女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
377 / 457
連載

539 夜更かし?

しおりを挟む
2016. 12. 11

**********

ティアは、王子達を早めに寝かしつけてからギルドへ向かった。

寂しがって、ティアのベッドに潜り込んで来たシアンも、ぐっすりと眠っていたのを確認していた。

シアンは、こうして夜中に屋敷を抜け出すティアを知っている。ティアに敵う者はいないという確信の元での許可が出ていた。

王子達の目が覚めてティアがいないと知っても、ティアが信頼するシアンに慣れた二人だ。怖がる事はないだろう。

安心して、ティアは一人で町の通りを駆けていった。

サルバの冒険者ギルドは、その頃、まだ賑やかだ。

ティアがギルドの扉をくぐると、真っ先に気付いたのはボランだった。

「ティア。またこんな時間に……」

いくら強くてもティアは十二の少女だ。真夜中近い時分に、町の中とはいえ、出歩くものではないとボランは注意する。

もう毎回の事なので、こうして注意してくれる存在は数人しか残っていない。

「久しぶり、ボランさんっ。結婚おめでとう」
「あ、あぁ。ありがとう」

ボランはつい最近、結婚したという話を、シェリスから聞いていた。

他人に感心のないシェリスがなぜそんな事を知っていたかというと、それは、ボランの相手が関係している。

「マーナさんの仕事が終わるのを待ってるの?」
「そうだ……」

ボランの結婚相手。それは、ギルドの受付嬢であったマーナだった。その時、噂していたマーナが帰り支度を済ませてやって来た。

「お待たせ」
「おぉ」
「あら。ティアさん。こんな時間にまたマスターのところですか?」

マーナもティアの夜中の出歩きを注意する人の一人だ。

「うん。シェリー、まだ居るでしょ?」
「いらっしゃいますよ。あまり遅くまで居てはいけませんよ」
「分かってる。シェリーも歳だしね」
「えぇ……それもありますね……」

明日の仕事に響かない程度にしてくれとマーナに言われ、ティアはそういえばシェリスは歳だったなと答える。これにマーナは何とも言えない顔をした。すると、ボランが言った。

「マスターは大人だから加減出来るさ。けど、君はあまり夜更かしするなよ」
「私も加減出来るよ?」

ティアも、明日が辛くなる時間は分かる。だが、そんな事、まだ十代の少女が考えられるとは思えないのだろう。

ボランもマーナも、ティアを子ども扱いするのだ。

「ダメですよ。ティアさんは体力もありますけれど、それとは関係ありませんから。ちゃんと寝てくださいね」
「は~い」

良い返事をしながら、手を振り、マスターの部屋へ向かったのだ。

部屋の前に着くと、いつものように、ノックをする前にシェリスは気付く。

「こんばんは」
「いらっしゃい、ティア」

招き入れられると、直ぐにシェリスはお茶を用意してくれる。それが整う間、向けた視線の先。執務机の上には、珍しくまだやりかけの書類が積まれていた。

「シェリー、お仕事終わらないの?」
「えぇ……実は、ウィストに関する相談の手紙の対応に追われておりまして……」

手紙の返事を書くのに、通常業務が滞っていたのだ。

「シェリーが、対応してるの?」
「はい。要らぬ憶測を飛ばさせるよりは良いかと引き受けたのですが……」
「へぇ……珍しい……」

シェリスが他の仕事を受けるなど、そうそうある事ではない。

自ら仕事をするほどやる気がある訳でもないのだ。ザルバの事だけやっていれば良いとシェリスは思って引き受けてきた。

どうやら手紙は、国内外問わず送られてくるようで、それらに全て回答しているらしい。

「ティアがやりにくくなるといけませんからね。憶測でいたずらに世情を乱されては困りますでしょう」

珍しい行動のシェリスだったが、全てはティアの為らしかった。

「それは……そうだね……」
「それでティア。髪の色が変わったと聞きましたが、見せて頂けますか?」
「うん。そうだった」

今回、ティアがここへ来た理由の一つは、シェリスに変化した髪や目の色を見せる為だったのだ。

話を聞いただけで満足するようなシェリスではない。暴走したり、いじけられる前に、全て明かしておくのが良策だ。

そして、魔族が得意とする色変化の術を素早く解いた。

「こんな感じ」
「これは……っ」

目を丸くしてかつてと同じ色になった髪と瞳の色をマジマジと見るシェリス。次いで、優しく目を細めたのだ。

「……懐かしいですね……」
「そういうもの? カル姐とサクヤ姐さんにもそういう目で見られたけど」

カルツォーネとサクヤも、感慨深いと思っていたのだろう。顔は違うが、雰囲気もその瞳に宿る感情も、ティアに間違いないのだ。懐かしいと思っても仕方がない。

「ついでに、種族を確認して来いって、カル姐に言われたんだけど」

そう言うと、シェリスはハッとした。

「そうですね。ですが……もう確定しているかと」
「そうなの?」
「えぇ。マティが昔言っていました。髪が赤くなってしばらくして、師と思える恩人が出来たそうなのですが、その方に『人は、一気に一定量、魔力が増える事によって髪が焼けて赤くなる。それがハイヒューマンへの変化だ』と言われたそうです」

カルツォーネが言っていた。マティアスの髪は元々赤くなかったというのは、本当だったようだ。

**********

舞台裏のお話。

ボラン「マーナ……その……式はどうする……」

マーナ「挙げなくても、皆が認識しているなら良いでしょう。お金もかかりますし」

ボラン「そうか? だが……ドレスは……」

マーナ「似合わないわよ。私ももう、三十五よ?」

ボラン「……すまん……」

マーナ「なに謝ってるのよ」

ボラン「いや、もっと俺が早く……」

マーナ「最初から、Aランクになったらという約束だったもの。 他の人となら、そんな約束しないわ」

ボラン「そ、そうか」

マーナ「それに、ゲイルさんとクレアさんの話に憧れてたっていうのもあるわね」

ボラン「あぁ……」

マーナ「何を暗くなってるのよ。いいじゃない。Aランクになれたもの。約束は守ってくれたわ。それで充分よ」

ボラン「そうか……ありがとな……」

マーナ「っ……バカね。あなたとしか最初から考えてないわよ……」

ボラン「っ、俺もだ」

マーナ「っ、か、帰りましょ」

ボラン「そうだな」

冒険者「羨ましいっすね……」

職員「誇らしくもありますけどね」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


最高のカップルなのかもです。


ボランとマーナは結婚していました。
珍しく暴走もしないシェリス。
髪が赤くなる理由が明らかに。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。