女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
335 / 457
連載

482 状況を整理して

しおりを挟む
2016.9.2

✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳

夜の月明かりは、この人を輝かせるものだと思う。

煌めく艶やかな長い髪は一つに束ねられ、高い位置で結ばれており、切れ長の瞳は夜の闇の中でも妖しく美しく光っていた。

「補佐さんとか、近衛隊長さんに止められなかった?」
「いや。ティアに会いに行くのは反対されないからね」
「そうなの? なんでだろ……」

カルツォーネの外出先が限定される事で許されているのかもしれない。友人であったマティアスに続き、サティアまで亡くした頃のカルツォーネは、どこか覇気がなく、無気力であったという。

そんな状態のカルツォーネを見ている城の者達は、自分からティアやシェリス達に会いに出かけるカルツォーネを見て安堵しているのかもしれない。

「それで、調べはついたのかい?」
「大体はね。カル姐もフルバに用があるんでしょ」
「あぁ、少し確認してこよう。その後、また合流するよ」

カルツォーネは、ジェルバの情報を何が何でも掴みたいと思っている。フルバから繋がれば儲けものだ。

そうして、カルツォーネが神殿へと向かっていくのを見送ったティアは、近くに現れた気配に声をかける。

「そっちも合流できたみたいね」
「はい」
「……」

本当に、こんな町中だというのに潜みたい放題なのはどうなのか。

「動きやすい町で助かるよね。夜になったとはいえ、外出する人が皆無なんて気持ち悪いけど」
「ええ、無用心な町です。ただ、このウィスト自体、夜に外出する者は少ないらしく、これも国柄なのでしょう」

セゴは、少し前からこの国を探っていた。隣国であるウィストが怪しい動きを見せていたということもあり、ティアに火の粉がかからぬようにと、直ぐに対処できるよう優先していたようだ。

それに比べ、同じ調査をしていた魔族の諜報員は、出遅れたと少々後悔していた。

「姫様、申し訳ございません。この国を見落としていたとは……」

あまりにも入り込みやすい上に、ある意味入り込む価値もない国であった為に、重要視していなかったらしい。

「こんな国、私だって見落とすよ。けど、中央はそれなりにタヌキがいっぱいいるんでしょ?」

神への信仰心によって形作られた国だとしても、統治しているのは人だ。信仰心が強い国民性を持つからこそ、それを利用し、自分達の都合良く国を動かす者たちが存在する。

「よくご存知でいらっしゃる。丸々と肥え太ったものが群れております」
「特に腐った輩が巣食い、大所帯となっていますよ」

二人揃ってニヤリと笑う。確認も済ませているようだ。

「それは皮を剥ぐのが楽しみだわ」
「是非とも狩りには参加させていただきたく存じます」
「巣穴も全て潰してご覧にいれましょう。姫様の住まうお膝元で、姫様を愚弄する愚か者どもを、我らは許しはしません」

熱を持っていく瞳。これは、クィーグと魔族の諜報員達の総意だ。

「ありがとう。その時が来たら頼むよ。ただ、今まで以上に慎重に頼みたい。これ以上逃げ回られても困るからね」

何より逃してはならないのが、ジェルバをはじめとする組織の者たちだ。この国の中枢には、則妃として組織の幹部らしき人物が入り込んでいるのだ。これを逃す手はない。

「ってことでいいよね? カル姐」
「あぁ」

いつの間にかカルツォーネが戻ってきていたのだ。

◆◆◆◆◆

ティア達は、ルクスが取った宿に集まっていた。この場には、先にマティと合流させたミックと、町の情報収集に行っていたシル、それとセゴに、魔族の諜報員の男、そして、ティアとカルツォーネが集まっていた。

「それでカル姐。何か情報は得られた?」

カルツォーネはフルバに、恐らくジェルバの所在を確認して来たはずだ。

ティアが聞いた感じでは、フルバは直接ジェルバに会ってはいない。友人だという者が間に入り、魔導具を横流ししてもらっていたのだ。

だが、直接会ってはいなくても、渡りをつける事は出来るだろう。仲介に入っている友人が誰なのかを聞き出せば、当然そこから辿っていける。

「ジェルバは間違いなく中央にいるな。それも、教会の中だ。とはいえ、動けば確実に悟られる」
「うん。私もそう思う」

今まで神の王国の者たちが捕まらなかったのは、こちらの動きを未然に察知してきたからではないかと思うのだ。

「シェリーがね。どうもかなり前から独自に、それも密かに奴らの居場所を調べてたらしいの」
「ほぉ。初動捜査をすっ飛ばすようなあいつが密かに?」

シェリスが彼らを調べ出したのは、ティアがまだ六つの頃。ベリアローズとエルヴァストが誘拐されたあの頃だ。

シェリスは、独自の情報網を持っている。魔族の諜報員と同じく、諜報員を雇っているようなのだ。ただし、エルフではなく、冒険者らしい。

「う、うん……それで、あと少しの所で、いつも、もぬけの殻になってるんだって。直接出向く前にはいなくなるみたい」

お陰で、あのシェリスがいつも後手に回るのだという。

「なら、本当に慎重にやってもらわなくてはならないね」
「「お任せください」」

セゴも、諜報員も深く頷いて見せた。

そこで、何やら考え込んでいる様子のルクスが目の端に映った。

「どうかしたの? ルクス。気になる事でも?」
「あ、あぁ……その、あいつが……ジルバールがそんなに失敗するような諜報員を雇っているとは思えなくてな」
「うん?」

確かに、敵が上手く逃げていたとしても、何度も同じく過ちを犯す者を、シェリスが信用し続けるのは疑問だった。同じ事を、カルツォーネも気付いたらしい。

「そうだねぇ。あいつが失敗するような奴に何度も任せるはずがない。恐らく……実力を疑っていないという事だ」
「だね。シェリーが認めてるとなると、相当の手練れだろうね。それでも逃す……待って、もしかして……」

敵がこちらを察知する能力が、ずば抜けているのだ。その可能性を肯定できる理由となり得るものが一つだけある。

「神具……」
「っ……うん。そうだね。そんな神具があってもおかしくないかも」

シルがぽつりと呟いた可能性。それが一番、この状況にしっくりくる。

そこへ、窓の外から声が聞こえてきた。

「それはきっと『ラプーシュの神環』だね」
「カランタっ」

ふわりと窓から入ってきたのは、月の光にも負けない眩い光を纏うような、真っ白な翼を持った天使だった。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳

舞台裏のお話。

マティ《フラムもいたら良かったのにね》

バン《グルル?》

マティ《ううん。友達じゃなくて、妹的な感じ》

バン《グルっ、グルル?》

マティ《ドラゴンなんだよ。だから、きっとフラムは喜ぶ》

バン《グルルル……》

マティ《へ? ドラゴンに会ったことないの? トカゲなのに?》

バン《グルっ》

マティ《ごめん。主がトカゲって初めに言ったからさ。バンだね》

バン《グルルっ》

マティ《バン。なら、マティって呼んでよ?》

バン《グルゥっ》

マティ《今度、フラムが戻って来たら、一緒に遊ぼうね》

バン《グルルルっ》


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


仲良しになりました。


カル姐さんが男だったら、ティアちゃんと公認の仲なのではないかと思えます。
密かに動いているティアちゃん達。
神具も、やはりありです。
そして、カランタ君登場。
何か掴めたのでしょうか。


では次回、一日空けて4日です。
よろしくお願いします◎
(投稿日は、 月、水、金、日の夜0時です)
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

地味薬師令嬢はもう契約更新いたしません。~ざまぁ? 没落? 私には関係ないことです~

鏑木 うりこ
恋愛
旧題:地味薬師令嬢はもう契約更新致しません。先に破ったのはそちらです、ざまぁ?没落?私には関係ない事です。  家族の中で一人だけはしばみ色の髪と緑の瞳の冴えない色合いで地味なマーガレッタは婚約者であったはずの王子に婚約破棄されてしまう。 「お前は地味な上に姉で聖女のロゼラインに嫌がらせばかりして、もう我慢ならん」 「もうこの国から出て行って!」  姉や兄、そして実の両親にまで冷たくあしらわれ、マーガレッタは泣く泣く国を離れることになる。しかし、マーガレッタと結んでいた契約が切れ、彼女を冷遇していた者達は思い出すのだった。  そしてマーガレッタは隣国で暮らし始める。    ★隣国ヘーラクレール編  アーサーの兄であるイグリス王太子が体調を崩した。 「私が母上の大好物のシュー・ア・ラ・クレームを食べてしまったから……シューの呪いを受けている」 そんな訳の分からない妄言まで出るようになってしまい心配するマーガレッタとアーサー。しかしどうやらその理由は「みなさま」が知っているらしいーー。    ちょっぴり強くなったマーガレッタを見ていただけると嬉しいです!

シルバーヒーローズ!〜異世界でも現世でもまだまだ現役で大暴れします!〜

紫南
ファンタジー
◇◇◇異世界冒険、ギルド職員から人生相談までなんでもござれ!◇◇◇ 『ふぁんたじーってやつか?』 定年し、仕事を退職してから十年と少し。 宗徳(むねのり)は妻、寿子(ひさこ)の提案でシルバー派遣の仕事をすると決めた。 しかし、その内容は怪しいものだった。 『かつての経験を生かし、異世界を救う仕事です!』 そんな胡散臭いチラシを見せられ、半信半疑で面接に向かう。 ファンタジーも知らない熟年夫婦が異世界で活躍!? ーー勇者じゃないけど、もしかして最強!? シルバー舐めんなよ!! 元気な老夫婦の異世界お仕事ファンタジー開幕!!

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。