女神なんてお断りですっ。

紫南

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459 そろそろ良くないですか?

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2016. 7. 21
********************************************

王都の冒険者ギルドへ寄ったティアは、ルクスを伴ってゼスタの部屋を訪れていた。

「お待ちしていましたよ」
「マスター、ごめんなさい。忙しい時に」
「いいえ。いつでも会いに来てくださって構いませんよ。あなたなら、大歓迎です」

ゼスタは、ティアを孫のように可愛がっていた。それと同時に、様々な問題を相談できる良き相談役とも考えていたのだ。

「ありがとう。それで、あの件なんだけど」
「はい。ジルバール様より報告書も預かっております。ご確認ください」
「さすが、早いなぁ」

差し出された報告書の束を受け取り、目を通していく。

「そういえば、ザランさんの事なのですが」
「ん? あぁ、どうでした?」

ティアは報告書から目を上げ、ゼスタへと身を乗り出す勢いで問いかけた。

「やはり伯爵令嬢だと気付いていたようです。思い切ってカマをかけてみたのですが、ヒュースリーの名を当然のように聞いていました」
「そっかぁ……サラちゃんめ」

そんな二人の会話が気になったのだろう。ルクスが不思議そうに問いかけた。

「ザランさんがどうかしたのか?」
「うん。どうもサラちゃん、私がティアラール・ヒュースリーだって気付いてるみたいなんだよね。勘が良いからもしかしてと思ってたんだけど」
「そういえば……バトラールの事を知ってるから気にしていなかったが……ティアの出自はバラしていないんだったな……」
「まぁね。ゼノお祖父様やゲイルパパがこのまま別人で通しておけって言うから、まだサルバの人も気付いてないよ」
「精神衛生上良くはないからな……」

ぼそりと呟かれたその言葉はティアには聞こえなかった。

「でもね、サラちゃんは気付いてるんじゃないかと思ったんだよね。ラキアちゃん達との付き合いもあるし、さすがに気付くかなって。ここ二年近く、なんか避けられてるし」

ティアは、ザランが避けている理由が、伯爵令嬢であったティアに気兼ねしているのではないかと思ったのだ。

「サルバの人達って、未だに伯爵令嬢ティアラールに夢見てる所があるんだよね~。やっぱあの祝福の儀の事が原因なんだろうけど……」

その姿が年々、人々の中で美化されていっているようで、どうしたものかと密かに悩んでいた。

「ティアラール様が聖女認定されたという事は、ここ王都にも聞こえていましたよ。本物の、天に愛された少女だと」
「……あのバカ天使が余計な事したからね……それでも、聖女の役割って、十歳まででしょ?」
「ええ。七歳から三年間と決められておりますからね」

聖女として教会で神に仕えるのは七歳から十歳までの間だ。その後は家に帰され、普通に暮らす事になる。

「なら、もう時効だと思わない?いいよね?」
「……なにがだ」

ティアはもうじき十二歳。聖女としての役割を果たす年齢は過ぎている。ならば、聖女らしくしてやる必要はもうないのではないか。

「だからさ。本性見せても良くない? 教会ももう諦めるでしょ。もういっその事ぶち壊してやって、スッキリしよっかなって思ってるんだけど」

聖女のイメージは間違いなく崩壊するだろう。ティアとティアラールでは、今となってはイメージが違いすぎる。

「それは……もう少し考えてからでも良いかと……」
「ここまで我慢したんだ。急ぐ事はないだろう……」

ゼスタとルクスは、今しばらく教会やサルバの人々の平穏を守ろうとティアを踏みとどまらせる。

「そう? でも、サラちゃんにこのまま避けられるのは嫌なんだけど」

ティアとしては、皆に打ち明けてしまえば、ザランと以前のように付き合っていけるのではないかと思った。

ティアがティアラールである事を隠しているのはザランにも分かったはずだ。だからこそ、ザランはそれを知った事で距離を取ろうとしている可能性もあった。

「心配ありませんよ。ザランさんは少し色々と距離を置いて考えたい事があったようです。それももう整理がついたようですから、これからは違うと思いますよ」

ゼスタは知っていた。ザランがティアと距離を取っている理由を。次からは避ける事もないだろうということを。

「そう……?」
「ええ。なんでしたら、会いに行かれてはどうですか?一度話をするのも良いと思いますよ」
「う~ん……うん、そうだよね。ありがとう。ルクス、早い所こっちの仕事を済ませてサラちゃんに会いにいこう」
「お、おう……」

微妙な表情でルクスは答える。ルクスとしては、ティアがザランを気にする事が少々面白くないのだ。しかし、当のティアがその思いに気付く事はない。

そんな複雑な心境を感じ取ったゼスタは、ニコニコと笑っていた。

「あ、この報告書ありがとう」
「いいえ。ギルドも一応はこの国に属しているものです。国の為に尽力するのは当然の事。寧ろ、これを知り得た事で、我々も、もしもの選択ができます。国との連携は、今後の課題なのかもしれませんね」
「うん……だから、騎士達ももっと頼りになるようにするよ。手を取り合うには、釣り合いが取れなきゃね」
「はい」

こうして、ティアは王都のギルドを後にしたのだった。

************************************************
舞台裏のお話。

騎士A「っ……こんなに王子が強いなんて聞いてない……」

騎士B「ビアンさんが教えたんじゃ……」

騎士C「違う気がする……」

エル「どうした。もう動けないのか? そんな事でどうする!」

騎士A「なんかスパルタ……っ」

騎士B「あんな性格だったのか?」

騎士C「昔からビアンさんが探し回ってたから体力はあると知っていたけど……」

エル「何をごちゃごちゃ言っているっ! さっさとかかってこないか!」

騎士達「「「はいぃぃぃ!」」」

ビアン「エル様、こんな急にハードにされては、今後の仕事に差し支えます」

エル「バカ言うな。どこがハードだ? 本当なら山登りダッシュでもしたいところなんだ。こんなへばっている余裕があるのはハードとは言えん」

騎士A「や、山登り……ダッシュ?」

騎士B「なんだそれは」

騎士C「これよりハードなのか?」

ビアン「あの方の訓練は取り入れてはいけませんっ……って、エル様はやったんですか?」

エル「山登りダッシュか? 山でマティと追いかけっこしたのが始めだな。剣より先ずは体力だったのでな」

ビアン「……本来の姿の方ですか?」

エル「大きい方だ。楽しかったぞっ。夢中で走り回っていたら、足の方が先に限界がきてな。カクンと動かなくなった時のあの感覚は人体の不思議を感じられた」

ビアン「……始めからそんな酷使を……」

エル「だからな。こいつらはまだ限界じゃない。カクンとなっていないからなっ。さぁ、やるぞ。さっさと立て。まだまだ限界には程遠い」

騎士達「「「ひっ……」」」

ビアン「いや、ですから、限界までやったらこの後に差し支えると……」

エル「そうなったら担当を見直せばいい。なんなら私が代わってやろう。なぁに、ティア程の実力でなければ侵入など許さんよ」

ビアン「どんな自信ですかっ!」

エル「自信ならあるぞ。本気で気配を読めば、この王宮全体など余裕でカバーできる。私一人でも守りきれる自信がある」

ビアン「……お嬢さん……なんて事を……」

エル「うむ。国を守る程ではないが、この王宮を守るくらいなら出来るように育ててもらったからなっ。因みに、もう少し余裕が出来たら、ベルとAランク認定試験を受ける予定だ。ティアからお墨付きも貰った」

ビアン「っ、そこまでっ⁉︎」

エル「楽しみだ。だからこそ、私も腕を鈍らせるわけにはいかん。さて、休憩は出来ただろう。行くぞ」

騎士達「「「ひぃぃぃっ!」」」

ビアン「笑顔でスパルタ……お嬢さんの影響力は凄いですね……」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


鬼教官です。


何やら裏で動いている事態もあるようです。
まだ皆に本性を打ち明けるには早いでしょうか。
彼らの中でティアラールはどんな令嬢になっているのか……。
そろそろティアちゃんは我慢の限界なのかもしれませんね。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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