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連載
437 神具の存在意義
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2016. 6. 20
********************************************
スィールは、目を見開いて隣で手を差し伸べているカランタを見つめた。
「何を……言っているんだ……」
呆然と呟くスィール。
カランタは辛そうに顔を歪めて涙を浮かべている。
しかし、そんなカランタの頭を、面白くなさそうな表情を浮かべたティアが、ロッドの先で唐突に叩いた。
「こら。そういう話を勝手にするんじゃないよ」
「い、痛いよティアっ」
涙が零れたのは、痛さのせいかもしれない。
「あんたはちょっとあっちの隅に行ってなさい。それと、その羽根邪魔」
「うぅっ、そういうところ、マティみたっ……ごめんなさいっ。あっちにいますっ」
目を細め、ロッドを高く振り上げたティアに、カランタは口を噤んで入り口の方へと逃げていった。
そんなやり取りを目の前で見せられていたスィールは、当然だが、呆気に取られている。
「ったく、すぐに感傷に浸るのが年寄りの悪い癖だ。気にするな」
「僕は年寄りじゃっ……あぅわっ、ごめんなさい!」
ティアが何かする前に引っ込んだのは、スィールには見えないが、精霊達がカランタを取り囲んだからだ。
いつの間にか、その後ろに風王と水王も控えていた。
これならばもう邪魔は入らないと、ティアはスィールへ真っ直ぐに目を向ける。
優位性は変わらない。スィールは壁際で、未だに立ち上がれずにいた。
「私もさっさと食事に行きたいんだ。早いところ話をつけよう。お前のいた『神の王国』……いや『青の血脈』だったか。そのアジトはどこにある」
「っ、なぜ青の血脈のことを知っている……っ」
今更何を驚いているのかと、ティアは呆れた様子でこれに答える。
「『青の血脈』は、それこそ五百五十年よりも前から細々とあった宗教組織だ。その頃は、血脈の者を見守る役目を負っているとかなんとか……まぁ、それはいい。さっさと吐け」
かなり強引な言い方だが、ティアにしたらとても平和的な対応だ。
しかし、それを彼が知る由もなく、ただ怯えながらもティアを睨む。
「俺がそれを言ったら、貴女はどうするつもりだ」
意を決してスィールはそう尋ねた。
これにティアはニヤリと笑って見せる。
「潰すに決まっているだろ。だいたい、神具の存在意義をはき違えている馬鹿どもを放っておいて良いと思うのか?」
「存在……意義……?」
意味が分からないと顔を顰めたスィールに、ティアは溜め息をもらす。
先ほどはどうでもいいかと思っていたが、どのみちスィールが納得しなければ口を割らないだろう。
ならばと、ティアは上体を起こし、背もたれに深く腰掛けてから自分の中の情報を整理するように説明することにした。
「神具は神が、弱く力を持たなかった人族に生きる術の一つとして与えたものに過ぎない。魔術を得、生活の中で思考し、物を創り出し、国を創ることで、強いものに蹂躙される事なく生きられるようになった人族には、既に必要のないものだ」
魔族やエルフ、他の種族は強い力を持って生まれ、寿命も長い。そんな中で、圧倒的に人族は弱かった。そんな人族を救済する為の導具として神が与えたものだったのだ。
「国という力を持つほどになった人族にとって、神具は武器となりえるものになった。それを、使い手達は禁忌とした。賢い判断だろう。生きる為に遣わされた導具なのだから、死を招く武器とするべきではない。それを彼らは正しく理解していたというわけだ」
使い手達は王として人々をまとめる者になった。
神具は力だ。しかし、王達は決してそれを武力として使わなかった。国を守る為の力として正しく使うと決めていたのだ。
「『青の血脈』は、元は王の……使い手の血を守り、正しく神具が継承されていくようにと願う者達の集まりだったはずだ。だが、人は争う。それによって多くの物や知識、継承が途切れる。そして、歪む」
人族同士の戦いではなく、異種族との戦いが何度となく起こり、それは激化していった。
いつしかそこに歪が生まれ、意志が統一されていく。
「神具は神の加護の象徴。神は人族が生きる事を望んでいる……そんな事を考えるようになった。そして、今の『人族至上主義』の形に辿り着いた。なぁ? 馬鹿だろ? 曲解して、初めの役目も願いも放棄して、ただ世界を混乱させようとしている。そんな組織を潰して何が悪い」
「っ……」
これが、ティアの出した答えだったのだ。
************************************************
舞台裏のお話。
風王 《まったく、ティア様の邪魔をするとは》
水王 《ティア様を無視して感傷に浸るとは何事ですか》
カランタ「えっと……」
精霊A 《じゃま~》
精霊B 《おこらせた~》
精霊C 《しゃべっちゃだめ》
風王 《その羽根は確かに邪魔ですね》
水王 《切り落とします?》
精霊A 《きる~》
精霊B 《とる~》
精霊C 《もやす?》
風王 《燃やしてはいけませんよ。羽の部分はティア様の寝具にします》
水王 《綺麗に洗浄し、快適な羽毛にいたしましょう》
カランタ「ひぃっ……」
精霊A 《おとなしくする》
精霊B 《かんねんする》
精霊C 《しっかりかんそう》
カランタ「っごめんなさい!」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
カツアゲ?
ティアちゃんは今や、潰す気満々です。
この場所に手を出された事にも怒っているみたいですからね。
アジトの場所。
教えて欲しいものです。
今の女王様なら、精鋭部隊を率いて一発でしょう。
最強メンバーがここには集まっています。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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スィールは、目を見開いて隣で手を差し伸べているカランタを見つめた。
「何を……言っているんだ……」
呆然と呟くスィール。
カランタは辛そうに顔を歪めて涙を浮かべている。
しかし、そんなカランタの頭を、面白くなさそうな表情を浮かべたティアが、ロッドの先で唐突に叩いた。
「こら。そういう話を勝手にするんじゃないよ」
「い、痛いよティアっ」
涙が零れたのは、痛さのせいかもしれない。
「あんたはちょっとあっちの隅に行ってなさい。それと、その羽根邪魔」
「うぅっ、そういうところ、マティみたっ……ごめんなさいっ。あっちにいますっ」
目を細め、ロッドを高く振り上げたティアに、カランタは口を噤んで入り口の方へと逃げていった。
そんなやり取りを目の前で見せられていたスィールは、当然だが、呆気に取られている。
「ったく、すぐに感傷に浸るのが年寄りの悪い癖だ。気にするな」
「僕は年寄りじゃっ……あぅわっ、ごめんなさい!」
ティアが何かする前に引っ込んだのは、スィールには見えないが、精霊達がカランタを取り囲んだからだ。
いつの間にか、その後ろに風王と水王も控えていた。
これならばもう邪魔は入らないと、ティアはスィールへ真っ直ぐに目を向ける。
優位性は変わらない。スィールは壁際で、未だに立ち上がれずにいた。
「私もさっさと食事に行きたいんだ。早いところ話をつけよう。お前のいた『神の王国』……いや『青の血脈』だったか。そのアジトはどこにある」
「っ、なぜ青の血脈のことを知っている……っ」
今更何を驚いているのかと、ティアは呆れた様子でこれに答える。
「『青の血脈』は、それこそ五百五十年よりも前から細々とあった宗教組織だ。その頃は、血脈の者を見守る役目を負っているとかなんとか……まぁ、それはいい。さっさと吐け」
かなり強引な言い方だが、ティアにしたらとても平和的な対応だ。
しかし、それを彼が知る由もなく、ただ怯えながらもティアを睨む。
「俺がそれを言ったら、貴女はどうするつもりだ」
意を決してスィールはそう尋ねた。
これにティアはニヤリと笑って見せる。
「潰すに決まっているだろ。だいたい、神具の存在意義をはき違えている馬鹿どもを放っておいて良いと思うのか?」
「存在……意義……?」
意味が分からないと顔を顰めたスィールに、ティアは溜め息をもらす。
先ほどはどうでもいいかと思っていたが、どのみちスィールが納得しなければ口を割らないだろう。
ならばと、ティアは上体を起こし、背もたれに深く腰掛けてから自分の中の情報を整理するように説明することにした。
「神具は神が、弱く力を持たなかった人族に生きる術の一つとして与えたものに過ぎない。魔術を得、生活の中で思考し、物を創り出し、国を創ることで、強いものに蹂躙される事なく生きられるようになった人族には、既に必要のないものだ」
魔族やエルフ、他の種族は強い力を持って生まれ、寿命も長い。そんな中で、圧倒的に人族は弱かった。そんな人族を救済する為の導具として神が与えたものだったのだ。
「国という力を持つほどになった人族にとって、神具は武器となりえるものになった。それを、使い手達は禁忌とした。賢い判断だろう。生きる為に遣わされた導具なのだから、死を招く武器とするべきではない。それを彼らは正しく理解していたというわけだ」
使い手達は王として人々をまとめる者になった。
神具は力だ。しかし、王達は決してそれを武力として使わなかった。国を守る為の力として正しく使うと決めていたのだ。
「『青の血脈』は、元は王の……使い手の血を守り、正しく神具が継承されていくようにと願う者達の集まりだったはずだ。だが、人は争う。それによって多くの物や知識、継承が途切れる。そして、歪む」
人族同士の戦いではなく、異種族との戦いが何度となく起こり、それは激化していった。
いつしかそこに歪が生まれ、意志が統一されていく。
「神具は神の加護の象徴。神は人族が生きる事を望んでいる……そんな事を考えるようになった。そして、今の『人族至上主義』の形に辿り着いた。なぁ? 馬鹿だろ? 曲解して、初めの役目も願いも放棄して、ただ世界を混乱させようとしている。そんな組織を潰して何が悪い」
「っ……」
これが、ティアの出した答えだったのだ。
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舞台裏のお話。
風王 《まったく、ティア様の邪魔をするとは》
水王 《ティア様を無視して感傷に浸るとは何事ですか》
カランタ「えっと……」
精霊A 《じゃま~》
精霊B 《おこらせた~》
精霊C 《しゃべっちゃだめ》
風王 《その羽根は確かに邪魔ですね》
水王 《切り落とします?》
精霊A 《きる~》
精霊B 《とる~》
精霊C 《もやす?》
風王 《燃やしてはいけませんよ。羽の部分はティア様の寝具にします》
水王 《綺麗に洗浄し、快適な羽毛にいたしましょう》
カランタ「ひぃっ……」
精霊A 《おとなしくする》
精霊B 《かんねんする》
精霊C 《しっかりかんそう》
カランタ「っごめんなさい!」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
カツアゲ?
ティアちゃんは今や、潰す気満々です。
この場所に手を出された事にも怒っているみたいですからね。
アジトの場所。
教えて欲しいものです。
今の女王様なら、精鋭部隊を率いて一発でしょう。
最強メンバーがここには集まっています。
では次回、また明日です。
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