女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
272 / 457
連載

413 影が蠢く森へ

しおりを挟む
2016. 5. 17
********************************************

カルツォーネは、いつもの日課であるティアとの夜の通信が繋がらなかったことが不安になり、日が暮れてしばらくして国を飛び出していた。

今日からティアが、学園街と赤白の宮殿がある森の中間辺りにあるらしい合宿所に行く事は聞いていた。

いつもとは違う環境にいるのだから、そのせいで通信が取れないのかもしれない。だが、カルツォーネは何故か胸騒ぎを覚えたのだ。

迷わず森の方へと愛馬である黒い天馬で飛んでいたのだが、赤白の宮殿がある森が見え始めた頃から、おかしな気配を感じるようになった。

「……生き物……ではないな……これは魔力か?」

生物の気配ではない事は確かだ。どちらかといえば、精霊に近い。目に見る事のできない魔力の塊といった感じだった。

「なぜあの森に……」

森の危険度としてはBランク。その先にダンジョンがあるのだから仕方が無い。だが、このような異変が起きる程の危険はないはずなのだ。

いよいよ怪しい森の上空へ差し掛かろうとしたカルツォーネ。そこで、黒い影が目に入った。

「あれはっ……」

魔獣の姿をする不可解な何かでできたもの。それが森から出てカルツォーネが先ほど上空を通り過ぎてきた街を目指すように真っ直ぐに走っていった。

「これではマズイかっ」

間違いなく街を襲うだろう魔獣を放って置けるわけがない。カルツォーネは上空で素早く引き返す。天馬は速い。問題なく先回りする事ができた。

大地に降り立つと、剣を構え、先ずは挨拶と魔力を込めた斬撃を飛ばした。

それに切り裂かれた魔獣は、黒い霧となって霧散する。それはつい先日、国外に散っている諜報部の者達からもたらされた情報と酷似していた。

「なるほど……報告にあったダンジョン内の魔獣のようなものというのはこれか。これならば、ダンジョンから魔獣が溢れてきたと宣えば信じる輩もいるだろうな」

実際、上手く情報規制をかけているが、このフリーデル王国の隣の国では、混乱が起き、ダンジョンを封鎖するという事が国で検討されているという。

カルツォーネは向かってくる魔獣達を切り伏せながら森へと向かっていく。

「元はどこだ?」

それを叩かなければキリがない。

そうして進んでいれば、森から数人の黒ずくめの者達が飛び出してきた。そんな彼らの一人が、カルツォーネへと声を掛ける。

「カル様でいらっしゃいますね。我らはクィーグ一族の者です」
「クィーグ……そうか」

クィーグの事は、ティアに聞いて知っていたカルツォーネだ。ならばと、ここを任せる事にする。

「私はこれの元を探す」
「お願いいたします」

察しが良いようだ。彼らは強い。ティアも認めた実力者達の集団だ。魔獣達は、本物ではないとはいえ、その能力や力は本物と大差ない。だが、それでも問題なく対処できるはずだ。

「シュリ、行くぞっ」

愛馬の名を呼べば、傍らへと駆けてくる。それに飛び乗り、カルツォーネは森の中へと入っていった。

◆◆◆◆◆

ティアはそっとルクスから体を離す。

見つめた先には、驚きに目を見開くルクスの顔があった。

言葉も出ない様子のルクスに苦笑しながら、ティアは数歩後ずさると、手を後ろに組んで目を天へと向けた。

「あの天使に呼び起こされて、またこの世界に生まれ変わったの。シェリーやカル姐、サクヤ姐さん、それとファル兄は、サティアだった時の……知り合い……でね。だから、私の事も良く知ってるの」

友と呼ぶには妙な関係ではある。仲間と呼ぶのも少し違うように思えた。最も相応しい言葉があるとすれば、家族かもしれない。それほど、大切な絆を持った者達だと言えた。

「この屋敷は、キルスロート・セランっていうバトラール王国の魔術師長の屋敷だったんだって」

そう言って、今度は屋敷を振り仰ぐ。

「キルじぃは、王家が持っていた神具をここに封じてたみたい。レナード兄様が処分したはずだったんだけどね……」

憎らしげに顔を顰めたティアを見て、ルクスがようやく口を開いた。

「それは……確認しなかったのか?」

そう尋ねられた時、サクヤの気配を屋敷の入り口に感じた。サクヤにもいずれ話さなければと思っていた。だから、少し声を風に乗せる。

「私はあの頃、城にそんなものがあるなんて知らなかったの。それに、保管されていた場所に立ち入れるのは、王と王太子だけだったから」

当然、サティアにはその部屋へ入る事は許されなかった。何より、そこは玉座の裏にある隠し通路の先にあったのだ。

玉座の傍にも行けなかったサティアには足を踏み入れる事さえできなかった。 

「それに、レナード兄様が発動させた魔術は、炎と闇の二つの属性を合わせた、当時でも最強の攻撃魔術だった。それで、部屋ごと安置されていた神具を焼いたはずだったんだ……兄様自身、処分できたと確信してたと思う」

だが、そうではなかったのだ。

「してた……その兄は、その後どうっ……」

ルクスが口を開いた直後。ザワザワと大気が騒ぎ出すような落ち着かない何かを感じた。

反射的に目を向けたのは、赤白の宮殿のある方角だった。

「ティア!」

緊迫した声が聞こえた。それは、屋敷の二階の窓から飛び出したカランタのものだった。

「神具がっ……神鏡が発動しているっ」
「なっ⁉︎」

降り立ったカランタは、震える自身の体を抑えようと必死だった。その瞳には恐怖の色が浮かんでいる。

「ど……どうしようっ……」

そんなカランタへ駆け寄り、ティアは問いかけた。

「あれの能力はなにっ」

ティアには、その神具が発動すればなにが起こるのかがわからなかった。しかし、明らかにカランタは怯えている。

「あっ……あの鏡には、世界の記憶を実体化させる能力があるんだ……」

それは、命なき兵を作り出せるようなものだと言うのだ。


************************************************
舞台裏のお話。

トーイ「あの……」

チーク「え~っと……」

ツバン「……いいの?」

アリシア「どうぞ。遠慮なさらずに」

ベティ「お食事がまだなのでしょう?」

トーイ「そ、そうなのですが……」

チーク「なぜ僕たちを?」

ツバン「……美味しそう……」

トーイ「ツバン、待ってくれ」

チーク「待て。ここは慎重に」

アリシア「あら。私達が信用できないとでも?」

ベティ「伯爵家にここまで染まった私達を信用できないと?」

トーイ「いえっ。ラキアさんの書きつけは本物ですし、疑うなんて」

チーク「そうです。ティア様の信頼も篤いラキアさんですし……」

ツバン「ならいいね」

トーイ「いいか……」

チーク「だな……」

ツバン「よしっ。いっただっきま~ぁっす」

ト・チ「「いただきます」」

アリシア「……食べましたわね……」

ベティ「食べましたね……」

ト・チ・ツ「「「へ?」」」

アリシア「何でもありませんわ。お部屋を用意して参りましょう」

ベティ「泊まっていってよ」

ト・チ・ツ「「「はぁ……」」」

アリシア「明日の予定は決まったわね」

ベティ「うん。とりあえず、庭の片付けだよね」

アリシア「北側の壁もやり直さなくっちゃ」

ベティ「うん。あんなに派手に壊されるなんて計算外だったもんね」

アリシア「少し仕掛けが大きかったのね」

ベティ「侵入者を危うく殺しちゃうところだった……」

アリシア「私達にはまだまだ経験が足りないもの。ラキア様がお留守の間に、色々試さなくっちゃ」

ベティ「加減を覚えないとね……あの三人で……」

アリシア「ふふっ。あの三人なら大丈夫そうだものね」

ベティ「殺しても死ななさそう」

ト・チ・ツ「「「っ……ん?」」」



つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


そのうち包丁を研ぎだしそうな二人です……。


ゆっくりと話している余裕がなくなりました。
過去の話はまたの機会になりそうです。
カル姐さんが駆け付けてくれたようですし、大丈夫……でしょうか?
神具の力とは?


では次回、一日空けて19日です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。