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358 影の人です
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2016. 3. 1
あとがきにお知らせあります。
********************************************
ティア達は、日が傾きだす前に赤白の宮殿に辿り着いた。
「ここがそうか~。すげぇとこにあんのな」
ゲイルが見上げるのは、蔦に覆われた大きな石で出来た入り口だ。
「ってか、ここまで馬車が通れた事が奇跡っすよ……」
「ははっ、マジで獣道だったもんなぁ」
ザランがげっそりと顔を歪めて後ろを振り返る。
そこには、たった今出来ていた筈の馬車の轍が、既に起き上がった草で分からなくなった辛うじて獣道と呼べる道があった。
「よく馬車が傷つかなかったものだ」
「木がそれほど張り出していなかったのか?」
曲がりくねったその道は、きれいに木の枝が切りそろえられていた。その為、馬車の車体に枝が擦れる事もなく、ガタガタと揺れるくらいの問題しかなかったのだ。
「多分、剪定して通りやすくしてくれたんだと思うよ」
「なに?」
「どうゆうことだ?」
エルヴァストとべりアローズの問いかけに、ティアは苦笑して答える。
「昨日、馬車が通れるか心配だなってちょっとサクヤ姐さんと話してたんだよね。それを聞いてた誰かさん達が、手を加えてくれたみたい」
「マメよね。特に、ティアの言葉はよく聞いてるみたいだから、気をつけなさいよ?」
「制限しろって事?それはムリ」
昨晩、今日の予定を話し合っていたサクヤとティアの言葉を、クィーグの者が聞いていたらしい。
どうも、ティアを特別視しているらしく、ティアの要望をなんでも叶えようとするのだ。
クィーグは主と認めた者に尽くす。無茶な事であってもやろうとする。未だ、ティアを主としてはいないが、ティアが何気なく言った言葉であっても、それについて真剣に考え、対応しようとするのだ。
ティアには彼らの行動を制限する義務はない。なにより、尽くされるという事に慣れていないティアには、彼らの行動が予想できなかった。
「シルさんはちゃんと着いてきてるみたいだしね」
「うそ、どこ?」
ティアが目を向けたのは木の上。その視線を追ったサクヤの目の前に、スッと影が下りてきた。
「お気付きでしたか……」
その正体はシルだ。服装は動きやすそうな黒い装束。だが、顔や頭を隠してはいないので、初めて見るゲイル達にもそれほど警戒心を抱かれずに済んだようだ。
「まぁね。でも、別に隠れる必要はなかったのに。それよりシルさん。あっちの用意は良いんだよね?」
「はい。ご指示通りの内容になったと確認作業も済ませてあります」
「そう。なら、ここでの用事を済ませてから向かいましょうか」
「はっ。お供させていただきます」
「ここも?まぁいいけど」
ティアの前で片膝を突き、はきはきと報告するシルの姿を見た一行は、全く状況が分からなかったようだ。
「な、なに者だ?」
そう声を上げたゲイルに、ティアは振り向いて答えた。
「この人は、学園の警備を担う一族の者なの。あと、ここのダンジョンと、この後私達が行く、琥珀の迷宮の管理もしてるんだ」
ティアの説明が終わると、シルが立ち上がり、ゲイル達に頭を下げた。
「シルと申します。以後、お見知りおきください」
「お、おう。なんか知らんが、嬢ちゃんが認めてんなら問題ねぇだろ。よろしくな」
「はい」
ゲイルはティアを信用している。そのティアに見るからに敬意を払っているシル。悪い人間には思えない。
それは、ザランやエルヴァスト、ベリアローズも同じだ。
「また変なのが増えてんのな……」
「ティアの人脈には、本当に驚かされる」
「明らかにクロノスさん寄り……またティアの行動を助長しそうなのが増えた……」
エルヴァストは笑ながら感心しているのだが、ザランとベリアローズは微妙な表情で肩を落とした。
「なんか、カッコいい……影の人って感じっ」
「いや、アデル。確かに良い感じに見えるが、影ってだけで色々と問題ありだからな?」
シルの態度は、アデルのトキメキポイントだったらしい。
ティアとシルの様子を見れば、傍に控える影という存在は、とても絵になって良い。だが、影は影だ。その上、ティアは言っても貴族の令嬢。影の存在を持つ者としては不相応だろう。
「なに言ってるの、キルシュ。お姫様とそれを守る隠密って、すごくステキでしょ?」
「……守られるような姫じゃないけどな……」
どうやら現実が見えていないらしいと、キルシュは諦めた。アデルはかなりティアに毒されているようだ。
そんなアデルとキルシュの会話が聞こえたのだろう。マティがシルへ注意する。
《ダメだよ。ルクスがいる時は、主の隣はルクスが立つんだから》
これにはルクスの方が驚いた。
「おい、マティっ……あ、いや、そうなんだが……」
「ルクス?」
マティがルクスに行けと鼻で背中を押した。近付いてきたルクスに、ティアが首を傾げる。
いつもならば、こんな時、しどろもどろになって目をそらすルクスだが、なぜか今日は違った。
ルクスは一つ大きく息を吸うと、肩の力を抜いてティアを真っ直ぐに見つめた。
「今日は傍にいるからな」
「ルクス……ふふっ、そうね」
笑うティアに、ルクスは嬉しそうに表情を緩めた。
久し振りなのだ。どれだけギャラリーがいても、これだけは譲れないと思ったらしい。
だが、この良い雰囲気を維持できないのがティアだ。
「明日はちょっとキツイ挑戦になるだろうし、どこまでやれるか、今日の内に確認させてもらうわね」
「……え……?」
そう言ったティアの笑みは、一層艶やかに輝いていた。
************************************************
舞台裏のお話。
ラキア「フィズさん。どうぞお入りください」
フィズ「お気付きでしたか。失礼いたします」
ラキア「琥珀の方はどうなりましたか?」
フィズ「お陰様で、守備は上々。ティア様にもご満足いただけるかと思います」
ラキア「それはよぅございました」
フィズ「はい。正直、あのようなプランを提案なさるとは思いもよらず、驚きました」
ラキア「ティア様の行動力を侮ってはいけません。毎回、最後にはなぜか全て上手くいくという素晴らしい案をお持ちですからね」
フィズ「はい……もう一つの提案も、お聞きして驚きました。あれは、本来ならば国が担うもの。あのようなお考えがあるとは……」
ラキア「ティア様ならば、国の問題の一つや二つ、解決するのに何という事はありません」
フィズ「そのようですね……我らも、少しでもティア様のお役に立てるよう、努力を惜しみません」
ラキア「はい。クィーグの皆様に負けぬよう、こちらも気を引き締めます」
フィズ「ティア様の為ならば」
ラキア「ティア様の為に」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
フィズとラキア……このタッグは最強かもしれません。
シルさんも合流。
サポートは万全のようです。
ティアちゃんのバトラールバージョンでも動揺しないシルさん。
中々やります。
ルクス君は今回頑張ったのですが、ティアちゃんはいまいちこういう雰囲気に慣れないようです。
では次回、一日空けて3日です。
よろしくお願いします◎
●お知らせ●
2巻発売に伴い、レジーナブックスのサイトにてweb限定の番外編を公開中です。
簡単な(選択するだけの)アンケートに答えれば見られますので、是非ご覧ください。
勿論、書籍版を読んでいない方も大歓迎です。
前回はルクス君の休日を追いましたが、今回はシェリスです。だからといって、変態道を歩かせてはいません
。登場するのはゼノじぃちゃんとゲイルパパです。
シェリスとゼノじぃちゃん、ゲイルパパの心温まる不思議な関係のお話です。
お楽しみください◎
紫南
あとがきにお知らせあります。
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ティア達は、日が傾きだす前に赤白の宮殿に辿り着いた。
「ここがそうか~。すげぇとこにあんのな」
ゲイルが見上げるのは、蔦に覆われた大きな石で出来た入り口だ。
「ってか、ここまで馬車が通れた事が奇跡っすよ……」
「ははっ、マジで獣道だったもんなぁ」
ザランがげっそりと顔を歪めて後ろを振り返る。
そこには、たった今出来ていた筈の馬車の轍が、既に起き上がった草で分からなくなった辛うじて獣道と呼べる道があった。
「よく馬車が傷つかなかったものだ」
「木がそれほど張り出していなかったのか?」
曲がりくねったその道は、きれいに木の枝が切りそろえられていた。その為、馬車の車体に枝が擦れる事もなく、ガタガタと揺れるくらいの問題しかなかったのだ。
「多分、剪定して通りやすくしてくれたんだと思うよ」
「なに?」
「どうゆうことだ?」
エルヴァストとべりアローズの問いかけに、ティアは苦笑して答える。
「昨日、馬車が通れるか心配だなってちょっとサクヤ姐さんと話してたんだよね。それを聞いてた誰かさん達が、手を加えてくれたみたい」
「マメよね。特に、ティアの言葉はよく聞いてるみたいだから、気をつけなさいよ?」
「制限しろって事?それはムリ」
昨晩、今日の予定を話し合っていたサクヤとティアの言葉を、クィーグの者が聞いていたらしい。
どうも、ティアを特別視しているらしく、ティアの要望をなんでも叶えようとするのだ。
クィーグは主と認めた者に尽くす。無茶な事であってもやろうとする。未だ、ティアを主としてはいないが、ティアが何気なく言った言葉であっても、それについて真剣に考え、対応しようとするのだ。
ティアには彼らの行動を制限する義務はない。なにより、尽くされるという事に慣れていないティアには、彼らの行動が予想できなかった。
「シルさんはちゃんと着いてきてるみたいだしね」
「うそ、どこ?」
ティアが目を向けたのは木の上。その視線を追ったサクヤの目の前に、スッと影が下りてきた。
「お気付きでしたか……」
その正体はシルだ。服装は動きやすそうな黒い装束。だが、顔や頭を隠してはいないので、初めて見るゲイル達にもそれほど警戒心を抱かれずに済んだようだ。
「まぁね。でも、別に隠れる必要はなかったのに。それよりシルさん。あっちの用意は良いんだよね?」
「はい。ご指示通りの内容になったと確認作業も済ませてあります」
「そう。なら、ここでの用事を済ませてから向かいましょうか」
「はっ。お供させていただきます」
「ここも?まぁいいけど」
ティアの前で片膝を突き、はきはきと報告するシルの姿を見た一行は、全く状況が分からなかったようだ。
「な、なに者だ?」
そう声を上げたゲイルに、ティアは振り向いて答えた。
「この人は、学園の警備を担う一族の者なの。あと、ここのダンジョンと、この後私達が行く、琥珀の迷宮の管理もしてるんだ」
ティアの説明が終わると、シルが立ち上がり、ゲイル達に頭を下げた。
「シルと申します。以後、お見知りおきください」
「お、おう。なんか知らんが、嬢ちゃんが認めてんなら問題ねぇだろ。よろしくな」
「はい」
ゲイルはティアを信用している。そのティアに見るからに敬意を払っているシル。悪い人間には思えない。
それは、ザランやエルヴァスト、ベリアローズも同じだ。
「また変なのが増えてんのな……」
「ティアの人脈には、本当に驚かされる」
「明らかにクロノスさん寄り……またティアの行動を助長しそうなのが増えた……」
エルヴァストは笑ながら感心しているのだが、ザランとベリアローズは微妙な表情で肩を落とした。
「なんか、カッコいい……影の人って感じっ」
「いや、アデル。確かに良い感じに見えるが、影ってだけで色々と問題ありだからな?」
シルの態度は、アデルのトキメキポイントだったらしい。
ティアとシルの様子を見れば、傍に控える影という存在は、とても絵になって良い。だが、影は影だ。その上、ティアは言っても貴族の令嬢。影の存在を持つ者としては不相応だろう。
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「……守られるような姫じゃないけどな……」
どうやら現実が見えていないらしいと、キルシュは諦めた。アデルはかなりティアに毒されているようだ。
そんなアデルとキルシュの会話が聞こえたのだろう。マティがシルへ注意する。
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いつもならば、こんな時、しどろもどろになって目をそらすルクスだが、なぜか今日は違った。
ルクスは一つ大きく息を吸うと、肩の力を抜いてティアを真っ直ぐに見つめた。
「今日は傍にいるからな」
「ルクス……ふふっ、そうね」
笑うティアに、ルクスは嬉しそうに表情を緩めた。
久し振りなのだ。どれだけギャラリーがいても、これだけは譲れないと思ったらしい。
だが、この良い雰囲気を維持できないのがティアだ。
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「……え……?」
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ラキア「フィズさん。どうぞお入りください」
フィズ「お気付きでしたか。失礼いたします」
ラキア「琥珀の方はどうなりましたか?」
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ラキア「それはよぅございました」
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フィズ「はい……もう一つの提案も、お聞きして驚きました。あれは、本来ならば国が担うもの。あのようなお考えがあるとは……」
ラキア「ティア様ならば、国の問題の一つや二つ、解決するのに何という事はありません」
フィズ「そのようですね……我らも、少しでもティア様のお役に立てるよう、努力を惜しみません」
ラキア「はい。クィーグの皆様に負けぬよう、こちらも気を引き締めます」
フィズ「ティア様の為ならば」
ラキア「ティア様の為に」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
フィズとラキア……このタッグは最強かもしれません。
シルさんも合流。
サポートは万全のようです。
ティアちゃんのバトラールバージョンでも動揺しないシルさん。
中々やります。
ルクス君は今回頑張ったのですが、ティアちゃんはいまいちこういう雰囲気に慣れないようです。
では次回、一日空けて3日です。
よろしくお願いします◎
●お知らせ●
2巻発売に伴い、レジーナブックスのサイトにてweb限定の番外編を公開中です。
簡単な(選択するだけの)アンケートに答えれば見られますので、是非ご覧ください。
勿論、書籍版を読んでいない方も大歓迎です。
前回はルクス君の休日を追いましたが、今回はシェリスです。だからといって、変態道を歩かせてはいません
。登場するのはゼノじぃちゃんとゲイルパパです。
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