女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
285 / 457
連載

432 希望を与えた者

しおりを挟む
2016. 6. 13
********************************************

外で始まったラキアの挨拶は、ティアのいる最上階の部屋にも届いていた。

本来ならば、防音処理も完璧なため、聞こえるはずもないのだが、今は表に面した窓が全て開いている。そこから妖精王が下を見下ろしていた。

この町の代表となるファスターの演説が聞こえる頃。妖精王が窓から離れ、用意の出来たティアへ手を差し出す。

《そろそろ頃合いだな。行くか》
「うん」

ティアは今、二十代後半といった姿をとっている。手を引き、隣を歩く妖精王は、階段を下りながら改めてティアの姿を見た。

《あの時のドレス姿も可憐で良かったが、今日のはなんというか……玉座が似合いそうだ》

ティアにはやはり濃い青が似合うと、サクヤが用意した長い濃紺のワンピースに、カルツォーネから貰った銀の装飾が美しい白のジャケットを着ている。

髪もきれいに結い上げられ、白のリボンが一緒に編み込まれている。それがティアの髪色に映え、まるでティアラが飾られているように見えた。

本来の姿ならば親子にしか見えないだろうが、今の姿で並んだ二人は王と女王だった。

「ありがとう。見た目だけじゃなくてちゃんとそれっぽく見えるように頑張るよ」

そう言ったティアに、充分だがなと言いながら妖精王は笑う。そして、階段の踊り場の窓から見えたファスターを見て言った。

《中々に頼りになりそうな男じゃないか。波動も良い。戦士だったようだな》
「ファスターさんの事? 怪我で握力が低下してて、腕がなまってるけど、剣の重さとか戦い方とか合うのを見つければ、まだまだ現役でもいけると思うよ」

ティアは、あのファスターを王都のスラム街で見つけた時、勝負を挑んだ。そうしなくては、動かないと言ったからだ。

当然だが、ティアは彼をあっさりと打ち負かした。そして、ティアは彼を代表とする事を決めた。

《それ、言ってやったのか?》

ティアの目は確かだ。更にティアが現役と認めるということは、相当の実力が期待できるということ。

妖精王も、彼らをどこから連れてきたのかを知っている。そこは、生きる事を諦めきれないが、世界に絶望した者たちが集まる場所。

ティアが実力を認めたというのならば、それはその持っていた絶望を払拭できる自信となる。

「言ってないよ。ファスターさんは、今まで町を創るのに忙しくしてたし、私もあまりここへ来られなかったもの。でも……もう希望をあげる必要はないでしょ?」

そう言って、何かを含んだような笑みを見せるティア。それで、妖精王もティアの言わんとする事が分かったようだ。

《ふっ……なるほど。ここの奴らにはもう、わざわざやる必要はないか》
「そう。みんな、もう自分で見つけられるからね」

希望を見出す事さえ諦めていた彼らは、絶望の中から出ようとしなかった。そこから無理やりティアが引っ張り出したのだ。

希望はないと諦めていては見えるものも見えない。見つける活力さえ失くしてしまっているから、抜け出せない。だが、活力が本当になくなってしまった訳ではないのだ。

だから、ティアは少しだけ手を貸した。希望が見える場所に連れてきたのだ。

一度見えれば動き出せる。そして、希望は次の希望へとつながっていくだろう。

《君には驚かされる。こんなに多勢の人々に、希望を抱かせた。それは、王であっても容易くできる事じゃない》

奇しくも今、ファスターも同じような事を演説していた。だが、それを妖精王が知る由もない。外の声が聞こえる場所までは、もうあと半階分下りなくてはならなかった。

妖精王とティアは階段の踊り場で向かい合う。

《楽しみだよ。今の君の姿になる十数年後が。今度はちゃんと見せてくれるんだろ?》
「うん……ちゃんと生きるよ」

そうまっすぐに妖精王を見て言えば、輝く笑顔が返ってくる。そして、そっとティアを引き寄せると、妖精王は額に一つキスを落としたのだった。

◆◆◆◆◆

玄関ホールまでやって来たティアと妖精王。すると、そこで唐突に大きな声が響いた。

《なっ、何事だ?》
「さぁ……」

不思議に思ってそのまま外へ進むと、入り口の辺りにいたルクス達が呆然と舞台の方を見ていた。

シェリスまでもが目を見開いてティアの気配に気付いてもいない事に首を傾げる。

《これは何が起こってんだ?》

妖精王の声に振り向いたルクス達は、今度はティアの姿を見て固まる。ベリアローズ達学生組やシェリスは勿論、つい先ほど合流したウルスヴァンとビアンもあんぐりと口を開けていた。

そんな中で、いち早く正気づいたのは、ティアの着替えを手伝ったカルツォーネとサクヤだ。

「びっくりした。君の後ろに玉座が見えたよ。是非ともこれを持ってくれないかい?」

そう言ってカルツォーネがアイテムボックスから長いロッドを取り出した。

「信じられないくらい似合ってるわ。もう女王様って感じ。しまったわ。青じゃなくて黒い服の方が似合ってるかも」
「いや、赤もいけたね。今度贈らせてもらうよ。是非とも着てみせておくれ」
「いや……そういうのはもういいから、とりあえず、今のこの……恥ずかしいコールは一体……?」

そう、いつの間にか、広場に集まった人々全員での『ティア様、主様』コールが響いていたのだ。
************************************************
舞台裏のお話。

エル「……ベル、また気絶するなよ」

ベル「詐欺だ……」

ウル「詐欺です……」

ビアン「……振り切ってきて良かった……」

エル「なんだ? なにをほっとしてるんだ? ビアン」

ビアン「あ、いえ……出がけに陛下に捕まりまして……ティアお嬢さんに会いにいくと、どこかから情報を仕入れたようで、自分も行くとごねられまして……」

エル「それは……よく振り切った」

ビアン「はい。この状況もですけど、あの子のあの姿もマズイです」

エル「父上の事だ。よもや妻にとは言わぬだろうが、せっかく決まった兄上の婚約を破棄してティアをと思いかねない」

ビアン「はい。何より……あの姿のお嬢さんを王太子に見せられません」

エル「なぜだ?」

ビアン「それは……」

ウル「……ティアさんだったのです……その……王太子が昔、一目惚れされた相手が……」

エル「……なに?……それはマズイな……」

ビアン「ですよね……お嬢さんには是非ともあの姿でこの町から出ないっ……いえ、今後建物からも出ないようにしていただかなくては」

エル「無理だろ……」

ビアン「っ、エル様が説得してください!」

エル「私がか⁉︎ 聞くわけないだろ」

ビアン「なら……」

ベル「……」

ビアン「目をそらさないで!」

ベル「ムリ」

ウル「ダメです。国が乗っ取られるか、傾く未来しかありません」

ビアン「そんな恐ろしい予言はいりません!!」

エル「その時は諦めろ。これも神のお導きだ」

ベル「祈る事も無意味です」

ビアン「 救いもないと⁉︎」

ウル「いっその事、妖精王様に頼んでダンジョンで隠居暮らしを……」

ビアン「ちょっ、逃げる気満々⁉︎ 誰も助けてくれない⁉︎」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


過労死するビアンさんが見えます。


ティアちゃんを呼ぶ人々……大人なティアちゃんをどう説明するのか。
驚くのは目に見えていますね。
暴走が心配だったシェリスはとりあえず悩殺したようなので、この後の対策を考える猶予はあります。
カル姐さんやサクヤ姐さんがいますし、そちらはなんとかなるでしょう。
いよいよ舞台へ。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。