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連載
393 過去編 19 二人の教師
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2016. 4. 19
第三巻 発売決定いたしました◎
差し替えのお知らせはあとがきに。
********************************************
今日はサティアにとって特別な日。
部屋で今日の予定を考えていたサティアのもとへ、第二王女のターナと第三王女のミスティがやってきた。
「サティアちゃん。九歳のお誕生日おめでとう」
そう言って、ターナがサティアへ可愛らしい子犬の編みぐるみを差し出した。
「ありがとうっ、ターナ姉様っ。可愛いっ、赤い……犬?」
「ふふっ、そうよ。伝説のディストレア。サティアちゃんを思っていたら、やっぱりこれだわってっ」
サティアの髪と同じ赤い色をした糸で編まれたぬいぐるみ。その瞳は好奇心に満ちたサティアとそっくりだ。
「そっかぁ。これがディストレアかぁ」
目の高さまで抱き上げ、嬉しそうに笑みを浮かべるサティアからは、まだまだ子どもらしさを感じられた。
「まるでサティアがディストレアになったようですね。ターナお姉様。ターナお姉様? どうかされまして?」
ターナは、作ったぬいぐるみを嬉しそうに抱くサティアを見つめ、何故か涙を滲ませていた。それを見て、ミスティは不思議そうに尋ねる。
すると、ターナは胸を切なげに押さえて言った。
「あの子を作っている時から今日まで、サティアちゃんがずっと傍にいるみたいで……っ、もう私の部屋にはいないのかと思うとっ……」
「……ターナお姉様……また作ればよろしいのでは?」
「っ……ミスティっ。あなた、良いことを言ってくれたわっ。さっそく今夜から始めましょうっ」
「……寝不足にならない程度になさってくださいね……」
ターナは再びサティアの化身とも呼べる編みぐるみを作ろうと決意したようだ。
そんな姉の様子に呆れていたミスティが、次にサティアへと大きな鞄を差し出した。
「サティア。私からはこれよ」
「なぁに?」
ミスティがサティアの前で広げた鞄。そこには沢山の服が入っていた。
「メイド服からドレスまで、サティアがこれから一年着られる服を各種作ったの」
「メイド服も? あ、これメイドさんとおんなじだっ」
「ええ。私とお揃いよ」
「すごぉい」
サティアは自分のサイズにぴったりであろう、小さなメイド服を持ち上げて体に当ててみる。
「これで私と一緒に……」
「これで隠密行動の訓練ができるっ」
「……え?」
ミスティとしては、サティアと一緒に趣味を共有したかったのだが、サティアの認識がそもそも違っていたようだ。
「任せてっ。ミスティ姉様みたいに完璧な城のメイドとして溶け込んでみせるよっ」
「そ、そう……わ、私程のレベルになるには並大抵の努力では無理よ」
「うんっ。やるからには本気で頂天を目指すんだもんっ」
「ええ。ついていらっしゃい」
いつのまにメイドが隠密行動の訓練になってしまったのだろう。だが、ミスティも悪い気はしなかった。
サティアはフィッティングは嫌いだが、服が嫌いなわけではない。面倒な採寸作業や試着がなければいいのだ。
開かれた鞄から出てきた十数着の服を、サティアはいそいそと自分のクローゼットへしまいこんでいった。
そこへ第一王子のレナードと第二王子のファンネスがやってくる。
「サティア。お誕生日おめでとう。これはプレゼントだ」
「綺麗……レナード兄様ありがとう」
レナードが片膝をつきサティアへ差し出したのは両手に乗るくらいの箱だ。その箱の中に並べられていたのは三種類の髪留めだった。
「きっと似合う」
そう言って一つ手に取ったのは大輪の白い花をモチーフにした髪飾り。それをそっとサティアの頭に当てる。似合っていると笑ったレナードだったが、すぐに苦笑へ変わった。
「どうしたの?」
サティアは、曇った表情のレナードへ、何か悩みでもあるのかと尋ねる。するとレナードはさみしそうに首を横へ振った。
「サティアも、すぐに大人になってしまうのかと思ったらね……」
レナードは一人、サティアがまた一つ歳を重ね、大人になっていくのだと実感していたらしい。
「レナード兄様……私が大人になったら寂しいの?」
「いいや。嬉しいよ。けどね……お嫁に行かれたら……きっと私はどうにかなってしまう……」
「え……」
苦悩の表情を浮かべて言い切ったレナードに、サティアだけでなくターナとミスティ、そして、後ろに控えていたファンネスが呆れたようにレナードを見つめた。
その時、第一王女のマリナが部屋に入ってきた。そして、容赦なくレナードの頭をはたく。
「このシスコン。情けない事を宣言するな」
「痛っぅ……姉上……これは宣言ではなく、確実な未来の予想をっ……」
「確定するな。バカ者」
「……バカ……」
地味にショックを受けたようだ。
そんなレナードを無視し、マリナがサティアへ誕生日の祝いを言う。
「おめでとうサティア。私からはこの方だ」
「へ?」
アリアが自信ありげに、開け放たれたドアの方へ手を向ける。すると、そこに淑やかな一人の女性が現れた。
女性は一礼するとサティアへ笑みを向け、口を開いた。
「初めまして。本日はお誕生日、おめでとうございます。この度、サティア様の教師役のとして着任いたしました。フェルマー・マランドと申します」
「よろしくお願いします……先生? え? いいの?」
サティアは今まで教師を付けられていなかった。ダンスや礼儀作法以外、正式な教師を迎え、勉学をする義務が生じるのは、王子が七歳から、王女は十二歳からなのだ。
もちろん、年齢に関係なく、兄姉から教えを受ける事も、自身で勉学に励んでも構わない。
あくまでも教師から教えを受けられる年齢が決められていただけだ。
しかし、サティアは今日で九歳。教師がつくのはまだ先だと思っていた。
困惑するサティアへ、アリアは満面の笑顔で答えた。
「あぁ。父上の許可も出た。フェルマー先生は、私の恩師でもあるんだ」
「私やレナード、ファンネスも教えていただいたのよ」
そう言うのはターナだ。では、ミスティはと何気なく目を向けると、フェルマーが口を開いた。
「五年ほど、こちらでの講義をお断りさせていただいていたので、ミスティ様とは初めてになります」
「フェルマー先生は、学び舎を運営しておられるんだ。そちらの仕事と、あとは、お子さんがいらしてね」
フェルマーは、若くして学び舎を創り、そこに種族を問わず、多くの子ども達を受け入れていた。
教師達もエルフや魔族、獣人族、竜人族といった広く豊富な知識を持つ者達が揃っているらしい。
「学舎の方は多くの方に支えられておりますし、問題はないのですが、せめて子育てが落ち着くまではと」
「娘さんでしたか? お会いしてみたいわ」
ターナがそう言えば、フェルマーが苦笑した。
「ありがとうございます。夫に似て、口数が少ない子なので、愛想もないのですが……」
「ははっ、教育者のフェルマー先生でも子育ては難しいようですね」
「はい……日々、母親というものを娘から教えられております」
そうマリナとフェルマーが笑いあっていた所に、母、マティアスがやって来た。
「遅くなってすまない。フェルマー、久し振りだな」
「マティアス様。お久しぶりでございます」
「あぁ、娘を頼む。脱走するような事があれば遠慮なく言ってくれ。すぐに捕獲しよう」
これにはサティアがむっとして言った。
「母様……私そんな事しないもん」
「そうか? 分からんぞ? ダンスや礼儀作法は逃げているだろう。それに……こっちの教師もいるからな」
「こっち?」
そう言ってマティアスが手招くと、そこに背の高い男が顔を覗かせた。
「ファル。あれが娘だ。フェルマーとよろしく頼む」
サティアは首を傾げていた。その人が、教師というイメージに合わなかったからだ。どう見ても武人にしか見えなかった。
「ティア。これはファル。豪嵐での仲間だ。名前は……うん。ファルで良いだろう。竜人族で、フェルマーの夫だよ」
「ファル……先生?」
マティアスはどうやらファルの本名が思い出せないらしい。
それに、特に気分を害した様子もなく、夫婦は並んでサティアを見つめていた。その様子があまりにも自然で、少々見惚れてしまう。だが、やはり気になる事が一つ。
「でも、何の先生?」
明らかに座学に向いていなさそうで、全く予想できなかったのだ。サティアが尋ねると、マティアスが笑って言った。
「武術に決まっているだろ」
「……へ……?」
言われた事が咄嗟に理解できず、サティアは呆然としていた。その様子を見たからではないだろうが、ファルがようやく口を開いた。
「マティアス。こんな小さな女の子だとは聞いていない……」
「何を言ってる? ティアは今日で九つだ。何か問題があるか?」
「……まだ幼い……何より、先生にはなれない……」
「ん? あ~、お前はまだそんなちっさい事を気にしているのか」
「小さくはない。大きな問題だ。私には教えられる程の器はない……」
「あ~、はいはい。なら、お兄さん的な位置なら納得するか?」
「……兄ならば、妹に教える事もある……」
「ならそれで」
「……分かった……」
何やら難しい話し合いがなされ、結論が出たとマティアスが改めてサティアへ言った。
「ティア。このお兄さんが、武術を教えてくれるからな。よく励め」
「う、うん?」
「そんで、先生とか師匠って呼ぶな。ファルの事は……ファル兄とでも呼べ」
「ファル兄……?」
「……よろしく……」
「へ……?」
こうしてこの日、サティアは勉学と武術の教師を同時に得たのだった。
************************************************
舞台裏~ブタカンの巻~
「どうしたんだ? ティア」
「うん……またなんか籠ってるんだよね……」
「誰が……あ~……」
まだ足りない……あと何ページだっ⁉︎
「……鬼気迫るものがあるな……」
「そうなんだよね……からかう事も出来なくて……」
「からかう気でいたのか……?」
「当然っ」
「……そうか……それにしても……」
うっ、うっ……埋まらないよぉ~……。
「泣いてるぞ」
「いつもの事じゃん。いいんだよ。なんだかんだいって、何とかなるんだから」
「けど、今回は埋まらないんだな……この前は減らせないって言ってなかったか?」
この際……改行を上手く使って行数を稼ぐ……ふっ、ふふふ……一文字で改行とか……。
「だ、大丈夫なのか……?」
「この前は、一文字とかを言い回しで削って無理やり一行に納めたりとかしてたからね……文字数を数えてる所なんてホラーだったよ……」
「あ、あれか? 一文字多いとかいう奇声が夜中に聞こえてたのはそれか……」
「うん……誰もいなくなってから一人でやってたからね」
あ~、あと一文字足りないぃぃっ。
「……あれもホラーだな……って、ティア?」
この辺も……ん?
「やめんか!」
へっ? うぎゃっぐふっ……。
「クオリティが下がるでしょうがっ。増やすならしっかりガッツリ増やしなさい!」
うっ……。
「あれ?」
「おい、ティア……完全にのびてるじゃないか……」
「あ~……ま、まぁ、今日は寝かせるって事で」
「いいのか?」
「大丈夫。一度寝た方がまとまったりするから」
「そう……なのか……?」
「そうなのです」
という訳で、第三巻作成中です◎
ええ、頑張り……マス……。
五月末発売予定です。
間に合う事を女神様に祈っていてください……。
そして、これに伴いましてダイジェスト版への差し替えをいたします。
該当部は【~第55部 107話】までとなります。
差し替え日は26日。0時頃からを予定しております。
ご了承のほどよろしくお願いします◎
舞台裏のお話。
アリア「う~ん……やはり、これが……」
アリアの父「アリア。何を唸っているのだ」
アリア「はっ、父上っ。いえ、これはですねぇ……」
アリアの父「……手合わせ券……なんだ、これは……」
アリア「い、いえ……その……」
アリアの父「……考える事は同じか……」
アリア「はい?」
アリアの父「っ、いや……」
アリア「……父上……?」
アリアの父「くっ、ゴホンっ、し、仕方がないだろう。他の騎士団長とも相談したが、これが最もサティア姫の喜ぶ贈り物だと……」
アリア「なっ……各騎士団長と副団長……それと……団員全員の手合わせ願い……」
アリアの父「どうだ。三種類楽しめるのだぞ。それも、それぞれの騎士団でな」
アリア「凄いです。なんて豪華なっ。あれ? 何で小さくここに『次の日が非番の日に限る』って注意書きが……」
アリアの父「……アリア……騎士たるもの、可能性は全て想定しておくものだ」
アリア「はっ、そうですね。勉強になりましたっ」
アリアの父「うむ。では、これをサティア姫へ」
アリア「はいっ、承りましたっ」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
この娘にしてこの父ありです。
ファル兄の登場です。
ようやく辿り着けました。
口数少ない、火王みたいな人です。
さて次回は……会えるかな?
では次回、一日空けて21日です。
よろしくお願いします◎
第三巻 発売決定いたしました◎
差し替えのお知らせはあとがきに。
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今日はサティアにとって特別な日。
部屋で今日の予定を考えていたサティアのもとへ、第二王女のターナと第三王女のミスティがやってきた。
「サティアちゃん。九歳のお誕生日おめでとう」
そう言って、ターナがサティアへ可愛らしい子犬の編みぐるみを差し出した。
「ありがとうっ、ターナ姉様っ。可愛いっ、赤い……犬?」
「ふふっ、そうよ。伝説のディストレア。サティアちゃんを思っていたら、やっぱりこれだわってっ」
サティアの髪と同じ赤い色をした糸で編まれたぬいぐるみ。その瞳は好奇心に満ちたサティアとそっくりだ。
「そっかぁ。これがディストレアかぁ」
目の高さまで抱き上げ、嬉しそうに笑みを浮かべるサティアからは、まだまだ子どもらしさを感じられた。
「まるでサティアがディストレアになったようですね。ターナお姉様。ターナお姉様? どうかされまして?」
ターナは、作ったぬいぐるみを嬉しそうに抱くサティアを見つめ、何故か涙を滲ませていた。それを見て、ミスティは不思議そうに尋ねる。
すると、ターナは胸を切なげに押さえて言った。
「あの子を作っている時から今日まで、サティアちゃんがずっと傍にいるみたいで……っ、もう私の部屋にはいないのかと思うとっ……」
「……ターナお姉様……また作ればよろしいのでは?」
「っ……ミスティっ。あなた、良いことを言ってくれたわっ。さっそく今夜から始めましょうっ」
「……寝不足にならない程度になさってくださいね……」
ターナは再びサティアの化身とも呼べる編みぐるみを作ろうと決意したようだ。
そんな姉の様子に呆れていたミスティが、次にサティアへと大きな鞄を差し出した。
「サティア。私からはこれよ」
「なぁに?」
ミスティがサティアの前で広げた鞄。そこには沢山の服が入っていた。
「メイド服からドレスまで、サティアがこれから一年着られる服を各種作ったの」
「メイド服も? あ、これメイドさんとおんなじだっ」
「ええ。私とお揃いよ」
「すごぉい」
サティアは自分のサイズにぴったりであろう、小さなメイド服を持ち上げて体に当ててみる。
「これで私と一緒に……」
「これで隠密行動の訓練ができるっ」
「……え?」
ミスティとしては、サティアと一緒に趣味を共有したかったのだが、サティアの認識がそもそも違っていたようだ。
「任せてっ。ミスティ姉様みたいに完璧な城のメイドとして溶け込んでみせるよっ」
「そ、そう……わ、私程のレベルになるには並大抵の努力では無理よ」
「うんっ。やるからには本気で頂天を目指すんだもんっ」
「ええ。ついていらっしゃい」
いつのまにメイドが隠密行動の訓練になってしまったのだろう。だが、ミスティも悪い気はしなかった。
サティアはフィッティングは嫌いだが、服が嫌いなわけではない。面倒な採寸作業や試着がなければいいのだ。
開かれた鞄から出てきた十数着の服を、サティアはいそいそと自分のクローゼットへしまいこんでいった。
そこへ第一王子のレナードと第二王子のファンネスがやってくる。
「サティア。お誕生日おめでとう。これはプレゼントだ」
「綺麗……レナード兄様ありがとう」
レナードが片膝をつきサティアへ差し出したのは両手に乗るくらいの箱だ。その箱の中に並べられていたのは三種類の髪留めだった。
「きっと似合う」
そう言って一つ手に取ったのは大輪の白い花をモチーフにした髪飾り。それをそっとサティアの頭に当てる。似合っていると笑ったレナードだったが、すぐに苦笑へ変わった。
「どうしたの?」
サティアは、曇った表情のレナードへ、何か悩みでもあるのかと尋ねる。するとレナードはさみしそうに首を横へ振った。
「サティアも、すぐに大人になってしまうのかと思ったらね……」
レナードは一人、サティアがまた一つ歳を重ね、大人になっていくのだと実感していたらしい。
「レナード兄様……私が大人になったら寂しいの?」
「いいや。嬉しいよ。けどね……お嫁に行かれたら……きっと私はどうにかなってしまう……」
「え……」
苦悩の表情を浮かべて言い切ったレナードに、サティアだけでなくターナとミスティ、そして、後ろに控えていたファンネスが呆れたようにレナードを見つめた。
その時、第一王女のマリナが部屋に入ってきた。そして、容赦なくレナードの頭をはたく。
「このシスコン。情けない事を宣言するな」
「痛っぅ……姉上……これは宣言ではなく、確実な未来の予想をっ……」
「確定するな。バカ者」
「……バカ……」
地味にショックを受けたようだ。
そんなレナードを無視し、マリナがサティアへ誕生日の祝いを言う。
「おめでとうサティア。私からはこの方だ」
「へ?」
アリアが自信ありげに、開け放たれたドアの方へ手を向ける。すると、そこに淑やかな一人の女性が現れた。
女性は一礼するとサティアへ笑みを向け、口を開いた。
「初めまして。本日はお誕生日、おめでとうございます。この度、サティア様の教師役のとして着任いたしました。フェルマー・マランドと申します」
「よろしくお願いします……先生? え? いいの?」
サティアは今まで教師を付けられていなかった。ダンスや礼儀作法以外、正式な教師を迎え、勉学をする義務が生じるのは、王子が七歳から、王女は十二歳からなのだ。
もちろん、年齢に関係なく、兄姉から教えを受ける事も、自身で勉学に励んでも構わない。
あくまでも教師から教えを受けられる年齢が決められていただけだ。
しかし、サティアは今日で九歳。教師がつくのはまだ先だと思っていた。
困惑するサティアへ、アリアは満面の笑顔で答えた。
「あぁ。父上の許可も出た。フェルマー先生は、私の恩師でもあるんだ」
「私やレナード、ファンネスも教えていただいたのよ」
そう言うのはターナだ。では、ミスティはと何気なく目を向けると、フェルマーが口を開いた。
「五年ほど、こちらでの講義をお断りさせていただいていたので、ミスティ様とは初めてになります」
「フェルマー先生は、学び舎を運営しておられるんだ。そちらの仕事と、あとは、お子さんがいらしてね」
フェルマーは、若くして学び舎を創り、そこに種族を問わず、多くの子ども達を受け入れていた。
教師達もエルフや魔族、獣人族、竜人族といった広く豊富な知識を持つ者達が揃っているらしい。
「学舎の方は多くの方に支えられておりますし、問題はないのですが、せめて子育てが落ち着くまではと」
「娘さんでしたか? お会いしてみたいわ」
ターナがそう言えば、フェルマーが苦笑した。
「ありがとうございます。夫に似て、口数が少ない子なので、愛想もないのですが……」
「ははっ、教育者のフェルマー先生でも子育ては難しいようですね」
「はい……日々、母親というものを娘から教えられております」
そうマリナとフェルマーが笑いあっていた所に、母、マティアスがやって来た。
「遅くなってすまない。フェルマー、久し振りだな」
「マティアス様。お久しぶりでございます」
「あぁ、娘を頼む。脱走するような事があれば遠慮なく言ってくれ。すぐに捕獲しよう」
これにはサティアがむっとして言った。
「母様……私そんな事しないもん」
「そうか? 分からんぞ? ダンスや礼儀作法は逃げているだろう。それに……こっちの教師もいるからな」
「こっち?」
そう言ってマティアスが手招くと、そこに背の高い男が顔を覗かせた。
「ファル。あれが娘だ。フェルマーとよろしく頼む」
サティアは首を傾げていた。その人が、教師というイメージに合わなかったからだ。どう見ても武人にしか見えなかった。
「ティア。これはファル。豪嵐での仲間だ。名前は……うん。ファルで良いだろう。竜人族で、フェルマーの夫だよ」
「ファル……先生?」
マティアスはどうやらファルの本名が思い出せないらしい。
それに、特に気分を害した様子もなく、夫婦は並んでサティアを見つめていた。その様子があまりにも自然で、少々見惚れてしまう。だが、やはり気になる事が一つ。
「でも、何の先生?」
明らかに座学に向いていなさそうで、全く予想できなかったのだ。サティアが尋ねると、マティアスが笑って言った。
「武術に決まっているだろ」
「……へ……?」
言われた事が咄嗟に理解できず、サティアは呆然としていた。その様子を見たからではないだろうが、ファルがようやく口を開いた。
「マティアス。こんな小さな女の子だとは聞いていない……」
「何を言ってる? ティアは今日で九つだ。何か問題があるか?」
「……まだ幼い……何より、先生にはなれない……」
「ん? あ~、お前はまだそんなちっさい事を気にしているのか」
「小さくはない。大きな問題だ。私には教えられる程の器はない……」
「あ~、はいはい。なら、お兄さん的な位置なら納得するか?」
「……兄ならば、妹に教える事もある……」
「ならそれで」
「……分かった……」
何やら難しい話し合いがなされ、結論が出たとマティアスが改めてサティアへ言った。
「ティア。このお兄さんが、武術を教えてくれるからな。よく励め」
「う、うん?」
「そんで、先生とか師匠って呼ぶな。ファルの事は……ファル兄とでも呼べ」
「ファル兄……?」
「……よろしく……」
「へ……?」
こうしてこの日、サティアは勉学と武術の教師を同時に得たのだった。
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舞台裏~ブタカンの巻~
「どうしたんだ? ティア」
「うん……またなんか籠ってるんだよね……」
「誰が……あ~……」
まだ足りない……あと何ページだっ⁉︎
「……鬼気迫るものがあるな……」
「そうなんだよね……からかう事も出来なくて……」
「からかう気でいたのか……?」
「当然っ」
「……そうか……それにしても……」
うっ、うっ……埋まらないよぉ~……。
「泣いてるぞ」
「いつもの事じゃん。いいんだよ。なんだかんだいって、何とかなるんだから」
「けど、今回は埋まらないんだな……この前は減らせないって言ってなかったか?」
この際……改行を上手く使って行数を稼ぐ……ふっ、ふふふ……一文字で改行とか……。
「だ、大丈夫なのか……?」
「この前は、一文字とかを言い回しで削って無理やり一行に納めたりとかしてたからね……文字数を数えてる所なんてホラーだったよ……」
「あ、あれか? 一文字多いとかいう奇声が夜中に聞こえてたのはそれか……」
「うん……誰もいなくなってから一人でやってたからね」
あ~、あと一文字足りないぃぃっ。
「……あれもホラーだな……って、ティア?」
この辺も……ん?
「やめんか!」
へっ? うぎゃっぐふっ……。
「クオリティが下がるでしょうがっ。増やすならしっかりガッツリ増やしなさい!」
うっ……。
「あれ?」
「おい、ティア……完全にのびてるじゃないか……」
「あ~……ま、まぁ、今日は寝かせるって事で」
「いいのか?」
「大丈夫。一度寝た方がまとまったりするから」
「そう……なのか……?」
「そうなのです」
という訳で、第三巻作成中です◎
ええ、頑張り……マス……。
五月末発売予定です。
間に合う事を女神様に祈っていてください……。
そして、これに伴いましてダイジェスト版への差し替えをいたします。
該当部は【~第55部 107話】までとなります。
差し替え日は26日。0時頃からを予定しております。
ご了承のほどよろしくお願いします◎
舞台裏のお話。
アリア「う~ん……やはり、これが……」
アリアの父「アリア。何を唸っているのだ」
アリア「はっ、父上っ。いえ、これはですねぇ……」
アリアの父「……手合わせ券……なんだ、これは……」
アリア「い、いえ……その……」
アリアの父「……考える事は同じか……」
アリア「はい?」
アリアの父「っ、いや……」
アリア「……父上……?」
アリアの父「くっ、ゴホンっ、し、仕方がないだろう。他の騎士団長とも相談したが、これが最もサティア姫の喜ぶ贈り物だと……」
アリア「なっ……各騎士団長と副団長……それと……団員全員の手合わせ願い……」
アリアの父「どうだ。三種類楽しめるのだぞ。それも、それぞれの騎士団でな」
アリア「凄いです。なんて豪華なっ。あれ? 何で小さくここに『次の日が非番の日に限る』って注意書きが……」
アリアの父「……アリア……騎士たるもの、可能性は全て想定しておくものだ」
アリア「はっ、そうですね。勉強になりましたっ」
アリアの父「うむ。では、これをサティア姫へ」
アリア「はいっ、承りましたっ」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
この娘にしてこの父ありです。
ファル兄の登場です。
ようやく辿り着けました。
口数少ない、火王みたいな人です。
さて次回は……会えるかな?
では次回、一日空けて21日です。
よろしくお願いします◎
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えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
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