女神なんてお断りですっ。

紫南

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299 魔王様の贈り物

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2015. 12. 10
********************************************

クレアは、伯爵家へ行くのはいつからが良いかとティアへ尋ねた。それに、ティアは自信満々に笑顔で答える。

「今日から」
「へ?」

そんなすぐにかとクレアも一瞬固まった。

「クエスト受ける予定だった?」
「いや……けど、急だねぇ。それに……」

クレアは、パーティで二日程この王都でゆっくりするつもりだったのだ。特に問題はない。だが、一つ大切な彼女達パーティの鉄則がある。

「分かってるって。ゲイルパパなら一週間、学園街の屋敷に滞在する事になるから、問題ないでしょ?」
「そうなのかい?」

彼女達の鉄則とは『夫に見つからない事』だ。

子ども達が巣立ち、夫と二人きりの暮らし。彼らの職業は貴族の屋敷に仕えていたり、騎士であったりと、難しいものだった。

そんな夫達が、自分達の仕事に誇りを持っているのは分かる。常日頃から職場でストレスを溜めているからか、家に帰れば、養ってやっているのだという事を盾に、偉そうに振る舞う。更には、命令系でしか言葉を発しない日もあったらしい。

当然、夫婦仲もギクシャクとしていき、歳を理由に仕事も辞める時期に差し掛かった。

そこで、いいかげん気詰まりに感じていた彼女達は一念発起。家計を助ける為、何より、自分たちの自由な時間を取り戻す為、憧れであった冒険者となる事を決意した。

ただし、言うなればこれはただの夫婦喧嘩の延長のようなもの。夫達に反省させる為の行動でもある。

最初の頃は、夫達も気にしなかったらしい。だが、やはり家に妻がいないという事は外聞が悪い。何より、家の事を全くした事がなかった彼らは、慌てて妻達を探しにかかった。

仕事が休みになれば、それぞれの夫達は妻の情報を求め奔走し、時には長い休暇を取って捕獲に動いているという。

だが、いくら騎士や貴族の情報網を使ったとしても、彼女達はスルリとそれをかわす。ここまで来たら、彼女達にも意地があるのだ。そして、夫達は未だに、噂でしか妻達を知らなかった。

「ちゃんとゲイルパパは留め置くから、気兼ねなくお願いします」
「そうさね。良い機会かもしれないねぇ。けどそうなると、一週間後、どこで落ち合おうかねぇ」

長く同じ場所に留まる事は出来ないのだ。だからこそ、彼女達はクエストを受け、旅から旅へと身を費やしている。

「それなんだけど。クエストの今後の予定とか、もう立てちゃってる?」
「いや。明日、ギルドで見繕うつもりだったからね。急ぎの予定はないよ」
「ならさっ、ちょっとこの辺でゆっくり休息とってみない?」
「休息?」

ティアは、嬉しそうにアイテムボックスから、真っ白で豪華な模様の描かれた封筒を取り出した。

「クレアママ達の話をしたら、たまには後ろを気にせず、羽を伸ばせるようにってもらったんだ」

そう言ってクレアへとその豪奢な封筒を差し出した。

「こんな封筒見たことないよ……開けていいのかい?」

ティアが頷くのを見たクレアは、そっとその封筒の口を開け、中の物を取り出した。

「……『50日間ご優待券』……何の?」

封筒から出てきたのは、更に豪奢なカードだった。

「男子禁制の幻の郷って聞いた事ない?」
「っ⁉︎ た、ただの言い伝えだろう?そんな場所が本当にあるなんて……っ」
「あるんだよ。温泉あり、衣食住完全完備。各種サービスも充実した、まさに女だけの楽園」

元々は心に傷を負った女性達の救済の為の教会があったらしい。そこを拠点にして集まり、次第に『男になど頼らずとも生きていけるのだ』という精神が根付き、郷となっていったのだ。

これにより、魔獣どころか、男を誰も寄せ付けない女だけの警備体制も確立し、隠れ里となっていった。

「クレアママより強い女の人達がここを守ってるから安心だし、このチケットは審査いらずの特別な優待券だから」

本来、この郷へと入郷には、審査が必要となる。何を目的で郷を求めて来たのかを尋ねられ、特別なルートで一人一人の身の上などの情報を集めた上で審議される。これにより、入郷が可能か否か。更には、入郷料や、その後のプラン、滞在日数が設定される。

例えば、心に傷を負い郷へと助けを求めて駆け込んで来た女ならば、無料で入郷する事ができるが、その後、更正の為のプランが用意され、回復したと見なされた後、仕事を斡旋される。そこから少々の賃金を郷へと支払う事になるのだ。

「それは……確かに安心だねぇ……けど、いいのかい?」

そう、クレア達の場合、プランは用意されていない。保養所としての施設が充実しているこの郷では、全ての施設利用料が無料な為、フリープランの者には多額の入郷料が要求されるのだ。

「うん。頑張ってるママさん達へのプレゼントだって言うから、気にしないで」
「そんな……悪いよ……それに、一体誰が?」
「そういう場合はこう返すように言われた。『口下手で、人嫌いの友人が世話になったお礼だ』ってさ」
「友人?」
「そっ。シェリーの事」
「……ぷっ、ふっ、あははははっ。そうかいっ。マスターのねぇ。くっ、ふふふっ、なら、お言葉に甘えて」
「うん」

嬉しそうに笑うクレアに、ティアも子どもらしい無邪気な笑みを返したのだった。


************************************************
舞台裏のお話。

エル「ん?あそこで寝かされているのはウルか?」

ベル「あぁ……間違いないな。お疲れか。安らかに眠っておられる」

エル「いや、あれは……ふむ。倒れたな」

ベル「なに?」

ユフィア「だ、大丈夫なのですかっ?」

エル「心配性なカグヤ先生が傍にいないんだ。大丈夫だろう。アデル」

アデル「あ、エル兄さん。ちょうど良かった。ウル先生、何処に運べばいいかな?」

エル「そうだな……聞くが、これは気絶か?」

アデル「うん。何か、ティアが悪いみたい」

エル「ほぉ……となると……気絶してどれくらい経つ?」

アデル「うん?」

ゲイル「嬢ちゃんが抜け出した頃だろう。なら、十五分から二十分ってところか」

キルシュ「大丈夫でしょうか……」

エル「顔色も悪くない。良い夢を見ているようだし、気は確かだろう。現実逃避しているだけだ。教員用の仮眠室があるから、そこへ運ぼう」

ゲイル「俺が運んでやるよ。案内してくれ」

エル「はい。お願いします」

ベル「ザランさん。なんだか今日は静かですね」

ザラン「俺は元々、寡黙な男だぞ?」

子ども達「「「……」」」

ゲイル「……」

ウル「(すぅ……)」

ザラン「へっ?な、何だよその目はっ。ゲイルさんまでなんでっ?」

ゲイル「悪りぃ。なんでか今日は、カモクの意味が分からねぇ……俺もトシかな……耳が……」

アデル「今度、ティアにイミを聞いておくねっ」

キルシュ「不勉強で申し訳ない」

エル「そうか。世に言う『寡黙な男』とは……いや、うん。時代によっても変わるよな」

ベル「認識とは、人によっても少しずつ違うからな。冒険者の中での基準というのもあるだろう」

ユフィア「なんだか、今日は元気がありませんものね。ティアさんがいないのがお寂しいのでは?」

子ども達「「「伝えてお」く」きます」

ザラン「っウソです!! 冗談ですからっ!! スンマセンでした(涙)!!」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


ティアちゃんが聞いたら何て言うか……。


女性への気配りと感謝を忘れない魔王様です。
そういえば、まだクレアママさんには会っていませんからね。
きっとママさん達も惚れる事でしょう。
そして、夫と比べ、更に夫婦の溝が……仕方ありませんね。
旦那さん達にはしっかりと己を省みてもらいましょう。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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