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305 ご挨拶いたします
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2015. 12. 18
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ティアはとりあえず、こんな所で話し込んでも何だからと、フラムに乗り、ティアとサクヤ、そして、シルの名を受け継ぐ男と共に学園へと帰還した。
話はサクヤの部屋でという事にし、ティアは、心配を掛けたであろう兄達やキルシュとアデルに帰って来た事を報告した後、改めてサクヤの下へと戻った。
シルも報告を済ませ、ティアがサクヤの部屋を訪ねると同時に戻ってくる。
部屋に入ったティアとシルは、サクヤと共に会議室として使われる小部屋で向かい合った。
「それで?何を話そうっていうの?」
そうティアへと尋ねたサクヤは、もう隠すつもりもないらしく、尻尾や耳はないが、しっかりと女装した姿になっていた。
「だって、サク姐。気にならない?赤白の宮殿の事とか」
「それは……そうだけど……」
かつてバトラール王国の王家を影から守護していたクィーグ部隊。その人数は十人。強さや能力により、彼らは番号で名を付け、それを誇りに思っていた。
隠密能力に長けた精鋭部隊。クィーグ部隊は、クィーグと呼ばれる一族から生まれたものだ。
その一族全てが隠密能力の高い者達ばかり。身体能力も高く、裏の噂で囁かれるその一族と接触し、雇用の契約を結ぶ事を、多くの国の重鎮や王達は望んだ。
しかし、クィーグの者達は誇り高く、金や権力では決してその能力を使う事を良しとしなかった。彼らは自分達が真に主として仕えるに値する人物を見極め、献身する事を一族の掟としていたのだ。
そして、長いクィーグの一族の歴史の中で、その偉業を成し得た相手が二つ存在した。
一つがバトラール王家。その理由は知られてはいないが、一族で最も能力の高い者を十人。王家の守り役として派遣していた。
そして二つ目。それが豪嵐。彼らは、一族そのものと雇用契約を結んでいたのだ。
「シルさん。豪嵐の名前はちゃんと伝わってるんだね」
「……はい……」
歯切れが悪いのは、どこまで答えて良いものかと見極め難く思っているからだろう。それが分かるから、ティアは話を進める前に先ず、サクヤへと目を向けた。
「サク姐。契約の腕輪あるよね?」
「え?あ、あ~……ちょっと待ってね」
サクヤはしまい込んであった愛用のアイテムボックスから、黒くくすんだ幅広の腕輪を取り出し、男の前で右腕にはめた。すると、たった今まで黒く見えたその見た目が、眩しいほどの銀の輝きを放ち、美しく堀り込まれた装飾を浮かび上がらせた。
「っ……間違いありません……契約の銀の腕輪です……」
それは、クィーグの一族に伝わる魔導具。真に契約した者にしか渡すことはなく、はめる事もできない。言い伝えで知るその魔導具を目の当たりにし、そう男が呟くと、何処からともなくその人は現れた。
「豪嵐……サクヤ様とは知らず、ご無礼いたしました」
「女の人……もしかして、あなたが当代のフィズ?」
「はい。ティアラール・ヒュースリー様。一族の者がお世話になりながら、ご挨拶もせず失礼いたしました」
丁寧に両膝を床に突き、両手を前で重ねると、深く頭を下げるフィズ。一番を表すフィズの名を持つ者が、小柄で美しい女性であった事に驚いていたティアとサクヤは、咄嗟に反応できずにいた。
「あ、いや。そんな。顔を上げてちょうだい。私はカグヤって名乗ってるし、この姿を知ってるのも学園長だけだったのよ。むしろ、こっちが気付かなくて悪かったわ」
「お気遣いありがとうございます」
ゆっくりと顔を上げたフィズは、切れ長の瞳の美人だ。シルが着けているような布を顔や頭に巻き付けていない為、その表情も偽りなくよく分かる。
「いいのよ。あら?そういえば、さっき、ティアに一族の者が世話になったとか言ってなかった?何したの?」
ティアの今までの口振りからも、彼女達をクィーグの者だと、前々から認識していたのだろうと感じたサクヤは、首を傾げる。
まさか彼女達がティアの秘密を知っているはずはないだろう。そうなると、世話になった云々は、この学園へ来てからの事だと推測できた。
「うん?訓練かな?」
「訓練?」
「そう。主に追いかけっことか、隠れん坊とか、あとは……うちのハイパーメイドと双子を訓練相手に推薦したりとか?」
「はい?」
サクヤには意味が分からなかったようだ。
「だから、夜とか暇じゃん。そんで、夜の学園散歩に出て、いかに彼らを出し抜き、厳重に警備された学園の奥へ侵入するかってのをね」
「はい。未だに連敗が続いておりまして……我らの精進が足りず、ティア様には申し訳なく思っております」
「やだなぁ。充分楽しんでるから良いんだよ」
「いえ。必ずやご期待に沿えられるよう、一族一丸となって努力してまいります」
「楽しみにしてるね」
「はっ」
「……こら違反者」
もはや、ティアとクィーグの者に、夜の外出禁止規則は意味を成していなかった。
************************************************
舞台裏のお話。
門番A「っ、あ、あれは……っマティだ。黒いけどマティですよね?」
門番B「ん。間違いないな。それに……あれはっ、クレアさんだっ。伝令を飛ばせっ!クレアさん一人だ。問題ないっ」
街人A「クレアさん一人だってさ!歓迎の用意!」
街人B「っいいんだよなっ?一人の時は良いんだよなっ?」
冒険者A「クレア姐さんのお帰りだぁっ!」
マティ《なんかお祭り?》
クレア「あいつら……確かに一人で里帰りしたら騒いでもいいとは言ったけど……」
マティ《くんくん……なんかご飯の匂い……っ焼肉あるよっ!》
クレア「……本気で騒ぐつもりかい……まったく……」
マティ《おぉ。『クレア姐さんお帰りなさい』だって》
クレア「っ誰だいっ!あんな恥ずかしい大段幕を作ったヤツはっ!」
マティ《書いた人は分かんないけど……布からマスターの魔力を感じるよ?》
クレア「……」
マティ《あ、マーナさんだっ》
マーナ《お帰りなさいっ、クレアさん。お久しぶりですっ》
クレア「まったく、そんな大事にする事かい?一週間だけだよ?」
マーナ「一週間も居てくださるんですかっ⁉︎ど、どうしましょうっ。あ、あのその間、一時間だけでも良いので、お茶でもしながらお話を……」
クレア「構わないさ。けど、とりあえず……この大段幕の事をちょいマスターに問いただそうかねぇ……」
マーナ「あ、はいっ!」
マティ《このまま行く?楽しそう》
クレア「……」
マーナ「はいっ。ギルドまで、花道となっておりますからっ」
マティ《わぁ~い。尻尾いっぱい振るねっ》
マーナ「ええ。それとゆっくりお願いします」
マティ《オッケーっ。クレアママ。こういう時は、笑顔で手を振るって、主が言ってたよ?》
クレア「……私はどこから凱旋したんだい……」
マティ《いっくぞ~ぉ!》
マーナ「はい。お願いします」
クレア「……もう好きにしとくれ……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
とっても人気者だったようです。
学園の警備担当であるクィーグは、既にティアちゃんの遊び相手になっていたようです。
女頭領さん。
真面目な方のようですが、ティアちゃんの遊びにも律儀に付き合い、更には訓練してもらっていると認識しているようです。
ティアちゃん信奉者が一気に増えていそうですね。
中々本題に入れません。
次もどうでしょう。
では次回、一日空けて20日です。
よろしくお願いします◎
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ティアはとりあえず、こんな所で話し込んでも何だからと、フラムに乗り、ティアとサクヤ、そして、シルの名を受け継ぐ男と共に学園へと帰還した。
話はサクヤの部屋でという事にし、ティアは、心配を掛けたであろう兄達やキルシュとアデルに帰って来た事を報告した後、改めてサクヤの下へと戻った。
シルも報告を済ませ、ティアがサクヤの部屋を訪ねると同時に戻ってくる。
部屋に入ったティアとシルは、サクヤと共に会議室として使われる小部屋で向かい合った。
「それで?何を話そうっていうの?」
そうティアへと尋ねたサクヤは、もう隠すつもりもないらしく、尻尾や耳はないが、しっかりと女装した姿になっていた。
「だって、サク姐。気にならない?赤白の宮殿の事とか」
「それは……そうだけど……」
かつてバトラール王国の王家を影から守護していたクィーグ部隊。その人数は十人。強さや能力により、彼らは番号で名を付け、それを誇りに思っていた。
隠密能力に長けた精鋭部隊。クィーグ部隊は、クィーグと呼ばれる一族から生まれたものだ。
その一族全てが隠密能力の高い者達ばかり。身体能力も高く、裏の噂で囁かれるその一族と接触し、雇用の契約を結ぶ事を、多くの国の重鎮や王達は望んだ。
しかし、クィーグの者達は誇り高く、金や権力では決してその能力を使う事を良しとしなかった。彼らは自分達が真に主として仕えるに値する人物を見極め、献身する事を一族の掟としていたのだ。
そして、長いクィーグの一族の歴史の中で、その偉業を成し得た相手が二つ存在した。
一つがバトラール王家。その理由は知られてはいないが、一族で最も能力の高い者を十人。王家の守り役として派遣していた。
そして二つ目。それが豪嵐。彼らは、一族そのものと雇用契約を結んでいたのだ。
「シルさん。豪嵐の名前はちゃんと伝わってるんだね」
「……はい……」
歯切れが悪いのは、どこまで答えて良いものかと見極め難く思っているからだろう。それが分かるから、ティアは話を進める前に先ず、サクヤへと目を向けた。
「サク姐。契約の腕輪あるよね?」
「え?あ、あ~……ちょっと待ってね」
サクヤはしまい込んであった愛用のアイテムボックスから、黒くくすんだ幅広の腕輪を取り出し、男の前で右腕にはめた。すると、たった今まで黒く見えたその見た目が、眩しいほどの銀の輝きを放ち、美しく堀り込まれた装飾を浮かび上がらせた。
「っ……間違いありません……契約の銀の腕輪です……」
それは、クィーグの一族に伝わる魔導具。真に契約した者にしか渡すことはなく、はめる事もできない。言い伝えで知るその魔導具を目の当たりにし、そう男が呟くと、何処からともなくその人は現れた。
「豪嵐……サクヤ様とは知らず、ご無礼いたしました」
「女の人……もしかして、あなたが当代のフィズ?」
「はい。ティアラール・ヒュースリー様。一族の者がお世話になりながら、ご挨拶もせず失礼いたしました」
丁寧に両膝を床に突き、両手を前で重ねると、深く頭を下げるフィズ。一番を表すフィズの名を持つ者が、小柄で美しい女性であった事に驚いていたティアとサクヤは、咄嗟に反応できずにいた。
「あ、いや。そんな。顔を上げてちょうだい。私はカグヤって名乗ってるし、この姿を知ってるのも学園長だけだったのよ。むしろ、こっちが気付かなくて悪かったわ」
「お気遣いありがとうございます」
ゆっくりと顔を上げたフィズは、切れ長の瞳の美人だ。シルが着けているような布を顔や頭に巻き付けていない為、その表情も偽りなくよく分かる。
「いいのよ。あら?そういえば、さっき、ティアに一族の者が世話になったとか言ってなかった?何したの?」
ティアの今までの口振りからも、彼女達をクィーグの者だと、前々から認識していたのだろうと感じたサクヤは、首を傾げる。
まさか彼女達がティアの秘密を知っているはずはないだろう。そうなると、世話になった云々は、この学園へ来てからの事だと推測できた。
「うん?訓練かな?」
「訓練?」
「そう。主に追いかけっことか、隠れん坊とか、あとは……うちのハイパーメイドと双子を訓練相手に推薦したりとか?」
「はい?」
サクヤには意味が分からなかったようだ。
「だから、夜とか暇じゃん。そんで、夜の学園散歩に出て、いかに彼らを出し抜き、厳重に警備された学園の奥へ侵入するかってのをね」
「はい。未だに連敗が続いておりまして……我らの精進が足りず、ティア様には申し訳なく思っております」
「やだなぁ。充分楽しんでるから良いんだよ」
「いえ。必ずやご期待に沿えられるよう、一族一丸となって努力してまいります」
「楽しみにしてるね」
「はっ」
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もはや、ティアとクィーグの者に、夜の外出禁止規則は意味を成していなかった。
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舞台裏のお話。
門番A「っ、あ、あれは……っマティだ。黒いけどマティですよね?」
門番B「ん。間違いないな。それに……あれはっ、クレアさんだっ。伝令を飛ばせっ!クレアさん一人だ。問題ないっ」
街人A「クレアさん一人だってさ!歓迎の用意!」
街人B「っいいんだよなっ?一人の時は良いんだよなっ?」
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マティ《なんかお祭り?》
クレア「あいつら……確かに一人で里帰りしたら騒いでもいいとは言ったけど……」
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クレア「っ誰だいっ!あんな恥ずかしい大段幕を作ったヤツはっ!」
マティ《書いた人は分かんないけど……布からマスターの魔力を感じるよ?》
クレア「……」
マティ《あ、マーナさんだっ》
マーナ《お帰りなさいっ、クレアさん。お久しぶりですっ》
クレア「まったく、そんな大事にする事かい?一週間だけだよ?」
マーナ「一週間も居てくださるんですかっ⁉︎ど、どうしましょうっ。あ、あのその間、一時間だけでも良いので、お茶でもしながらお話を……」
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マーナ「あ、はいっ!」
マティ《このまま行く?楽しそう》
クレア「……」
マーナ「はいっ。ギルドまで、花道となっておりますからっ」
マティ《わぁ~い。尻尾いっぱい振るねっ》
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マティ《オッケーっ。クレアママ。こういう時は、笑顔で手を振るって、主が言ってたよ?》
クレア「……私はどこから凱旋したんだい……」
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マーナ「はい。お願いします」
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とっても人気者だったようです。
学園の警備担当であるクィーグは、既にティアちゃんの遊び相手になっていたようです。
女頭領さん。
真面目な方のようですが、ティアちゃんの遊びにも律儀に付き合い、更には訓練してもらっていると認識しているようです。
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