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連載
425 それは過去の光景
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2016. 6. 3
書籍化該当部非公開につきまして、内容が少し飛んでおります。
ディムースの話は書籍版では出ないものです◎
********************************************
その情景を見た時、これは夢だと分かった。
今まで散々見てきた過去の夢は、世界が見せる世界の記憶。だけれど、これは違う。
網膜に焼き付いたその瞬間を、目を閉じれば思い出せてしまうそれを、ティアは無意識のうちにずっと封印してきた。その記憶が今、鮮やかに蘇る。
『サっ……ティア……っ……』
伸ばされたその人の手は届かない。なぜそんな顔をするのかと、問いたいけれど声も出なかった。
もう眠って……。
そう言いたい。そう願う。
『すまないっ……すまなかった……っ……サティアっ……』
それまで一切こちらを見なかったその人が正気に戻っていた。玉座から下りて、傷つき血塗れになった体を引き摺りながら必死に手を伸ばしてくる。
何度も謝ってくるその姿を、薄れていく意識の中で見ていた。
死に瀕したからこそ、正気に戻ったのだろう。これしか方法はなかったのかと、少々悔やまれた。
周りは既に仕掛けた魔術が発動し、火の海だ。逃げる場所はなく、もう数分とせずに城を吹き飛ばす大きな爆発が起こるだろう。それで終わりだ。
この幕引きは少々計算外だったが、計画通りの結末には違いない。だから、満足して逝こうと思った。
『サティア……っ……』
不思議と体が冷えて、炎の熱さを感じない。もう目を開けるのも億劫だ。そうして目を閉じると、必死に呼びかける声が大きくなる。
それがおかしくて、笑みを浮かべた。好きなだけ勝手に呼ぶがいい。最期の時まで聞いているから。
だから呼んで……。
今までそんな風に呼ばれた事はなかった。だから、きっと自分は嬉しいのだ。
声がかすれ、血を吐き出す音が聞こえた。そして、静かに呼吸が止まるのが分かった。
……おやすみ……父様……。
それが最期の記憶。そうして意識を手放したのだ。
◆◆◆◆◆
世界の音が戻ってくる。
「父……さま……」
ゆっくりと覚醒したティアは、ぼんやりと天井を見つめていた。
「ティアっ」
そうして顔を覗かせたのはカランタだった。その姿が、かつての父であるサティルとかぶる。本人なのだから当たり前かもしれないが、それが少し可笑しかった。
そこで、なぜ自分は眠っていたのだろうと思う。
それを問おうと口を開くが、酷く喉が渇き、かすれた息しか出なかった。
「あっ、待ってて」
カランタが慌てて駆けていく。それと入れ違いにやって来たのは、カルツォーネだった。
「ティア! 気づいたんだね。シェリー、シェリーっ」
そうしてまたカルツォーネも、ティアの顔を確認すると駆け出していった。
間をおかず、次に部屋へと駆け込んで来たのはルクスだ。今までに見たこともないほど、必死な顔をしていた。
「ティア⁉︎ 大丈夫か? 痛いところは?」
そこへ戻ってきたカランタが水を差し出そうとして転けていた。
「うわぁっ」
《なにをしているのです。ティア様にかかったらどうするおつもり?》
「うっ……」
《器を貸しなさい。わたくしが出します》
「はい……」
どうやら、水王に怒られているようだ。
とりあえず水が飲みたい。そう思って起き上がろうと腕に力を込める。すると、現れた風王とルクスが両脇から背中を支えて起こしてくれた。
《ご無理をなさいませんように》
「無理はするな」
そう言う二人に、今日は一段と過保護だと苦笑する。
そこへ、シェリスとカルツォーネがやってきた。
「ティアっ……あぁ、水はゆっくり飲んでください」
「一気に飲んではダメだよ」
一体自分をいくつだと思っているのだろう。この二人もかと呆れながら、ゆっくりと喉を潤した。
「……はぁ……ここは……?」
合宿所でもないように思えたティアは、今更ながらにここはどこなのかと不思議に思った。
「ここは、ティア様の作られた町。ディムースの大宿です」
答えたのは、部屋へと入って来たラキアだった。
************************************************
舞台裏のお話。
マティ 《主……大丈夫かな?》
フラム 《キュ……》
火王 《大丈夫だ。ティア様は強い》
妖精王 《そうだぞ。あの子は強い。それに、薬も完璧だからな》
マティ 《うん。マスターの薬なら大丈夫だと思うけど……》
フラム 《キュゥ》
妖精王 《なんでも、過去に同じ事例があったみたいだからな。間違いはないさ》
マティ 《うん……そういえば、王様。こんな所に居ていいの?》
妖精王 《おいおい。俺だってあの子が心配なんだ。目覚めるまではここに居るぞ?》
火王 《仕事場に戻れ》
マティ 《主が起きたら教えるよ? 戻ったら?》
フラム 《キュっ》
妖精王 《いやいや、なんでそんなに追い立てようとしてんだ?》
マティ 《別に。ただ、居ても意味ないなって》
火王 《帰っても構わない》
フラム 《キュキュっ》
妖精王 《ちょっ、酷くねぇっ?》
火王 《普通だ》
マティ 《普通だよ?》
フラム 《キュ》
妖精王 《あ~……分かった。邪魔なんだ?》
マティ 《うん? まぁ、パパとの団らんに交じってくんなって感じ?》
フラム 《キュ!》
妖精王 《……マジの本音……泣くぞ……》
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
王様は、邪魔者だそうです。
少しずつ垣間見える過去。
王を死へと誘い、それでもそこで王を庇い倒れたようです。
この瞬間の前に何があったかは、またの機会に。
目覚めたティアちゃん。
皆が心配していました。
では次回、一日空けて5日です。
よろしくお願いします◎
書籍化該当部非公開につきまして、内容が少し飛んでおります。
ディムースの話は書籍版では出ないものです◎
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その情景を見た時、これは夢だと分かった。
今まで散々見てきた過去の夢は、世界が見せる世界の記憶。だけれど、これは違う。
網膜に焼き付いたその瞬間を、目を閉じれば思い出せてしまうそれを、ティアは無意識のうちにずっと封印してきた。その記憶が今、鮮やかに蘇る。
『サっ……ティア……っ……』
伸ばされたその人の手は届かない。なぜそんな顔をするのかと、問いたいけれど声も出なかった。
もう眠って……。
そう言いたい。そう願う。
『すまないっ……すまなかった……っ……サティアっ……』
それまで一切こちらを見なかったその人が正気に戻っていた。玉座から下りて、傷つき血塗れになった体を引き摺りながら必死に手を伸ばしてくる。
何度も謝ってくるその姿を、薄れていく意識の中で見ていた。
死に瀕したからこそ、正気に戻ったのだろう。これしか方法はなかったのかと、少々悔やまれた。
周りは既に仕掛けた魔術が発動し、火の海だ。逃げる場所はなく、もう数分とせずに城を吹き飛ばす大きな爆発が起こるだろう。それで終わりだ。
この幕引きは少々計算外だったが、計画通りの結末には違いない。だから、満足して逝こうと思った。
『サティア……っ……』
不思議と体が冷えて、炎の熱さを感じない。もう目を開けるのも億劫だ。そうして目を閉じると、必死に呼びかける声が大きくなる。
それがおかしくて、笑みを浮かべた。好きなだけ勝手に呼ぶがいい。最期の時まで聞いているから。
だから呼んで……。
今までそんな風に呼ばれた事はなかった。だから、きっと自分は嬉しいのだ。
声がかすれ、血を吐き出す音が聞こえた。そして、静かに呼吸が止まるのが分かった。
……おやすみ……父様……。
それが最期の記憶。そうして意識を手放したのだ。
◆◆◆◆◆
世界の音が戻ってくる。
「父……さま……」
ゆっくりと覚醒したティアは、ぼんやりと天井を見つめていた。
「ティアっ」
そうして顔を覗かせたのはカランタだった。その姿が、かつての父であるサティルとかぶる。本人なのだから当たり前かもしれないが、それが少し可笑しかった。
そこで、なぜ自分は眠っていたのだろうと思う。
それを問おうと口を開くが、酷く喉が渇き、かすれた息しか出なかった。
「あっ、待ってて」
カランタが慌てて駆けていく。それと入れ違いにやって来たのは、カルツォーネだった。
「ティア! 気づいたんだね。シェリー、シェリーっ」
そうしてまたカルツォーネも、ティアの顔を確認すると駆け出していった。
間をおかず、次に部屋へと駆け込んで来たのはルクスだ。今までに見たこともないほど、必死な顔をしていた。
「ティア⁉︎ 大丈夫か? 痛いところは?」
そこへ戻ってきたカランタが水を差し出そうとして転けていた。
「うわぁっ」
《なにをしているのです。ティア様にかかったらどうするおつもり?》
「うっ……」
《器を貸しなさい。わたくしが出します》
「はい……」
どうやら、水王に怒られているようだ。
とりあえず水が飲みたい。そう思って起き上がろうと腕に力を込める。すると、現れた風王とルクスが両脇から背中を支えて起こしてくれた。
《ご無理をなさいませんように》
「無理はするな」
そう言う二人に、今日は一段と過保護だと苦笑する。
そこへ、シェリスとカルツォーネがやってきた。
「ティアっ……あぁ、水はゆっくり飲んでください」
「一気に飲んではダメだよ」
一体自分をいくつだと思っているのだろう。この二人もかと呆れながら、ゆっくりと喉を潤した。
「……はぁ……ここは……?」
合宿所でもないように思えたティアは、今更ながらにここはどこなのかと不思議に思った。
「ここは、ティア様の作られた町。ディムースの大宿です」
答えたのは、部屋へと入って来たラキアだった。
************************************************
舞台裏のお話。
マティ 《主……大丈夫かな?》
フラム 《キュ……》
火王 《大丈夫だ。ティア様は強い》
妖精王 《そうだぞ。あの子は強い。それに、薬も完璧だからな》
マティ 《うん。マスターの薬なら大丈夫だと思うけど……》
フラム 《キュゥ》
妖精王 《なんでも、過去に同じ事例があったみたいだからな。間違いはないさ》
マティ 《うん……そういえば、王様。こんな所に居ていいの?》
妖精王 《おいおい。俺だってあの子が心配なんだ。目覚めるまではここに居るぞ?》
火王 《仕事場に戻れ》
マティ 《主が起きたら教えるよ? 戻ったら?》
フラム 《キュっ》
妖精王 《いやいや、なんでそんなに追い立てようとしてんだ?》
マティ 《別に。ただ、居ても意味ないなって》
火王 《帰っても構わない》
フラム 《キュキュっ》
妖精王 《ちょっ、酷くねぇっ?》
火王 《普通だ》
マティ 《普通だよ?》
フラム 《キュ》
妖精王 《あ~……分かった。邪魔なんだ?》
マティ 《うん? まぁ、パパとの団らんに交じってくんなって感じ?》
フラム 《キュ!》
妖精王 《……マジの本音……泣くぞ……》
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
王様は、邪魔者だそうです。
少しずつ垣間見える過去。
王を死へと誘い、それでもそこで王を庇い倒れたようです。
この瞬間の前に何があったかは、またの機会に。
目覚めたティアちゃん。
皆が心配していました。
では次回、一日空けて5日です。
よろしくお願いします◎
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