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513 ヒュリア・ウィスト
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2016. 10. 26
**********
新学期の始まりを三日後に控えた早朝。その馬車は軽快な速度で王都へ向かって走っていた。
「ギリギリになってしまったわね」
「申し訳ありません、ヒュリア様。これほどトラブルが続くとは……やはり護衛を雇う方がよろしいかもしれません」
「ですが、もうここはフリーデルです。治安は良いと評判ですから、それほど心配はないでしょう?」
「それは……はい」
馬車に乗っているのは、ヒュリア・ウィスト。ウィストの第一王女だ。
「それよりもロイズ。編入についての手続きに問題はないのね?」
「はい。確認出来ております。コウザレーヌの学園からの推薦状もあり、歓迎するとのお返事も届いております」
「そう」
供についているのは、幼い頃から一緒に育ち、メイドとして今は傍にあるロイズ。それと、御者にロイズの兄がついている。
「ところで、ロイズは分かるけれど、リールは良かったの? 騎士になると言っていたでしょう」
「それが……試験に落ちたそうで……元々、ヒュリア様もご存知の通り、兄はそれほど体力もありませんし……剣の腕も私の方が上といった有様でしたから……」
「……そうだったの……私としては、御者を引き受けてくれて助かったのだけれど……複雑ね……」
「頼りにならない兄で申し訳ありません……」
ヒュリアは、気の毒そうに御者であるリールの丸まった背中を見る。
「けれど、ここまでの道中、盗賊達をなんとか退けられたのは、リールのおかげでもあるわ。それほど悲観する事はないわよ」
「お気遣い痛み入ります」
妹であるロイズの方が、実力もその他の能力も上だ。リールはそれがコンプレックスなようだった。
「兄には、フリーデルに滞在中、冒険者として働いてもらおうと考えております。この国で揉まれれば、今よりも少しはヒュリア様のお役に立てるようになるでしょう」
「そう。冒険者に……良いと思うわよ。この国の冒険者のレベルは高いと聞いていますからね。さすがは、あの方のいる国です」
「はい。ジルバール様には、わたくしも、一目お会いできたらと思っております」
ヒュリアはジルバールを尊敬している。その影響で、ロイズもいつの間にか同じように尊敬の念を抱くようになったのだ。
ヒュリアは憧れの人の住む国に来られた事に喜びを隠しきれない様子で、頬を紅潮させている。
「わたくしの悲願でもあります。その為には、必ずやあの女神の生まれ変わりの化けの皮を剥がさなくてはなりません」
この国へ来た目的。それは、女神サティアの生まれ変わりだという少女が本物であるかどうかを見極める為。
だが、ヒュリアは八割がた偽物だと思っている。
「サティア様の存在を、あの方が感知できないはずがありませんもの」
これがヒュリアの見解だ。そして、それは決して間違いではない。
「ええ。わたくしもそう思います。それなのにこの国であの者が王子の婚約者候補に挙がるなど……ジルバール様に失礼です」
「そうよね。サティア様はジルバール様と結ばれるべきなのです! 偽物とはいえ、王子と一緒になろうなどとっ……納得いきませんわ!」
そしてこれが、ヒュリアの本音だった。
「間違いなく偽物だと、自分で公表しているようなものです。なぜ、これが分からないのか……本当に愚かな人達ですわね……」
ヒュリアは第一王女。ウィストには、幼い王子が一人いる。まだ三つになったばかりで、王位を継ぐとしてもまだまだ先だろう。
だからこそ、本来は第一王女であるヒュリアが、夫となるべき者と支えていかなくてはならない。
しかし、ヒュリアは今の国が立ち行かなくなる事を予見している。国は、怪しげな信仰組織に乗っ取られつつあるのだ。
国にも優秀な者達がいる。ヒュリアを支持するものも少なくない。国の為に女王にとの話も出る程だ。
「ねぇ、ロイズ。わたくし、学園を卒業したら、国に戻ろうと思うの」
「ヒュリア様っ。ついに王位を継ぐ覚悟をっ……」
「そうね……夫もまだ見つけられていないけれど、あのままでは、わたくしを支持してくださる方々に申し訳ないわ。白黒は付けなくては」
「……と言いますと……」
ロイズは嫌な予感がすると、顔を青ざめさせる。だが、そんなロイズの顔をヒュリアは見ていなかった。
馬車の窓から外を見て、自国とは違う土地の風景を見つめている。そうして、ヒュリアは再び口を開いた。
「サティア様は、なぜ国を滅ぼされたのでしょうね……あれほど愛してくださる方もいて、お母上譲りの力もあったというのに……」
「ヒュリア様……?」
それは、今や誰も疑問に思わない事。サティアは断罪の女神。そう呼ばれるからには、国が悪かったのだとしか思わない。
「ジルバール様の伝記を読んでから思うのよ……サティア様は、身内を殺せるような人だったのかしらって……」
そんな人を、ジルバールは愛さないだろうと思った。そして今、病んでいく自国を思うと、自分にこの決断ができるだろうかと考える。
「身内に手をかけなくてはならないほど、追い詰められていらしたのかしら……」
そんな風には思えない。ジルバールの愛したサティアなら、貪欲に、それ以外の道を探したはずだ。その力も人望もあっただろう。
「この国にいれば、分かるかしら……かつて、あの方々が生きた、この場所なら……」
「ヒュリア様……」
ヒュリアはずっと考えている。見捨てきれない国の行く末を。どうすればいいのかと。
**********
舞台裏のお話。
ベル「お祖父様」
ゼノ「べ、ベル!? ま、まさかっ……」
ゲイル「おっ、ベル坊。どうだった」
ベル「はい。これでAランクの仲間入りです」
ゼノ「ぐぬぅ……」
ゲイル「よくやった。おい、ゼノ。お前も絶望してないで、褒めてやれよ」
ゼノ「うぅ……よくやった……っ」
ベル「は、はい……ありがとうございます」
ゼノ「ぐぬぅ……やるぞぉぉぉっ」
ベル「お、お祖父様?」
ゲイル「まぁ、ちょい待ってやってくれ」
ベル「はい……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
先を越されたお祖父様です。
悪い人ではないようです。
メイドと騎士志望の青年……何だか嫌な予感が……。
では次回、一日空けて28日です。
よろしくお願いします◎
**********
新学期の始まりを三日後に控えた早朝。その馬車は軽快な速度で王都へ向かって走っていた。
「ギリギリになってしまったわね」
「申し訳ありません、ヒュリア様。これほどトラブルが続くとは……やはり護衛を雇う方がよろしいかもしれません」
「ですが、もうここはフリーデルです。治安は良いと評判ですから、それほど心配はないでしょう?」
「それは……はい」
馬車に乗っているのは、ヒュリア・ウィスト。ウィストの第一王女だ。
「それよりもロイズ。編入についての手続きに問題はないのね?」
「はい。確認出来ております。コウザレーヌの学園からの推薦状もあり、歓迎するとのお返事も届いております」
「そう」
供についているのは、幼い頃から一緒に育ち、メイドとして今は傍にあるロイズ。それと、御者にロイズの兄がついている。
「ところで、ロイズは分かるけれど、リールは良かったの? 騎士になると言っていたでしょう」
「それが……試験に落ちたそうで……元々、ヒュリア様もご存知の通り、兄はそれほど体力もありませんし……剣の腕も私の方が上といった有様でしたから……」
「……そうだったの……私としては、御者を引き受けてくれて助かったのだけれど……複雑ね……」
「頼りにならない兄で申し訳ありません……」
ヒュリアは、気の毒そうに御者であるリールの丸まった背中を見る。
「けれど、ここまでの道中、盗賊達をなんとか退けられたのは、リールのおかげでもあるわ。それほど悲観する事はないわよ」
「お気遣い痛み入ります」
妹であるロイズの方が、実力もその他の能力も上だ。リールはそれがコンプレックスなようだった。
「兄には、フリーデルに滞在中、冒険者として働いてもらおうと考えております。この国で揉まれれば、今よりも少しはヒュリア様のお役に立てるようになるでしょう」
「そう。冒険者に……良いと思うわよ。この国の冒険者のレベルは高いと聞いていますからね。さすがは、あの方のいる国です」
「はい。ジルバール様には、わたくしも、一目お会いできたらと思っております」
ヒュリアはジルバールを尊敬している。その影響で、ロイズもいつの間にか同じように尊敬の念を抱くようになったのだ。
ヒュリアは憧れの人の住む国に来られた事に喜びを隠しきれない様子で、頬を紅潮させている。
「わたくしの悲願でもあります。その為には、必ずやあの女神の生まれ変わりの化けの皮を剥がさなくてはなりません」
この国へ来た目的。それは、女神サティアの生まれ変わりだという少女が本物であるかどうかを見極める為。
だが、ヒュリアは八割がた偽物だと思っている。
「サティア様の存在を、あの方が感知できないはずがありませんもの」
これがヒュリアの見解だ。そして、それは決して間違いではない。
「ええ。わたくしもそう思います。それなのにこの国であの者が王子の婚約者候補に挙がるなど……ジルバール様に失礼です」
「そうよね。サティア様はジルバール様と結ばれるべきなのです! 偽物とはいえ、王子と一緒になろうなどとっ……納得いきませんわ!」
そしてこれが、ヒュリアの本音だった。
「間違いなく偽物だと、自分で公表しているようなものです。なぜ、これが分からないのか……本当に愚かな人達ですわね……」
ヒュリアは第一王女。ウィストには、幼い王子が一人いる。まだ三つになったばかりで、王位を継ぐとしてもまだまだ先だろう。
だからこそ、本来は第一王女であるヒュリアが、夫となるべき者と支えていかなくてはならない。
しかし、ヒュリアは今の国が立ち行かなくなる事を予見している。国は、怪しげな信仰組織に乗っ取られつつあるのだ。
国にも優秀な者達がいる。ヒュリアを支持するものも少なくない。国の為に女王にとの話も出る程だ。
「ねぇ、ロイズ。わたくし、学園を卒業したら、国に戻ろうと思うの」
「ヒュリア様っ。ついに王位を継ぐ覚悟をっ……」
「そうね……夫もまだ見つけられていないけれど、あのままでは、わたくしを支持してくださる方々に申し訳ないわ。白黒は付けなくては」
「……と言いますと……」
ロイズは嫌な予感がすると、顔を青ざめさせる。だが、そんなロイズの顔をヒュリアは見ていなかった。
馬車の窓から外を見て、自国とは違う土地の風景を見つめている。そうして、ヒュリアは再び口を開いた。
「サティア様は、なぜ国を滅ぼされたのでしょうね……あれほど愛してくださる方もいて、お母上譲りの力もあったというのに……」
「ヒュリア様……?」
それは、今や誰も疑問に思わない事。サティアは断罪の女神。そう呼ばれるからには、国が悪かったのだとしか思わない。
「ジルバール様の伝記を読んでから思うのよ……サティア様は、身内を殺せるような人だったのかしらって……」
そんな人を、ジルバールは愛さないだろうと思った。そして今、病んでいく自国を思うと、自分にこの決断ができるだろうかと考える。
「身内に手をかけなくてはならないほど、追い詰められていらしたのかしら……」
そんな風には思えない。ジルバールの愛したサティアなら、貪欲に、それ以外の道を探したはずだ。その力も人望もあっただろう。
「この国にいれば、分かるかしら……かつて、あの方々が生きた、この場所なら……」
「ヒュリア様……」
ヒュリアはずっと考えている。見捨てきれない国の行く末を。どうすればいいのかと。
**********
舞台裏のお話。
ベル「お祖父様」
ゼノ「べ、ベル!? ま、まさかっ……」
ゲイル「おっ、ベル坊。どうだった」
ベル「はい。これでAランクの仲間入りです」
ゼノ「ぐぬぅ……」
ゲイル「よくやった。おい、ゼノ。お前も絶望してないで、褒めてやれよ」
ゼノ「うぅ……よくやった……っ」
ベル「は、はい……ありがとうございます」
ゼノ「ぐぬぅ……やるぞぉぉぉっ」
ベル「お、お祖父様?」
ゲイル「まぁ、ちょい待ってやってくれ」
ベル「はい……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
先を越されたお祖父様です。
悪い人ではないようです。
メイドと騎士志望の青年……何だか嫌な予感が……。
では次回、一日空けて28日です。
よろしくお願いします◎
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