女神なんてお断りですっ。

紫南

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382 御宅訪問です

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2016. 4. 4
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「それで、今すぐ行くのかい?」

そうカルツォーネが尋ねる。すると、シェリスは首を横に振った。

「いいえ。まだ材料が足りません。満月の夜にしか手に入らない物がありますから、出発できるのは明日になります」
「夫人は大丈夫かい?」

それを聞いて、確認するようにカルツォーネが侯爵へ目を向けた。これに侯爵が頷きながら答える。

「眠らせております。薬学士の言葉では、三日は目を覚まさないだろうと……」

ここまで、侯爵は一日で駆けてきた。明日の朝に出るならば、ギリギリ間に合うだろうと、不安そうな表情ではあるが、予定を立てる。

しかし、シェリスは自信満々だ。

「問題ないでしょう。あちらで薬を作る時間も充分です」
「そうだね。ひとっ飛びだし。今夜が満月で良かったねぇ。私は一旦国に戻って出直してくるよ」

そんなカルツォーネの言葉に、シェリスが眉をひそめる。

「……着いてくるのですか?」
「勿論。君一人では心配だからね」
「……勝手にしてください」
「そうさせてもらおう。そうだ。クロノス君にも一緒に来てもらおう。人族がいた方が、あちらでも安心だろう?」

カルツォーネとシェリスの会話を聞いて、何とかなるのだと確信した侯爵も肩の力を抜く。そして、立ち上がるとシェリスとカルツォーネに深く頭を下げた。

「どうか、お願いいたします」
「任せておきなよ」
「なぜあなたが返事をしているんです……」
「君は素直に答えないだろ?」
「……」

シェリスはカルツォーネをひと睨みすると、立ち上がってドアへ向かう。

そのまま振り返らず一言告げた。

「明朝、出発します」
「七の鐘に伯爵の家でいいかな」
「ええ」

シェリスはカルツォーネの問いかけに答えると部屋を出ていった。

シェリスを見送った侯爵は、糸が切れたように椅子に再び腰掛けた。

その様子を見たカルツォーネが笑う。

「ふふっ、上手くいって良かったね」
「はい」

この短時間で、カルツォーネにもようやく慣れてきた侯爵だ。

「さて、ではもう少しここで休んでいるといいよ。私は少し下で挨拶があるから、それが終わったら伯爵の所に送ってあげよう」
「え、あぁ、いえ。お構いなく」

カルツォーネも忙しい身なのだと察していた侯爵は、一人で歩いて伯爵の屋敷に向かうつもりだった。

「いいんだよ。少し待たせてしまうけれどね」
「はぁ……では、お言葉に甘えまして……」
「うん。任せておくれ」

そうして、カルツォーネは恒例のファンサービスを終えると、侯爵をヒュースリー伯爵の屋敷に送り届け、国に一旦戻って行ったのだった。

◆◆◆◆◆

約束した通り、シェリスとカルツォーネ、ドーバン侯爵、それと、サポートにと同行してきたクロノスは、ドーバン侯爵領の主領都、バレンに日が中天に昇る前に着いていた。

侯爵が連れていた護衛や馬車は、今頃まだゆっくりと伯爵領を進んでいるはずだ。

シェリス達は、グリフォンと天馬で空を駆けて来たというわけだった。

「こちらです」

屋敷に着いた一行を、侯爵が夫人の下へと案内する。

この間、屋敷の使用人達はシェリスと、今回は本来の髪色と瞳の色を晒しているカルツォーネに不躾な視線を送っていた。

シェリスは、目に付くからといって特徴的なエルフの耳を隠したりはしない。その視線を分散させる為、カルツォーネも本来の姿を見せていたのだ。

使用人達には、一様に動揺を隠せない様子が見てとれ、侯爵はいたたまれない気持ちだった。

「申し訳ありません」
「いや、これが普通の反応だよ。気にしなくていい。ねぇ、シェリー」
「最初から期待などしていません」
「君はまったく……すまないねぇ」

カルツォーネは苦笑するが、侯爵は正直なシェリスをかなり好ましく思うようになっていた。

「いいえ。問題があるのはこちらです。私は、ティアさんにお会いして、自分がどれほど傲慢であったかを知りました。この国も変わっていかねばなりません」
「ティアか……あの子は、今の現状に不満があるだろうね。なまじ、同じ人族だから、理解されないことに苛立つのさ。私達はもう君たちとの付き合いは諦めていたのだけれどね」

ふわりと笑って言える事ではないのだが、カルツォーネは微笑みを浮かべたままだ。

ティアが自分達の不遇に腹を立ててくれている事がカルツォーネには嬉しいのだろう。

当然だが、シェリスも同じだ。

「ティアがいなければ人族の国など見捨てていますから」
「はははっ、そうだねぇ」

そんなかなり問題のある事を話しながら、とある部屋の前で立ち止まった。

「こちらです」

部屋には、薬学士らしき者と、世話をする為にと数名のメイドがいた。

その中に、シェリス達の知る若いメイド二人の姿がある。その二人は、シェリス達に歩み寄ると、本来の主人であるはずの侯爵ではなく、シェリスに報告をした。

「マスター。この場にいる者の人選は確かです。ご安心ください」

そう言うのはアリシアだ。

「既にあの組織につながりがあるような者はいないと?」

シェリスの確認に、今度はベティが答える。

「はいっ。ラキア様とティア様直伝の情報収集の技を駆使しました。完璧ですっ」
「それは結構」

二人の報告に満足気に頷くと、シェリスはベッドへ向かったのだった。


************************************************
舞台裏のお話。

ユフィ「アリシアとベティはちゃんとやれているかしら」

ラキア「問題はないと思いますよ?」

ユフィ「そう?けれど、あちらで働いた事はないと思うの。ずっとこちらで私の担当をしてくれていたんだもの……」

ラキア「もうあの二人も立派なメイドです。ユフィア様は、何が不安なのですか?」

ユフィ「そうね……あちらは、厳しい人が多いわ。失敗したりはしないと思うけれど、居心地は良くないと思うの……」

ラキア「ふふっ。あの二人も、ユフィア様にこのようにお気遣いいただき、喜びます。ですが、ご心配は無用です」

ユフィ「どうして?」

ラキア「そうですね……やり甲斐さえあれば、周りなど気にならないものです。まぁ、そうはいっても、あの二人は元々、あまり周りを気にしませんから」

ユフィ「そう……かしら?」

ラキア「ええ。それに、今の二人ならば、屋敷にいるメイド達の仕事を全部二人だけでやってしまうかもしれませんね」

ユフィ「え?」

ラキア「いくら侯爵家のメイドであっても、我が伯爵家流に鍛え上げた者には敵いませんから」

ユフィ「そういえば……ティアさんが言っていたわね『うちのメイド達は、王宮でも超余裕で働けるスーパーメイドだよ』と……あの二人も?」

ラキア「はい。職場を軽く乗っ取れるほど」

ユフィ「それは……頼もしいわねっ」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


もう国を乗っ取る準備は完璧です。


何気に暗躍していました。
ティアちゃんの指示でしょうか。
シェリスも、ティアちゃんの直伝だと言われれば、文句はありません。
さて、診察ですね。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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