女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
219 / 457
連載

360 覚えてませんでした

しおりを挟む
2016. 3. 4
********************************************

ティアが目を向けた先には、目を見開いたまま身を震わせる三人がいた。

その三人の前で並び、暴言を吐いていた男達は、この様子に気付いていないようだ。

ティアは顔色が明らかに悪く、青から土気色に変化していく三人の男達の表情を不思議に思って首を傾げた。

それは、思わず気遣ってしまう程だ。

「大丈夫?気分が悪いなら、この奥の休憩室を使ったら?」
「「「ひっ!!」」」

ヒクリと息を呑む三人。それで前にいた男達も気付いたようだ。

「お、おい。どうしたよ」
「なんだ?悪いもんでも食べたか?」
「何かあったのか?」

仲間達の異変に、それまで苛立ちをあらわにしていた男達も慌てる。

だが、どうしたのかと問われた三人は、言葉を発する事さえもできずにティアを未だ見つめていた。

まるで、目をそらしたら終わるとでもいうように、固まっていたのだ。

ここで口を開いたのはアデルだった。

「大丈夫だよ、おじさん達。ティアは覚えてないみたいだから。それに、ティアに喧嘩を売らなきゃ問題ないよ」
「「「あ……」」」

その言葉を聞いて、揃って詰まっていた息を吐き出す様子に、ティアを知らない男達は何のことだと顔を顰めた。

あまりにも酷い顔色だった事でショック死してしまわないかと不安になっていたアデルは、三人を何とか安心させてあげようと、更に言葉を重ねる。

「ティアは買い専門なの。だから、おじさん達が売らなければ心配ないよ?」
「そ、そうか……」
「そうなのか……」
「助かった……」

どうやら、三人はティアが無条件で喧嘩を吹っかけてくると思っていたらしい。

「何の事?アデル、知り合いなの?」
「う~ん……知ってる人ではあるから……うん。知り合い」
「そっか。変な人に着いて行っちゃダメだよ?」
「大丈夫だよ」

本当にティアは思い出せないのだ。ティアの中では、やった事も言われた事も大した事ではなかった為だ。

そこで、事態の収集を感じたのか、ダスバが奥から戻ってきた。

「待たせた。これだ」
「うん。アデル、シルさん。着けてみてくれる?」

ティアは、男達の存在を無視して近くに来ていたアデルの手を引いた。

布に包まれてカウンターに置かれた二つの小さな物。その包みをダスバが解く。

「うわぁ……なにこれ」
「これはっ……⁉︎」

アデルには初めて見る物。だが、シルには慣れ親しんだ物だった。

「これは拳鍔けんつばっていう武器。ほら、アデル。手を出して」
「う、うん……」

ティアに言われ、アデルは恐る恐る右手を差し出した。

当然だが、アデル専用に作られた拳鍔は、空けられた穴の大きさが五本の指にピッタリはまる。

「バッチリだね。どう?ダスバさん」
「良さそうだ。相性も良い」
「だってさ。一応、両手ともあるけど、使う時に応じて片手だけでも良いし、このチェーンを腰に着けて……こうやって普段はここにかけておいて。使う時は指にはめてそのまま引っ張れば外れるから」

付属として作ってもらった特製のホックのついたチェーンをアデルの両腰のベルトに引っ掛ける。

左手用のをそのホックに引っ掛け、アデルに着けて引き抜くように言うと、スムーズに着脱が可能だと証明できた。

「指輪……じゃないよな?」

それまで後ろで見ていたキルシュが不思議そうに尋ねた。

「うん。グッと握って、抉るように直接攻撃ね」
「え~っと、ここだね。この出っ張りでって事だね。スゴイ。マティちゃんみたいにいけるんだねっ」
「そうそう。魔力の伝達もしやすいから、破壊力もかなり出るよ」
「一発で砕けるって事だねっ。早く実践したいっ」

そんな無邪気とも言える子ども達が会話する様子を、男達は呆然と見ていた。

しかし、やはりというか、案の定、ティアを知らない男達は、不満な声を上げた。

「おいっ、テメェ、俺らが先だっつってんだろ!」
「ふざけんなよっ。苦労して来た客だぜっ?無視してんじゃねぇよっ」
「ガキの使いなんて後回しに決まってんだろっ!」

そんな言葉を聞いて、ティアは男達に向き直る。

だがここで、勇敢にも後ろにいた三人がその前へと進み出た。

「なんだよ。どうしたんだ?」
「お前らも言ってやれよ」
「そうだぜ?やっとたどり着いた俺らには武器を売らねぇとか言いやがったってぇのによ」

男達の言葉に、ダスバが表情を出さずに返す。

「売らないとは言っていない」

どうやら、それぞれの男達が選んだ武器が彼らに合わないものだったようだ。

ドワーフは、使い手に相応しい武器を提供する。それがドワーフの矜恃だ。これは相手が王であっても曲げたりはしない。

刃を突きつけられ、脅されたとしても渡したりしないのだ。

ティアの目の前に並んだ三人は、真っ直ぐにティアを見つめていた。

その瞳には、隠しきれない動揺と怯えが見てとれる。

そして、その三人は唐突に座り込んだ。次の瞬間、彼らは揃って土下座していた。

「「「すんませんっ」」」
「うん?」

この対応には、さすがのティアも戸惑った。

ティアの三倍程の大きさの屈強な体をした大人の男達が、体を縮こまらせて、額を床に擦り付けているのだ。

続いて男達は言った。

「仲間が失礼な事を言いましたっ」
「揉め事を起こしたのは俺らです。ご迷惑をおかけしましたっ」
「すぐに出て行きますので、ご容赦くださいっ」
「「「……」」」

体を折りすぎて声が非常に苦しそうだ。

そして、彼らはそのままの姿勢のまま、ティアの許しを待っていた。

「……ねぇ、アデル。私、この人達に何かした?」
「うん。だからね、あたしとキルシュがカード作る時だよ。順番待ちしてた時に後ろにいたおじさん達。ティアが扇で……こう、このおじさんの腕を砕いたでしょ?」
「う~ん……あぁ、あの時のっ。ごめん。顔とか見てなかったわ。忘れててごめんね」
「「「いいえっ、滅相もないっ」」」

寧ろ男達にしてみれば、思い出さないでもらいたかったのだろう。ビクビクと身を震わせて未だに頭を上げようとしなかった。

この事態に、ついていけないのは、文句を言っていた男達だ。

「なにしてんだよっ」
「そんな子どもにどうしたんだっ」
「その子どもは何者だよっ」

彼らは少女二人を前に土下座する三人の仲間達へと、貶したような目を向けていた。

そんな彼らを、ティアはゆっくりと静かに見つめたのだった。


************************************************
舞台裏のお話。

ザラン「ゲイルさん、店に入んないんすか?」

ゲイル「ちょい待て。乱闘にでもなったら店がダメになるだろ」

ザラン「いや、なに期待してんすかっ」

サクヤ「あなたもよく我慢してるわね」

ルクス「……店の人はティアの知り合いなのですから、そうそう暴れたりしないかと」

サクヤ「へぇ……よく分かってるのね。確かに、ティアは縁のある人の店や家で暴れたりしないわ。やるとしたら、外へ出してからね」

ゲイル「そうなのか?ちぇっ」

ルクス「親父……」

ザラン「けど、このまま放っといていいのか?土下座してんぞ?」

ルクス「あの真ん中の男が、いつだったかティアに腕を砕かれた冒険者です。喧嘩を売るなんてことできないでしょう」

ゲイル「何したんだっ?」

ルクス「……何でそんなに嬉しそうに……経緯は知らないが、順番待ちがどうとか言っていたな。それでティアへ掴みかかろうと……」

ザラン「ティアは見た目、ただの子どもだしな。順番を変われとか言ったんか?」

ルクス「でしょうね。譲れとか言われたんだと思います。きっと無視したんでしょう」

サクヤ「あの子ならやるわね。順番は順番だとか言って……」

ゲイル「嬢ちゃんの見た目に騙されるとは、大した事ねぇな」

ザラン「ゲイルさん……ティアの異常さを見た目で見抜ける奴は、本当に限られるっすよ……」

ゲイル「そうか?」

ルクス「そうだろう……」

サクヤ「そうね……」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


ゲイルパパはティアちゃん寄りです。


お話は続きそうです。
確かに、事情を知らなければ、子ども相手に何してんだと思っても仕方ありません。
ダスバも様子を見るつもりでしょうか。
保護者達の対応も気になりますね。
平和的解決もまだあり得ます。


では次回、一日空けて6日です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。