女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
329 / 457
連載

476 現場との通信

しおりを挟む
2016. 8. 14
********************************************

王は一つ咳払いをすると、空気を変えるべくもう一度火王へと確認する。

「火の王。ここでの情報はお任せしてもよろしいですかな」
《構わない》

この会話を理解出来ないのは、この場ではリュークとレイナルートだけだった。

顔を顰めて王を見つめる二人。だが、そろそろ本題に入らなくてはならない。そこで、サクヤがザックリと説明した。

「つまり、火王がこっちについてるから、この場所から情報が漏れる事はないって事よ。時間がある時に、今一度、晶腐石がどんなものかを調べてみるといいわ」
「はぁ……分かりました」

レイナルートも、今この事で時間を費やすべきではないと理解している。そう言わざるを得なかったようだ。

では始めようと、王がサクヤに目を向けて頷いて見せた。これを受けてサクヤは机に置いたブローチに触れ、魔力を流し込む。

付属された魔石が光りを発し、しばらくすると声が響いてきた。

『なぁに? サクヤ姐さん』

それは紛れもないティアの声だ。呑気なその声に、サクヤが思わずツッコむ。

「なぁにじゃないわよっ。あなた今どこにいるのっ」
『……ちょっと行った所……』
「それで誤魔化せるわけないでしょっ!」

サクヤに連絡をしていない事に、今更ながらに気付いたのだろう。ティアは苦しい手段に出ていた。王は思わず笑う。

「くっ、はっはっはっ。さすがに誤魔化しは利かないぞ?」
『えっ? 王様っ⁉︎ ちょっとサクヤ姐さんっ、言わないなんてズルいじゃん!』

王が側にいるならば、今どこにいるかなんて事は分かっているではないかと、ティアは責める。

「バカねぇ。嘘をつくからよ。国を出るような遠出ならちゃんと報告しなさいっ」
『忘れてたんだよ……あっ、シェリーにも言ってない……』
「あ~……あの変態なら察知してそうね……大事になる前に一言だけ言っておきなさい」

ティアが今どこにいるのか。大体の位置が、シェリスには分かるはずだ。無駄に磨かれた気配探知能力は異常なほど有能だ。

国境付近ならば問題はないだろうが、ウィストの国の只中まで進んでしまえば、確実に国を出た事が伝わる。

そうなれば、ティア命の変態エルフ様は何を置いても飛んでくる。あの目立つ容姿と、ティアの為ならば国を滅ぼすのも辞さないシェリスの事だ。事と次第によっては大暴れしてくれるだろう。

それではマズイと、ティアは何よりも先に報告をする事にしたらしい。

伝話心具は改良され、少しの間ならば手を離しても込められた魔力で通信を継続できる。

『う、うん。ちょっと待って。先に済ませるからっ。あ、ルクス。ちょっと今の状況だけ、これで伝えてくれる? サクヤ姐さん、王様といるみたいだから』
『陛下と⁉︎ こらティアっ……失礼しました。ご報告をさせていただきます……』
「悪いわねぇ、ルクス君。お願いするわ」

ティアに振り回される事が日常と化してしまった不幸な保護者は、少々緊張した声で現状報告を始めた。

『はい。現在、ウィストへ入り、最も国境に近いリードの町に到着しました。ここで、フリーデルへ侵入した者達を扇動した神教会の神官の情報を受け取る事になっています』
「神官? そいつがこの国を攻めようとしてるの?」
『そうとも言えないのですが、侵入者達は、姿を消す魔導具を持っていました。それを作ったのは、神の王国と呼称する組織の魔導師ではないかと思われます。あの組織と関係があるのは確かなのではと』
「嫌なのが裏にいるわね……」

ティアが動くのも、もっともだとサクヤは顔を顰めた。

そこで、ティアの声が戻ってくる。

『お待たせ。それで王様の方は、何かリクエストある?』
「リクエストか? そうだな……帰りにで構わないのだが、他の国境の領も確認してもらえるか」
『ウィスト方面だと後はソクラ伯爵領だね。分かった』

ウィストとは大きな河と森で隔てられているが、ソクラ伯爵領も国境を接している。但し、門はない。

姿を消して安全に門を通り抜ける術を持っている以上、壁越えをしてまで入ってくる可能性は低いが、王としては気になる所だったようだ。

「任せる。それと、あまり派手に暴れる事がないように頼むぞ」
『ははっ。まぁ、今回はちょっとまだ情報が足りないし、どうせなら一網打尽にしたいからね。神官さんとちょっとオハナシするだけにするよ。密かに攫っちゃうのとかは有り?』

これには、王も微妙な顔をする。

「消すとかは無しだ。今は穏便にな」
『は~い』

ティアの事だから信頼はしているが、万が一、こうした王との関係を知られれば
戦争になる。それは何がなんでも避けなくてはならない。

ここで、サクヤがティアの行動の心配をするあまり、失言をする。

「大立ち回りとかもダメよ? あなたは他国での動き方なんて知らないでしょ? バトラールモードでもダメだからね」

そして、ティアもそれに普通に答えていた。

『ウソっ、ダメなの? メンバー的にもあの姿の方が怪しまれずにシックリ来るんだけど』

更に王もこの場の失言に気付かず、これに加わる。

「逆にあの姿では目立つだろう。せめて町中では避けるべきだな。その神官を問い詰める時には有効かもしれんが」
『やっぱり? そうしよ~。威圧しまくって自白させる。とりあえずこっちの予定が完了したらまた連絡するよ』
「待ってるわ」
「気を付けてな」
『は~い』

そうして通信は切れた。そして、状況が知れてホッとしたのも束の間だった。

「……バトラール……」
「あっ……」

レイナルートから発せられた呟きに、エルヴァストがはっと息を呑んで口を押さえる。

この問題にようやく気付き、王とその後ろに控えていたドーバン侯爵がしまったと顔を見合わせたのだった。
************************************************
舞台裏のお話。

マーナ「マスターが出掛けそうな雰囲気だったのに……どうなさったのかしら」

職員A「またティア嬢ちゃんに何かあったか……」

マーナ「それしかないわよね。でも、落ち着かれたみたい」

職員B「連絡があったんじゃないですか
?」

職員A「だな。けど、何を慌ててたんだろうな」

マーナ「そういえば、ティアちゃん卒業したのよね」

職員A「そうか。けど、それにしては中々こっちに来ないな」

職員B「それは、辻褄合わせの為では? 未だにティアさんがティアラールお嬢様だと知られていませんからね」

職員A「……そうだった……」

マーナ「ギルドの職員として、私達は知ってるけど、世間一般にはまだ分けて認識されていたわね……」

職員A「よく騙せているよな」

職員B「まぁ、イメージ正反対よりも更に振り切った斜め先を行ってますからね……」

マーナ「斜め……確かにそうね……万が一、知られたとしても、信じたくないって心理も働くでしょうし……」

職員A「それがバレない一番の理由かもしれないな……」

マーナ「あり得るわね……」

職員B「同感です」



つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


人々の心の平穏の為にも、今しばらくは別人で……。


まさかこの場に王太子がいるとは予想しなかったティアちゃん。
王達も失念していました。
王太子にとってバトラールは、忘れられない人物です。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。