、もっと俺が早く……」
マーナ「最初から、Aランクになったらという約束だったもの。 他の人となら、そんな約束しないわ」
ボラン「そ、そうか」
マーナ「それに、ゲイルさんとクレアさんの話に憧れてたっていうのもあるわね」
ボラン「あぁ……」
マーナ「何を暗くなってるのよ。いいじゃない。Aランクになれたもの。約束は守ってくれたわ。それで充分よ」
ボラン「そうか……ありがとな……」
マーナ「っ……バカね。あなたとしか最初から考えてないわよ……」
ボラン「っ、俺もだ」
マーナ「っ、か、帰りましょ」
ボラン「そうだな」
冒険者「羨ましいっすね……」
職員「誇らしくもありますけどね」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
最高のカップルなのかもです。
ボランとマーナは結婚していました。
珍しく暴走もしないシェリス。
髪が赤くなる理由が明らかに。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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